京都宇治の老舗お茶屋「森半」が近年のお茶離れを打破する新たな挑戦。歴史とモダンを融合した空間でお茶を愉しむTEA SQUARE MORIHANを開業

2024.08.08 11:00
創業188年を迎える老舗茶問屋「森半」(共栄製茶株式会社)では、「高品質で安心できる商品」と高い評価を受け、国内での販売のみならず、世界の様々な食品メーカーにも抹茶を提供しており、世界30か国、約360社に年間200トン余りの抹茶を輸出しております。


京都宇治の観光名所、平等院より車で10分。森半の伝統を受け継ぎつつ、「お茶の文化を体験できる場を提供したい」という新たな挑戦として2023年6月に宇治市小倉町に「TEA SQUARE MORIHAN」(ティースクエアモリハン)がオープンしました。現在、若者の”お茶離れ”が問題視される中、「TEA SQUARE MORIHAN」ではお茶を身近に体験できる空間として、新たな魅力を提供しています。
(左上)TEA SQUARE MORIHANのロゴ(右上)TEA SQUARE MORIHANの外観
(左下)蔵カフェ           (右下)菓子工房のお菓子とドリンク


おかげさまでオープン以降、世代を問わずたくさんのお客様にお越しいただいています。オープンから 1年たった今でも来店者の数は増加しており、多くのお客様に「TEA SQUARE MORIHAN」でお茶を身近に体験していただいています。


今回のストーリーでは、開業に至った背景や目指した理想、そしてコロナ禍での苦難を振り返り、どのように新たなコンセプトを実現したのか、「TEA SQUARE MORIHAN」開業から1年がたった今、施設がオープンしてからの経験を通じて、地域社会やお客様にどのような影響を与えてきたのか。その成果と課題、森半の目指すビジョンについて「TEA SQUARE MORIHAN」開業に携わった代表取締役 森下康弘とその妻である執行役員 森下庸子、そして現在の取締役社長 西坂太、当社の茶師兼専務 菊岡勝の4名にインタビューしました。
(写真左)西坂社長(写真右)森下代表
ー歴史を守りながら新しい挑戦を。明治から代々受け継がれてきた母屋を活用し、お茶を愉しむ広場へー
老舗茶問屋「森半」の伝統継承と新たな挑戦
ーTEA SQUARE MORIHANの開業に至ったきっかけはありますか?
森下代表:3代目の森下半三(後に安之助を襲名)が、明治の中頃である140年ほど前に建て替えて、代々受け継がれてきた母屋があり、両親の他界がきっかけでお客様にもご覧いただきたいという思いがありました。両親も生前「この歴史を残しておきたい」と言っていました。


そこで、海外企業のお客様が当社にお越しくださった際は、お茶工場とこちらの母屋を紹介していました。お客様は、歴史ある建物を非常に喜んでくださったり、伝統を継承している価値を高く評価してくれました。私は、この建物を活用して森半の歴史を守りながら新たな挑戦に取り組もうとTEA SQUARE MORIHANの開業を決意しました。
(写真)茶室の庭
西坂社長:弊社はOEMとしての抹茶・リーフ茶・プレミックスなどの原料供給が多いですが、もっと自社ブランド製品も広めていきたいという思いもあり、この創業の地である京都宇治から森半のブランディングを高める狙いもありました。
1年中お茶を体験できる広場へ
森下代表:茶畑を実際に見たことある人って100人に1人もいないと思うんです。また、お茶を摘む新茶の時期も5月のワンシーズンだけ。お茶の工場に行っても機械が動いているだけで私たちがよく目にする”茶葉”になるまでの製造工程を目で見ることは難しいんです。そこで、人生でなかなか見る機会のないお茶の畑をもっと身近で分かりやすく体験できる場所にしたいと思っていました。人の目を引くものを作るというより、お茶をどれだけ分かりやすく伝えられるかを意識して設計しました。また、おしゃれなアートというより、当時の生活感や歴史を感じていただける建物を目指しました。


庸子執行役員:TEA SQUARE MORIHANは五感でお茶を愉しんでいただくのがコンセプトです。お客様にカフェでゆっくり当社の高品質なお茶をお菓子と共に召し上がっていただきたかったので、蔵を改装した趣ある蔵カフェもあります。また、併設した菓子工房では、当社の抹茶を使用したここでしか食べられないスイーツも販売しています。
(写真左)庸子執行役員(写真右)菊岡専務
歴史とモダンな要素を融合した独自の空間に
森下代表:代々受け継がれてきた母屋や蔵はできるだけ当時の建物を再現しています。当時の商家は、入口を間口にして小上がりでお茶を陳列して販売したり、お客様が来られた時にサンプルでお茶を配ったりしていました。その畳の小上がりを森半店(物販の建物)で再現しました。


また、昔は人の手で行っていたお茶を合組する鉄板もそのまま残しています。そして、KAORIUMや菓子工房はモダンな建物にしたいという社内の意見も取り入れて、歴史も感じながら現代的な要素もある空間にしました。
(写真)中庭の茶の木
お茶を身近に感じていただけるように中庭に茶の木を植えたり、ほうじ茶焙煎機を設置し、香りを楽しんでいただけるようにしました。また、玉露や抹茶の原料となる茶の芽を育てている覆下園で摘んだおよそ300本もの新茶をハーバリウムにして展示。


茶の生葉は摘んですぐに変化が始まり、そのまま加工せず放置すると、2,3日で茶色くなっていきます。そこで、茶畑で摘んだ生葉をその場でハーバリウムにして作ることで摘みたての生葉の色、形を保ち続けています。
(写真)ほうじ茶焙煎機
菊岡専務:ほうじ茶焙煎機は、弊社特注で造っていただきました。通常の焙煎機は、一直線になっていますが、お客様に焙煎の工程が一目で分かっていただけるように3段のコンベアで上から下に流れている様子を見ていただけるようにしました。また、ライブで葉っぱの様子を映し、温度まで表示される仕組みになっています。


ーTEA SQUARE MORIHANでは、お茶を鑑定する拝見場をガラス越しで見ることができます。お茶屋さんは、お茶を審査している風景をあまり見せることはないと思いますが、なぜ拝見場をオープンにしたのですか?
菊岡専務:確かに拝見場というのは、お茶屋の中でも普段は見せることのない部分であり、私たちも拝見場をガラス越しで見せることはチャレンジでもありました。しかし、お客様に実際にお茶を体験してほしいという思いがありました。この思い切りが森半の強みでもあると思います。
(写真)KAORIUMに展示されている新茶ハーバリウム
ー140年前の町屋復元に向けすれ違う理想像。コロナ禍で取り組んだ開業計画ー
こだわりの追求がTEA SQUARE MORIHAN開業への期待に
西坂社長:創業土地を活用したTEA SQUARE MORIHAN開業計画は、2019年から始まりました。計画当初は、2022年4月の新茶時期前にオープンを予定していましたが、新型コロナウイルスの影響で1年以上オープンが遅れてしまいました。


また、改修プロジェクト会議も頻繁に行っていましたが、弊社の理想とする思いと老朽化した140年前の町屋復元などを含めた色々な問題が施工業者との打ち合わせに大変苦労しました。
(写真)改装中の風景
森下代表:木造の古い建物で年季が入っており、新しく張り替えることも可能でしたが、できる限り、そのままの状態を残したかったです。長年の圧で建物が5センチほど大きく傾いている棟もあり、壁が歪んだ状態の箇所もありました。すぐに戻そうとすると、ひびが入る危険性があったため、何週間もかけてゆっくりと補修をし、徐々に平らに戻していくという途方もない作業を行っていました。


ー改修中に不安はなかったですか?
西坂社長:投資金額も当初の予算より大きく膨らみましたが、それ以上に「森半ブランドを浸透させたい。」という期待の方が大きかったです。


森下代表:TEA SQUARE MORIHANが開業することに関しては、会社のフラッグシップの一環だったため、早く回収しないといけないという不安はなかったです。
コロナ禍でお客様にも従業員にも最大限の支援を
庸子執行役員:TEA SQUARE MORIHAN開業以前の2021年12月、コロナ感染対策を行いながら、森半のカフェを開業しました。この時期、お客様の支えがあったおかげで、コロナ禍でも営業を続けることができました。宇治の観光地が大きな打撃を受ける中、森半のカフェは地元のお客様に支えられ、大きな影響を受けることはありませんでした。


また、辛い状況の時こそ、会社でできる最大限の取り組みを考えました。百貨店が休業している際、その期間に販売予定だったセット商品が大量に余っていました。


そんな時、まず一番に、これまで頑張ってくれている従業員さんの顔が浮かびました。そこで、休業を余儀なくされている従業員さんにお見舞いも兼ねて送ることにしました。また、お家でも京都を味わえる「おうち京都」という企画を提案し、お客様の中から抽選で50名様にプレゼントしました。
(写真)コロナ渦で提案した「おうち京都」
西坂社長:新型コロナウイルス自体、未知のウイルスだったので、国の対策方針をできるだけ早く具体的に全社に指示しました。ただし、弊社は百貨店、量販店、国内業務用、海外営業、EC営業という様々な販路があったおかげで他社に比べると新型コロナウイルスの影響は少なかったと思います。


森下代表:コロナ禍で内食をする方が増加し、お茶のバラエティーパックをスーパーで販売したところ、お家時間でも様々な味が楽しめるというお客様のご好評をいただきました。私たちは、時代によって変化するライフスタイルに合わせた商品開発も行っています。
(写真)当社コラボレーションの抹茶商品
(左上)ローソン様※掲載製品は、現在販売を終了しています。
(右上)スシロー様
(左下)Pasco様※掲載製品は、現在販売を終了しています。
(右下)抹茶館様
ー開業1周年を迎えて見えてきた未来像。さらなる進化を目指し、世界的挑戦へー
開業後だからこそわかる課題点
森下代表:TEA SQUARE MORIHAN開業1周年を迎えましたが、まだこれで完成ではないと思っております。オープン最初からお店がパーフェクトだと断言してしまうと、それはお客様への押し付けになってしまいます。だからこそ、オープン当初は完成度が70%だとしてもお客様の意見を取り入れながら、100%に近づけるようにレベルアップしていきたいです。


菊岡専務:TEA SQUARE MORIHANはこれからも進化していくと思います。新茶ハーバリウムもさらに精度を上げていくために研究しておりますし、お茶を挽く石臼がずらっと並んでいる風景を皆様にもお見せしたいですね。


森下執行役員:開業後から母屋の茶室を使って一般の方向けにセミナーを開きたいと思っていました。先日、1周年感謝祭を開催した際に、やっとお茶のセミナーを開催することができました。お茶の歴史や抹茶の点て方、お抹茶で一服できるセミナーにご参加いただいた皆様が満足して帰ってくださったことは嬉しかったです。


今後は地域の方を巻き込んで積極的にセミナーを開いていきたいです。地域の方との交流も大切にしていく地域密着型であり、観光の方にも楽しんでもらえるようなイベントを行っていきたいです。
(写真)拝見場でお茶を審査している風景
ー日本茶インストラクターを取得している森下執行役員は、蔵カフェでお客様に接客する際は、お茶の説明からお茶の淹れ方まで丁寧に教えています。また、海外のお客様に対応できるよう、英語や韓国語で話したり、今現在は中国語の勉強をされている印象です。そんな森下執行役員の接客の心得はありますか?


森下執行役員:当たり前のことかもしれませんが、お客様が楽しんで帰ってもらえるような接客をしています。企業理念の「いつの時代にも、お客様を第一とし、『信頼される品質』の追求を通じて革新的な創造を重ねてまいります。」とあるようにお客様のことを一番に考えています。


観光で来られた海外のお客様が観光中に2度訪れてくださったり、中には3度訪れた方もいらっしゃり、お店を心から気に入っていただけたことを実感し、非常に印象に残っています。TEA SQUARE MORIHANを開業するまでは、地元のお客様がほとんどだったものの、SNSを発信し始めてからは、ご遠方から来られるお客様が段違いに増えました。
今後も全世界を視野に品質と価値を大切に
西坂社長:抹茶=森半という印象は製菓製パン企業様をはじめ沢山の企業様とコラボさせて頂いていますので少しずつですが浸透してきています。そこにTEA SQUARE MORIHANの要素もプラスしてお茶=森半、嗜好品=森半という日本のみならず世界に通用するブランドにしていきたいです。森半の公式キャラクター「森のくま半」「ケロじい」「兎茶姫(うさひめ)」も推しだして若い方にもお茶の魅力を伝えていきたいですね。
森下執行役員:世界を見ると、健康志向の人が増えており、その面ではお茶は廃れないのではないでしょうか。


菊岡専務:お茶の求められ方は、少しずつ変わってきています。昔は急須で淹れてお茶を飲むのが当たり前だったのが、その手軽さからティーバックが人気になったり、抹茶をお菓子に練りこんだりとお茶の需要が変化しています。茶農家さんのためにもこれまでにない新たなお茶の消費の仕方ができないか模索しています。


西坂社長:日本では平成19年以降、1世帯当たりのお茶に対する年間支出はわずかに増加していますが、ペットボトル飲料などの茶飲料は143%も増加し、リーフ茶は61%も減少しています。このような状況ですが、日本も含め世界的には抹茶がこれからも広まっていくことは間違いありません。しかし、少子高齢化と人口減少が進む日本市場だけに頼るビジネスモデルでは持続可能ではないと考えています。そのため、私たちは生産者を支援し、環境保護に貢献するためのコストを考慮した適正価格で商品を仕入れ、適質適価を具体化して市場や顧客が求める製品を開発して参ります。そして、今後もマーケットは全世界を視野に入れた営業活動を進めていきます。
伝統を守りながら革新的創造に挑み続ける「森半」の歩み
森半は天保7年(1836年)玉露・抹茶の産地として名高い宇治小倉の地に創業し、日本茶の歴史とともに歩み続けてきました。その後、森半製茶所と松本軒茶舗の共同により、共栄製茶株式会社が設立しましたが、「森半」という名は変わらず、共栄製茶のお茶ブランドとして残り続けています。長い歴史に裏打ちされた「品質へのこだわりと茶文化の継承」その精神を今も受け継ぎ、日本茶をはじめ、抹茶や粉末商品、抹茶スイーツなど時代の変遷と共に、より多くの方にお届けできるよう、伝統ある商品を大切にしながらも新しい商品を作り出しています。


昭和初期には、現在の水出し緑茶の元祖である「氷茶」や関西のご当地ドリンクである「グリーンティー」の販売を開始し、その後も世界発の泡立つ抹茶オーレの製造・販売や国際的な認証の取得、SDGs活動、五感で味わうお茶広場「TEA SQUARE MORIHAN」をオープンするなど、今もなお革新的創造に挑戦し続けています。

会社概要
会社名:共栄製茶株式会社
代表者:代表取締役 森下康弘
本社:大阪市北区西天満5丁目1番1号 ザ・セヤマビル5F
公式HP:
オンラインショップ:
公式Instagram:
公式X(旧Twitter):

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