この記事をまとめると
■アメリカでもっとも売れている乗用車はトヨタ・カムリだがもっとも販売台数が多いのはフォードFシリーズだ
■アメリカでは乗用車とトラック・SUVは別で販売台数が数えられる
■いまアメリカではBYDの動向に注目が集まっている
ハリアーをトラックに分類したことでランキングが大きく変わった
かつて、初代トヨタ・ハリアー(アメリカでは初代レクサスRX)がデビューしたとき、アメリカではトラックシャシーベースのSUVが幅を利かせており、そのようなSUVは「トラック」にカテゴライズされていた。そのなかで、乗用プラットフォームをベースとしたクロスオーバーSUVとなるハリアーを、セダンやクーペ、ハッチバックのように「パッセンジャーカー(乗用車)」とすべきか、「トラック」として分類するかで悩んだと聞いている。
アメリカでも大きな話題を呼んだ初代ハリアーは、アメリカで数々の賞を受賞したのだが、ある大手自動車情報誌では、それまでにない「SUV of THE YEAR」というものが創設されて受賞したとも聞いている。
そんなアメリカで一番売れている乗用車(パッセンジャーカー)といえばトヨタ・カムリだが、「アメリカで一番売れている新車」となると、フォードFシリーズピックアップトラックが、日本でのホンダN-BOXをしのぐほど、いまもなおトップの座を長きにわたり君臨している。このカラクリは何かといえば、アメリカではパッセンジャーカーとトラック(SUVを含む)のふたつに分類されており、前述したように「乗用車ならカムリ」というようになっているのである。
2023暦年締めでのアメリカの新車販売台数は1561万6878台となっている。そのうちピックアップトラックとSUVの販売台数は880万1284台となり、総販売台数におけるSUVの割合は約56%。地域差はあるものの、南カリフォルニアで見た限りでは、新車に限っていえば圧倒的にSUVが多くなっているといえるだろう(総保有台数で見れば過去にはセダンがよく売れていたのでまだまだセダンも目立つ)。
かつては、乗用車のみではカムリとアコードがアメリカ新車販売トップ争いをしていたが、カムリの2023暦年締めでの新車販売台数をみると、トヨタ車内でもトップのRAV4に14万台ほど差をつけられて2位となっている。
先にも述べたとおり、2023暦年締め年間販売台数トップはフォードのFシリーズピックアップトラックで、これは長い間不動のものとなっている。日本車で最高位となるのは前出のトヨタRAV4が、4位に入っている。上位10車のなかにはRAV4のほかにホンダCR-V、トヨタ・カムリ、日産ローグ(エクストレイル)が入る。
日本以外のアジア系メーカーの動向にも注目が集まっている
これは全米レベルでの集計であり、太平洋に面する西海岸ではその地理的特徴もあり、またアジア系住民も多いことでよりアジア文化に日々接する機会も多いこともあるのか、日本車や韓国車といったアジア系ブランド車がとにかく多い。
さらにそのなかでもカリフォルニア州は、アメリカでも突出してBEV(バッテリー電気自動車)が普及している州で、そのなかでもテスラ社の車両がとにかく街なかに溢れている。他州ではせいぜい感度のいい富裕層が趣味で乗っている程度なのだが、南カリフォルニアでは、いまやカムリやアコードに乗っているような中間所得層あたりが熱心に乗るようになってきている。
筆者がアメリカで利用している大手レンタカー会社で使われる車両は、コロナ禍前はカローラ、カムリ、RAV4など、トヨタ車がとにかく多かった。コロナ禍となり、半導体不足などによる世界的な自動車生産の混乱を経て、トヨタはまだレンタカー会社に積極的に車両提供できるほど生産体制が完全復調していないのか、現状はまだトヨタ車のレンタカーは少ないようだ。
トヨタ車がもともと多い背景には「アメリカでよく売れているブランドなのでより多くの人に馴染みやすい」という理由もあると聞いたことがある。
韓国系ブランドは過去に「景気が悪くなるとよく売れる」といわれていた。日本車よりも購入特典が多く、買い求めやすいのがその理由となっていた。その傾向はいまもなお変わらず、2024年に南カリフォルニアを訪れると、経済の過熱を抑えるために金利を引き締める傾向にあるなか、超低金利オートローンを設定するなどしていた。過去の燃費偽装疑惑などもあり、日本車に比べて再販価値がなかなか高まらないので、月額リース料金も魅力的なものになりにくく、手厚い保証内容で勝負しているのだが、販売台数ではいまだに日本車に大きく引き離されている状況が続いている。
今回、南カリフォルニアで複数の事情通に話を聞くと、中国、とくにBYDにかなり注目していた。すでにメキシコにBYDが工場建設用地を取得したようだとの報道もあり、アメリカへの市場進出も時間の問題と捉えているようなのである。
南カリフォルニアで見た限りでは、BEVでの普及価格帯となるモデルでは韓国系ブランドのBEVやフォード・マスタングマッハE、フォルクスワーゲンID.4などが健闘しているようなのだが、ここにBYDがATTO3あたりを市場投入すれば、あっという間にBYDが普及していく可能性も高いと筆者も考えている。
すでにメキシコ市場には広州汽車などがBEVに限らず積極進出している。メキシコ工場製BYD車でアメリカ市場が席巻されるのではないかとも考えたが、「メキシコに工場建設しても、そこからアメリカ市場には出荷しないのではないか」と現地事情通がポツリとつぶやいた。
アメリカの中国アレルギーは相当なものであり、北米自由貿易協定を結んでいるとはいえ、メキシコ製モデルの投入はイメージが悪すぎる。BYDがアメリカ国内に車両と電池の生産工場を建設し雇用にも貢献すればイメージも少しは和らぐので市場進出しやすいのではないかというのが事情通の思いであった。
ただ、政治的なものも含め、アメリカへの中国企業の進出はかなりナーバスな問題であり、実現までのハードルは現状では高いようにも見える(工場用地取得なども含め)。欧州や東南アジア、そして日本までBYDが進出しているなか、アメリカはいまだに未進出という状況が現地の業界関係者やクルマ好きの間でより気になる存在となっているようである。