「悩殺しなければ気が済まない」思うままに男を操る銀座の女給・君江を描いた永井荷風『つゆのあとさき・カッフェー一夕話』(新潮文庫)12月24日発売。

2024.12.24 11:00
株式会社新潮社
川端康成、谷崎潤一郎をも唸らせたその姿とは。

12月24日に新潮文庫より刊行いたします永井荷風著『つゆのあとさき・カッフェー一夕話』は、銀座のカッフェー「ドンフワン」でトップを張る女給・君江と彼女に執着する男たちの駆け引きを描いた物語です。本作に魅了された川端康成と谷崎潤一郎の言葉を紹介します。
永井荷風『つゆのあとさき・カッフェー一夕話』

「つゆのあとさき」が描かれた昭和初期、女給が客の隣に座って接待を施し、客は女給にチップを払うという、現代のキャバクラやラウンジのような「カッフェー」が氾濫するようになりました。永井荷風が描いたカッフェー「ドンフワン」もその一つであり、主人公の君江はそこでトップを張る超人気女給でした。

そんな、彼女を川端康成は「永井荷風氏の『つゆのあとさき』」で次のように評しています。
「主人公の女給だけは、類型を越えて生き生きと動いている。(中略)生れながらに娼婦の肉体を持ち、環境がそれに手つだって、無貞操で無恒心の生活に流れてゆく、近代都会の『ナナ』、恐らく作者はかの女を厭悪しながらも、世の因果な男達と共に、愛着せずにはいられなかったのだろう。」

さらに、本作を描き上げた永井荷風のことを、谷崎潤一郎は「『つゆのあとさき』を読む」で絶賛しています。
「この作品には、作者の虚無的な冷酷さが、在来の日本物にも見られない程度に強く出ている。そうして作者のそういう態度が、女主人公の君江という廃頽(はいたい)した女性を描くのに甚だよく調和している。つまり作者の心境と作者の描かんとする人物のそれとがピッタリ合った感じである。しかも作者は君江の性格や感覚の内部にまで立ち入っているのではない。その時その時の言語動作に附随する心持の説明はあるけれども、心理描写という所まで突っ込んではいない。」と畳みかけたように賞賛したあと、「そのそっけない乾いた書きぶりが一種の凄味を添えている。」とまで言い切っています。
「永井荷風氏の『つゆのあとさき』」(川端康成)と「『つゆのあとさき』を読む」(谷崎潤一郎)は、12月24日発売の『つゆのあとさき・カッフェー一夕話』(新潮文庫)巻末に収録されています。二人の文豪が太鼓判を押す昭和のラウンジ嬢の物語は、最後の一行まで気の抜けない驚嘆のストーリーです。




■書籍内容

銀座の有名カッフェー「ドンフワン」でトップを張る女給君江は、うぶで素人のような雰囲気ながら二股三股も平気な女。そんな彼女の身辺でストーカーのような出来事が起きるが、君江は相も変わらず天性のあざとさで男たちを悩殺し、翻弄していく。しかし、にわかにもつれ始めた男女関係は思わぬ展開を呼び……(「つゆのあとさき」)。荷風が女給の身の上話を聞き取った小品「カッフェー一夕話」も収録。

著者紹介:永井荷風(ながい・かふう)

(1879-1959)東京生れ。高等商業学校附属外国語学校清語科中退。広津柳浪・福地源一郎に弟子入りし、ゾラに心酔して『地獄の花』などを著す。1903年より1908年まで外遊。帰国して『あめりか物語』『ふらんす物語』(発禁)を発表し、文名を高める。1910年、慶應義塾大学教授となり「三田文学」を創刊。その一方、花柳界に入りびたって『腕くらべ』『つゆのあとさき』『濹東綺譚』などを著す。1952年、文化勲章受章。1917年から没年までの日記『断腸亭日乗』がある。

■書籍データ

【タイトル】つゆのあとさき・カッフェー一夕話
【著者名】永井荷風
【発売日】12月24日
【造本】文庫
【本体価格】605円(税込)
【ISBN】978-4-10-106910-4
【URL】

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