新規作用機序を持つ抗がん剤の開発に向け大きな一歩、上場を果たした創薬バイオベンチャーChordiaの夢と挑戦のストーリー

Chordia Therapeutics株式会社は2024年6月14日に東京証券取引所グロース市場に上場しました


Chordia は新作用機序による抗がん剤の研究開発を行うバイオテック企業です。抗がん剤の開発には、標的となる分子の同定、すなわち、がんのHallmark・特徴を明らかにすることが重要です。今日までに12種のHallmarks が見出され、それぞれのHallmark毎に対応するブロックバスター（売上が10億ドル以上、日本円で1,500億円以上）製品が開発・販売され、多くのがん患者様の救命・延命に貢献しています。
このストーリーではChordiaが上場を果たすまでのこれまでの歩みを振り返りながら、社長である三宅と出会い、ともに取り組んだ挑戦について、社外取締役である私、嶋内明彦が、私自身のキャリア経験とともにお話します。

パイプラインの研究開発を進めて、大手製薬企業とも提携し、2度目のチャレンジで上場を達成


最近の研究により13番目のHallmarkとしてRNA制御ストレスが注目され、各社が研究開発に着手しています。Chordiaは当領域で複数のパイプラインを有し、開発競争でトップ・ランナーの位置にあります。CTX-712は自社による日米臨床開発中で、米国の学会などで中間結果報告を行い、注目を集めております。CTX-177は小野薬品工業様とライセンス契約を締結し、契約一時金と最初のマイルストン合計で既に33億円を受領、今後の進捗により合計で最大496億円、販売開始後はロイヤリティを受領します。CTX-177も既に米国で臨床開発が進行中です。


バイオテックの経営は多くの挫折を経験しますが、自助努力と「時の運」に恵まれて成長してゆきます。Chordiaも2023年9月に上場チャレンジを行いましたが、市況の悪化を受けて断念を余儀なくされました。私を含む社外取締役も投資家の面々も、執行部に全幅の信頼を置いてその経営判断を支持、1回目の失敗からの学びを活かし、9か月後の2024年6月に上場を見事に成功させました。この厳しい市況の中でよくやった、あっぱれと思います。フランスの細菌学者であるパスツールの言葉にChance favors the prepared mind（幸運は用意された心のみに宿る）がありますが、Chordiaの上場はまさに万全な準備を整えた会社に時の運が味方した結果だと思います。

三宅との出会い、挑戦する心意気を買って経営指導は報酬なし


Chordia社長の三宅との出会いは今から8年前の2016年に遡ります。ある講演会で「バイオベンチャー（BV）の経営は、一に資金調達、二に資金調達。資金調達の巧拙が成功・失敗に直結」と講演。私は同年1月に再生医療分野のBVを立上げており、建前ではなく実体験談にもとづくビビッドな体験談を紹介しました。三宅から、武田薬品工業からスピンアウトして起業する準備をしているのでアドバイスをと相談されたことが出会いです。

日本は世界に冠たる創薬力を有し、多くのブロックバスター製品を生み出してきましたが、最近はBVの活躍が著しい欧米諸国に後塵を拝しています。欧米ではアムジェンを始め、BVから時価総額で１兆円を超す巨大製薬企業に成長した成功例が多数あります。日本の創薬力向上には日本版アムジェンとなりうるBVの育成が必要です。


BVの成功には、画期的なパイプライン、挑戦心に富んだ優秀な人材、巨額の資金の3要素が必須です。お話を伺うと、武田薬品工業で高品質の前臨床試験を終えた複数のパイプラインを有している、しかも全く新しい作用機序の新薬候補である事。研究開発に従事し新薬開発を夢みる優秀なメンバーがそろっている事。私自身のBV経営経験から、資金調達は十分に可能と確信し、三宅の肩を強く押しました。


勿論、全面的な協力をお約束しました。三宅からは「創業迄は無報酬で」と言われ、この時点で成功を確信しました。初回の資金調達は読み通り日本の有力ベンチャーキャピタル等から12億円の調達に成功、その後、2回目で30億円、3回目で40億円の資金を調達し日米での自社臨床開発を推進し大きく前進する事が出来ました。三宅は創業に成功しても経営グリップを緩めることなく、時給にするとスーパーのレジ担当者並みの条件で、監査役そして社外取締役での協力を求められました。素晴らしい面々との日本版アムジェンを目指しての挑戦が何よりの報酬です。


波乱万丈な人生を歩む、40年のキャリアを振り返る


学生時代から波乱万丈な人生に挑戦したいと思っていました。卒業後、日本の大手企業に就職しましたが、1年で米国の医療機器最大手にヘッドハントされ、日米大企業同士のJV設立準備・立上げに従事。以来、新規事業の立上げ、米国法人の設立と中南米を含む米州の販売網構築、欧州現地法人の立上げと社長兼務。米国では日系医薬企業としては初の本社配当を実現し、業界団体の会長や執行役員も経験しました。
帰国後、当時世界最大のCROに転職し、事業立て直しに挑戦。バイオベンチャー（BV）が注目されはじめ、最後にBVの経営に挑戦したいと思い、M’s Scienceの社長に転職。上場直前まで進捗しましたが武運拙く一敗地に。この経験をもとに、2016年にM&Aによる事業売却をゴールに、再生医療分野でINDEE Medicalを設立。2019年2月に、計画通り設立3年で事業売却に成功しました。Chordiaの上場により、上場直前の失敗、創業と事業売却と貴重な経験をし、波乱万丈だけど充実した人生経験をさせて頂きました。


Chordiaが目指す未来、これからを見据えて


新薬を生み出すためには多額の資金と10年を超える時間が必要です。Chordiaはその道のりの中間程度まで来ているかなと思いますが、まだまだこれからが本当の勝負です。これからは上場企業として、より一層株主利益を意識しながら、新しい抗がん薬を創出して、患者やそのご家族の方が、明日にはより良い治療が受けられると、明日に希望を感じる社会を実現するために、難しい経営判断を下していく必要があります。簡単な道のりではないかもしれませんが、その先には華やかな成功が待っていると思います。私、嶋内明彦が好きなゴルフに例えると、Chordiaには是非ホールインワンを達成していただきたいと思います。ホールインワンの確率は一万分の１程度と言われており新薬開発と同じくらい達成が困難です。それでも、あきらめずにチャレンジを続けることが大切です。最後に私自身が2021年についに達成したホールインワンの写真を載せて、Chordiaにエールを送りたいと思います。