目指すは「街の定食屋さん」 みにくいアヒルのブランディング術

2024.12.21 07:00
サブカルやグラフィックデザインが好きなゴルファーの間で、コアなファン層を抱えるアパレル「Golfickers(ゴルフィッカーズ」。童話『みにくいアヒルの子』から派生したキャラクターに扮(ふん)する「番鳥」(バンチョウ/本名非公開)はブランドを牽引するデザイナーでもある。インタビュー後編は、Golfickersのモノづくりと情報発信に関するフィロソフィーについて聞いた。「Golfickers」“番鳥”インタビュー後編
絵とゴルフに興じた小中学生時代、番鳥の楽しみは『週刊少年ジャンプ』だった。最新号が発売される月曜日がいつも待ち遠しかった。青春の記憶は30年経ったいま、Golfickersの仕事に繋がっている。2018年のブランド立ち上げから400点以上をリリースしてきたアイテムは公式オンラインサイトを中心に、週に一度のサイクルで販売する。
 「『ジャンプ』が楽しみで一週間を生きていた。だから大人になっても週にひとつ、何か楽しみが欲しい」。商品の考案、リリースはファンの期待に応えるという義務感ではなく、クリエイターである番鳥自身の喜びだ。
コミカルなアヒルが自在に立ち回るポップなアイテムたち。「根底では子どもの頃に好きだった80年代の映画やアニメの影響が大きい。『スター・ウォーズ』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』…。SFが好きだったのかな」とジャンプ片手にペンを握った少年時代を振り返る。
かつてテレビ越しに見たタイガー・ウッズを中心とした、個性いっぱいのプロゴルファーたちの記憶もまた、今あるデザインを生むエッセンス。お尻を丸出しにしたアヒルのボールマーカーは、リリースのたびに即完売する人気商品。2000年の全英オープン、ゴルフの聖地セントアンドリュースに現れたストリーキングをモチーフにした。同じ時代、そのヤンチャな言動から”悪童”と呼ばれたジョン・デーリーもまた、大のお気に入りのゴルファーだ。
クリエイターだからできること
20年近いゴルフの休眠を経て、再びクラブを握った10年前、現役のプロゴルファーを眺め、時代の変化を感じた。「昔は皆、髪型もそれぞれ独特で、帽子を被る選手の方がキャラクター化していた。今は選手がいっそう広告塔になり、キャップにウェアに、(企業)ロゴがたくさん。遠目で見て、どの選手か分かりにくくなっていた。マネタイズが(プロゴルフにとって)重要なことだとはもちろん分かるんですけどね」
トップダウンの文化が根強いゴルフを取り巻く環境だからこそ、影響は大多数のエンジョイゴルファーにも及ぶ。人それぞれが持つ個性を、見た目から引き出せないものか。クリエイターであるからこそ、番鳥にとってそれは単なる批評の対象ではなく、自分事である。
「セレクトするだけなら簡単なんです。『これはカッコイイ』、『これはカッコ悪い』って。でも『カッコイイ』セレクトから漏れそうなものをカッコよくすることが、本当の意味でのデザイナーとしての僕の仕事かなと思っている」
前編からの繰り返しになるが、番鳥がプロゴルファーやツアーに向ける視線は、いちファンとしての羨望や尊敬の想いに満ちる。「『ゴルフは人生と一緒』という声がありますけど、僕の考えはちょっと違う。ゴルフ場って枯山水のような美しい庭園、芸術品に思える。そこでプレーする選手の肉体やスイングもすごくキレイで、レイアウトされたコースの上に描く放物線もまた芸術的で美術館のよう。ゴルフは来場者のことを『ギャラリー』や『パトロン』と言うでしょう。美術系の言葉がよく合うと、勝手に思っている」
「ZOZOチャンピオンシップのようなトーナメントが美術展だとしたら、選手たちはアーティスト。そんな美術展に参加するために、Golfickersはポップアート的な切り口の作品を展示してもらえるような存在になれたらいいなと思っていて。僕の中ではアートパフォーマンスに近いんです。そもそもクライアントありきのデザイナーって、自分が思う表現で生計を立てるアーティストに対するコンプレックスがある。Golfickersではそのストレスから解放されて、自己責任で本当に作りたいものを作れている(笑)」“推し”のカルチャーと
創作の秘密基地と言うべきアトリエは都内某所のマンションにある。機材やインテリアが所狭しとたたずむ部屋を眺めると、Golfickersがいかにアイデアや、こだわりといったブランドの嗜好を優先させているかが分かる。
商品に関するお知らせのツールはインスタグラムがメイン。情報発信についても、番鳥には考えがある。「“やらないようにしていること”がいくつかある。撮影にモデルを起用しないこと。広告を打たないこと」
容姿端麗なモデルが着用したウェアが、見栄えがするのは当たり前。「その思考がそもそもトップダウン的と言うか…。もちろん、モデルを使うことを否定しているわけではなくて、ゴルフ業界でもそういったものが多いのではないかなと思うんです」
媒体広告を控えるのも、”押しつけ”の風潮に首をひねるからこそ。「人って広告で知るよりも、自分で見つけたときの方が嬉しいと思うんですよ」。好みの服、お気に入りのレストラン。自ら発掘したときの喜びは、顔も知らない誰かに勧められたときよりもきっと大きい。「“街のおいしい定食屋さん”みたいになれたらなと思って。知る人ぞ知るお店で、内装ちょっと汚いけれど、値段も普通でおいしい。グルメサイトで宣伝しなくても、固定のお客さんのおかげで何十年も続いているような立ち位置でいたい」
そういった数少ない巡り合わせの末の出会えたファンには心から感謝したい。だから、インスタグラムでタグ付けしてくれたユーザーへのリアクションを忘れない。
「そもそもウェアは、本当はファストファッションで事足りるでしょう。それでも、Golfickersを買ってくださる方がいる。(ブランドを)応援をしていただいている。今は推しの文化。一緒に成長できる感覚で、“Golfickers推し”になってもらえたらすごく嬉しいんです」
番鳥はいまや、1年間に数十回ラウンドをこなすゴルフ中毒者。Golfickersがこれから羽ばたく先はどこだろう。
『みにくいアヒルの子』は、大きく成長したときに実は白鳥だったというストーリー。Golfickersのアヒルも当初、ゴルフになぞらえて「いつかイーグルを目指す」というコンセプトを掲げていた。「でも実は一回、イーグルになっちゃってるんですよね…」。2022年の春に実現した、英国発祥の老舗ウェアブランド、ライル&スコットとのコラボレーション。アヒルたちは同社のアイコンであるゴールデンイーグルに扮した。
「『キャラクターが独り歩きする』って言うじゃないですか。本当にそういう感じで。アヒルたちは自分の子どもみたいで、今ではもう手元を離れて、勝手に遊んでいる感じです。だから、あんまり将来のアレはないんですけど…。単純に、僕がもっとたくさんゴルフに行けるようになりたいですね(笑)」
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Photo
Takahito Ochiai
Interview & Text
Yoichi Katsuragawa, Junko Itoi, Marina Nakada

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