約2万5,000種類の医療材料・医薬品を必要なときに必要な場所へ――エム・シー・ヘルスケアが磨く「医療を止めない」物流

2026.10.27 12:00
エム・シー・ヘルスケア株式会社(以下MCH)が埼玉県三郷市に構える関東物流センターは、同社最大の物流拠点だ。約1万2,300平方メートルのフロアに約2万5,000種類の医療材料・医薬品を常時在庫し、出荷する。供給先は、大学病院や高度急性期医療を担う基幹病院を含む首都圏・北関東の28病院に及ぶ。


これほど大規模な物流を支えているのは、設備やシステムだけではない。約170人のスタッフが現場を動かし、オムニソーター(自動仕分け機)などの設備やシステム、運送会社とも役割を分担しながら、改善を重ねている。目指すのは、「必要なものが、必要な場所に、必要なときにある」という医療の当たり前を、より少ない負担で、より確実に支える物流だ。関東物流センターマテハンユニットの杉本豪氏、廣澤務氏、オペレーションユニットの鈴木大介氏に、その現在地と未来を聞いた。


■MCH最大の物流拠点――首都圏・北関東の基幹病院を支える
関東物流センターは2017年10月、横浜市瀬谷区にあった2つの物流拠点を統合する形で開設された。現在は大型物流倉庫の5階部分、約1万2,300平方メートルを使用し、北は栃木県那須エリアから南は神奈川県平塚市周辺まで、首都圏・北関東の広い地域をカバーしている。


供給先は28病院にのぼり、大学病院や高度急性期医療を担う基幹病院も少なくない。納品頻度も病院によって異なり、週5回届けるところもあれば、週3回などのスケジュールで運用するところもある。


約400か所のメーカー、ディーラー、卸などから仕入れる物品は、およそ2万5,000種類。契約病院の取り扱う医療材料などの約3割にあたる物品がこの関東物流センターを経由して動いているという。


関東物流センターマテハンユニットの杉本氏は、物流を単に「倉庫から病院へモノを運ぶ仕事」とは捉えていない。MCHが医療材料を仕入れて管理し、病院で使われた情報を把握し、その後の補充や請求までつなげていくからだ。「私たちはメーカーやディーラーではなく、病院のパートナーです」と語る。


医療材料が予定どおり届かなければ、診療や手術に影響する。一方で、必要以上の在庫を抱えれば、病院の限られたスペースを圧迫し、経営上の負担にもなる。必要なものを、必要な量だけ、必要な場所へ届け、使われた後の情報まで滞りなくつなぐことが、関東物流センターに求められる役割である。


■2万5,000種類――すべては「院内で自然にモノが流れる」ために
関東物流センターで扱う約2万5,000種類の中心は医療材料だ。手術や処置に使う製品から日常的に消費される汎用品まで幅広く、医薬品も扱うため施設内には薬剤師が常駐する。患者の体格や使用部位、診療内容によってサイズや仕様が細かく分かれるため、医療物流は典型的な「少量多品種」の世界である。


しかも、単に在庫数を把握すればよいわけではない。使用期限やロットを管理し、リコールがあれば供給先まで追跡できる状態を保つ必要がある。病院ごと、物品ごとに適正な在庫量を設定する「定数管理」も欠かせず、欠品を防ぐ一方で、必要以上の在庫は持たせない。


使用頻度の低い品目では、ケース単位ではなく1個単位に分割して供給することもある。杉本氏は「たくさん持っていれば安心というものではありません。使用期限までに使い切れなければ廃棄になります。それなら、こちらで少し手間をかけても、必要な数だけお届けしたほうがいい」と語る。
【1個単位に分割している様子】
【整理された医療材料の在庫】


センター側で工程を引き受けることで、病院は在庫スペースや資金を効率的に使え、期限切れによる廃棄も抑えられる。必要なものを、必要な量だけ流すという考え方が、日々の物品管理に組み込まれている。


さらに、物流は病院へ届けて終わりではない。医療材料が使用され、バーコードラベルが読み取られると、その情報を起点に資産移転、補充、請求処理へと流れが続く。モノの流れと情報の流れをつなぐことで、病院内では必要な物品が継続的に循環していく。


杉本氏は「必要なものが必要な場所にあり、使えばその情報がこちらに伝わり、使った分だけ次の物品が届く。医師や看護師の方々が、その裏側の物流や在庫管理を強く意識しなくても回っていく状態をつくりたい」と語る。
【製品バーコードを読み取る様子】


■省力化は現場から――日々の作業を一つずつ見直す
約2万5,000種類を28病院へ供給する日々のオペレーションを支えているのが、社員22人と約150人のパートスタッフである。倉庫内で物品を動かす仕事に加え、約30人は病院で使われた医療材料のデータを確認し、売上や請求などへつなげるオペレーション業務を担っている。


少量多品種の物流では、棚の配置やピッキングの順序によって作業量が大きく変わる。担当する業務によっては倉庫内の歩行が1日2万歩近くになることもあり、どこに何を置き、どの順番で集めるかは、そのまま生産性や身体的な負担に直結する。こうした現場の動きを細かく見ることが、省力化の出発点になる。


杉本氏は「入荷して、管理して、ピッキングして、仕分けて、出荷し、病院で使われた後の処理までつなぐ。一つひとつは小さな作業でも、途中で途切れたり、どこかで間違ったりすれば、最後は病院への供給に影響します」と語る。モノを動かす仕事と情報を処理する仕事のどちらが欠けても、物流は成立しない。


一方で、物流業界全体で人材確保が難しくなり、人件費も上昇している。将来にわたって現在と同じ人手や作業方法を前提にするのではなく、サービスの質を維持しながら、人が担う仕事そのものを見直す必要がある。


問われているのは、単純に「何人減らせるか」ではない。人にしかできない判断や細かな対応は残し、移動や反復作業など、仕組みや機械によって軽減できる負担を見極める。その考え方が、関東物流センターのDXへつながっている。
【身体的負担の軽減のために導入された電動ハンドリフト】


■現場で試し、数字で確かめる――必要性を見極める物流DX
MCHでは数年前から「未来物流プロジェクト」を立ち上げ、物流コンサルタントも交えながら将来の物流のあり方を検討してきた。どの工程を自動化し、どこにマテハン機器やシステムを導入するのか。投資ありきではなく、現場の課題と期待できる効果を一つずつ確認しながら、段階的なロードマップを描いている。


その取り組みの一つが、2023年6月に稼働を始めたオムニソーターだ。投入した医療材料を行き先ごとに自動で仕分ける設備で、人が担ってきた作業の一部を機械に置き換える。導入しただけで満足するのではなく、どの工程で使えば最も効果を発揮するのかを継続的に検証してきた。
【立体型仕分けロボットシステム オムニソーター】


マテハン機器の能力を引き出すには、カタログ上の性能だけではなく、実際の業務との相性を見る必要がある。マテハンユニットの廣澤氏は「どの作業なら機械に任せる効果が大きいのかは、実際に動かしながら見極める必要があります。設備を入れること自体が目的ではなく、現場全体が本当に良くなる使い方を探すことが大切です」と語る。


例えば、手術室向けの物品は品目数が多く、比較的狭い範囲から数多く集める。一方、扱う品目が少ない部門向けでは、わずかな物品を集めるために長い距離を移動する場合がある。同じピッキングでも性質は異なり、自動化による効果が大きい工程と、人が担った方が効率的な工程がある。


そこで、作業時間や歩行距離、処理量などを測りながら運用を調整してきた。仮説を立て、現場で試し、数字で効果を確かめ、必要なら方法を変える。導入した設備に現場を合わせるのではなく、現場の実態を起点に、設備の使い方そのものを見直していく。


モノの流れを情報面から支えるオペレーションユニットの鈴木氏も、改善効果を数字で捉える役割を担う。鈴木氏は「何が使われたのかという情報が正しく入り、次の補充や請求までつながって初めて一つの流れになります。仕組みを変えたときには、実際にどの程度の効果があったのかも数字で確認しながら、オペレーションを整えていきます」と語る。


現在はオムニソーターに続き、物流専用システムや他のロボットなども選択肢として検討している。ただし、「使えるロボットがあるから入れる」という発想ではない。どの工程に、どの程度の投資をすれば、サービス品質を保ちながら人の負担を減らせるのか。必要性と効果を見極め、地に足のついた検証を重ねながら投資判断を行う。


目指すのは「ロボット化された物流センター」ではない。人と機械の得意分野を見極め、必要なところに必要な技術を配置する。その積み重ねによって、人がより価値の高い仕事に力を使える物流をつくろうとしている。


■80分を40分へ――荷主から変える、持続可能な物流
関東物流センターの改善は、倉庫の中だけでは完結しない。病院への配送は外部の運送会社に委託しており、2024年1月には運送会社を切り替え、新たな配送体制をスタートさせた。


出荷のピークは夜20時ごろ。そこから2トントラックを中心に物品が次々とセンターを出発し、1病院あたり1~2台で配送するケースが多い。早ければ21時ごろから深夜にかけて病院へ届け、必要に応じてミニバンなどによる臨時便も走る。
【関東物流センターから病院に向けて医療材料が運び出される様子】


ドライバーは運転だけでなく、積み込みや荷下ろしも担う。医療材料や医薬品を扱う作業の負荷は小さくなく、人材不足や人件費の上昇によって、運送費の上昇も避けにくい状況にある。


杉本氏は、サービスを維持しながら物流を持続させるためには、運送会社だけに効率化を求めてはいけないと考えている。杉本氏は「運送会社にお願いする部分と、センター側で事前に準備できる部分を整理し、どうすればドライバーの方の負担を減らしながら、安定して配送を続けられるかを考えてきました」と語る。


その象徴が、従来のパレット中心の輸送方法から、納品先の条件に応じて「6輪台車」を活用する方式への転換である。パレットでは、トラックから物品を降ろした後に別の台車へ積み替える工程が発生することがある。6輪台車であれば、センターで積み込んだ物品をそのままトラックへ載せ、病院でも台車ごと移動できるため、積み替えの手間を減らせる。


もちろん、すべてを6輪台車へ置き換えたわけではない。搬入口の広さや納品スペース、院内動線、物量や荷姿は病院ごとに異なる。従来のパレット輸送が適するところは残し、6輪台車が有効な納品先では切り替えるという形で、一施設ずつ最適な方法を選んできた。


さらに、病院や部門ごとに物品をまとめるオリコンの使い方、行き先を分かりやすくするラベル表示、病院到着後に行っていた仕分けをセンター側で済ませるなど、細かな工程にも手を入れた。前日使用した6輪台車やオリコンは翌日にセンターへ戻るため、資材の返却まで含めた循環として物流を設計している。
【病院ごとに整理されたオリコン】


こうした改善を約2年間積み重ねた結果、以前は1病院あたり平均約80分を要していた納品作業が、現在では約40分まで短縮された。大がかりな改革一つで半分になったのではない。荷姿、積み替え、仕分け、動線、資材回収といった工程を一つずつ見直した結果である。


現在も運送会社とは月1回の打ち合わせを続けている。運送会社だけに効率化を求めるのではなく、荷主であるMCH自身も工程を変え、双方でサービスの質を維持しながら、持続可能な配送の形を探っている。


■質を落とさず、手間を減らす――現場から導く全体最適
ここまでの改善に共通するのは、サービスの質を落とさず、人が担う手間を減らすという考え方だ。歩く、持ち上げる、積み替える、仕分け直す、入力し直す。日々の工程を細かく見て、本当に人が担う必要がある仕事と、機械や仕組みに委ねられる仕事を分けていく。


重要なのは、センター内だけを速くすることではない。作業時間や処理件数、歩行距離といった数字を見る一方で、実際に働くスタッフの動き、運送会社の負担、病院へ届いた後の取り回しまで確認する。一つの工程だけを効率化した結果、その前後に負担を押しつけてしまえば、物流全体としては改善したことにならない。


だからこそ、現場で試し、結果を測り、もう一度見直す。オムニソーターの運用も、6輪台車への切り替えも、最初から完成形があったわけではない。現場の実態と数字の双方を見ながら、小さな改善を積み上げてきた。


設備やロボットへの投資も同じである。人手不足だから自動化する、最新技術だから導入するという単純な発想ではなく、どの工程に使えば本当に効果があるのかを見極める。必要な技術には投資する一方、人の方が適している仕事は無理に置き換えない。その判断を積み重ねることが、関東物流センターの考える物流DXである。


その先にあるのは、病院内で必要な医療材料が自然に流れる状態だ。センター、運送会社、病院のそれぞれで余分な手間を減らしながら、必要な物品は確実に届ける。効率化のための効率化ではなく、診療を支える物流全体を滑らかにすることが目的である。


■病院の診療を止めない――ラストワンマイルまで磨く物流の力
MCHは医療分野の専門商社として、多くのメーカーやディーラーと病院の間に立っている。関東物流センターの仕事を突き詰めると、単に医療材料や医薬品を届けるのではなく、「必要なものを、必要なときに、必要な量だけ」流す仕組みそのものをつくっていることが分かる。


その役割は、大きく3つに整理できる。


1.モノと情報をつなぎ、必要な分だけを循環させる
契約内容によっては、院内の物品管理から使用実績の把握、定数管理、補充、配送、請求処理までを一体的につなぐ。病院で医療材料が使われれば、その情報を起点に次の補充が動き、請求処理へとつながる。


鈴木氏は「何が使われたのかを正しく把握し、それを次の補充や請求までつなげる。モノと情報の両方が一致して動くことで、一つの仕組みとして回っていきます」と語る。


大量の在庫を病院に置くのではなく、使用状況に応じて必要な量を補充する。診療に必要なものを切らさないことを大前提として、適正な定数を設定し、確実に補充する。そこには、必要なものを必要なときに必要な量だけ届ける、ジャストインタイムにも通じる考え方がある。


2.複雑な取り回しを引き受け、病院では自然に使える状態をつくる
約2万5,000種類を扱う医療物流では、ロットや使用期限の管理、リコールへの対応、供給状況の変化など、日々さまざまな判断や調整が生じる。病院ごとに使用する物品も納品条件も異なり、その複雑な取り回しを一つの流れに整える必要がある。


杉本氏は「状況が変わったときにも、そのまま病院の方に対応をお願いするのではなく、まず私たちの側で何ができるかを考えます。関係する方々と調整しながら、できるだけ診療に影響が出ない形に整えていく。そこまで含めて安心して任せていただきたいと思っています」と語る。


これは単なる作業の代行とは少し違う。多くの関係者の間に入り、条件を整理し、モノと情報が滞りなく流れる状態をつくる。物品管理や物流に伴う手間だけでなく、判断や調整の負荷もできるだけ引き受けることで、病院には本来の診療や病院運営に集中してもらう。


3.最も手間のかかるラストワンマイルを、最もスマートにする
どれほど物品管理や情報処理を磨いても、最後に医療材料や医薬品が必要な場所へ届かなければ物流は完成しない。その最終段階が、物流の世界で「ラストワンマイル」と呼ばれる領域である。


関東物流センターから病院まで実際に物品を運ぶのは、MCHが契約する運送会社だ。MCHは病院ごとの物量や納品条件を踏まえて配送を手配し、荷姿や積み下ろし、納品時の動線まで運送会社とともに見直してきた。SPD契約先では、契約内容に応じて院内搬送や所定の場所への供給まで、その先の物流につながっていく。


ラストワンマイルが難しいのは、最後の届け先に近づくほど条件が個別化するからだ。搬入口の広さ、納品スペース、院内動線、物量、荷姿は病院ごとに違う。一律の方法を押し付けるのではなく、一施設ずつ条件を見ながら、パレットと6輪台車の使い分け、オリコンの組み方、センター側で済ませる仕分けなどを精査してきた。


杉本氏は「物流はセンターから物品を出せば終わりではありません。どう運んでいただくのか、病院でどう受け取るのか、その先でどう必要な場所へ流していくのか。そこまで見ながら、サービスの質を落とさず、無理なく継続できる仕組みにしていくことが大切です」と語る。


MCHが追求しているのは、物流のすべてを自社で抱えることではない。メーカー、ディーラー、物流センター、運送会社、病院内のSPD、そして医療従事者。それぞれの役割をつなぎ、モノと情報が途切れることなく循環する仕組みをつくることである。


必要以上に持たない。それでも切らさない。人が担わなくてもよい仕事は機械や仕組みに委ねる一方、ロボットや設備への投資は、現場で必要性と効果を見極めて判断する。ラストワンマイルまで含め、一つひとつの工程を実際の動きに即して見直していく。


医療物流には、標準化や自動化だけでは解けない工程も残る。だからこそ、現場をよく見て、数字で確かめ、必要なところには技術を使い、人が担うべきところには人の力を残す。その積み重ねによって、「必要なものが、必要なときに、自然にある」という当たり前を、より確実で持続可能なものにしていく。それが、関東物流センターが追求する医療物流のかたちである。
【左からオペレーションユニットの鈴木氏、マテハンユニットの杉本氏、廣澤氏】

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