この記事をまとめると
■ポップアップルーフを装備した国産車が一時期ブームとなっていたことがあった
■現在でも欧州ではポップアップルーフを装備したクルマが販売されている
■架装業者とのタッグなどで国産車でも再び登場することを期待したい
かつては日本でも流行したポップアップルーフ装備車
1995年にマツダ・ボンゴフレンディが登場した際。まだ若者だった筆者は、テレビCMでその「オートフリートップ」を見て衝撃を受けた。「……これだ。オレが買うべきクルマはこれしかない!」と、当時まだ自家用車を持っていなかった筆者はブラウン管(←死語)に向かって叫んだのだった。
ご承知のとおり、マツダ・ボンゴフレンディが採用したオートフリートップとは、要するにポップアップルーフというやつで、つまりは「クルマの屋根に取り付けられるテント」である。運転中や駐車中はテント(ポップアップルーフ)を収納してコンパクトな状態にしておくが、キャンプ場などの屋外で“自然”を感じながら休みたいとき、おもむろにポップアップルーフを展開するのだ。
そして、テレビCMで初めて見たボンゴフレンディのオートフリートップなる電動ポップアップルーフは、男子の永遠の憧れである「ツリーハウス」を私に連想させた。それゆえ、とくにキャンプをする予定もないくせに「……オレが買うべきクルマはこれしかない!」と叫んでしまったわけだ。
その後は、1996年にスバルからサンバーディアスをベースとする「スバル・ドミンゴ アラジン」なる純正ポップアップルーフ車が登場。
そして同じく、1996年にはホンダからも「オデッセイ フィールドデッキ」という、初代オデッセイにポップアップルーフを純正装着したモデルが登場。さらに1998年、またもやホンダは初代ステップワゴンにポップアップルーフを取り付けた「ステップワゴン フィールドデッキ」を発売した。
ステップワゴン フィールドデッキの登場により、日本の純正ポップアップルーフ車は隆盛をきわめた——かにも見えたが、その後にブームは失速。各メーカーはポップアップルーフ車をラインアップしないようになり、現在ではさまざまなキャンピングカー専門業者が独自に改造した「非純正のポップアップルーフ車」が、それなりに流行っているのみという状況だ。
現在でも欧州メーカーはポップアップルーフ車を用意している
しかし、日本では自動車メーカー自身が作ることはなくなってしまったポップアップルーフ車だが、海の向こうでは相変わらず「自動車メーカー謹製のポップアップルーフ車」が作り続けられている。
有名なところでは、2020年にメルセデス・ベンツから「V220 d マルコポーロ ホライゾン」が登場し、これは日本へも正規輸入された(高かったが……)。また、日本への正規輸入はされていないが、2019年にT6からフェイスリフトされて誕生したフォルクスワーゲンのトランスポーター「フォルクスワーゲン T6.1」には、電動ポップアップルーフ装着車が何種類もラインアップされている。
そして、ポップアップルーフ車を作り続けているのはメルセデス・ベンツとフォルクスワーゲンだけではない。欧州フォードも、そして意外なところではフランスのシトロエンも、本国ではポップアップルーフ車をラインアップしているのだ。
欧州フォードが2022年にリリースしたのは「フォード・トランジット ナゲット」。フォード・トランジットは日本ではなじみのないモデルだが、本国では1953年から長らく作りつづけられている商用バン。そんなトランジットの現行型(8代目)を、欧州フォードがドイツのキャンピングカーおよびバン改装業界の超老舗であるウエストファリア社と提携して作りあげたのが「フォード・トランジット カスタム ナゲット」だ。
2022年に登場したナゲットは、その後も進化を続けており、今年8月にはドイツで開催された「キャラバンサロン2024」にて新仕様も発表。新しいナゲットはキャンプに関するさまざまな機能や装備が当然ながら拡張されており、パワーユニットも最高出力170馬力のEcoBlueエンジンのほか、2.5リッターのガソリンエンジンに11.8kWhのバッテリーとモーターを組み合わせたプラグインハイブリッド車も選択可能になったとのこと。
日本の自動車メーカーはポップアップルーフ車作りをとっくの昔にやめてしまったが、海の向こうの欧州では相変わらずお盛んなようだ。
そしてバカンス大国(?)であるフランスではシトロエンが、2024年1月に「シトロエン・ホリデイズ」というポップアップルーフ車を発表した。
今回発表された「ホリデイズ」は、シトロエンが2016年から欧州で販売しているミニバン「スペースツアラー」をベースに改造を施したキャンピングカー。ちなみにスペースツアラーは、シトロエンが属するステランティスグループとトヨタが共同開発したモデルで、トヨタ版は欧州で「トヨタ・プロエース」として販売されている。
で、そんなこんなのシトロエン・ホリデイズはスペースツアラーをベースとするキャンピングカーで、最大4つの就寝スペースとキッチン、回転式フロントシート、そしてポップアップルーフなどを備えている。こちらも、欧州フォードがウエストファリアと提携したのと同様に、シトロエン自身がキャンパー部分を設計したわけではない。その部分の開発協力と架装は、スロベニアのスペシャリストであるBravia Mobil社が担当している。
これらのような純正ポップアップルーフ車を、いまさら日本の自動車メーカーが大々的に作って販売することはまずないだろう。だが、超少量生産の特別仕様として、ホンダあたりがどこかの架装会社とタッグを組んで「ステップワゴンAIR ポップアップルーフ」を作ったり、寝られるほどのスペースはないかもしれないが、ちびっこがツリーハウス的に使うことができる「N-BOX POP UP!」などを限定発売すれば、世の中はちょっと面白くなると思うのだが——まぁ無理か……。