この記事をまとめると
■フルモデルチェンジしたホンダ・フリードに試乗した
■新型フリードのe:HEVはEVモードによる静かさと滑らかさ、電動感の強さが印象的
■筆者のオススメはエアーのe:HEV・FF・2列目キャプテンシート・リヤクーラー付きのEX
2モーターハイブリッドシステムのe:HEVを搭載した新型フリード
「ちょうどいい」というコンセプトを受け継ぎながら、じつは大幅に進化したコンパクトミニバンの3代目ホンダ・フリード。標準車となるエアーとクロスオーバー感覚を強めたクロスターの2モデル構成で、パワートレインはハイブリッドとガソリンエンジンを用意。シートレイアウトは2列目キャプテンシートの6人乗り、2列目ベンチシートの7人乗り、そして大容量コンパクトワゴンと呼んでいいクロスターのみに設定される2列シートモデルが揃う。
その主役となるハイブリッドモデルの走行性能もまた、ハイブリッドシステムを1モーターのSPORT HYBRID i-DCDから、ホンダ最新の2モーターハイブリッドシステム、e:HEVへと換装し、劇的に進化したといっていい。
ここではまず、シンプルでクリーンなエクステリアデザイン、明るくすっきりとしたノイズのない安心空間が演出されるグレージュ内装のエアーのe:HEVモデルに試乗した。
運転席に着座すれば、新型らしさをすぐに実感できる。というのも、7インチTFT液晶メーターは先代のアウトホイール(ステアリングの上から見える)から一般的なインホイールタイプ(2スポークのステアリングのなかから見える)に変更され、最大11.4インチのセンターディスプレー(ホンダコネクトナビ)を採用している。
さらに、水平基調のインパネの加飾が先代のウッド調パネルから、ファブテクトと呼ばれる撥水・撥油機能のある、シート地と同じファブリックが使われていることが大きく、より心地よくすっきりとした、斜め前方を含む全方向の視界にも優れた空間が演出されているのだ。
運転席足もとにも注目だ。3代目ではクラス、フリード初の電子パーキングブレーキとオートブレーキホールド機能を採用しているため、足踏み式ブレーキはなく、足元まですっきり。走り出す前から居心地の良さを実感できた。
そうそう、ファブテクトのファブリックが張られた助手席前には、ティッシュボックスがすっぽり入るインパネアッパーボックスが備わり、その前にはトレイも用意されるなど、スマートフォン置き場(充電もしやすい)を含む収納力も文句なしである。
さて、エアーのハイブリッド・FFモデルで走り出せば、発進はEVモードによる静かさと滑らかさ、先代と比べ物にならない電動感の強さが印象的だ。アクセルレスポンスは穏やかで、ラフにアクセルペダルを踏んでも唐突にレスポンスし、ドーンと前に出ることはない。つまり、スムースに、ジェントルに発進し、伸びやかな加速に移行する、というイメージ。ちょっとラフにアクセルペダルを踏んでも、丁寧な運転、走りになったりするのだ。先代のi-DCDは2ペダルMTだったので、そこに不満を感じるシーン(変速時のギクシャク感)がないでもなかったのである。
同時に、ブレーキペダルの初期制動も自然で扱いやすく、これまたラフに踏んでも優しくスーッと減速し、止まってくれるため、助手席、後席乗員の快適性にも直結するはずである。
そう書くと、走りはすこぶる上質だが、動力性能は緩慢……と誤解してしまいがちだが、そうではない。ハイブリッドシステムは、先代の1.5リッター直4エンジン、110馬力、13.7kg-m+モーター29.5馬力、16.3kg-mから、1.5リッター直4エンジン、106馬力、13.0kg-m+モーター123馬力、25.8kg-mという強力な駆動用モーターを備えているため、アクセルペダルを深々と踏み込めば、リニアシフトコントロールの恩恵もあり、モータートルクによる伸びやかかつ、有段ATのような痛快な加速力を味わうことも可能なのである。それは2リッター級に迫る動力性能だ。
FF車のパワーステアリングの操作感は軽快さよりやや重めですっきりとしたリニアなフィールを示し、これもまた運転の余裕、安心感につながる走行性能の進化といっていいだろう。高速走行時、カーブなどでの安心感につながる、誰もが安心して運転でき、同乗者も快適に乗っていられる穏やかな操縦性に躾けられている。
そしてフットワークもハイレベル。意外なほど重心の高さを感じさせず、カーブでは4輪のタイヤが路面にピタリと張り付くような安定した姿勢を見せるし、ステアリングを右へ左へと切るタイトなS字コーナーの走行、緊急回避的なレーンチェンジを試みても、おつりのない、リヤがしっかりと踏ん張る安定感、安心感たっぷりの挙動を確認することができた。いい換えれば、視界は高いのに、いま乗っているのがミニバンであることを忘れさせてくれるほどだったのだ。その安心感は2列目席でもまったく変わらない!(理由は後述)。
ただし、同じタイヤを履く4WDのパワーステアリングの操作感は、FFに比べやや人工的というか、戻し方向でねっとりとしたフィールを感じた。ステアリング操作のすっきり感ではFFが上まわるかも知れない。
ミニバンの特等席となる2列目席が静粛性も高く快適
185/65R15サイズのタイヤ(全車)を履く乗り心地は素晴らしいのひと言だ。おおらかで、コンパクトミニバンにして大人っぽい乗り味であり(駆動方式にかかわらず)、先代に見られた上屋のフワつき感がなく、フラットかつ路面に優しくピタリと寄り添う乗り心地なのである。
荒れた路面、段差、セブラゾーンに遭遇しても、不快な振動やショック(残り)など皆無に近い。ライバル圧倒の、ちょっと大げさにいえばクラス上のステップワゴンe:HEVモデルに乗っているかのような、ゆとり感、上質さを感じさせてくれるのだ。
プラットフォームは2代目からのキャリーオーバーだが、その徹底した熟成、各部の剛性UPを含めた進化の面目躍如というところだろう。ホンダのミニバンは走りにこだわりすぎて、乗り心地は硬い……そんなこれまでの一部の車種の定説は、この新型フリードで見事に解消されたことになる。
その乗り心地のよさにひと役買っているのが、シートのかけ心地のよさだ。エアーには標準のフルファブリックと、EXグレード用のファブリック×合皮の2タイプのシートが用意されるのだが、どちらも座面、背もたれともに分厚いクッション感と体重でじんわりたわむソファのような心地よさが魅力(全列に及ぶ)で、体重によってサポート性をもたらしてくれるメリットも見逃せないポイントだ。
厳密にいえば、EX用のファブリック×合皮のシートのほうが、さすが、上級仕様だけあり、1/2列目席ともに座面のたわみ量が大きく、より快適でサポート性にも優れたかけ心地になる印象だった(体重65kgの筆者の場合)。それが全列の乗り心地のよさに貢献していると思える。
車内の静かさはもう驚きのレベルだった。先代に対して、遮音・吸音材を増しているのはもちろんだが、3代目フリードでは異例にもダイナミクス、静粛性を、ミニバンの特等席となる2列目席にフォーカスしているという。実際、パワートレインからのノイズ、ロードノイズ、風切り音を含め、クラスを超えた低減が実現されているのだが、それは1/2/3列目各席で実感できるものだった。
よって、1-3列目席の会話明瞭度もレベルアップ。大きな声を出さずに会話できたほどだ(一般道で検証)。それは、EVモードでの走行中だけでなく、エンジンがかかった状態でも、である。
そうした好印象は、4WDモデルでもほぼ変わらない。たとえば、ステップワゴンの場合、FFだとかなり静かに走ってくれるのだが、4WDになるとリヤサスの違いからロードノイズの車内への侵入が気になりがちで(筆者の印象:参考記事→https://www.webcartop.jp/2022/07/911502/)、FF車と静粛性の差があったのだが、この新型フリードでは、エアー、クロスター(こちらのシート座面は全列やや硬め)それぞれで試乗した4WDでも、ステップワゴンと同じFFとのリヤサスの違いはあるものの、FF車同等の静粛性を確認している。
ただし、厳密にいえば、クロスターの2列シートはバックドアが大きく(下に伸びている)、剛性面で不利で、ロードノイズを拾いやすいだろうし、また、ラゲッジルーム左右に設けられたマグネット対応のステンレス製ユーティリティサイドパネルに開いた無数の穴がホイールハウスからの音を透過してしまうデメリットもあるかも知れない。とはいえ、それでも車内は至って静かである(雨の日の水しぶき音の侵入は未経験)。
受注比率15%のガソリン車について報告すると、さすがに市街地でのストップ&ゴーのシーンでは、エンジン音がダイレクトに車内に侵入。e:HEVと比べ、車内の静粛性では見劣りする。もっとも、エンジン自体はけっこうスムースにまわり、CVTは”ブレーキ操作ステップダウンシフト制御”と”全開加速ステップアップシフト制御”も働き、そこからの加速もレスポンスよく、ATのようなシフトアップ感覚で行え、ハイブリッド車より約90kg軽いこともあって軽快な走りが味わえる。
加えて、高速巡行(80km/hでのエンジン回転数は1500回転程度)では、新型フリードの基本的な静粛性の高さもあり、エンジンは黒子に徹する印象となって、そこそこ静かにクルージングすることができた。足まわりのセッティングは専用化されているものの、おおらかな乗り心地、穏やかで安心感ある操縦性は、e:HEVモデルと変わらない印象といっていい。
そうそう、高速走行では余裕をもって運転できる直進安定性、レーンチェンジ性能の高さ、車内の静かさとともに、進化したホンダセンシング、渋滞追従機能付きになったACC(アダプティブクルーズコントロール)、LKAS車線維持支援システムの進化にも注目だ。ACCの減速感、再加速性能の進化を確認。より自然で違和感のない、乗員に不安を与えない減速、歯がゆさのないスムースな再加速性能を実感できた。エアーのEXグレードとクロスターに装備されるブラインドスポットインフォメーションによる接触事故低減効果、安心感も大いに評価したい。
そんな新型フリードは、大きく進化した穏やかで安心感ある走行性能、車内の静かさ、乗り心地のよさはもちろん、リヤクーラーなどの装備、3列目席の格納のしやすさなどを含めた総合商品力の高さは想像以上。ライバルを震撼させる、どころかクラスを超えた魅力に溢れていた。とくにFFモデルはそのハイレベルな快適感から、いつまでも、どこまでも走っていたくなるほどだった。
お薦めグレードは、3列シートならエアーのe:HEV、FF、2列目キャプテンシート、リヤクーラー付きのEX(304.7万円)がイチオシ。新型らしさにもっとも満足できるグレードだからだ(インテリアカラーは車内が明るいグレージュ推奨)。
また、高速走行の機会が多く、オールラウンダーとしての使い勝手を重視するなら、開発陣のひとりが「自身で買うならコレ」と教えてくれた、高速走行時の安定感にさらなる余裕がもたらさせるその4WD(327.8万円)になるだろうか(強風の横浜ベイブリッジで横風安定性の高さを確認)。
そしてアウトドア派、車中泊派なら、迷わず最大ベッド長1840mmを確保できる大空間ワゴンと呼べる2列シートのクロスター(316.25万円~)である。エアー(リヤクーラー装着車)、クロスターともに、愛犬家と愛犬にも最高の1台だと断言したい。いずれにしても、先代以上の完成度でヒット間違いなしである!!
なお、フリードとシエンタのライバル比較、各席空間の実測寸法などは、改めてお伝えしたい。新型フリードの概要についてはコチラを参照してください→https://www.webcartop.jp/2024/07/1397555/