この記事をまとめると
■点滅が遅すぎたり早すぎたりするウインカーは車検にとおらないだけでなく違反となる
■ウインカーの点滅間隔は注意を引くのにちょうどいい間隔として選ばれた
■1980年代あたりはわざとウインカーの点滅間隔を早めるカスタムが流行した
ウインカーの点滅間隔は明確に規定されている
仕事帰りなどで夜間に運転しているときに信号待ちで少しぼーっとしていると、何かの点滅に気が奪われてハッとするときがあります。意識をそちらに向けるとほかのクルマのウインカーの光が点滅していて、ウインカーの点滅というのは意外と強く気を引くのだということに気付かされます。みなさんもそんな経験はないでしょうか?
そしてウインカーといえば、信号待ちや右左折のときに普段は何とはなしに見ているだけですが、ウインカーの点滅スピードが極端に遅かったり早かったりすると、なんだか気になってしまうことはないでしょうか。
そのときにふと、「あれって保安基準に違反してないのかな?」と思うこともあるでしょう。ここではそんなウインカーの点滅間隔について、少し掘り下げてみたいと思います。
■早すぎる点滅のウインカーが違反かどうかについて
先にいってしまうと、遅すぎたり早すぎたりするウインカーは保安基準から外れるため、車検にとおりませんし、違反の扱いとなってしまいます。
以下にウインカーに関する保安基準を紹介します。
【ウインカーに関する保安基準】※原文ではありません
<取り付け位置に関する項目> ・左右照明部の最内縁内の間隔は600mm以上あること ・照明部の最外縁は自動車の最外縁から400mm以内に収めること ・方向指示器は車両中心面に対して対称の位置に取り付けること ・方向指示器はその照明部の上縁の高さが地上2.1m以下、下縁の高さが地上0.35m以上となるように取り付けること
<色に関して> 橙色(オレンジ色)に限る
<明るさについて> 15W~60Wの範囲であること
<照明部の面積> 20平方センチメートル以上であること
<点滅回数> 毎分60回以上120回以下の一定の周期で点滅すること
<視認できる距離> 昼間において100m先から点灯を確認できること
<その他> 灯器が損傷、又はレンズ面が著しく汚損していないこと
と、このように、取り付け位置や明るさ、面積のほかに、ここで取り上げる点滅間隔についても決まりが設けられています。そのため、この範囲を外れて点滅が早かったり遅かったりするものは車検にとおりません。基準が数字で定められていますので、測定されてハッキリと範囲外の判定を受けてしまいます。
ちなみにこの点滅間隔の規定は、いま流行のシーケンシャルウインカー(流れるウインカー)にも適用されます。車体の内側から点灯が始まり、すべて点灯した状態からすべて消灯され、次に点灯が始まるまでをワンサイクルとして、その間隔が規定の範囲に収まっていなければなりません。
1980年代の走り屋たちに突如として流行ったハイフラッシャー
■ウインカーの点滅間隔の根拠は?
ウインカーの点滅間隔が「毎分60回以上120回以下」と定められていることは分かりましたが、ではなぜその間隔に決められたのでしょうか?
これは保安基準に明記されているわけではなく諸説でしかありませんが、人間の心拍数に関係しているようです。保安基準では60〜120回と範囲を定めていますが、実際の市販車で採用されているのは70〜90回が中心となるようです。
この間隔、勘のいい人は数値を見てすぐにピンと来たかもしれませんが、人間が少し緊張したときの心拍数に近いんです。
ウインカーは右左折や進路変更時に周囲の車両に注意を促すことが主な役割です。そのときに、注意を引くのにちょうど良い点滅間隔として、この数値が選ばれたというのが有力な説となっています。
■なぜ早いウインカーがあるのか?
ウインカーが点滅するのは、「ウインカーリレー」という、自動で一定の間隔で通電をON/OFFするスイッチ回路を備えた装置によるものです。ウインカーのシステム全体がメーカー純正の状態であれば、めったなことでは保安基準の規定から外れてしまうことはありません。
しかし、たとえばウインカーの電球が1カ所球切れを起こしてしまうと、回路全体の抵抗値が低くなり、ウインカーリレーを通る電流が大きくなるためスイッチングの間隔が早くなってしまうことがあります。この現象は白熱電球を前提に設計されたシステム特有のもので、いまのLED電球を使ったシステムではほぼ起こりません。これは電球の違いではなく、リレーがアナログな接点式から電子式になったためです。
ちなみに、白熱電球で設計されたシステムで、DIYで社外のLED電球に交換するのが一時期流行りましたが、これも抵抗値が元より低くなって点滅が速くなってしまうという現象がよく起こっていました。
また、1980年代あたりには、上記のように意図せずウインカーの点滅が早まってしまうのではなく、わざと点滅を速くするのが流行った時期がありました。どこが始めたかについては定かではありませんが、当時の「走り屋」と呼ばれた公道レーサーたちの間で流行し、次第にほかのクルマ好きの間にも浸透していったという経緯でした。
初期の頃はウインカーリレーをワット数の多い車両のものに交換するという手法で点滅を早めていましたが、流行の兆しが見え出したころには専用の社外リレーが登場します。巷では「ハイフラッシャー」を縮めて「ハイフラ」と呼ばれていました。
なぜ走り屋たちが早い点滅を好んだかという点については諸説ありますが、一般のクルマを避けながら車線変更を頻繁に行うような走り方をするときには、規定通りの点滅では間に合わないことから、点滅を早めたのではないかという説が有力です。ピーク時は走り屋の過半数がハイフラを導入していた印象でしたが、改造の取り締まり強化の荒波を乗り切れず、いつの間にか姿を消してしまいました。
いまではちょっとヤンチャなクルマ乗りでも、流行ってもいないことでリスクを冒すようなことはしない風潮なので、当時のスタイルにこだわりを強く持っている人でない限り、規定を明らかに外れるような早い間隔のウインカーにすることはないでしょう。
当時を知るものとしては少し寂しい気もちもありますが、もはや絶滅危惧種に指定されている状態ですね。もし街なかで見掛けたら、温かい目で見送ろうと思います。