この記事をまとめると
■ホンダがEVの軽商用バン「N-VAN e:」を発表した
■見た目はエンジン版とほぼ同様ながらタイヤやサスペンションを独自開発
■ひとり乗りの「e: G」は250万円以下であり最上級の「e: FUN」でも300万円未満
運送事業者向け「LEVO補助金」は1台あたり約100万円
2023年秋のジャパンモビリティショーに展示されるなど、その存在が明らかとなっていたホンダの軽商用EV「N-VAN e:」が、ついに正式発表された。発売日は2024年10月10日ということで、公道を走る姿を見かけるようになるのは少し先となるが、公表された各種スペックや実車を確認してわかったことなどをお伝えしよう。
ティザー情報の段階で前後タンデムに座る2シーター仕様が用意されることが話題を集めていたが、気になるグレード構成と注目の価格は以下のように発表された。
e: G(1人乗り)243万9800円/254万9800円(急速充電対応) e: L2(2人乗り)254万9800円/265万9800円(急速充電対応) e: L4(4人乗り)269万9400円/280万9400円(急速充電対応) e: FUN(4人乗り)291万9400円(急速充電対応)
このうちe: Gとe: L2は本田技研工業法人営業部およびオンラインストア「Honda ON」限定グレードで、販売形態もリース専用となる。一般ユーザー向けではないが、逆にラストワンマイルを担う運送業・宅配業において主流となるのは、この2グレードだろう。
意外に知られていないが運送事業者においては、一定の条件を満たすことで商用車の電動化促進事業に基づく「LEVO補助金」を受けることができる。発売前のために正確な補助金額は非公表となっているが、N-VAN e:に期待できる金額は、1台当たり約100万円ということで、ビジネス面からも現実的なコストでの導入が可能といえそうだ。
なお、事業用ではなく自家用とする一般ユーザーでは、EVの購入という話になると、おなじみのCEV補助金が期待できる。こちらは最大55万円と、軽自動車としての最大額が給付される見込みということだ。ガソリンエンジンのN-VANでも個人ユーザーが多い、レジャーユースメインのFUNグレードにおいても、240万円を切る価格での購入が可能というわけだ。
ゼロエミッションで走ることのできるEVであり、ランニングコストについてもガソリンより有利であることが期待できるN-VAN e:だが、ともすればNーVANのエンジンやトランスミッション、そして燃料タンクを下ろして、モーターやバッテリーを積んだだけの、いわゆるコンバージョンEVと思われがちだ。しかし、そうした認識は間違いだ。
たしかに助手席がBピラーレスの大開口となっている特徴的なボディの基本はエンジン車のN-VANと共通だ。
しかし、エンジン車では12インチサイズのタイヤがEVでは13インチになっていたりする。これは主にバッテリー搭載による重量増に対応したブレーキシステムを納めるための、本来的な意味でのインチアップなのだ。
あわせてサスペンションセッティングも専用とすることで、乗り心地とハンドリングを向上させているというから、公道で試乗できる日が楽しみだ。
エンジン版と同様の使い勝手をEVでも提供するのがコンセプト
フロントグリルは、普通充電と急速充電の各ポートを納めるふたつのリッドが並んでいるが、その素材にバンパーを粉砕したリサイクル材を使っているのは特徴。バンパーのかけらをあえて意匠として取り込むことで、世界にひとつだけのグリルデザインとしているというエピソードもオーナー心をくすぐるポイントとなりそうだ。
インテリアについても、コンテナをモチーフとした形状のトリム(ドアやラゲッジ壁面)をN-VAN e:用に起こすなどしている。また、床下にバッテリーを積みつつ、荷物を最大限積めるようにひとり乗り・ふたり乗りのフロアパネルは専用設計になっているなど、随所にこだわりが詰め込まれている。
EVのスペックとしては、最大の注目ポイントといえるバッテリー総電力量と一充電航続距離は、それぞれ29.6kWh、245km(WLTCモード)となっている。約30kWhというバッテリー総電力量は、過去を振り返ると初代リーフの後期モデル並であり、軽商用車として競争力のある価格帯で、これほどのバッテリーを積んだことは、かなり意欲的といえる。
ただし、このバッテリー総電力量はオーバースペックを狙ったものではない。ヤマト運輸と共同で行った実証実験において、宅配業務にストレスのない使い方を追求した結果としての29.6kWhということだ。
このバッテリーは、ホンダとしては初のパウチセルタイプ(レトルト食品のような形状)のセルであり、水冷式とすることでバッテリーを冷やしたり暖めたりして性能を引き出すようになっている。これも、タフな使われ方をする商用車らしい設計思想といえよう。
最上級グレード以外は急速充電をオプションとしているが、じつは充電性能も高いスペックを誇る。普通充電はスタンダードな3.2kW充電に加えて、高速な6.0kW充電にも対応。電欠寸前といった状態からでも4時間半もあれば6.0kW普通充電で満充電まで回復できるという。CHAdeMO急速充電が50kWまで対応しているのも、軽自動車のEVとしてはハイスペックだ。
モーター性能についてもこだわりが感じられる。4人乗り仕様の最高出力は47kWとガソリンターボ同等で、最大トルクは162Nmとガソリンターボの1.5倍以上を誇る。しかしながら、「配達業務で使うにはパワーがあり過ぎても乗りづらい」という声に応えて、e: Gとe: L2の両グレードについては、最高出力を39kWに抑えている。
こうした作り込みを見ても、N-VAN e:がまったく新しい軽商用車として生み出されていることが感じられるのだ。