ワールド・モード・ホールディングス代表と茶道宋徧流 第11代家元が語る、茶道とファションに共通する心の在り方と未来に受け継ぐこと

2024.11.18 13:20
写真左より:茶道宋徧流 第11代家元 山田宋徧氏
ワールド・モード・ホールディングス㈱ 代表取締役 加福真介


ファッション業界を中心に、人材紹介から店舗運営コンサルティング、空間デザイン、広告・マーケティング、海外進出支援まで多角的なサービスを提供しているワールド・モード・ホールディングス。クライアントのビジネスを支援する一方で、業界のニーズに対応するサービスを開発・提供し成長してきた企業として、業界全体の持続的な発展に貢献することを目指した様々な取り組みを推進しています。


ファッション業界は環境負荷の高い産業と言われており、また労働環境の改善が急務と指摘されるなど、多くのサステナビリティ課題を抱えています。そこで当社は、「業界で数多くの顧客企業にサービスを提供しているグループだからこそ貢献できることがある」という思いから、2020年、サステナビリティを企業活動における重要テーマと位置づけ、サステナビリティ・プロジェクトを発足しました。以来、サステナビリティの理解や知識を高めるためのイベントや研修、ウェビナーなどの活動を、顧客企業や業界全体までも巻き込みながら積み重ねています。さらに、事業戦略にサステナビリティを統合し、ステークホルダーの皆様との対話と協業を通じた取り組みを推進しています。


加えて、ファッション業界の枠を超えた世界から未来に繋がるヒントを得ることにも意欲的に取り組んでいます。サステナビリティに精通する様々な有識者の方との対話の機会を設ける中、ワールド・モード・ホールディングス 代表取締役 加福真介と、茶道宋徧流 第11代家元である山田宋徧氏との対談が実現しました。
山田宋徧氏は、370年以上続く茶道宋徧流の家元として活動する一方で、本名の山田長光として主宰する「URBAM CABIN INSTITUTE」において、お茶の世界を核とした考え方、美意識を広め世界のリーダーや次世代を担う子供たちに刺激を与える活動を推進されています。


本ストーリーでは、ファッションと茶道という異なる世界でともにリーダーという立場にあり、持続可能な未来のための活動を推進する二人の対話の中で、ワールド・モード・ホールディングスの代表が語ったファッション業界の未来への思いをご紹介するとともに、グループが推進する持続可能な業界を目指した取り組みについてお伝えいたします。
【対談:茶道とファッションに共通する心の在り方と未来に受け継ぐこと】
茶会とはお客様の文脈と私たちの文脈を重ねること
ーお二人は初対面と伺いました。


加福:初めまして。本日は素敵なお茶室にお招きいただきありがとうございました。


山田:ここ鎌倉は、私の父である10代目宋徧が、京都の一条恵観山荘を鎌倉の自邸内に移転した時からのご縁です。私は鎌倉で生まれ育ちましたが、大学在学中の20歳の時に父が急逝し、正式に宋徧流を継承することとなりました。24歳で11代目山田宋徧を襲名する際には迷いもありました。


加福:共通点がありますね。私は大学卒業後に大手の事務機器メーカーに就職しましたが、数年して、大学3年の時に父が起業した会社に入社することとなりました。営業課長から部長、本部長を経て、入社5年後、わずか30歳で社長に就任しました。


ー300余年の伝統がある宋徧流を継承することには重圧があったのではないですか?


山田:初代の山田宋徧は千利休の孫である千宋旦に入門し、26歳で皆伝を授かり、茶の湯の解説書として「茶道要録」を作るなど、茶の湯を広く茶道として確立させた人物として知られています。美しく造られた静けさの内でお茶をいただき、掛け軸や季節のお花とともに出された茶器を愛でる。もともと利休はおいしいお茶を点て「美味しくて、心が落ち着く」とお客様に言ってもらえることが茶の湯の本質であると考えていたようです。11代目として私は、この利休の考え方を伝統と捉え、これを継承しながら未来のために私ができることを模索してきました。
茶道とファッションに通じるTPOの考え方
ーお茶会にお招きするお客様に対して、どのようなお気遣いをされるのですか?


山田:お茶会は、おいでになるお客様の文脈と、お迎えする私たちの文脈が出会う場所だと思うんですね。経営者の方で茶道に興味を持っておいでになる場合や、美術品としての茶道具などをご覧になりたいお客様、もちろん日本各地のお弟子さん達が家元である私のお点前を上がるためにいらっしゃる場合もあります。いずれの場合にも私は事前にお客様のことを知ることにしています。


加福:事前調査ですか?


山田:そうですね。私たちはお客様のことを考えながら茶会の準備を始めます。まもなくお客様が到着され、緊張の中で門をくぐり、アプローチを抜けてお茶室に上がられます。ゆったりとした時間の中で私たちのお点前でお茶を召し上がっていただき、そしてお帰りになる際に、ふっと気持ちが解放されていれば、私たちの目的が達成されたことになります。


加福:なるほど。ファッションも同じかもしれませんね。相手に敬意を払い、礼を重んじることはファッションでもいえると思います。TPOという言葉があります。その場の状況を十分に考慮しながら、周りの人との調和を意識し、なおかつ自分を表現できる洋服を選ぶことが、相手を幸せにして自分も気持ちが高揚するファッションだと思います。先ほどの、茶道における相手と自分の文脈を重ね合わすという解釈に類似していますね。
“役割を演じる”経営者の在り方
ー企業の経営者で茶道に興味を持つ方が増えているそうですが。


山田:経営者には織田信長好きの方が多いですからね(笑)。きらびやかな唐物ではなく、雑器の中に美を見出す「わび茶」を確立した千利休と、天下人であった織田信長との深い関わりはご存じのことだと思います。また信長の桶狭間出陣の舞も広く知られていますが、実は「能」と「茶の湯」は昔から大いに関係があったのです。そもそも信長は周りの人々を力のみで統制できるとは考えておらず、能や茶の湯を自分の素養として取り入れ、巧みに利用しながら人心を掌握し天下統一へ向けて進んでいったのです。


加福:力のみで制圧を考えてはいけない、というくだりは、むしろ最近の不確実な世界情勢を彷彿させますね・・・


山田:右脳リーダーシップという言葉がありますが、これは従来の利益重視型ではなく、創造性や共感、直観を中心としたマネージメントを行うスタイルです。戦国武将は当時からこの右脳リーダーシップを実践していたのかもしれませんね。


加福:右脳型のリーダーになるには、力や数字以外に様々な分野に知見を拡げ、周りの環境の変化に絶えず敏感でなくてはなりませんね。


山田:私たち茶人は茶道以外にも広く通じていなくてはいけません。茶道の妙技の一つに「取り合わせ」があります。様々な茶道具を取り合わせながら調和を図る。季節のお花と掛け軸を取り合わせる、そして伝統と現代を融和させ取り合わせる。そのうえで、茶会など特に一期一会の場においては、その場その場で求められる役割を「演じる」ことが必要なのです。また山田宋徧としては各地のお弟子さんたちが家元に求められる姿を、演じ続けることも必要だと思っています。


加福:私も経営者としての自分を演じているのかもしれません。自身が日々研鑽を積んで、一緒に働く仲間からリーダーとして求められる自分でありたい。そして取引先からも信頼されるために、広く様々な知識を身に付けたいと思っています。一日中、そんな経営者を演じているせいか、家に帰ると疲れがどっと出て、ソファーでグタッとしてしまうんですよ(笑)。
山田:オンオフは必要ですよね。家元は普段から和服で懐石料理を食べていると思われがちですが、先般も家族とディズニーシーに行って楽しんできました。もちろんTシャツにジーンズ姿で、頭にキャラクターの被り物までつけて(笑)。
日本の文化とサステナブル
ー日本では着物、和装など独自のファッション、文化が育ってきました。


加福:着物は作る段階で、残布が出ないように反物を余すところなく使い、古くなっても子供用に仕立て直したり、その後も雑巾、おしめなどにしました。江戸時代から日本では究極のサステナブルが当たり前だったわけですね。


山田:16世紀ころ、欧州では大航海時代の中で、国同士の覇権争いが繰り広げられていましたが、そのころの日本は戦国の動乱期、茶の湯から茶道などの文化が育ってきた時代でもありました。特にわび茶の世界では、もともと禅から派生している「事足りぬをよしとする」という考え方があり、引き算の美学が生まれました。茶道では当時からお湯を沸かす火に、くぬぎ炭を使用していますが、これは里山の再生にも役立つ地球環境にやさしい方法なのです。


加福:近年、サステナビリティの考え方は欧米が主導しているように思われます。今こそ私たちは、古くから日本で継承されてきたものの見方や考え方に再度向き合い、日本の文化をリスペクトすることが大切なのかもしれません。そのように、人々の意識や考え方が変わらなければなりませんね。


山田:私は昔からヨウジヤマモトの服が好きです。このブランドの服のバサッと羽織る感じが、着物や袴の裾の動きに似ていて、本当に美しいと思います。ある意味、どこか日本の文化や伝統を感じるスタイルでもあり、世界が認める日本らしさが表現されている感じがします。


加福:私も、日本発信のグローバルなラグジュアリーブランドが少ないと思っています。茶道以外にも、日本が誇る様々な文化、職人の技術、古くから継承してきた伝統工芸など、世界に誇るべき要素はたくさんあるような気がします。


山田:日本の伝統工芸は、茶器を目的としてその時代時代で発展を続けてきたという側面もあります。茶器がある程度の資産価値をもち、人々が競って保有したこともありました。しかし現代の資本主義では新しい器に美術品としての価値を見出せずに、結果として廃棄される職人さんたちも多く、日本の工芸品の将来を憂いております。
持続可能な未来に向け、企業に求められる「社会問題解決」の意識
ー地球温暖化など様々な環境問題が取りざたされています。


山田:鎌倉にある私どもの庭では、例年秋に咲くはずの萩の花が5月に見られるようになりましたし、近所の葉山海岸では熱帯魚が泳いでいると聞きます。子供のころよく遊んだ田んぼや畑もいつの間にか宅地化され、その影響かどうかわかりませんが気温も数度上昇したと聞きます。間違いなく温暖化の影響を実生活の中で感じますね。


加福:今日は涼しげなお着物をお召しになっていますが、ファッション業界では間違いなく長い夏と短い冬の二極化が常態化しており、春と秋が極端に短くなりました。これは日本だけにとどまらずに世界的な傾向であるようで、地球温暖化は業界はもとより一人ひとりが生活の中で心に留める必要があります。
ー持続可能な未来に向けて、お二人が懸念とされていることは何ですか?


山田:私たちの時代には当たり前だった、先輩が後輩の面倒を見るという文化が薄れてきているように思います。以前は親や祖父母、仕事の先輩や近所の方からも学んだことが多くありましたが、古くから日本にあった「人情」が減り、現在では他人にあまり関わらない個人主義が広まったように感じます。経営者や権限を持つ人、そして社会的に地位の高い人には、相応の義務が生じることがリーダーとして当たり前でした。伝統のある茶道宋徧流の11代の家元として出来ることが限られているなかで、山田家として社会でお役に立てることはないかと思い、「URBAN CABIN INSTITUTE」という団体を主宰しています。ここでは日本をはじめ海外の経済界や老舗企業の後継者に対し茶道を核とした美意識や価値観を伝え、また、次世代のリーダーである子供たちの教養を高める活動をしています。


加福:ファッション業界は環境問題や人権問題など、持続可能な世界を脅かす様々な社会問題を抱えています。この問題に立ち向かう際に、ファッション業界全体が一丸となって行動することは重要なのですが、根底には関わる一人ひとりの心を変えることが大切だと思いました。先ほど右脳リーダーシップの話が出ましたが、従前の資本主義における利益追求型の経営ではなく、私を含めてこれからの経営者は地球環境や人権問題などを広く慮り、社会問題を解決することに企業の存在意義があることを肝に銘じなければなりません。


山田:信長が戦国の世においても能や茶の湯を愛したように、これからのリーダーには創造性や共感など心の余裕を持ち合わせてほしいですね。


加福:お客様のことを考えながら茶会の準備をされること、事足りぬをよしとする考え方、そして信長の能と茶の湯など、茶道からたくさんのヒントをいただきました。今日の学びを生かし、今後も身を引き締めて、ファッション・ビューティー業界のサステナビリティに微力ながら貢献していきたいと思います。
【ワールド・モード・ホールディングスのサステナビリティへの取り組み】
サステナビリティ活動の推進体制
ワールド・モード・ホールディングスは、ファッション・ビューティー業界を専門に多角的でグローバルな事業を展開するとともに、業界の活性化と発展を支える活動に取り組んでいます。
2020年、すべてのステークホルダーとともに持続可能な未来の社会を実現することを目指し、代表取締役の加福真介を委員長としてサステナビリティ委員会を設置。さらに、株式会社iDAの代表取締役として多くの方々のキャリアを支えるとともに、グループの取締役・サステナビリティ管掌役員を務めてきた堀井謙一郎が副委員長に着任し、人の心に向き合ったサステナビリティ・トランスフォーメーションの推進に向け体制を整えました。


■サステナビリティ委員会が中心的に活動を推進
委員会は事業会社、部署、職種、拠点、社歴の枠を超え、執行役員クラスを含む様々な社員で構成。現状の外部不経済の改善活動に加え、サステナビリティウィーク、人権週間など社員全員が取り組める企画の実施や社内外に向けた情報発信を中心とする活動を推進しています。業界や事業を取り巻くサステナビリティ課題を継続的に学び、現状分析による課題抽出や改善施策の検討など年間を通して積極的に取り組んでいます。
■施策実施へのプロセス
委員会で決定した施策は各事業会社や業務執行部門と連携して実行し、グループ経営への定期的な報告および提言を行います。そして経営会議および取締役会はサステナビリティ委員会の管理監督を担い、委員会より気候関連課題や人権問題に対する現状と対策、施策実施の成果の報告を受けて意思決定を行います。各事業会社・業務執行部門は自部門における実行機能として、メンバーとともに各施策を行動に移します。
■有識者の参画
ファッション業界のサステナビリティに幅広い知見を有する有識者に参画いただき、議論の質を高めています。業界のサステナビリティに精通し、グループの活動を中心的にリードしていただいている早稲田大学非常勤講師 山内秀樹氏に加え、WWDJAPANサステナビリティ・ディレクター 向千鶴氏にグループの思いに共感いただき、参画いただけることとなりました。業界を横断する取り組みをより強力に推進していきます。
ワールド・モード・ホールディングスが取り組む4つのマテリアリティ
多くの社会問題が存在し、変化が激しい外部環境下において、世界中の人や企業とともに持続的に発展するためには、中長期的な広い視野を持ち、サステナビリティをグループ経営の根幹に据えて、活動に落としこむことが不可欠と考えています。そこで今年度、自社の経営における4つのマテリアリティ(重要課題) を特定。各マテリアリティ領域にて「社会への提供価値」を定義し、事業活動を通じて持続的でより良い社会を創るために積極的な活動を行ってまいります。


ワールド・モード・ホールディングスはこれからも、ファッション・ビューティー業界のよりサステナブルな環境への変革と持続的な発展に貢献すべく、努めてまいります。



ぜひご覧ください。
【ワールド・モード・ホールディングスについて】
ファッション・ビューティー業界を専門に人材やデジタルマーケティング、店舗代行など様々なソリューションを提供するグループ。iDA、BRUSH、AIAD、AIAD LAB、フォーアンビション、VISUAL MERCHANDISING STUDIO、双葉通信社 の 7 社の国内事業会社および シンガポール、オーストラリア、台湾、ベトナム、マレーシアの5カ国に海外拠点を持ち、専門性の高い各社のシナジーによって、お客様の課題に応じた実効性の高いソリューションを提供しています。

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