令和6年度パテントコンテスト/デザインパテントコンテストのフィナーレを飾る表彰式が、3月7日(金)に東京・ミッドタウン八重洲で開かれます。本コンテストは、若い世代の発想力を育み、知的財産権制度の理解促進を図ることなどを目的に、平成14年度にパテント部門からスタート。同20年度にはデザイン部門も加わり、長年、多くのクリエイターの輩出に貢献してきました。本コンテストがモノづくりと向き合う若者たちに、時代を超えて求められる理由はどこにあるのでしょうか。主催団体の1つである独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)の飯田峻司さんへのインタビューを基に、その理由について改めて考えてみます。
パテントコンテスト/デザインパテントコンテストとは
──まずはパテントコンテストとデザインパテントコンテストについて教えてください。
パテントコンテスト(以下パテント部門)は、自ら考え出した身近な不便を便利にする発明を、デザインパテントコンテスト(以下デザイン部門)は、製品の新しいデザインを、それぞれ若い世代から募集し、その中から優秀な作品を表彰するコンテストです。両部門ともに目的は共通しており、高校生、高等専門学校生、大学生、専修学校生、大学校生を対象とすることも同じ。ただ、当然ですが、受賞特典である特許庁への無償での出願サポートは、パテント部門は特許権、デザイン部門は意匠権と、それぞれ異なります。
──この特許庁への出願サポート特典が、ほかに類を見ない本コンテストの特徴ですね。
弁理士によるアドバイスを受けながら出願書類を作成し、特許庁の審査を受けるといったこの工程を体験することは、受賞者の知的財産マインドを高め、知的財産権制度への理解を深める上で、非常に大きなステップだと考えています。そのほかにも、過去の受賞者からは、進学や就職活動の際のアピールポイントになったといった喜びの声が多数寄せられています。
──応募までの道のりを体験するだけでも、大きな財産になりそうです。
はい。応募には、自分のアイデアを分かりやすく伝えるために、文章や図版、写真などを駆使して応募書類を作成したり、当団体が提供する検索プラットフォーム「
」で先行事例を調査したりする必要があります。これらを通じて、書類の作成能力や文献の調査方法を身につけることができます。また、最後まで諦めずにやり遂げたことは、学生時代に力を入れたこととしてアピールできますし、何より自分自身の自信につながることは間違いないでしょう。
夏休み期間中には、応募のヒントにつながるワークショップを開催!
──とはいえハードルの高さは感じます。参加
しやすくなるような仕掛けはありますか。
本コンテストの応募期間と重なる夏休み期間中には、アドバイスを受けながら発明のワークフローを体験できる「発明体験ワークショップ」を提供しています。令和6年度は、仙台、さいたま、広島、大分の4都市で開催しました。このワークショップを始めた令和3年度以降、毎年度この参加者の中から受賞者が誕生しています。
──ワークショップの中身について、詳しく教えてください。
大きく分けて4つのステップがあります。1つ目が「課題発見に関するワーク」です。「必要は発明の母」ということわざがあるように、発明はまず身近な不便を見つけることがスタート。家族にインタビューしたり、「〇〇だったらいいな」と思うことを想像したりしながら、日常の中の不便や不満を考えます。どうしても見つからないという場合は、「夏にソフトクリームが溶けて手や洋服が汚れる課題」など、こちらで設定した課題について考えてもらいますのでご安心ください。
──スタートでつまずいても楽しめるわけですね。
はい。次に、ステップ1で発見した課題を解決する方法を考えます。このステップでは、①自由な発想で解決方法を考えてから、②インターネットなどで自分のアイデアと似ているものがないか調査します。この時大切なのは、発想が先行のアイデアに引っ張られてしまわないよう、①②の順を守ることです。その後の3つ目のステップでは、今度は前述の検索プラットフォームを用いて、自分と同じアイデアが先行技術として登録されていないかを調査し、もし類似のものが見つかった場合は、自分のアイデアの独自性を磨いて差別化を図ります。
──いずれも発明を考える上でのヒントになりそうです。
そうですね。ワークショップに参加できない場合も、これらのポイントをおさえれば発明がしやすくなると思います。そして最後のステップでは、自分のアイデアを本コンテストの応募用紙に落とし込むことになります。本コンテストの審査対象は応募書類ですから、いかにアイデアが優れていても、そのことが書類を通して伝わらなければ意味がありません。ワークショップ会場では、どう書けば正しくわかりやすく伝わるかもアドバイスしています。
「普遍的なニーズをとらえた作品」や「時代を反映した作品」が多数受賞
──過去にはどんな作品が受賞しているのでしょうか。
例えば、「必要に応じて大きさや形状が変わる」といったアイデアは、普遍的なニーズだと思います。令和2年度デザイン部門では「大きさの変わる掃除用ブラシ」〈図①〉が、同4年度パテント部門では「変形するブラシ」〈写真①〉がそれぞれ受賞しています。
一方で、平成30年度パテント部門では、底面の形状が変えられるために被災地の貴重な空間を有効活用できる「コロニーテント」〈図②〉、令和3年度デザイン部門では、羽を広げた孔雀のように美しいアクリルパーテーション「白い孔雀」〈写真②〉がそれぞれ受賞。震災や感染症など、その時々の世相を反映した作品も数多く受賞しています。
──今年度のコンテストについて教えてください。
今年度は、北は北海道、南は沖縄県という全国各地の計152校から、パテント部門に645件、デザイン部門に791件、計1436件の応募がありました。その中からパテント部門で30件、デザイン部門で27件が優秀賞(特許出願支援対象)に選出され、さらにこの優秀賞受賞作の中から部門ごとに7つの特別賞が選ばれました。受賞作品と受賞者は決定しましたが、いずれの作品も特許庁へ出願中であるため、各作品の内容や受賞理由などはベールに包まれたままです。
──3月7日の表彰式では、作品の概要と受賞理由が明らかになると伺いました。
その通りです。全国から優秀賞受賞者を招いて行われるこの表彰式が、受賞作品の情報解禁の舞台となります。特別賞受賞者が自ら作品について発表するプレゼンテーションには、注目していただきたいですね。メディア関係者はぜひ本式典を取材し、日本の若い力の活躍ぶりを多くの読者様・視聴者様にお届けいただければと思います。また、式典の様子はライブ配信されますので、遠方にいらっしゃる方々でもリアルタイム視聴が可能です。次世代の日本を担う若者たちの晴れの舞台ですから、ぜひ画面を通じて応援してあげてください。
複雑化する時代に活躍できる未来人材の育成を
──パテントコンテストは令和3年度に20周年を迎えました。本コンテストが社会に与え得る影響についてどう捉えていますか。
本コンテストは、単に優秀な発明やデザインを表彰することが目的ではなく、学校における知的財産学習の一環として行っています。創造・保護・活用といった知的財産の一連の流れに関する力を身につけることは、制度や権利化の手順などを学ぶ昔ながらの知的財産教育だけではなく、複雑化する時代に活躍できる未来人材の基礎力を育むものでもあります。また、本コンテストは、若者が受け身ではなく能動的に学び、互いに競いながら成長する「場」にもなっています。こうした「場の提供」が、生徒・学生および指導される先生方の活動支援になり、未来の日本の活力へとつながっていくことに大きな意義を感じています。
──今後の応募者にはどんなことを期待しますか。
現代は、環境やエネルギーの問題など、多くの課題が山積しています。一方で、生成AIなどの急速な技術の進展により、未来社会ではこれまでにないビジネスが生まれるでしょう。このような時代においては、若者たちが新しいアイデアを創出し、さまざまな技術を駆使しながら、課題解決に向けた新しいビジネスの創出に挑戦していくことが求められます。今後、本コンテストにおいてさらに素晴らしいアイデアが生み出されていくのはもちろんのこと、参加した若者たちが未来社会において活躍されることを期待しています。
──最後に読者へのメッセージをお願いします。
モノづくりをやってみたい、アイデアを思いつきで終わらせたくない、というお気持ちがあれば、ぜひ本コンテストにご参加ください。参加を通じてさまざまな気づきを得られるはずです。受賞できなかったとしても、自身のポートフォリオの1つとして進学や就職の際の武器になりますし、翌年度以降ブラッシュアップして応募することもできます。来年度以降の皆さまからのご応募を心よりお待ちしています。
■法人概要
法人名 :独立行政法人工業所有権情報・研修館
所在地 :〒105‐6008 東京都港区虎ノ門四丁目3‐1 城山トラストタワー8F
代表者 :理事長 渡辺 治
設立 :2001年4月
事業内容: 工業所有権に関する情報の収集、整理及び提供、これら業務に従事する者に対する研修の実施
URL :https://www.inpit.go.jp/index.html