ソニフィデアのサウンドアートで人々の暮らしを豊かに。音響空間作家の及川潤耶が創り出す、かつてない空間体験の取り組みに迫る

2024.07.26 08:50
 SONIFIDEA LLC(ソニフィデア合同会社)は、「Sonify(=音化)」と「Idea(=アイディア)」を通じて、新しい「音体験」を人々の心と日常に提供する企業である。2019年に設立し、国際的に評価の高い音響空間作家である及川潤耶が代表を務める。さて、音響空間芸術とは一体どのような取り組みなのか。その世界を覗く。
ソニフィデアの創り出す音響空間
 従来の音響空間といえば、店内で流れるBGMのようなものを思い浮かべるかもしれない。一方で、ソニフィデアの創り出す音響空間は一味違う。人・モノ・空間をアートの視点で捉え直すことで、音楽の要素である歌声やメロディーといったものに縛られない、音そのものに存在する概念から空間を作曲をする。例えば、川のせせらぎや木々、風のざわめき、虫の音からインスパイアを受けて音のパターンをプログラムしたり、子どもたちの笑い声など街の日常風景にある音を使ったり、自分の声を自然音のようにアレンジすることもある。その背景には、緻密な空間分析とICT技術、音作りのノウハウがあり、国内特許と欧州統一特許の取得を実現したことからも、そのクリエイティビティの独自性が伺える。それらを用いて生み出される音響空間体験によって、日常空間に新たな価値を見出す。歌や楽器の演奏による壮大な空間演出というよりは、もとからそこにあったような佇まいがありつつ、それでいて確かに人々の心や意識の奥深くに響くような空間演出と言えるだろう。
ポルトガルの国定遺跡(Termas Romanas de Maximinus。ローマ時代の温泉跡)にて、音が空間と一体となる大規模なインスタレーションを展示。
『Voice Landscape Series』 (フランス)。プログラミングを介して、録音した及川の声を虫の声や水、風の囁き等の音に変換して自然に溶け込ませ、有機的な「音響風景」を作りあげた。十年以上にわたり代表の及川が手がけてきたこれら海外での音響空間演出のノウハウは、ソニフィデアの事業にも継承されている。
日常のシーンで活用されているソニフィデアの音
 ソニフィデアはこれまで、あらゆる空間を音響によって彩ってきた。ここでは3つの事例を紹介する。
 まずは、JR東日本の東京感動線事業「西日暮里エキマド」で2020年に実施した『呼吸する駅』だ。ここでは、駅のコンコースの天井にオリジナルの「サウンドディフューズシステム」を導入した。水音のような音響が空間を包み込むように共鳴し、「どこから音が出ているのだろう?」と不思議そうな顔をする人や、 立ち止まる人も多い。また、ソニフィデアの特許技術である、利用者の身体動作にリアルタイムで反応して音響が生成される音響空間演出システムも導入し、インタラクティブに音が生まれるアート体験を創出。子ども用黒板に設置したセンサーが手の動きに反応するたびに空間に音が満ち溢れ、 立ち止まったり飛び跳ねたりして音の変化を楽しむ子どもの姿が見られる。普段なら足早に通り過ぎてしまうような場所でも、音響によって空間の印象そのものが変わり、人の行動や感情さえも変えることができる。
『呼吸する駅』(西日暮里駅)


 次に、千葉県市川市役所第一庁舎1階の交流スペースに設置した、ベンチ型サウンドアート 『Ruhe(ルーエ)~夢見る貝~』という作品。これも特許技術を用いたインタラクティブアートで、ベンチにある白い貝殻に手をかざし、動かしたり止めたりすることで音が空間に心地よく響きわたる。「Ruhe(ルーエ)」とは、ドイツ語で休息、心の平穏を表す。庁舎でのサウンドアートの常設は国内初となり、人々が集う憩いの場に「Ruhe」の時間をもたらす。
『Ruhe~夢見る貝~』(市川市役所第1庁舎)×


 3つ目は、せんだい都心再構築プロジェクト第1号物件として2024年3月14日にオープンした、「アーバンネット仙台中央ビル」(NTT都市開発)。本ビルの低層階「YUI NOS(ゆいのす)」に、環境の変化をセンシングして音に変える作品や、宮城県で録音した音で構築した音響作品など、ソニフィデア独自のICT技術を活用したサウンドアート『Sound Building - RUHE(ルーエ)-』が常設された。特に1階イノベーションスペースに設置された『RUHE in Sendai』は、前述のベンチ型サウンドアートの最新版として2021年より構想を練ったもので、屋外の車の往来に呼応して音が生成されることで外とのつながりを感じられるユニークな空間演出作品だ。低層階の音響空間演出事業のハイライト作品として、ビルの中の環境と寄り添いながらも外の環境とも接続し、イノベーティブな思考やコミュニケーションを促進するこれまでにないオフィスビル空間を創出している。
『RUHE in Sendai』。複数の音響空間体験を重ね合わせる演出によって、物理的・心理的な距離をつなぐ。(アーバンネット仙台中央ビル)
こうした様々な日常のシーンで、ソニフィデアの音は活用されている。
従来の「音」の概念にとらわれないオーダーメイドの音響制作
 ではなぜ、ソニフィデアの空間演出が数多くの場面で求められるのか。その理由は、空間の特性を考慮した「オーダーメイドでの音響制作」にある。『Ruhe(ルーエ)~夢見る貝~』の事業では、もとからあったベンチ型の作品をそのまま導入したわけではない。及川が関係者とのヒアリングやオープン前の現地に何度も足を運び、空間の特性を把握した上で、住民が集う場所に休息の機能を持たせたいとの思いで、ベンチの機能を作品の構造に組み込んだ。また、市川の歴史にも目を向け、そこから得たインスピレーションをもとに、貝殻や植栽のデザインを取り入れた。そのほかの事業においても、緻密なフィールドワークやリサーチをもとにすべてオーダーメイドで提案しているからこそ、従来の「音」の概念にとらわれない空間演出を実現している。
フィールドワークを行い、実際の波の音を録音している様子。(千葉県市川市)
展示現場にて、関係者との打ち合わせの様子。実際の空間での音の聞こえ方を何度もシミュレーションする。(市川市役所第1庁舎)
現場にて、カメラセンサーの位置を確認する。仙台の事業では、ビルの構想時から打ち合わせに参加し、ほかにはないユニークな空間演出をアートの視点から提案した。(アーバンネット仙台中央ビル)
サウンドアートは、人と自然の調和、自然と生まれる対話
 ソニフィデアの音響空間演出の強味は、「人と自然の調和」である。自然と触れ合う機会が少ない現代人の日常に注目している。「歩く・たたずむ・耳を澄ます」という行為を通じて、人々が今までに感じたことのない心象風景に出会い、自然環境とのささやかなつながりを体感できるような空間演出に取り組んでいる。
 開創1300年を迎える高知県の五台山竹林寺を舞台にしたプロジェクトは、2023年の春と秋の2回にわたって開催。春会期では書院の国指定名勝庭園と参道を、秋会期では山門から参道、本堂、五重塔、「めぐりの森」に至るまでの広大な境内を演出する大規模な音と光のインスタレーションを監修・制作した。
 秋の『星音夜』では、来場者は山門から入り、かすかに響く鈴虫の音や、五重塔から遠く鳴り響く荘厳な音、幻想的な星のきらめきのような音に導かれながら、高知ならではの自然や生命の神秘を感じさせる映像(※)が息づく参道を歩く。本堂内部に辿り着くと、まるで異空間への入口かのように漂う音や、背後から聞こえてくる五重塔の音に耳を傾けながら、本尊を祀る須弥壇とじっくりと向き合う。さらに蝋燭に献灯し祈りをささげると、ともしびに呼応するように音が広がり、自身も作品の一部として竹林寺の空間に溶け込んでいく。このようにして、竹林寺の1300年の歴史を全身でじっくりと感じられる体験となった。
竹林寺開創1300周年記念事業『星音夜』。
本堂で献灯すると、呼応するようにどこからか鐘の音が響き渡る。


 演出においては、寺院や主催関係者と綿密に打ち合わせを重ねながら、音のバランスや光の配置、映像コンテンツを決定。お寺のありのままの魅力を映し出すため、従来のような絶え間なく情報が流れるものではなく、繊細さと間合いをもって、一人ひとりの呼吸に合わせて味わうことができるような余白を意識した。普段なら通り過ぎてしまうような場所も、音と光があることで空間に意味が見出され、気づきのきっかけと想像の時間がもたらされる。そうして意識を研ぎ澄ますうちに、心身と自然の間に調和が生まれ、自然と対話が生まれてゆく。


※映像制作:WOW
シンボリックな五重塔からは、幻想的な音が五台山一帯を包み込む。
(竹林寺『星音夜』)


及川は自身の声を用いた作品を「音響身体」と捉えて、自然の中に配置し、調和させる。
指紋と同じように、我々の声紋も一人ひとり違います。そこで、録音した自分の声を〈音響身体〉と定義し、テクノロジーを用いて自然に還していく、あるいは環境の情報と呼応していくという試みを通じて、人々の心や記憶に働きかける空間が創り出せると考えています。(及川潤耶)
竹林寺のサウンドインスタレーション『宿り音』(高知)の展示風景。書院内部にある庭園に複数のスピーカーを見えないように配置し、来場者は座敷から、庭の景観ごとじっくりと鑑賞した。
ソニフィデアの音を体験した人の声・協業者の声 
【ビジネスパートナー】
高橋 由佳様[NTT東日本宮城事業部]
アーバンネット仙台中央ビルの低層階は、サウンドアートで溢れています。1Fのイノベーションスペースは、思わず立ち止まりたくなるような心地よい鳥のさえずりや、ベンチに腰掛けると虫の音も聴こえるなど、オフィスワーカーが日常的に音を楽しむことができる贅沢な空間が広がっています。また、2Fに続く階段を上るにつれサウンドアートが心地よく響きます。2Fのコワーキングスペースで素敵なことが待っているような気持ちを抱くことができる大好きな空間です。ICT技術を魔法のように使い、柔らかな空間を演出する及川さんのサウンドアートがビルに新しい価値をもたらしていることを日々実感しています。仙台市の中心部に居ながら自然と会話しているような感覚を味わえる空間を、地域の皆様にも是非楽しんでほしいと思っています。
アーバンネット仙台中央ビルの2階への階段部分にはソニフィデアオリジナルのサウンドディフューズシステムを設置。立体的な音響空間体験が移動時間を彩る。


【チームメンバー】
中村葵さん[ソニフィデア 広報・企画担当](大学生)
私は大学に通う傍ら、学生ならではの視点を活かし、ソニフィデアの事業のサポートをしています。私がソニフィデアの魅力を語る上で欠かせないと感じるのは、及川さんの持つ「言葉の力」です。言葉を介さない「サウンドアート」という芸術分野を手掛けながらも、その言葉の独創性や詩的な表現力には心から感銘を受けます。その独自の視点で日常生活からアートの世界まで、従来の概念を捉え直します。そうして生まれるサウンドアートは、私たちの心に新たな気づきを与えてくれます。「作品を見れば作者の人となりがわかる」といわれるように、及川さん自身が、欧州での多彩な経験を経て、サウンドアートで法人化するという非常に豊かで貴重なキャリアを持つことは、作品にも表れているように感じます。
設営チームとの打ち合わせの様子。様々な専門領域・年齢層の人々と協議を重ね、唯一無二の音響空間を創り上げる。(京都・知恩院『宿り音』)
大切にしているもの。そして、みらいへ。2024年、及川が語る。
本来、私たち人間の体は、無数のセンサーを持っていて、光や温度、湿度と言った様々なものを感知することができます。しかし、近代化した生活において、そのセンサーの感度は落ちていくばかりです。
 自然には、その感度を取り戻す力があります。木漏れ日、鳥の声、風に揺らめく葉、洞窟の反響。水面に落ちる一滴の水。寄せては返す波。自然に向き合うと、これらの様々な「秩序」が見えてきます。私はその秩序を空間が持つ潜在的な価値として捉え、サウンドアートという媒体を通して空間の新たな魅力を表現します。
 その過程には、現地へ何度も足を運んでフィールドワークを行ったり、関係者と幾度も協議を重ねたりして、それぞれの空間や環境の特性を把握する作業があります。そこにある音や響きと長い時間をかけて向き合い、対話し、戯れることで、「音」という要素を超えた「調和(ハーモニー)」に気づき、その気づきからその空間にしかないオーダーメイドの音響空間が生まれるのです。その意味で、私が事業に取り組む姿勢は、まるで自然に向き合う姿勢そのものだといえます。
 海外に渡り、多様な社会・文化と触れ合いながら芸術活動に身を置いてきました。そして、芸術活動の一環として、社会との接点を作るために2019年に法人を設立しました。これまでの芸術活動や発想を社会に実装・展開する挑戦です。自然と社会の調和を目指したより良い環境づくりに向けて、空間にサウンドアートを取り入れることの可能性と未来のビジョンに共感してくれる方とのクリエイティブな協働を、楽しみにしています。(及川潤耶)
ゲストアーティストとして滞在した世界最大のメディアセンター・ZKM(ドイツ)のスタジオ。

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