50年以上前のポルシェってぶっちゃけ金食い虫? オーナーが語る維持費のリアル

2024.07.30 17:20
この記事をまとめると
■筆者は1970年式ポルシェを所有
■入手してから12年が経つ
■旧車の維持費のリアルを語る
空冷ポルシェとの生活とは
  愛車は1970年式ポルシェ911S、主治医が命名した「プラレール号」なんて呼ばれています。いわゆる「ナローポルシェ」に属するこのモデルを手に入れて12年、本格的に走り出してから5年ほど経ちました。
「空冷ポルシェ911に乗りたい」という声をしばしば耳にしますが、なにかと手が掛かるイメージが強いナローポルシェを手に入れようと思う方は少ないかもしれません。が……何らかの参考になれば幸いです。
●普段の乗り方について
  日々の生活を優先していると、趣味車に乗るのはあとまわしになりがちです。気がつくとあっという間に1カ月くらいほったらかしにしてしまいそうで、年間カレンダーにいつ乗ったのかがわかるように目印を付けて「次は○○日あたりに乗ろう」と決める際の目安にしています。そんな努力の甲斐(?)もあって、だいたい2週間に1度のペースで、高速道路をメインに1時間ほど、距離にしておよそ50km走らせる習慣が身につきました。
  この「2週間に1度のルーティンワーク」、順を追って説明すると(クルマに乗る前段階は長くなるので割愛します)、チョークレバーを引いてエンジン始動。外気温やそのときのエンジンの状態(機嫌?)にあわせて、だいたい1500回転前後で落ち着くようにレバーを微調整していきます。ほど音で判断しているので、タコメーターはあくまでも目安です。
  その後、自宅駐車場で暖機運転は行わず、するするとスタート。油温計を見ながらゆっくり走り、少しずつ油温が上がっていくのを確認しつつ、チョークレバーを元の位置に戻していきます。油温計の針が冬場であれば80度、夏場は90度を指し、安定してきたタイミングを見計らって高速道路に乗るルートを選んでいます。
  高速道路では流れに乗りつつ、道が空いたときにシフトダウンして加速……といった乗り方です。プラレール号に積まれているエンジンには、いわゆる「メカポン」といわれる機械式の燃料噴射装置が使われています。このメカポン、アクセルペダルの踏み込み量に対してとてもダイレクトで、電子制御とはまた違った「直結感」が味わえます。このフィーリングに味をしめてしまうと「最新のポルシェは最良のポルシェ」だけではない世界があることに気づかされます。
  それはさておき、主治医からは「上まで回さないと、回らないエンジンになっちゃうよ」といわれているので、高速道路で、道が空いたらなるべく高回転まで回すように心掛けています。高速道路を降りてからはなるべく渋滞しているルートを避けて下道を走りながら帰宅。ここまででだいたい1時間強といったところです。時間に余裕があるときは、クルマ&バイク好きの人が集まるカフェまで足を伸ばし、お店の方たちと談笑してからワインディングを走って帰宅することもあります。
  ちなみに、よほどの用事がない限り、雨の日は乗りません。また、猛暑日のような日も乗るべきか悩みます。なにしろエアコン&オーディオレスなので、本当にただ運転するだけ。10代の頃にアルバイトをしていた酒屋さんの配達用の軽トラ(ダイハツ・ハイゼット)がまさに同じ仕様でした。これで多少鍛えられたとはいえ、ウン十年前は猛暑日なんてくくりもありませんでしたから、人もクルマもバテバテになるのがホントのところです。
買ってさえしまえば案外お金は掛からない!?
●維持費について
  車両本体の支払いは完了しているのでローンはなし。自宅に駐車スペースがあるので駐車場代も掛かりません。
  ガソリンは数カ月に1度給油しますが、90リットルタンクのうち、メーター読みで半分くらい(かなりあいまいですが)給油するだけで1万円を超えてきます。同じ系列のガソリンスタンドで給油しているので、コツコツと貯めたポイントや期間限定のクーポンを利用して何とか出費を抑えても、ハイオクガソリンはリッター170円弱。ガソリンも高くなりました……。あとは、車両保険込みの任意保険が月に約1万円掛かっています。
  車検時の費用は30万円〜50万円といったところ。簡単な消耗品や油脂類交換のみであれば30万円台でなんとか収まりますが、部品交換やエンジン調整などが加わってくるとそれなりの金額になります。なんだかんだ年間の走行距離は2000kmくらい。2年で4000km前後であることを考えると安くはない出費ではあります。……が、こうして仕事にもつながることもしばしばあるので、必要経費(!?)と思うようにしています。
●これまでのトラブルは?
  何しろ50年以上も前に生産されたクルマです。「壊れないの?」と聞かれることが本当に多いです。
「ホントかよ」と思われるかもしれませんが、乗りはじめたばかりのころにミッションを壊してしまった以外、大きなトラブルはありません。これは壊れたというより、もち主のである自分が「壊した」ことになるので、クルマに非はありません。
  改めて思い返してみると、トラブルといえばガソリンの残量計やウインカーの作動不良くらい。これには、プラレール号の生みの親である主治医に感謝しかありません。
●空冷911ってどうなの?
  これも本当によく聞かれます。ここ10数年でタイプ993までの空冷911は驚くほど高くなりました。「じゃあ、オマエはなんで買えたんだ!」と突っ込まれそうなので先に話しておきます。プラレール号を購入した2012年当時は会社員かつ独身であったこと、なにより空冷911が高騰する直前の時期で、一部の特殊なモデルをのぞけば、無茶なローンを組む覚悟(いわゆる「清水ダイブ」)さえあればなんとか手が届く時代だったんです。事実、プラレール号は72回ローンを組んで買いましたし。
  しかしいまは……。
「964のカレラ2(MT)がどうしても欲しいんですっっっ!」と熱く語る20代のクルマ好きに「買えばなんとかなる! 買えるうちに買っておいたほうがいいですよ!」だなんてゴリ押しできるような相場ではなくなってしまったのはご存じのとおり。
  ただ単にプレ値がついて、コンディションはよくて現状維持か、より経年劣化が進んでいる個体ばかりだという印象です。車両本体価格+メンテナンス代=乗り出し価格で新車のタイプ992が買えてしまう可能性すらありえます。それならばいっそ、水冷911の認定中古車(保証付き)を購入した方が楽しめるのでは……? これは私の主治医とも意見が一致しています。では、「なぜ空冷にこだわるのか?」、「それでも空冷911が欲しいのか?」を見極めつつ、イメージや理想だけで手に入れると現実とのギャップに苦しむことになるかもしれません。
●旧車を所有するうえで、人、そして横のつながりは極めて重要
  筆者もそうですが、主治医や同じナローポルシェを所有する方たちとの出会いがなければ今日まで維持できなかったように思います。
  愛車のコンディション維持はもちろんのこと、困ったときに的確なアドバイスをくれる主治医の存在や、ツーリングに出掛けたり、心が折れそうなときは延々と愚痴を聞いてくれたりする趣味仲間の皆さん。プラレール号と出会っていなければ知り合えなかった方たちばかりです。ときにはネットオークションでは出まわっていないようなレアパーツを破格値で譲っていただいたり、趣味には関係ない子育ての悩み相談に乗ってもらったり……と、日々お世話になりっぱなしです。
  最後に、個人でできることには限界があります。専属の主治医を雇えるほど潤沢な資金があったとしても、です。旧車を所有するうえで、人、そして横のつながりは極めて重要だと断言できます。旧車を含めた「クルマはコミュニケーションツール」なのです。

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