長年「出ては消え出ては消え」の繰り返し……もレクサスLBXがついに打破! 日本車が苦手だった「小さな高級車」苦戦の歴史を振り返る!!

2024.10.20 17:30
この記事をまとめると
■世界的には「小さな高級車」は60年以上も前から存在する
■日本車でも「小さな高級車」を目指したモデルがいくつがあった
■日本車では失敗続きの「小さな高級車」だがレクサスLBXがそんなジンクスを覆しつつある
じつは長い歴史を持つ「小さな高級車」
  小さな高級車を紐解くと、ミニの開発者であるアレックス・イシゴニスが開発し、1962年に登場したBMCのADO16、バンデンプラ社のバンデンプラ・プリンセスが思い浮かぶ。そもそも、ロールスロイスのユーザーのセカンドカー、狭い道を通り抜けられる小さな高級車として開発され、全長3740×全幅1550×全高1370mmのボディの佇まいは凛とした高級車そのもの。
  豪華な室内には最上級のコノリーレザーや、上流階級のためのピクニックテーブルなどが用いられた、真の上流階級向けの、いわばロールスロイスのミニ版、小さな高級車であった。
  バンデンプラ・プリンセスは筆者の年齢的にも乗ったことはないのだが、筆者がモータージャーナリストになりたてのころに実際に試乗したフランスの小さな高級車が、ルノー5(サンク)バカラだ。バカラのネーミングの由来はもちろんフランスのラグジュアリークリスタルブランドであり、ルノー5をベースに内外装を高級化。もちろん、シートはステッチにも凝った本革である。
  5バカラは、筆者が1988年に書いた、おそらく業界初の輸入車に特化した単行本、「ぼくたちの外車獲得宣言」の巻頭カラーページに、VWゴルフGTI、ポンティアック2000GT、ランチア・テーマieターボとともに登場させた。
  この時代の外車としてどうしても紹介したかった1台であり、雨のなか、ラゲッジルームにルイ・ヴィトンのバッグを山積みしたシーンを撮影している。「キミがいて、バカラがいて、降りそそぐ雨が、クリスタルな時を刻む。ふたりはもう、フランス映画のスクリーンの中」なんていうくさいキャッチコピーを添えて(書いたのはボクですが、恥ずかしい……傘を持っているのが筆者です)。
国産メーカーからもリリースされていた!
  両車はもうずいぶん前の小さな高級車だが、日本車にも、小さな高級車を”目指した”クルマはあった(ある)。
  まずは2001年にトヨタが発売した「ブレビス」である。セルシオの小型版ともいえる「小さな高級車」を謳うメルセデス・ベンツCクラスやBMW3シリーズを仮想ライバルとしたトヨタ・プログレの姉妹上級版だ。エクステリアデザインはセルシオを思わせる高級感があり、基本設計もなかなか贅沢なものであった。なにしろクラウンを上まわるクオリティを目指し、全色5層コートの塗装が施されていたほどだったのである。
  インテリアにしても、プログレと異なり、当時としてはかなり高級な仕立てだった。オプティトロンメーター、本アルミをあしらったセンタークラスター、オーディオパネル、ゲート式シフトセレクターなどが奢られ、ウォールナットパッケージのオプションには、当時、センチュリーとセルシオだけに採用されていた本木目パネルが使われていたほど(クラウンでも”木目調”パネルだった)。
  走りにしても、セルシオを生んだトヨタの「小さな高級車」らしく、ロードノイズを含めた車内の静かさはこのクラスの国産車以上、いや、輸入車を含め、群を抜くもので、じつに滑らかな乗り心地を示した。低中速域での安定感たっぷりの走行感覚もまた好印象だったのだ。もっとも、強気の価格設定や保守的なエクステリアデザインから、ブレビスは2001年から2007年までの1代限りで消滅している……。
  2004年には、マツダが”和製バンプラ”を目指した「ベリーサ」が登場している。最大の特徴は、「小さな高級車」をコンセプトとしていたこと。そう、ミニのロールスロイス版(!?)ともいわれたミニ・バンデンプラやルノー・バカラのような狙いをもった5ナンバーサイズのコンパクトカーだったのだ。
  ファミリアのヒットをもう一度……ということで開発され、このクラスとしては大奮発の本革シート(オプションまたは標準装備)、アドバンスドキーなどを採用。フロントシートのフレームは2クラス上のアテンザのものを使っているなど、かなり気合いの入ったクルマともいえたのである。
  もっとも、エクステリアデザインに特別感、高級感は薄く、勝負どころはデミオから受け継がれた運転のしやすさや乗り降りのしやすさ、そして肝入りのインテリアであった。その証拠に、デビュー年の翌年には本革シートを標準装備したグレードを用意し、シックなダークブラウン内装にドレスアップパッケージなどを備えた「Brown Collection」を追加。早くもマイナーチェンジを行った2006年にはインテリアを中心に装備や加飾をさらに充実させ、「小さな高級車」感を高めていく。
  以降、特別仕様車を連発し、最後の特別仕様車として2015年4月にインテリアにレッドのアクセントを加えた「Noble Couture」を発売。同年11月には生産を終了し、2016年3月まで在庫車を販売していたのが、「シンプル・クオリティ・コンパクト」を謳うベリーサの12年弱の歴史であった。
  走ればこの時代からマツダが追求した「ドイツ車っぽい」乗り味を基本としているものの、操縦性、乗り心地、静粛性などに関しては、特筆すべき点のない、控え目な優等生的キャラクターでしかなかったのも事実。この時代、日本において割高感ある「小さな高級車」というジャンルが育ちにくかったことを証明してしまった1台ともいえる。
  しかし、時代の風向きは変わりつつあるかもしれない。それを証明したのが、最新のレクサスLBXではないだろうか。ベースがトヨタ・ヤリスクロスであることは周知のとおりだが、レクサスいわく、新しいコンパクトラグジュアリーカー、レクサスのカジュアルスニーカー、高級車の概念を変えるサイズのヒエラルキーを超えた次世代レクサスモデルとされるキャラクターであり、結論を述べれば、その小さな高級車たる完成度、レクサスらしさには目を見張るものがある。
  GA-Bプラットフォームや1.5リッター3気筒エンジン、基本パッケージなどをヤリスクロスと共用しつつ、じつは同じプラットフォームながらダイナミックなスタイリングを成立させる1825mmの車幅のワイド化、HVシステムの専用化(とくにモーター出力の向上)、ホイールベース、トレッドの拡大、レクサス基準の静粛性や乗り心地、操縦安定性を確保するボディの強化、静粛性への徹底した仕立て、新開発のショックアブソーバーに加え、なんといってもレクサスならではのインテリアの高級化が図られているのがLBXらしさ。
  走らせれば、前席の深吊り工法を採用した、じんわりと腰が沈み込むシートのかけ心地の素晴らしさを始め、HVならではの上質でウルトラスムースな加速感、ロードノイズの遮断を含む車内の世界に誇るレクサス基準の静かさ、そして荒れた路面をそう思わせないほどの乗り心地のよさがあり、まさに、レクサスディーラーの一流のサービスとともに、小さな高級車を手に入れた満足感に浸れる。
  これはヤリスクロスに対して約180万円の価格アップを正当化できる1台といえるかも知れない(感じ方は人それぞれだが……)。「レクサスのカジュアルスニーカー」といっても、LBXはJIMMY CHOOのような高級ブランドの「カジュアルスニーカー」ということだ。

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