イラストレーター・グラフィックデザイナーとして活動するジェリー鵜飼さんは、東京と山梨の二拠点で仕事とアウトドアアクティビティ、そして家族との時間を過ごしています。最近特にハマっているのは趣味のフライフィッシングやトレイルランニング。山に入るためにも仕事を今週中に仕上げるぞ、とメリハリをつけているそうです。そんなジェリーさんの暮らしやアウトドアアクティビティについて聞きました。
アウトドアブランドを含む、Tシャツのグラフィック提供やCDジャケットのデザイン制作のほか、最近では個展にも力を入れているというジェリーさん。現在は東京と山梨県の二拠点で活動しています。週末は山梨県の最北端に位置する北杜市に構えたアトリエに奥さんと娘さん、そして愛犬を含めた家族で訪れているそうです。
二拠点生活についてジェリーさんは「30歳代の後半くらいの時に、山小屋をたくさん紹介している海外のWebサイトを閲覧して、キャビンやロッジを見ているうちに興味がどんどん湧いてきて。日本のいわゆる別荘とはまた違って、どちらかと言うと山の中に建っているちっちゃな山小屋を以前から欲しいなあとは思っていたんです。家族にプレゼンテーションして説得して、ようやく見つけることができました。やっぱり山も川も近いし良いことしかないです。仕事に集中したい時は愛犬を連れて自分1人で1週間〜2週間くらい籠ることもあります。絵を描きつつ川で釣りしたり、山に登ったり。そういった暮らしをしています」と嬉しそうに説明してくれました。
これまでにも登山で頻繁に訪れていた北杜市のエリアであれば土地勘もあり、東京の自宅からも車で2時間圏内ということから、山梨県の北杜市を選んだそうです。二拠点生活を始めてからおよそ4年が経ち、家族を含め人生が良い方に転がり出した感覚だと言います。
「”幸せ”について考えてみたときに、都会に住んでいるといろんなものを買って、自分の暮らしを彩っていかないと幸せになれないみたいな風潮が少なからずあると思うんです。でも山の中にいると、買い物をする場所も少ないから、散歩したり、季節ごとに美味しい野菜を家族で食べたりとか、シンプルになっていって、それを幸せだって感じられるようになりました。それは僕が年を重ねてきたからっていうのも大きくて、若い時は多感で都会じゃないとダメだったんですけど、今はもうそうじゃないっていうのが、最近になってわかってきました」
都会の喧騒から離れ、フライフィッシングやトレイルランニング、そして登山といったアクティビティを楽しんでいるジェリーさん。いずれも「散歩の延長」にあると言います。
「もともと散歩が大好きなんです。山の中は気持ちが良いし、景色が良ければテンション上がります。フライフィッシングでもポイントを1箇所に絞るのではなく、釣り上がりながら、移り変わる景色も含めて楽しんでいます」
その中でもジェリーさんがフライフィッシングにハマったきっかけは友人だったそうです。
「友だちがフライフィッシングをやっていて、彼のキャスティングがすごく美しくて惚れちゃったんですよね。僕はテンカラで、テンカラの良さもあるんですけど、一度もフライフィッシングをやったことがなかったんですけど、その時の空間や川の光景すべてが素敵でした。『僕もフライフィッシングを練習したら、彼らと一緒に遊び続けられるのかな』と思って、練習して仲間に入れてもらおうと思ったのがきっかけです」
▲フライフィッシングとテンカラはともに毛鉤(擬似餌)を使うという点では同じスタイル。テンカラでは毛鉤を飛ばす距離が数メートルと限られる一方、フライフィッシングはラインと呼ばれる糸の重さを利用して少しずつ飛距離を伸ばすことができます。飛ばす動作のことをキャスティングと呼びます
すっかりフライフィッシングの虜となったジェリーさんは、その魅力について次のように語ります。
「やっぱり一番の魅力は、魚を騙すってことです。昆虫を模した毛鉤を使って、うまく騙せるかどうか。自分で巻いた毛鉤で魚と対峙できたら、なおさら楽しいです。もしそれが釣果に結びつかなくても、毛鉤を綺麗に巻くことができればそれだけで嬉しい。うまくキャスティングできるかどうかも醍醐味のひとつです。釣果に全く関係ないのに、カッコつけたいんですよね。僕にとってフライフィッシングっていうのは、魚が釣れることも大事かもしれないけど、やっぱりスタイルそのものがカッコイイ釣りだと思ってるので、カッコよくありたいんです」
今回の取材ではジェリーさんの釣りにも同行。めずらしい魚に出会うことができました。
「釣れたのはヤマトイワナ(※)です。色合いがとても綺麗だったし、大満足です」
▲※ヤマトイワナはサケ科のイワナ属。体に大きな有色斑を持つ。絶滅危惧種に指定されています
ジェリーさんはフライフィッシングのほかにもトレイルランニングや登山を通じて自然と触れ合っているそうです。
「トレランをやっている友だちを見ていると、いつもニコニコしているんです。体の健康だけでなく、心も豊かになるのか!という印象を持ちました。アウトドアの遊びをあと10年、20年と続けていくためにも健康でありたい。もともと登山は大好きだったので、山の中を走るのって気持ちよさそうだし、これはやらないともったいないなと思ったんです。ただ、体力がないので上りは基本歩きです。下りも怖いから歩き。フラットなところだけ走っています(笑)」
南アルプスや八ヶ岳連峰が広がる山梨県は登山にも絶好のエリア。ジェリーさんも例外なく、山の美しい景色に魅了されています。
「毎年必ず八ヶ岳の稜線に行っていますし、時間があればテント泊もします。冬山も、北アルプスに行きました。山の中で過ごして寝るのが楽しいんです。先ほども触れましたが登山に関しても散歩の延長で、山ってとにかく景色が綺麗だし、かっこいい。稜線に出ると登ってきた山々がどう繋がっているのかとか、さらに向こうにも山が見えてくる。その日は帰らないといけないとしても、もし休みがあと3日間続けば、あの山の先まで行けるんだよなぁって思うと、それってすごくロマンがあるし、そういうことを考えるだけでもワクワクが止まらなくなる。僕にとって山にはそういった魅力があります」
ジェリーさんは大学卒業後、イラストレーターとしての活動をスタートします。
「子どものころからずっと絵を描くのが大好きでした。性格はちょっとだらしないところも多くて、会社員になったらいろんな人に迷惑をかけちゃうなと思って。自分1人でイラストレーターになれば、迷惑をかけてしまう人数も少ないからこれだなって(笑)。もう若い時から決めてました」
アウトドアアクティビティが仕事に良い影響を与えることもあると言います。
「僕の場合は山を登っている時のインスピレーションで描いたり、アイデアがわーっと浮かんでくるわけではないんですが、山や川、植物も大好きなので、イラストに使う色とかには少なからず影響していると思います。振り返ってみると、小学生の時は学校が大嫌いだったんです。でも学校の帰り道は大好きで、友だちと寄り道して昆虫を捕まえに行ったり、秘密基地を作ったりしていた原体験があるので、今も自然の中で遊んでいるのはその延長なんだと思います。あとは単純に、今週末絶対に山へ行きたいから、今受けている案件は仕上げるぞっていうモチベーションにはなっています(笑)」
ジェリーさんは取材の最後に、アウトドアアクティビティがある暮らしについて次のように話してくれました。
「仕事が暇になると、当然お金は減りますがその分自由な時間は増えると思うんです。バランスをみながら仕事を受けて、できた時間で山や釣りに行きたいです。本当は、毎日行きたいくらい(笑)。
年齢を重ねるごとに、行ける場所は限られてくるかもしれない。だとしても、その分心は育っていて、行ける範囲で満足できる釣りや登山ができたりする。低山を歩いていると、おじいさんやおばあさんを見かけることがあって、『ああ、いいなぁ、羨ましいなぁ』って思うんです。
必ずしも北アルプスに行かなくても、その時々できっと楽しめる。僕自身がフライフィッシングやトレイルランニングを始めたきっかけは友だちですが、カッコイイっていうのは、本やネットの情報、自分の周りから教わったり見たことをそのままやるんじゃなくて、自分のスタイルを持っていて、自分が本当に良いと気がついたことを一生懸命やる人。そんな風に思います」
PROFILE
イラストレーター / ジェリー鵜飼(うかい)
1971年生まれ。イラストレーター・アートディレクターとして活動中。数々のCDジャケットやファッションブランド、アウトドアブランドのロゴ、広告、カタログ類を手掛ける。また最近は執筆活動も積極的に行う。ウルトラヘビーのメンバーとしてアート活動も意欲的に行う。
Text:Nobuo Yoshioka
Photo:Masato Igarashi,Hiroto Miyazaki,Hisato Michigami