濃厚さや食べごたえを強みとするポテトチップスブランドとして2018年に立ち上がった「湖池屋ストロング」は、2025年3月24日、新フレーバー「海苔ざんまい」の投入を核としてブランド全体をフルリニューアルします。若年層の「濃い味需要」を満たす、一見して安定ブランドである「湖池屋ストロング」はどんな課題を抱えており、今回の新フレーバーは何を解決したのでしょうか。
●背徳感からデリシャスへ
「ストレスが溜まっているときほど、刺激が強く濃い味を求める」。これは湖池屋による過去の調査で判明した、スナックユーザーの一般的な傾向です。実際、コロナ禍でストレスを溜めた消費者は濃い味の「湖池屋ストロング」を好んで購買し、売上伸長率は他ブランドをしのぐ勢いでした。しかし、コロナ禍が明けて巣ごもり需要が一段落すると、売上の伸びは鈍化しました。
「湖池屋ストロング」は2024年4月に、より「強さ」を表現するパッケージデザインにリニューアルし、売上は伸長したものの、過去と比べると伸長率はなだらかでした。「濃く、食べごたえがある」という特性の強い打ち出しが、ユーザーニーズから少しずつずれてきた結果、間口を狭めてしまったのです。
2024年4月にリニューアルした際の「湖池屋ストロング」
これまでの「湖池屋ストロング」は、味の濃さやジャンクさや背徳感、あるいは「ストレス発散」のイメージが先行しすぎており、本来の強みである「贅沢感」や「素材のこだわり」、「美味しそう(デリシャス)であること」が十分に伝わってはいませんでした。実際、調査結果を分析すると、一度購入したユーザーが次回も買う、つまりリピートは順調に推移していましたが、新規で買うユーザー、つまりトライアルは減っていたのです。
●具体的な「味付け量3倍」という表現
リニューアルにあたり、まずはパッケージデザインの刷新を図りました。今までは素材の強烈なシズル感を全面に押し出すべく、サワークリーム、ピザ、ビーフの画像をそれぞれのフレーバーで大きく配置していましたが、その面積をあえて小さめにしてポテトチップスの方を大きく表現することで、ジャンクさを払拭しながらも、1枚1枚の食べ応えと満足感のある味わいを演出する方向に舵を切ったのです。
左が旧パッケージ、右が新パッケージ(2025年3月24日発売)
また、今までの「湖池屋ストロング」のパッケージには、「濃さの衝撃」というキャッチコピーが入っていましたが、これだけでは抽象的・情緒的な『なんとなく濃いんだろうな』『なんとなく堅いんだろうな』というあやふやなイメージが先行してしまい、食べたことのないお客様には製品の特徴や長所がいまいち伝わっていませんでした。そこでリニューアルにあたっては、「厚切りVカット 味付け量3倍」という具体的・定量的なキャッチコピーをパッケージに入れたのです。その意図について湖池屋 マーケティング本部 マーケティング部 第1課 主任 山本兼士は、こう説明します。
「現在、世の中に出ている様々な商品は『殺菌力△倍』『アルコール度数△%』などと、スペックを数値化して明示していますよね。フェイクニュースや出所不明のSNS発の情報がはびこる今の時流からしても、明確なエビデンスを出していく企業の姿勢は非常に大切ですし、このことが新規ユーザーの取り込みやブランドへの信頼の一助になると思っています」(山本)
●間口の広さを求めた結果としての「海苔」
「湖池屋ストロング」の「見え方」を変えるだけなら、パッケージデザインやキャッチコピーの変更・追加だけでも一定の効果はあるでしょう。しかし、今回のリニューアルでは、新フレーバーの投入がマストでした。その理由を、山本はこう説明します。
「『湖池屋ストロング』ブランドがさらに飛躍するためには、今以上により多くの人に愛されなければなりません。しかし今までの『湖池屋ストロング』は、強く、尖ったコンセプトを掲げ、尖ったフレーバーのみのラインアップに偏っていました。そこで、間口の広さを得られるであろうフレーバーとして、ポテトチップスの大定番である『海苔』に注目しました。」(山本)
海苔を打ち出したフレーバーといえば、「湖池屋」という会社を象徴する主力かつ看板商品である「ポテトチップス のり塩」です。1962年に発売した湖池屋初のポテトチップスも、この「のり塩」でした。このように幅広い年代にも馴染みの深い「海苔」を、「湖池屋ポテトチップス」や「湖池屋プライドポテト」といった他ブランドとは差別化するかたちで、「湖池屋ストロング」のフレーバーに加えるというわけです。
ただ、「湖池屋ストロング」のラインアップに「海苔ざんまい」を加える一方で、既存フレーバー(「濃サワークリームオニオン」「ガチ濃厚ピザ」「鬼コンソメ」)のうち「鬼コンソメ」をラインアップから外しました。その理由について山本は、「社内で何度も議論がありましたが……」と前置きして、こう説明します。
「たしかに『鬼コンソメ』をずっと買ってくださっているお客様もたくさんいらっしゃいますし、コンソメは間口の広いフレーバーです。ただ、調査の結果から『鬼コンソメ』と『ガチ濃厚ピザ』はお客様が購買する際の”情緒価値”の面で近いものがありました。端的に言えば、自ブランド内でカニバリ(食い合い)が起きていました。『湖池屋ストロング』というブランド価値全体のことを考えるなら、2020年から約5年間販売してきた既存の1フレーバーを削ってでも、新しく1フレーバーを投入するほうが良いと判断したのです」(山本)
ただ、「海苔」の投入には、営業部から多少の反発があったとも言います。
「海苔味のポテトチップスは自社・他社含めて既存商品がたくさんあります。小売店の棚面積に限りがあるため、これ以上海苔商品を出しても入れてもらえないのでは、という危惧が営業部からはありました。ただ、海苔味はものすごく多くの消費者に好かれていますし、同じ海苔味でもブランドによって明確にターゲットは違う。そこをマーケティング目線で丁寧に説明して、最終的には納得してもらいました」(山本)
なお、今回のリニューアルで「濃サワークリームオニオン」は「サワークリームオニオン」に、「ガチ濃厚ピザ」は「デラックスピザ」に名称を変更しました。この変更もまた、新コンセプトにマッチした、間口の広いブランドへイメージチェンジするための策なのです。
●複層感のある味わい
R&D本部 プロダクト開発部 課長の菊池圭祐は、海苔の風味を生かしながら、今回の「湖池屋ストロング」リニューアルならではの濃いおいしさ、複層感のある味わいをどう作っていくかに苦心したと言います。
「複層感とは、様々な味わいが層のようになって順序良く感じられる状態をあらわした造語です。あくまでもイメージですが、TOP、MIDDLE、LASTに味わいを分けて、TOPに海苔の香りと味をしっかりと出し、MIDDLE以降もしっかりとした味わいが出る味の設計を行いました。グラフで表すなら、縦方向の山が高く、かつ横方向にも伸びがある味です」(菊池)
味の構成要素は大きく4つ。華やかな香りの”青のり”、香ばしい風味の”焼のり”、磯のうまみを付与する”あおさ”といった「海苔」、そして「ごま油」と「醤油」、「唐辛子」です。
「青のりは口に入れるとふわっと香ります。焼のりは後半で立ち上がるうまみや全体のボディ感を担い、あおさは後半の風味の増強ですね」(菊池)
ごま油と醤油のバランスについては、社長や会長まで交え、喧々諤々の議論を重ねました。ごま油が強いと「韓国海苔」の味に近づきますが、それでは非日常感が強まります。それよりは、より多くの日本人にとって日常感のある醤油に寄せる方向に着地しました。
また、唐辛子はその「キレ」で連食性を向上させています。
「過去の『湖池屋ストロング』は濃厚さを追求するあまり、何枚も食べ進めていくうちに『1袋全部はいらない』というお客様もいらっしゃいました。とはいえ“山の高さ”を維持しなければ『湖池屋ストロング』とは言えない。そこで唐辛子によってキレを出し、濃いながらも、もう1枚、もう1枚と続けて食べていただけるような味わいにしました」(山本)
「海苔ざんまい」は一般消費者への試食調査で、湖池屋史上最高得点(92.5%が「買いたい」と回答)を獲得しました。実際に食べてみると、第一印象はとにかく“旨い”。濃厚ではありますが、ジャンクさは感じません。それよりも「リッチ」や「ゴージャス」が勝っている。それほどまでに味が“厚い”。複層感のある味わいなのです。
しかも「海苔」という食材は、「サワークリーム」や「ピザ」といった、いかにも濃厚なフレーバーが苦手だった層も手を伸ばしやすい、という側面があります。
「もともと『湖池屋ストロング』はリピーターの方がつきやすいブランドですから、一度でも食べてもらって美味しいと思ってもらえればいい。特に今回は『海苔ざんまい』を食べてみて気に入り、次は『サワークリームオニオン』や『デラックスピザ』を食べてみようかな、と思ってもらえるのが理想です」(山本)
●かけがえのないブランド
「湖池屋ストロング」のCMキャラクターは三吉彩花さん。ブランドとして打ち出したい「リッチな味わい」を、三吉さんが元来まとっているかっこ良さをもって表現すべく、リズミカルで躍動感たっぷりのダンスを披露していただきました。既存の「湖池屋ストロング」の中心的なユーザーである若年層に響くテイストです。
とはいえ「海苔」は高齢の方にも馴染み深い味付け。菊池も「海苔ざんまい」を若い人だけでなく家族全員で食べてもらいたいと考えています。
「御高齢の方がお土産としてどこかに持って行って、皆さんで召し上がっていただく光景を想像しています。お孫さんなんかにも配ってくれたら、なお嬉しいですね」(菊池)
当初の「若者向けの尖ったブランド」イメージからは大きな変容を遂げた「湖池屋ストロング」。実は、その名称には存亡の危機があったと山本は振り返ります。
「アルコール飲料で〈ストロング〉という単語が含まれたものが健康を害すると、近年報じられたじゃないですか。それで一度、社長から『名前を変えたほうがいいんじゃないか』という話があったんですよ。それを受けてチームで何十時間も話し合い、何百もの改名案を出しました。ただ、社長と何度も議論を重ね、消費者調査もかけた結果、お客様の中でスナックとしての〈ストロング〉という名称にネガティブなイメージはない、という結論に行き着いたんです」(山本)
山本ほかブランドチームは、改めて「湖池屋ストロング」ブランドの高い商品価値に気づかされました。
「議論を尽くしたことで、『湖池屋ストロング』が湖池屋のかけがえのない資産であることを、社長とともにチームとして再確認できました。これは大きな収穫でしたね」(山本)
8年目を迎えた「湖池屋ストロング」は、自らの存在意義を常に問いながら、これからも進化を続けていきます。