「社会を動かす」AIには取って代われない調査・キャンペーン報道

2024.06.07 12:00
2024.06.07 up提供:RKBラジオ
埋もれたり隠されたりした問題を追及する「調査報道」や「キャンペーン報道」は新聞であれ放送であれ、メディアの根幹をなすものだ。いまも多くの記者、ジャーナリストが取り組み、報道をしている。6月7日、RKBラジオ『立川生志 金サイト』に出演した、潟永秀一郎・元サンデー毎日編集長が、報道が社会を動かした例を紹介した。
「政治とカネ」はスクープによって発覚
AIで世の中は大きく変わろうとしていますが、「調査報道」や「キャンペーン報道」という取り組みはこれからも変わらない、AIでは置き換えられない、報道の役割だと思います。

現に今、政界を揺さぶっている「パーティ券裏金問題」にしても、きっかけは2022年11月に「しんぶん赤旗」が報じた「自民党5派閥がパーティ券収入の一部を隠蔽」というスクープ記事でしたし、約30年前、1990年代の「平成の政治改革」のきっかけになったのも、1988年6月に朝日新聞が報じた「川崎市助役へ1億円の利益供与疑惑」というスクープ、いわゆる「リクルート事件」の発覚でした。

平成の政治改革で、政治家個人への企業・団体献金は禁じられましたが、パーティ券をはじめとする献金の抜け道や、使い道の分からない政策活動費というブラックボックスは残り、その残された「穴」をふさごうというのが、今国会の焦点、政治資金規正法の改正でした。
政治家が自ら代表の支部に寄付し税優遇
6月6日に、衆議院を通過した結末については後で触れますが、議論の終盤「こんなことまでやっているのか」と世間に知らしめ、改正法で禁じざるを得なくなった“脱法行為”の調査報道がありました。「政治家が、自らが代表を務める政党支部に寄付をして、税金の控除を受けていた」という問題。5月27日、毎日新聞のスクープでした。

安倍派裏金で税優遇か 菅家氏、自ら代表の支部に1201万円寄付https://mainichi.jp/articles/20240526/k00/00m/010/142000c

手口はこうです。租税特別措置法には、「個人が政党や政治資金団体に寄付した場合、寄付額の約3割が税額控除されるか、課税対象の所得総額から寄付分が差し引かれる」という仕組みがあります。「政党等寄付金特別控除」制度と言い、政党などへの個人献金を促し、国民の政治参加を推し進める目的で1995年に導入されました。当然ながら、法律が想定しているのは「第三者からの寄付」です。

ところが、法の趣旨に反した“抜け道”があったんです。それが先ほど言った「政治家が、自ら代表を務める政党支部への寄付」です。租税特別措置法には「寄付をした者に特別の利益が及ぶ」場合は優遇措置を受けられないと定められ、財務省は政治家が自分の後援会に寄付したり、政治家同士がお互いの後援会に寄付し合ったりしても、税金の控除対象にはならないと、国会答弁しています。

ただ、寄付先が政党支部だった場合はあいまいで、財務省の担当者は毎日新聞の取材に「支部とは言っても政党であり、政治家個人(支部長)にだけ利益が及ぶとまでは言い難い」と話しています。要するに、いいともダメだとも言っていない、まさにグレーゾーンで、後は政治家の倫理観にゆだねられていました。

すると、いたんです。この抜け道を使っていた議員が。毎日新聞が情報公開制度を使って調べた結果、少なくとも5人。いずれも自民党の国会議員です。このうち衆議院比例東北ブロック選出の菅家(かんけ)一郎・元復興副大臣は、2022年までの5年間で1289万円を自らが支部長を務める政党支部に寄付し、148万円あまりの所得税の控除を受けていたことを認めました。

しかもこの寄付、元はと言えば所属していた安倍派からのキックバック、つまり裏金収入だったんです。ひどくないですか。裏金自体、立件されなかったとはいえ違法行為なのに、さらにそれを自分の政党支部に寄付して税の控除まで受けるなんて。二重の背信行為です。

また、控除を受けたことが判明した5人のうちの一人、衆議院香川1区選出の平井卓也・自民党広報本部長は2020年に1000万円を同様に寄付し、控除を受けたことを認めたうえで、「おそらく同じようなことをされている議員はたくさんいる」と、出演したテレビ番組で明かしました。現職の党幹部の発言は居直りにも聞こえる一方、脱法行為の広がりを認めたともいえ、波紋を広げました。
法の抜け道を塞いだスクープ
あらためて思い出してください。一連のパーティ券裏金事件です。自民党の調査に、裏金を「受け取った」と答えたのは85人。けれど、このうち東京地検特捜部に立件されたのは3人だけで、残る82人は見送られました。しかも収支報告書の修正だけで、非課税の政治活動費に使ったからと課税すらされませんでした。

以前も言いましたが、私たち一般国民が所得隠しをしていたと明らかになった時、税務署は見逃してくれますか? それが政治家だったら、政治活動に使ったと言えば許されるんですか? その怒りが噴出して、政治資金規正法改正の議論が行われる中で明らかになった、新たな“特別扱い”です。それも、平井氏の言によれば「たくさんいる」らしい。冗談じゃありませんよね。

さすがに、これはまずいと思ったのでしょう。森山政調会長をはじめ、ほかの党幹部からも、この寄付控除のやり方には苦言が相次ぎ、政治資金規正法の改正案に盛り込まざるを得なくなりました。元はと言えば維新が国会で問題視し、立憲と国民民主が改正の共同案で求めた内容を事実上、丸呑みする形です。その意味では、このスクープは法の抜け道を一つ塞いだとも言え、身内びいきと言われるかもしれませんが、見事な調査報道だと思います。

そして今日(7日)、毎日新聞は朝刊1面で立憲民主党の吉田統彦(つねひこ)衆院議員(比例東海ブロック)も2020年から22年に同様のやり方で計5000万円を寄付し、控除を受けていたと報じました。立憲民主党は政治資金パーティ問題でも、全面禁止を求めながら岡田克也幹事長らが開催を予定していることが分かり、中止に追い込まれましたが、まず自らを律しなければ支持は広がらないでしょう。

立憲・吉田統彦氏も税優遇 党支部に5000万円寄付「原資は身銭」https://mainichi.jp/articles/20240606/k00/00m/010/334000c
有権者が求めていた法改正になっていない
さて、さまざまな混乱続きの中、自民、公明、維新の賛成多数で衆議院を通過した規制法の改正案が、果たして国民が求めたものかと言えば、疑問符を付けざるを得ないと、私は思います。

確かに公明党との協議で▽パーティ券購入者の公開基準が「10万円を超える」から「5万円」に引き下げられ▽政策活動費の内容をチェックする第三者機関を設置する――ことになり、維新との協議で▽党から議員に支給される政策活動費に年間の上限を設け、領収書などを10年後に公開することや▽国から国会議員に支給される旧文書交通費の使途公開と残金返納――などが追加されました。

ただ、「政策活動費をチェックする第三者機関はどういう組織で、いつできるのか」は何も決まっておらず、10年後に領収書などが公開されて違法な支出が分かっても、政治資金規正法違反の時効は5年なので法的に罰せられない可能性もあります。

また、そもそも裏金問題発覚後に野党側が求めていたのは▽収支報告書に虚偽記載などがあった場合、会計責任者と共に議員も罰せられる「連座制」の導入▽企業・団体献金の禁止▽不透明な政策活動費の廃止――の3本柱だったはずですが、いずれも実現しませんでした。

有権者が今回の成案をどう受け止めるのか、おそらくは月内に報道各社が行うであろう世論調査で評価が見え、最終的には次の総選挙で審判が下されます。一方で、今回の法改正が本当に政治資金の透明度を高めるのか、ごまかしや先送りはないか、そもそも守られるのか――メディアには継続的な取材が求められていると思います。大事なのは、共に「忘れない」ということですね。
キャンペーン報道でヤングケアラー支援法が成立
もう1本。また毎日新聞で恐縮ですが、こちらは6月5日朝刊の1面トップ、「ヤングケアラー支援法成立へ」という記事です。法案が国会の委員会を通過した、というニュースなので特ダネではありません。それでも朝、新聞を見て、私はちょっと目頭が熱くなりました。

それは、「ヤングケアラー」という言葉も存在もほとんど知られていなかった4年前から、若手を中心とした取材班がコツコツとキャンペーン報道を続けた、一つの到達点だからです。

ヤングケアラー支援法成立へ 地域格差、解消期待
https://mainichi.jp/articles/20240605/ddm/001/040/133000c

「ヤングケアラー」とは、病気や障害のある家族の介護や世話を担う子どもや若者のことです。家族だから「手伝い」としか見られずに社会的支援もなく、友達と遊ぶことや部活動もできず、それどころか学校も休みがちで進学を諦めたり、自分が疲れ果てて病んだりしてしまうケースもありました。社会の陰に埋もれていた彼ら彼女らの存在と実態を世に伝え、社会を動かしたきっかけの一つが、この報道でした。

取材班の報道に全国の支局も連動して自治体や地元の動きを追い、この4年間に毎日新聞が報じた関連記事は優に300本を超えます。有名なミュージカル俳優の山崎育三郎さんが「僕もヤングケアラーだった」と明かしたインタビュー記事や、親や祖父母の介護だけでなく、実は親に代わって幼い弟や妹の送迎や食事など「保護者役」を担っている子どもが多いことを報じた記事など、大きな反響を呼びました。

そうしてついに国が動き、その支援を明文化した「子ども・若者育成支援法」の改正案が6日、参院本会議で可決・成立しました。前日、5日の朝刊は1面だけでなく、社会面のトップも関連記事でした。

小学3年生から祖母とお母さんの介護を担い、定時制高校に進み、祖母を看取った後も寝たきりになったお母さんの介護で就職もかなわず、7年前に亡くなるまで30年もの介護生活を送った45歳男性の実名インタビューです。

でも、決して暗い話ではなく、一人になった彼を救ってくれたNPO法人の仲間たちが、行けなかった修学旅行の夢を叶えてくれた、という内容です。小6の時、修学旅行から帰った同級生たちが、記念写真を選びながら楽しそうに語る様子を見て家に帰り、お母さんに心配をかけまいと布団にくるまって泣いた。

あの日から31年、43歳の時に生まれて初めて家を離れ、東京に旅行した想い出。今は働きながらNPO法人のスタッフとして各地で講演するなど、ヤングケアラーの存在を伝えています。支援のため、福祉の仕事に就きたいという夢もできました。胸を打つ記事なので、ぜひ毎日新聞デジタルで読んでいただければと思います。

身びいきと取られたら、ごめんなさい。でも、新聞の部数も読者も減り、ネット上では時に「マスゴミ」と批判されながら、それでもいま紹介した二つの記事のように、不正を糺(ただ)したり社会をよくしたりしたいと頑張っている後輩たちがいることに救われますし、誇りに思います。もちろんそれは毎日新聞だけでなく、多くのメディアがそうだと信じています。どうか、見て、聴いて、読んで、応援していただければ幸いです。
◎潟永秀一郎(がたなが・しゅういちろう)
1961年生まれ。85年に毎日新聞入社。北九州や福岡など福岡県内での記者経験が長く、生活報道部(東京)、長崎支局長などを経てサンデー毎日編集長。取材は事件や災害から、暮らし、芸能など幅広く、テレビ出演多数。毎日新聞の公式キャラクター「なるほドリ」の命名者。
立川生志 金サイト放送局:RKBラジオ放送日時:毎週金曜 6時30分~10時00分出演者:立川生志、田中みずき、潟永秀一郎
出演番組をラジコで聴く
立川 生志田中 みずき
※放送情報は変更となる場合があります。

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