この記事をまとめると
■ホンダN-BOX、スズキ・スペーシア、ダイハツ・タントの3台を徹底比較
■N-BOXの牙城を崩す勢いで新装備が充実しているのがスペーシアだ
■タントのミラクルオープンドアやグレードの広さも見逃せない
スーパーハイト軽それぞれの特徴とは
いまや日本の国民車ともなっており、小中型車から乗り換えてもその室内空間の圧巻の広さ、使い勝手のよさで下剋上的カテゴリーとなっている、スーパーハイト系軽自動車。2024年上半期、国産全乗用車販売台数No.1を誇る最新のホンダN-BOXと、新型となってそれに追随し、なんと2024年5月にはN-BOXの販売台数を抜き、軽自動車販売台数No.1となったスズキ・スペーシア、そして子育て世代に人気のダイハツ・タントを改めて比較してみた。
エクステリアデザインは好みだが、3車ともに軽自動車とは思えない質感、とくにカスタム系モデルの高級感、上質さが際立つのが特徴だ。
インテリアに関しては、とくにN-BOXとスペーシアは新型らしさムンムン。N-BOXはホンダ軽自動車初の7インチ液晶メーターを備え、さらにセンターディスプレイにタブレットのような8インチHonda CONNECT対応のナビ、オーディオを用意したことが新鮮。
スペーシアはインパネまわりの使い勝手をさらに進化させたデザイン、そしてカスタムの高級感溢れるブラック基調×ボルドーの色使い、ピアノブラックの加飾による、ホテルのラウンジをイメージした見た目の質感の高さがポイントだが、この部分も優劣つけ難い仕立てのよさが光っている。
リヤスライドドアからの乗降性、後席のシートサイズ、着座性、立ち上がり性にかかわるヒール段差にしても、各車、研究しあっているのか、ほぼ同等である(※ヒール段差は355~360mm)。もちろん、後席の広さは圧巻。身長172cmの筆者のドライビングポジションの背後でN-BOXは頭上に235mm、膝まわりに最大420mm、スペーシアは頭上に270mm、膝まわりに最大325mm、タントは頭上に270mm、膝まわりに最大355mmのスペースがある。
N-BOXの最大膝まわり空間が圧倒するのは、後席下に燃料タンクをもたないセンタータンクレイアウトを採用しているからで、後席を最後端位置にセットしてもシート下に空間があり、足が引け、着座姿勢が安定し、立ち上がりやすいメリットがもたらされるのだ。
が、2024年5月に、全国の販売拠点が圧倒的に少ないスズキのスペーシアがN-BOXを販売台数でしのいだ理由のひとつとも言えそうなポイントが、後席の仕立てだ。そう、スズキ初採用となる後席の「マルチユースフラップ」の装備である。
シート先端の可動するフラップの角度、長さを調整することで、後席に荷物を置く際、荷物がフロアに落ちにくくなる「荷物ストッパーモード」、走行中の姿勢安定をサポートしてくれるとともに、後席の座面(実測480mm)が短いと感じる長身の人でも、シート座面が伸びたような着座姿勢となり、快適度を大幅にアップさせてくれ「レッグサポートモード」、主に停車時に、後席のリクライニングを倒した状態でフラップを前方や上方向に出して脚を乗せると、まさに旅客機の上級クラスなどにあるオットマン同様、お尻にかかる負担をふくらはぎなどに分散させる効果があり、寛ぎ感が高まる「オットマンモード」、これら3つのモードに対応してくれるのである。この飛び道具はN-BOX、タントにない商品力、選択のポイントとなる。
さらに、スペーシアにはN-BOXにない天井サーキュレーターを用意。軽自動車であるのはスペーシアとルークスだけで、後席エアコン吹き出し口を持たない大空間のスーパーハイト系軽自動車にとって、後席の空調環境、快適度を高めてくれる切り札的装備になりうるのである。先代からの進化型といえる現行N-BOX、タントに比べ、商品力の新しさでスペーシアは抜きんでているといっていい。
1度は試乗車に乗ってみるべし!
タントはなんといっても助手席側の大開口となるBピラーレスのミラクルオープンドア、子育て世代にフォーカスした540mmもの運転席ロングスライドによるミラクルウォークスルーパッケージ(運転席の母親が後席の子どもを運転席からケアしやすい)が大きな特徴。
このクラスでいち早く電子パーキングブレーキとオートブレーキホールド機能、全車速追従機能付きACC(アダプティブクルーズコントロール)&コーナリングトレースアシストなどを用意しているのも安心・安全材料だ。
また、タント・ファンクロスという、クロスオーバー感たっぷりの派生車を用意しているのもタントらしさ。いまのところ、N-BOXにはそうしたモデルはなく、スペーシアも先代にあったスペーシア・ギアの新型待ちとなっている。
タントのデビューは2019年7月。2023年後半にデビューした最新のN-BOXとスペーシアに比べて、たとえばインテリアの見映えで大きく劣ることはない。ただし、エクステリアに関しては、カスタム、ファンクロスはいまでも存在感たっぷりだが、標準車のほうは、やや古臭く見えてしまうのは致し方ないところか。
では、走行性能はどうだろう。
車内の静粛性はほぼ同等だが、乗り心地面の快適性と車内の静かさではN-BOXがやや優位。もう、上級車も真っ青な路面を問わない快適かつ静かで上質な乗り心地を示してくれるのだ。一方、スペーシアは一段と高まったボディ剛性によるしっかり感ある乗り味が自慢だが、とくに15インチタイヤを履くカスタムは硬めで、荒れた路面や段差などでの突き上げ感、ショックが気になる人は気になるかも知れない。スペーシアを乗り心地面で選ぶなら14インチタイヤを履くモデルということになるだろうか。
タントの走行性能はNA、ターボを問わない動力性能、すっきりとした操縦性、走りやすさ、乗り心地などの項目でバランスが取れているところが魅力。ただし、意外なことに、14インチタイヤ装着車より、カスタムRSの15インチタイヤのほうがロードノイズを拾いにくく、車内は静か。つまり、14インチタイヤを履くNAモデルの静粛性は、さすがに最新の遮音・吸音技術が盛り込まれ、こだわったN-BOX、スペーシアが上まわることになる。
経済志向で軽自動車を選び、燃費にもこだわる、というならスペーシアだ。スペーシアのパワーユニットは全車マイルドハイブリッドで、NAモデルで最高23.9km/L、カスタムターボでも21.9km/Lを誇る。一方、N-BOXはNAモデルで21.6km/L、カスタムのみになったターボモデルで20.3km/L(NAとターボの燃費差が小さいのは立派)。タントはNAモデルで22.7km/L、カスタムRSのターボモデルが21.2km/L(いずれもFF)となる。
さらに、先進運転支援機能を比較してみると、その基本ともなりうる電子パーキングブレーキとオートブレーキホールド機能はN-BOXが全車に搭載、初採用となるスぺーシアは控え目に、カスタムと標準車のセーフティプラスパッケージ装着車のみ装備。タントは標準車のベースグレードL以外に装備される。
ここまでなら、N-BOX優位と思えるのだが、じつは、スペーシアの高速道路で役立つACC(アダプティブクルーズコントロール)には、なんと、ほとんどのACCにない、カーブを認識し、速度を抑制してくれる機能がある! これは高速走行がより快適・安心になるメリット絶大といっていい。なお、高速走行で役立つACCはタントの場合、Lグレードを除いてパックオプションとなる。このあたりはデビューの古さを感じさせるところだ。
こうして最新のN-BOXとスペーシア、そしてタントを比べてみると、後席のリラックス度、使い勝手、燃費性能、ACCの先進度でスペーシアがリード。商品力の高さが際立っている。スペーシアの乗り心地面の評価は、おろしたての新車試乗での印象だから、実際に販売店で試乗してみて、納得できればここでの記述は無視していい(硬めのしっかりとした乗り心地を好む人を含む)。
たしかにN-BOXはこのクラスの圧倒的王者だが、それにスペーシアが新型となって大勝負をかけてきたことは間違いない。N-BOX一択で検討している人も、クルマ選びの視野を広げ、一度、スぺーシアの魅力に触れてみてはどうだろう。子育て世代なら、タントのミラクルオープンドア、ミラクルウォークスルーパッケージに、アウトドア派ならファンクロスに着目するのもいい。
いずれの車種でも、後席の圧巻の広さやシートアレンジ性のよさは、スーパーハイト系軽自動車の特権であり、その点については満足できるに違いないのである。