日本独自の「保護司」制度が世界へ…国連で基本指針に

2025.05.16 09:15
2025.05.16 up提供:RKBラジオ
日本には、刑務所からの仮出所者や保護観察中の少年に対し、住居や就職先の世話などを通して社会復帰を支援する「保護司」という独自の制度があります。この制度が、国連加盟国・地域に広がる見通しとなり、5月19日にウィーンで開かれる「国連犯罪防止刑事司法委員会」で基本的な指針となる「準則」として採択される方向です。日本の司法制度に詳しい、毎日新聞出版社長の山本修司さんが5月16日放送のRKBラジオ『立川生志 金サイト』に出演し、この話題について解説しました。
radikoポッドキャストで聴く
世界が注目する日本の保護司制度
保護司というのは、刑務所から仮出所した人や保護観察中の少年らと面接して、住む所や就職先の確保を手助けする人で、非常勤の国家公務員です。といっても、交通費などの経費くらいしか出ない原則無給のボランティアです。

全国に4万6000人ほどいるのですが、平均年齢が65歳と高齢化が進んでいるうえ、昨年5月には滋賀県大津市で保護司が世話をしていた相手から殺害される事件も起きたことで辞める人も出て、保護司の確保には苦労しているというのが実態です。これはあとで触れます。

保護司の活動は、有村架純さんと森田剛さんの共演で映画化もされた漫画『前科者』でも描かれ、人と人との繋がりの中で社会復帰を支える重要な役割が広く知られるようになりました。山本さんは、アメリカ映画「ショーシャンクの空に」における出所者の支援は民間の非営利団体によるものだろうと指摘し、日本の保護司のような制度は海外にはほとんど存在しないと言います。それが今回、「HOGOSHI」として世界に輸出されることになったのです。

保護司制度は、5月19日にウィーンで開かれる「国連犯罪防止刑事司法委員会」で「準則」と呼ばれる、基本的な指針として採択される方向です。これによって、加盟国や地域が立法や政策立案をする際に、この保護司の制度を一つのルールとして参照することになるわけですから、世界に保護司制度が広がると言っていいと思います。
再犯防止への期待
この背景には、各国とも一度罪を犯した人が再び罪を犯す率、再犯率といいますが、これが高いことが挙げられます。

法務省が毎年出している犯罪白書によりますと、刑法犯で検挙された人のうち、初めて罪を犯した人、初犯者は2006年に23万5000人だったのが23年には9万7000人と6割近く減っている一方で、再犯者は14万9000人から8万6000人と4割減にとどまっていて、23年の再犯率は47%と高止まりが続いています。

また、再犯した人のうち7割が無職で、22年に刑務所を出た人のうち出所時に居住先がなかった人の再入率、また刑務所に入ってしまった人は21.8%と全体の再入率の13%を大きく上回っています。つまり、住むところや仕事がない人の再犯率が高いということで、逆に言えば住居や仕事があれば再犯率が減る可能性が高いということです。数字の出し方が違うので一概には比べられないのですが、おおむねこれは諸外国でも同じ状況です。

4年前の2021年3月に京都で開催された「国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)」では、再犯防止が主要テーマの一つとして議論され、各国の再犯率の高さと対策について意見交換が行われました。そこで、日本の官民連携によるきめ細やかな支援、特に保護司制度が高く評価され、今回の国連の場での準則作成につながったのです。
地域社会全体で支える仕組み
先ほど「官民が連携して」といいましたが、これは保護司だけでなく民生委員だとか町内会などといった地域でさまざまな活動をしている人たちも加わっているということを表しておりまして、古くて新しい、また日本らしいコミュニティとして、いい意味でよってたかって犯罪者の更生、社会復帰を手伝っているということで、学校と家庭、地域で子供を育てていくという昭和の日本的な子育てと根っこが同じといっていいと思います。日本が世界に誇るべき制度といえます。
高齢化と担い手不足という課題
しかし、保護司の高齢化や、昨年滋賀県で起きた痛ましい事件の影響などから、保護司のなり手が減少しているという深刻な現状も存在します。このため、新たに保護司に就任できる年齢の上限である現行の66歳を撤廃するとか、インターンシップを通じた公募制の試行、安全な面会場所を確保するなどの改革案も出ているのですが、これだけでは保護司の減少に歯止めがかかるとはいえません。

報酬制の導入も議論されたのですが「自発的な善意を象徴するもので報酬制はなじまない」として見送られています。いずれにしても保護司の人員確保は簡単ではなく、保護司制度を世界標準にできたとしても本家本元が苦しむ状況はそう簡単に変わりそうもないことが、悩みの種となっています。
日本の強みを世界へ
今回の保護司制度の国際的な展開は、日本が持つ優れた制度が世界に認められる一つの事例と言えるでしょう。経済発展を続けるベトナムにおける複式簿記や税法整備への日本の貢献も、その一例です。

日本が国連の準則を通じて再犯防止に向けたリーダーシップを発揮することは、今後、様々な分野で日本の良さを世界に広げていくための先駆けとなることが期待されます。
◎山本修司(やまもと・しゅうじ)
1962年大分県別府市出身。86年に毎日新聞入社。東京本社社会部長・西部本社編集局長を経て、19年にはオリンピック・パラリンピック室長に就任。22年から西部本社代表、24年から毎日新聞出版・代表取締役社長。
立川生志 金サイト放送局:RKBラジオ放送日時:毎週金曜 6時30分~10時00分出演者:立川生志、田中みずき、山本修司
出演番組をラジコで聴く
立川生志田中みずき
※放送情報は変更となる場合があります。

あわせて読みたい

巡ったお城は全国677!定年後のロマンを追う福岡県糸島市の「城描きさん」
radiko news
習近平主席BRICS首脳会議を欠席…背景と日本との関係をウォッチャーが分析
radiko news
1枚の紙があればいつでも紙ヒコーキが折れる「着る設計図 いかヒコーキver」を発売
PR TIMES Topics
原田ひ香氏のベストセラー、待望の続篇が登場! 『一橋桐子(79)の相談日記』が徳間書店より発売! あの桐子が団地の管理人になって帰ってきた! そしてシリーズ前作のkindle版が期間限定で読み放題に!
PR TIMES
三島由紀夫生誕100年…激動の時代に放つ「問いかけ」とは
radiko news
金木犀の秋季限定アイテム登場
PR TIMES Topics
西南学院大学出身作家の系譜…芥川賞・直木賞の実力を出版社社長が解説
radiko news
九州電力玄海原子力発電所に飛来?ドローンがもたらす光と影を解説
radiko news
旬のフルーツを贅沢に盛り付けたわかさ生活とのコラボ新作パフェ登場
PR TIMES Topics
路線価4年連続上昇の背景…土地価格から読み解く日本
radiko news
性犯罪者の化学的去勢、英国が義務化検討
AFPBB News オススメ
【富士見パノラマリゾート】夏でも涼しく快適な「犬連れ避暑旅」
PR TIMES Topics
〈揺らぐ生活保護制度〉押し寄せる「貧困の高齢化」の波に最後のセーフティーネットは耐えられるのか?
Wedge[国内+ライフ]
ナチスと何が違うのか?ガザ「絶滅戦争」と人道危機…問われる私たちの倫理
radiko news
折り鶴レーヨン糸を活用した8色のキャンバストートバッグ登場
PR TIMES Topics
戦後80年…台湾への対応で分かれる広島と長崎の原爆忌
radiko news
福岡のセ・リーグファンの皆様、お待たせ!RKBラジオの祭典、今年も開催
radiko news
愛犬との絆を深める屋外ドッグラングランドオープン
PR TIMES Topics
長嶋茂雄が福岡を変えた? "ミスター"とプロ野球の"もし"
radiko news
財津和夫、カラオケの持ち歌はなぜか自作ではなく三波春夫の『チャンチキおけさ』
radiko news
国産竹100%から作られた竹紙を本文用紙に使用した2026年版ダイアリーを発売
PR TIMES Topics