切断したはずなのに、足のあった場所が痛む……世にも奇妙な〈幻肢痛〉を経験したキュレーター・青木彬による新刊『幻肢痛日記』が、10月25日発売!

2024.10.28 16:00
河出書房新社
少しユニークな障害受容の話として、はたまた人が持つ創造力を考えさせる本として――読み手の感覚や価値観があやしく揺れ動く、克明かつ刺激的な記録
株式会社河出書房新社(東京都新宿区/代表取締役 小野寺優)は、様々なアートプロジェクトの企画運営に携わるインディペンデント・キュレーター青木彬さんが自身の「幻肢痛(げんしつう)」体験を克明につづった新刊『幻肢痛日記 無くなった右足と不確かさを生きる』を2024年10月25日に刊行いたしました。

■『幻肢痛日記』のこと
幻肢痛(げんしつう)
手腕や足の切断後に失ったはずの手足が存在(幻肢)するように感じられ、その幻肢が痛いという不思議な現象。脳に存在する身体(手足)の地図が書き換わってしまうことが要因ともいわれるが、明らかになっていない。手や足を失った人の約50~80%で幻肢痛が生じるとも言われる。
(『幻肢痛日記』カバー袖より)

12歳で患った骨肉腫により、人工関節が入っていた青木さんの右足は、30歳の時、感染症の罹患を機に太腿部から下を切断することになりました。

人工関節ゆえに曲がらなかった脚、感染症のリスク回避などから、切断は前向きな選択でしたが、噂に聞いていた不思議な現象〈幻肢痛〉を、身をもって体験することになります。
『幻肢痛日記』P36~P37より

病室のベッドで初めて幻肢痛を感じた時、青木さんにはそれが「ここに右足があったんだよ」という声に聞こえました。

「無いものの存在」に耳を傾けること。
「不確かさ」を肯定すること。

それは、社会の中で抑圧されるマイノリティや、不安に苛まれる人の声と向き合うこと、目に見えないものへの想像の限界を押し広げていくことにも繋がるのではないか……。そんな思いを書き留めるため、インターネット上で日記を書き続けました。

初めて昼間の電車に乗った時のこと。
始発電車の優先席に座って数駅を過ぎると車内が徐々に混み合ってきて、目の前に一人の女性が立った。
その瞬間とっさに、「右足がぶつかる!」という緊張感で全身がビクッとした。
僕の現在の幻肢はだいたいまっすぐに伸びており、椅子に座った状態だと足が前方へ投げ出されている。(中略)
今は左足を直角に曲げて深く座り前に飛び出した右足も無いはずなのに、目の前に立った女性に幻肢がぶつかってしまった。
ぶつかったというか、女性の身体に幻肢がめり込んでる。
(『幻肢痛日記』P58~P59より)

本書は、ある日を境に片足を失った男性による、世にも奇妙な〈幻肢痛〉を観察した4年間の克明な記録です。

闘病記や当事者研究の書という範疇を超えて、自身の痛みを起点に、視界の外に広がる世界を見渡し、思索を巡らせる、みずみずしくも刺激的な唯一無二の一冊をぜひご堪能ください。
『幻肢痛日記』表紙(撮影:高見知香)


■『幻肢痛日記』へ寄せられた推薦コメント
義足は足なのか?  幻肢痛は痛みなのか?
「幻肢痛を使って義足を乗りこなす」ってどういうこと…?
「ない」と「ある」の間には、いまだ名付けられぬ荒野が広がっている。
“幻”と“現”が交錯するそんな幽冥の地を、彼は嬉々として探検する。
その足跡を辿っていくと、私たちもすでに「ない」と「ある」のグラデーションの上にいることに気づいてしまう。それは端的に気持ちいい。
――白石正明(医学書院「ケアをひらく」編集者)


■『幻肢痛日記』刊行記念イベント開催決定!
11月11日「介護の日」にちなみ、東京・下北沢のBONUS TRACKでは「ケアリングノーベンバー」と題し、11月9日から11月30日まで“ケア”に関する様々なイベントを開催。その一環として、本屋B&Bにて本書の刊行記念イベントを行います。
ぜひ奮ってご参加ください。

○『幻肢痛日記』刊行記念 青木彬×白石正明「無くなった右足から考えたケアとアートのこと」
日時:2024年11月18日(月)19:30~21:30 (19:00開場)
会場:本屋B&B(世田谷区代田2-36-15 BONUS TRACK 2F)+オンライン配信
イベント詳細URL:
■本書目次
・はじめに
第1章 幻肢痛の当事者研究
右足を切断しました/無いもののあり方/幻肢痛の当事者研究 一/リアルとファントム/
幻肢痛の当事者研究 二
第2章 幻肢という「不確かさ」
幻肢は宇宙でも足のイメージを保つのか?/幻肢という「不確かさ」/「痛み」の決め方/
切断は欠損ではなかった/目の前の人に幻肢がぶつかる/あの本の中の幻影肢
第3章 踊り出す義足
義足は乗り物/義足が知りたい/踊り出すような義足を/存在の背景/幻肢 on 義足/存在の空白/
パンツとダンタンブクロ/幻肢はわからないからいい/感染症のこと/仮義足の完成と幻肢の常態化
第4章 身体が無くなる可能性
新しい移動と”できなさ”について/戦略的なあいまいさ/静かな山は聞こえない音に溢れていた/
義足の相棒感/普通、足は持たない/「セルフ」を取り巻く技術/身体が無くなる可能性/
アートとか医療とかっていうか、美味しい鍋作りみたいな価値
第5章 わからないものをわからないまま
キカイダーありがとう/幻肢性と飛躍/義足の価値はどこにあるのか?/
わからないことをわからないまま/それはそれ、これはこれ。/語ることにつまずきながら/
土から生まれて、身体を通って生えてくる義足/「無いものの存在」を巡って
・おわりに

■著者紹介
青木 彬(あおき・あきら)
インディペンデント・キュレーター。 一般社団法人「藝と」ディレクター。1989年、東京都生まれ。京都市在住。首都大学東京(現・東京都立大) インダストリアルアートコース卒業。アートを「よりよく生きるための術」 と捉え、アーティストや企業、自治 体と協働して様々なアートプロジェクトを企画している。近年は社会福祉とアートの接点を模索しながら、地域福祉に関する調査や実践を重ねる。これまでの主な活動にまちを学びの場に見立てる「ファンタジア! ファンタジア!─生き方がかたちになったまち─」(墨田区、2018~)ディレクターなどがある。共編著書に『素が出るワークショップ:人とまちへの視点を変える22のメソッド』(学芸出版)がある。
■書誌情報
書名:幻肢痛日記
著者:青木彬
仕様:四六判/並製/200ページ
発売日:2024年10月25日
税込定価:2,090円(本体1,900円)
ISBN:978-4-309-23162-4
装丁:マツダオフィス
書誌URL:

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