現代パレスチナ文学の旗手、アダニーヤ・シブリー。国際ブッカー賞候補にもなった傑作中篇小説『とるに足りない細部』日本語訳が8月26日ついに発売! 帯に村田沙耶香と西加奈子による推薦の言葉を掲載。

2024.08.26 12:00
河出書房新社
1949年8月、「ナクバ(大災厄)」渦中のパレスチナ/イスラエルで起きたレイプ殺人と、現代でその痕跡を辿るパレスチナ人女性。二つの時代における極限状況下の〈日常〉を抉る。刊行に際し著者エッセーを公開。
アダニーヤ・シブリー『とるに足りない細部』 河出書房新社

株式会社河出書房新社(東京都新宿区/代表取締役 小野寺優)は、アダニーヤ・シブリーの中篇小説『とるに足りない細部』日本語版(税込2,200円)を2024年8 月26日に発売します。

『とるに足りない細部』(英訳タイトル『Minor Detail』)は、パレスチナ人作家アダニーヤ・シブリーが2017年にアラビア語で発表した小説です。2020年には全米図書賞翻訳部門最終候補、2021年には国際ブッカー賞候補になるなど、世界各国で高く評価されています。

本作は、1949年8月に発生した、イスラエル軍小隊によるベドウィン少女のレイプ殺人という歴史的事実に着想を得たものです。第一部では当時のイスラエル軍将校の視点で事件が描かれ、現代を舞台とする第二部では、パレスチナ人女性が秘匿されてきた事件の真実を追い求めて各地を辿ってゆきます。

2023年、『とるに足りない細部』は独リベラトゥール賞を受賞し、同年10月のフランクフルト・ブックフェアで贈賞式が行われる予定でした。しかし、イスラエルによるガザへの攻撃が激化するなか、本作がイスラエル兵の暴力を描いた内容であることが問題視され、式は作家の同意を得ずに突如として延期、実質的に中止されました。加えて、同賞を主催する文学団体リトプロムおよびブックフェアは、「イスラエル側に完全に連帯する」との声明を発表。これらの出来事に対しては、オルガ・トカルチュク、アニー・エルノー、イアン・マーキュアンなど世界中の作家・出版関係者から国を問わず抗議運動が起きました。

弊社発行の季刊文芸誌「文藝」2024年夏季号には、一連の騒動を受けてシブリーが発表したエッセイを掲載しました。「かつて怪物はとても親切だった」と題されたその文章は、想像を絶する体験のただなかで、恐怖や戸惑い、憤りに苛まれながら言葉を探しつづけるさまを、日本の読者へ克明に伝えています。

同時代のアラビア語圏の、とりわけ女性作家の作品は、日本ではまだほとんど邦訳刊行がない状況です。村田沙耶香さん、西加奈子さんも翻訳を熱望された、アダニーヤ・シブリーの傑作『とるに足りない細部』にぜひご注目ください。

■特別掲載 アダニーヤ・シブリー「かつて怪物はとても親切だった」
季刊文芸誌「文藝」2024年夏季号の特集「ガザへの言葉 #CeasefireNOW」に掲載したエッセーを、『とるに足りない細部』日本語版の発売を記念して特別に公開いたします。
■日本人作家から本書への言葉
村田沙耶香氏
「この作品の「細部」に宿っているものは、私の精神世界を激しく揺さぶり、皮膚の内側を震えさせる。この本の中の言葉の粒子に引き摺り込まれ、永遠に忘れられない体験になり今も私を切り刻んでいる。」
西加奈子氏
「かき消された声。かき消された瞬間と共にあるために、この小説は血を流している。」

■山本薫さんによる訳者あとがきより
〈しかし小説としての本作の本領は、大きな歴史的現象を描くことよりもむしろ、勝者の歴史の陰に隠されたサバルタンの物語に光を当てようとするところにあるだろう。第一部では加害者である将校の一挙手一投足や、彼の目に映る光景が執拗に描かれるが、それはパレスチナ人の不在、とりわけ被害者であるベドウィン少女の表情や声の不在を際立たせる。第二部では女性主人公が、被害者の少女の側の物語を明らかにすることで歴史の非対称性に挑もうとするが、悲劇的な結末を迎える。〉
➜全文は
■著者紹介
アダニーヤ・シブリー(Adania Shibli)
1974年、パレスチナ生まれ。イースト・ロンドン大学にてメディア・文化研究の博士号を取得し、現在はエルサレムとベルリンを拠点に小説、戯曲、エッセイなどの創作をおこなう。2009年、39歳以下の有望なアラブ作家39名を選出する「ベイルート39」に名を連ねる。本作『とるに足りない細部』は2017年にアラビア語で発表されたのち各国語に翻訳され、全米図書賞翻訳部門最終候補(2020年)、国際ブッカー賞候補(2021年)になるなど高く評価された。2023年には独リベラトゥール賞を受賞するも、イスラエルによるガザへの攻撃が激化するなか、同年10月のフランクフルト・ブックフェアにて開催予定だった授賞式は同賞の主催団体リトプロムによって中止され、リトプロムおよびブックフェアは「イスラエル側に完全に連帯する」との声明を出した。この決定に対しては、作家や出版関係者を中心に、世界中から抗議の声が上がっている。著作に『触れる(Touch)』(2002年)、『私たちはみな等しく愛から遠い(We Are All Equally Far from Love)』(2004年)など。

■訳者紹介
山本 薫(やまもと・かおる)
1968年生まれ。アラブ文学研究者。博士(文学)。慶應義塾大学総合政策学部准教授。パレスチナやエジプトを中心に、文学・音楽・映画など、アラブ圏の文化・芸術について研究・紹介をおこなう。2014~15年には、最も注目されるアラビア語小説の国際的な賞(International Prize for Arabic Fiction)の審査員を務めた。訳書にエミール・ハビービー『悲楽観屋サイードの失踪にまつわる奇妙な出来事』(作品社、2006年)、著書に『言語文化とコミュニケーション』(共編、慶應義塾大学出版会、2023年)、『「みえない関係性」をみせる』(分担執筆、岩波書店、2020年)など。

■新刊情報
アダニーヤ・シブリー『とるに足りない細部』河出書房新社
『とるに足りない細部』
著者:アダニーヤ・シブリー
訳者:山本薫
仕様:46変形判/仮フランス装/168ページ
発売日:2024年8月26日
税込定価:2,200 円(本体2,000円)
ISBN:978-4-309-20909-8
装画:坂内拓
装幀:山田和寛+竹尾天輝子(nipponia)
URL:
■『とるに足りない細部』(英訳タイトル『Minor Detail』)報道記事
ニューヨークタイムズ(2023年10月14日)
ガーディアン(2023年10月16日)
ロサンゼルスタイムズ(2023年10月16日)
ニューヨークタイムズ(2023年10月19日)
ガーディアン(2023年11月9日)

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