株式会社海士は、「旅をきっかけに、豊かさを巡らせる」というミッションのもと、島根県隠岐諸島海士町(あまちょう)で地域観光プロデュース事業を展開しています。泊まれるジオパーク拠点施設「Entô(エントウ)」や、島の玄関口であるフェリーターミナルの商店やレストランの運営を通じて、訪れる人々と地域を繋ぎ、新しい価値を創り出しています。
この冬、Entôの滞在体験の一つに、島ならではの活動を伝える新しい試みとして、「島まるごと読書プラン」が誕生しました。冬の離島で、ゆったりと静かに本と向き合う豊かな贅豪な時間を、島の文化や風土と共にお楽しみいただけるプランです。
本ストーリーでは、この「島まるごと読書プラン」の誕生背景や特徴、宿泊ゲストの声について紹介します。
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2007年、島全体を図書館に見立てる「島まるごと図書館」の構想が誕生
かつて海士町には町の図書館がなく、島民が本と触れ合う場も限られていました。その中で島全体を図書館に見立てるという大胆な発想から「島まるごと図書館」という構想が2007年に誕生。港や公民館、飲食店などに設置された図書スポットを通じて、本が島中に広がりました。
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取り組みが始まった3年目の2010年、海士町に念願の中央図書館が開館します。しかしこの「島まるごと図書館」の取り組みは中央図書館ができた後も現在まで引き継がれており、Entôをはじめとする各所が分館となり、各施設の個性に合わせた選書が置かれています。 何もないからこそ生まれた暮らしの豊かさを感じるこの島独自の文化は、島民のみならず観光客の心にも響くものと考えました。
また、冬の隠岐諸島はフェリーの欠航により、外界との行き来が制限されます。この自然が生む「閉ざされた時間」を、私たちは新しい価値と捉え直しました。情報に溢れた現代で、冬の離島という環境は、むしろ「内に籠って読書をしながら自分に戻る」という贅沢な時間を提供できるのではないか。
この文化と環境を活かし、Entôのコンセプトである「地球にぽつん」「seamless」「honest」と掛け合わせることで、新しい価値を追求しました。その結果として生まれたのが、Entôでお楽しみいただける「島まるごと読書プラン」です。
館長自らが一人ひとりのゲストに合わせた選書を実施。読書を通じて「島の文化や価値観と出会う特別な時間」を提供
このプランの開発は、株式会社海士のマーケティングチームを中心に進められました。Entôの宿泊事業部の現場メンバーが連携し、海士町中央図書館の磯谷奈緒子館長と対話を重ねながら形にしていきました。
プラン造成で、まず直面したのは、「島まるごと図書館」の本質をどう伝えるかという課題です。この取り組みの本質とは、「本を置く場所」そのものではなく、「人と本」、「人と人」が繋がり合うことで生まれる読書文化を醸成する環境づくりにあります。
この大切な価値観を、観光で訪れる島外の方々にどのように体感してもらうかということが、このプランを組み立てる上での主軸になりうるものであり、15年以上かけて培われてきた島の読書文化の背景を、単なる読書プランとしてではなく、島の暮らしや価値観と共に届けたい――そうした想いが開発の根底にありました。
その深みを感じていただくため、磯谷館長自らが一人一人のゲストの興味や状況に合わせて丁寧に選書を行うことをプランの中核としました。磯谷館長はホテル業界での経験を経て商品開発研修生として海士町に移住し、「島まるごと図書館」構想の立ち上げ当初から図書館運営に携わってきた方です。観光と図書館、双方の視点を持つ彼女がいることによって、旅先で読みたくなるような選書を試みました。
海士町中央図書館 磯谷奈緒子館長
このプランでは、磯谷館長をはじめとする司書たちが宿泊ゲスト一人ひとりの興味や状況に応じて本を選びます。選書には、事前アンケートを活用。「好きな本」「苦手な本」「あなたのこと」という自由記述欄を設けることで、ゲストの内面に寄り添う本を選ぶこと、「期待する読後感」を伺うことで旅の中での心境や目的に合わせた本の提案を目指しました。また、司書からの選書にあたってのメッセージを添えるだけでなく、プラン体験後のゲストが司書へ感想を書くことのできる往復メッセージの仕組みを取り入れています。
さらに、「島まるごと」の名にふさわしい読書体験を実現するため、島内の他施設との連携も進めました。ホリスティックケアを提供する「島のほけんしつ蔵」と協力し、読書に最適な特別ブレンドのハーブティーを用意。Entô Diningでは、読書時間をさらに特別なものとするために、オリジナルの手作りお菓子を提供。これらの読書をより楽しむための創意工夫により、ゲストは五感で読書時間を楽しみながら、島の文化に触れるひとときを過ごすことができるのではないかと考えて作りました。
島のほけんしつ 蔵による特別ブレンドハーブティーとEntô Diningによる手作り菓子
こうしてさまざまな協力のもと成り立っている「島まるごと読書プラン」は、単に本を読むだけの体験ではなく、読書を通じて島の文化や価値観と出会う、特別な時間を提供することが可能となっています。
ゲストからは「自分のためだけの特別な本と感じた」「自分と向き合う時間を楽しめた」と好評の声
実際に宿泊されたゲストから「島まるごと読書プラン」についてのコメントをいただきましたので、その一部をご紹介させていただきます。
「自分の現状を伝えた上で選ばれた一冊だったので、まるで自分のためだけの特別な本を手にしたようでした」といった感想や、「読書を通じて自分と向き合う時間を楽しめた」
これらの声は、私たちが目指した価値観がしっかりと伝わっていることを実感させてくれました。
ゲストが自分自身に向き合う時間を楽しんでいただけたことは、まさに私たちが提供したい体験そのものであり、大きな励みとなりました。
お部屋だけでなくお好きな場所で読書を楽しんでいただけます
海士町・隠岐諸島の魅力を発信する「メディア」としての使命。今後も、海士町ならではの魅力を探求し続ける
Entôは単なる宿泊施設としての役割にとどまらず、海士町、そして隠岐諸島の新たな魅力を伝えるメディアとしての役割も担っています。
そして、その役割こそ、株式外社海士が「旅をきっかけに、豊かさを巡らせる」というミッションを掲げる理由です。
隠岐に住む人、そして訪れる人との媒介者である私たちは、ジオパークならではの自然や島独自の文化を活かし、「観光」や「交流」という言葉の既存の型にとらわれず、今後も、海士町ならではの魅力を探求しながら、地域と新しい未来を描いていきます。
外観 Photo by Kentauros Yasunaga
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