センスの違いを生む、たった一つの習慣/作家・濱 嘉之

2025.03.25 07:00
独自の審美眼と洞察力を持ち、各分野で活躍するスペシャリストを毎月お迎えして、センスの正体について探っていく連載「男のセンス学」。第10回は元警察官で、現在は作家として活躍する濱 嘉之さんが登場。豊富な経験をもとに、「センスとは何か」を考えます。
思いがけないご推挙を受け、このコラムに寄稿することになった。これも人と人のつながりに所以(ゆえん)するものだが、僕のような高齢者にとっての「センス」とは、いかに幅広い世界の人たちとつながっているか…にかかっていると思う。
「濱 嘉之」という名前は物書きとしての名であるが、本来の生業は危機管理のコンサルティングである。危機管理とは、企業のトップが判断を下す分野であるため、必然として経営者や政界の要人と接する機会が多くなる。その中には、経済三団体のトップや内閣総理大臣になった方もいらっしゃる。警察官時代に培った「対話力」と内閣官房で学んだ「情報の本質」
コンサルや物書きへの下地を作ったのは、元警察官という経歴にある。警察の仕事は実に幅が広い。交番のおまわりさんや白バイ、刑事など、テレビドラマによく出てくる職種が一般的に知られている。僕も交番は二年足らず経験したが、そこで「誰とでも分け隔てなく話す」力を養った。通学中の小中学生、教師、校長、商店街や町工場の経営者、国会議員やその支援者、大企業の重役、酔っ払いから泥棒、さらには反社会的勢力まで、実に幅広い人たちと接した。
警部補になった時に転機が訪れた。内閣官房内閣情報調査室(内調)という、一風変わったセクションに送られた。担当は国内政党の野党で、宮澤政権後半から細川、羽田と三代にわたる政権交代を経験し、当時のほぼ全国会議員が担当範囲に入ることになった。
内調の仕事は、総理や官房長官の耳目となって、さまざまな情報を収集分析することが目的だ。政権交代が起これば、反対側の人々の情報を集めていた者にとっては「昨日の敵が今日の友」となるわけである。細川政権成立時に初当選した議員の中には、故・安倍晋三氏や野田佳彦氏など、のちの総理大臣や閣僚、首長となった人物も多い。当時、接点を持った議員や出身母体の企業幹部、マスコミ関係の方々とは、今も付き合いが続いている。「センス」とは何か
警察官として学んできたバックグラウンドが「男のセンス学」にどう影響を及ばしてきたか。危機管理の要諦は、「幅広い常識と深い良識」と言われている。今では、だいたいの情報がパソコン一つで入手できる。しかし、それを鵜呑みにせず、情報の真偽を自ら確認する姿勢が重要だ。すべてを自分で知ることは困難だが、「知っている人を知ること」は努力次第である。いわゆる世代を超えたコミュニケーション能力の醸成である。特に若い世代と接点を持つことは明日の糧になる。そのためには「聞く耳を持つこと」が大切だ。
情報の世界でも、現在は通信傍受(シギント)や画像分析に力を入れているが、未だに「核心的情報は人的情報(ヒューミント)」と言われる。これは、世界の諜報機関や企業に「スパイ」が存在している理由でもある。
インターネットや通信を傍受し、衛星や監視カメラで画像を入手しても、相手の健康状態や、心理的な不安や個々の癖などは対面しなければ分からない。時には「敵」から収集しなければならない時もある。その際に最も重要なのは、いかに相手にバリアを張らせず、第一印象で「もう一度会ってもいい」と思わせるかだ。
センスは生まれつきのものではなく、磨いていくものだ。世の中には幼少期から「帝王学」を学ぶ立場の方もいるが、そういう方でさえ「センス」を感じないことがある。危機管理に王道がないのと同様に、センスの磨き方にも王道はない。
誰とでも話ができるということは、相手に媚び諂う(へつらう)ことではない。相手の話を丁寧に聞き、決して上から目線にならないことが大切だ。相手の気持ちを思いやる心の余裕を持ち、常に目線に合わせ、一旦は意見を受け入れる姿勢を持つ。もし誤りがある時は、即座に否定するのではなく、その思考過程を聞いてみると、原因を理解できる。いわば「人の心の内に分け入る」感覚が必要である。センスを磨くコツは「聞く耳を持つ」こと
「ボロは着てても心は錦」という歌がある。また、「衣食足りて礼節を知る」という格言もあるが、これは間違いで「衣食足りて栄辱を知る」が正しい。礼節を越えて、恥辱を知ること、つまり恥をかかないように努力することこそ、「センス」を磨くことにつながる。
「恥の文化」は日本だけのものではない。近年、大国の大統領にも「恥知らず」が散見されるが、それは国家の品格につながる。品格もセンスと同様、自らを磨くことから始まる。衣食足り、「聞く耳を持つ」姿勢こそが、センスの始まりであると考える今日この頃である。
濱 嘉之
1957年福岡県生れ。1982年中央大学法学部法律学科卒業後、警視庁に入庁。警備部警備第一課、公安部公安総務課、警察庁警備局警備企画課、内閣官房内閣情報調査室、生活安全部少年事件課等に勤務。2004年警視で退官。在職中、警視総監賞、警察庁警備局長賞など受賞多数、同年、危機管理コンサルティング会社を設立。衆議院議員政策担当秘書を経て2007年に「警視庁情報官」で作家デビュー。TV、紙誌でコメンテーター、大学講師等で活動中。


Illustration : Masashi Ashikari
Edit : Yu Sakamoto

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