騙される覚悟はある?『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』

2024.11.12 07:00
慌ただしい日常から一瞬で別世界へと誘ってくれる映画。毎月たくさんの作品が世に送り出される中で、BRUDERの読者にぜひ観てほしい良作を映画ライターの圷 滋夫(あくつしげお)さんに選んでいただきました。『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』/ 11月22日公開
今、巷ではインディーズ映画『侍タイムスリッパー』が話題を呼んでいます。8月17日に都内1館の公開館数から始まって、その後口コミで面白さがじわじわと広がり、上映館数は300館以上に増え、興行収入は11月12日時点で6億円を超えました。先日発表された今年の流行語大賞の候補にも選ばれ、 “第2のカメ止め”とも称されています。「カメ止め」とは、2018年に社会現象となったインディーズ映画『カメラを止めるな!』のことです。都内2館の上映から最終的に全国350館まで拡大し、220万人を動員、興行収入31億円の大ヒットを記録し、後にフランスで『キャメラを止めるな!』(2022)としてリメイクされています。当時は様々なテレビ番組で取り上げられ、監督の上田慎一郎や俳優陣がゲスト出演していたので、まだ記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。その上田慎一郎監督の新作が『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』です。
主演は映画、テレビ、舞台と様々なフィールドで、ジャンルを問わず日本のエンターテインメント界を支える内野聖陽と岡田将生。内野は心優しいけど地味で冴えない真面目な税務署員の熊沢を、岡田は徹底的に調べ上げたターゲットを軽やかに騙す天才詐欺師の氷室を演じます。本来ならば決して交わることのない二人がコンビを組み、公権力にまで影響力を持ち、脱税王と呼ばれる巨大企業社長に狙いを定めた、禁断のコンゲームの幕が開きます。
共演は脱税王に小澤征悦、その秘書に神野三鈴、詐欺チームの仲間に真矢みきと森川葵、熊沢の同僚に川栄李奈、二人の上司に吹越満、熊沢の親友の刑事に皆川猿時と、実力派の人気俳優が集結。全く噛み合わない主演の凸凹コンビが、笑いと哀愁を醸し出しているのはさすがとしか言いようがないのですが、個人的には他作品でいつも笑いを求められる皆川猿時が、本作では笑いを封印した自然な演技で、感動さえ引き出しているのが印象的でした。脇役が最高の働きをするのは、傑作映画の条件の一つでしょう。
物語は冒頭から氷室の鮮やかな詐欺によって熊沢がやり込められ、真面目な公務員が口八丁の詐欺師と組んで、犯罪に手を染める決断をするまでがテンポ良く描かれ、その後の展開に期待が膨らみます。そして実際、多少現実離れした点はありますが、エンターテインメント作品としては完璧な脚本です。なぜ氷室が脱税王を標的にし、熊沢に目をつけたのか。その謎と氷室が胸に秘めた想いも少しずつ明かされます。序盤で登場するいくつかのアイテムや印象的な会話が伏線となって、後でスッキリ回収されるのも痛快です。観客にどこまで情報を見せるか、見せないか。見せることで状況の変化を伝え計画遂行のスリルと緊張感が増すこともあれば、見せずに隠すことでアッと驚くどんでん返しにつながることもあり、その辺りの情報の抜き差しのバランスが実に見事です。
『カメラを止めるな!』で注目を集めた上田監督はそれ以降もヒット作を期待されていましたが、どこかインディーズ色が抜けずに、こじんまりとした作品が続いていました。しかし本作ではそれを上手く回避して、遂にブレイクスルーに成功しています。豪華キャストの出演がメジャー感につながったのは確かでしょう。さらにこれまでは自身がオリジナル脚本を単独で書いていたところ、本作は2018年に放送された韓国の連続テレビドラマ『元カレは天才詐欺師~38師機動隊~』が原作になっているのと、共同脚本家としてテレビドラマ『相棒』や『京都地検の女』、『科捜研の女』シリーズなど、主に犯罪モノの作品を手掛けるベテランの岩下悠子が加わったことも、新境地の大きな要因の一つと言えるでしょう。
演出面でも、日本映画にありがちなイメージとは一線を画しています。例えば氷室の真意が明かされる場面では、彼の揺れる想いや切なさを、ベタで湿っぽくなりそうな演出を巧みに避けながら、あくまでもクールでスタイリッシュに表現しています。その結果、どのようにミッションをコンプリートするのか?という物語の本筋を、スリルとサスペンスを畳み掛けながらテンポ良く描き切り、日本映画よりも『スティング』(1973)や『オーシャンズ11』(2001)など、ハリウッド映画の犯罪モノの系譜に位置付けることに成功しているのではないでしょうか。
あなたもぜひ劇場に足を運んで、何度も訪れるどんでん返しに気持ち良く騙されながら、このゲームの行方を見届けてみませんか?

『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』https://angrysquad.jp/


圷 滋夫(あくつ・しげお)/映画・音楽ライター
映画配給会社に20年以上勤務して宣伝を担当。その後フリーランスになり主に映画と音楽のライターとして活動。鑑賞マニアで映画とライブの他に、演劇や落語、現代美術、コンテンポラリーダンス、サッカーなどにも通じている。
Edit : Yu Sakamoto

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