米と伊の一流ブランドがコラボした奇跡のクルマ……かと思ったら大ゴケした「クライスラーTCバイ・マセラティ」

2024.06.01 17:20
この記事をまとめると
■クライスラーはかつてマセラティとコラボしたクルマを手掛けていた
■オープン2シーターでソフトトップとデタッチャブルトップの双方を標準装備していた
■セールスは大失敗といえるほど不発に終わった
アメ車とイタ車がくっついた!?
  フォードで最年少役員となって、ついには社長の座をゲットしたリー・アイアコッカは、ご存じのとおり両親がイタリアからの移民でした。それゆえ、アルゼンチン系イタリア人のアレハンドロ・デ・トマゾとの親交など、イタリアを贔屓するのは当然のことだったでしょう。
  たとえばデ・トマゾにフォードのエンジンを供給したことによって、パンテーラ(全米のフォード・ディーラーで販売されました)や、ロンシャンなどクルマ好きが忘れられないモデルが数多く生み出されたのです。 が、アイアコッカがフォードを追われ、クライスラーのトップについてからのコラボレーションとなるといささか様子は異なります。アメリカ製シャシー&エンジンをイタリアンボディで包むというイケてるアイディアだったのに、どうにも売れなかった悲劇のモデル、それがクライスラーTCバイ・マセラティです。
  1978年、フォードを解雇されたアイアコッカはすぐさまクライスラーからお呼びがかかり、同社の社長にまんまと就任。すると、コンパクトシリーズのKカーや、いまでも人気のミニバンをヒットさせ、周囲は「さすがフォードで辣腕をふるっただけのことがある!」と大絶賛。当然、社内での権勢はとどまるところを知らず、なんでもかんでも思いのままに振る舞っていたそうです。むろん、その間もデ・トマゾとの親交は続いており、1984年には彼が所有していたマセラティの経営危機に援助の手まで差し伸べていました。
  ちょうど、そのころにアイアコッカはクライスラーの顔となるモデル、いわゆるハローカー(Hallo car)の開発を決定。ここにデ・トマゾが「だったらオレにやらせてよ」と手を挙げたのか、クライスラーとマセラティのコラボレーションがスタートしたのです。
  ただし、役員会はハローカーをあくまで「Kシリーズのテコ入れ」モデルとすることを強く求め、アイアコッカ社長はしぶしぶKカーのエンジンやシャシーを使うことを承諾。このとき、デ・トマゾは「なんだったらまたフォードに頼むか」と悪い冗談をとばしたとか。
  Kカーは前述のとおり、モーターパーク(同社のディーラー、略してモパー。アメリカではひところクライスラーはモパーと呼ばれていたそうです)のヒット商品、つまり大衆向けの廉価モデルというポジション。ゆえに、エンジンだって2リッターくらいの省エネ型ですから、デ・トマゾがせせら笑うのも仕方ありません。
  それでも、このエンジンにターボを装備した「ターボⅡ」を搭載し、なんとか面目を保つことに。シャシーはこれまたダッジ・デイトナというマイナーモデルから拝借し、Kシリーズっぽく全長を切り詰めるというパッケージング。
  そして、ボディはマセラティがプロデュースしたオープン2シーターで、ソフトトップとデタッチャブルトップの双方を標準装備というメルセデスベンツSLを意識したつくり。それでも、当時のマセラティ・ビトルボシリーズに一脈通じるエッジの効いたデザインで、いまとなってはエモいと表現できるスタイルかと。
  1986年、ロサンゼルスショーでクライスラーTC(ターボ・コンバーチブルの略)バイ・マセラティはついに発表され、居合わせたアイアコッカとデ・トマゾの仲良さげな写真が撮られています。
  が、発売はイタリアンジョブの例にもれず2年待ち(笑)。ようやく1988年に路上を走り始めたのですが、やっぱりタイミングは悪くて、前年の1987年にGMのキャデラック・アランテ(こちらもアメリカ製エンジン&シャシーをピニンファリーナの工場で生産し、アメリカに空輸するという荒業)が登場しちゃってたんですね。
あの手この手でテコ入れするも大失敗
  また、3万3000ドルという値段も販売の足を引っ張った模様で、似たようなコンセプトのクライスラー・ルバロンのほぼ2倍となると、モパーファンといえども躊躇するのは無理もないところ。
  で、アイアコッカはKカーのテコ入れだったはずのクライスラーTCバイ・マセラティをさらにテコ入れしなければならない羽目に。500台限定でヘッドカバーにマセラティの文字が鋳込まれたエンジンを搭載したモデルを作ったのですが、ピストンはマーレ、クランクシャフトはカリフォルニアのクレーン、タービンはIHIというオールスター! しかもバルブヘッドをコスワースが16バルブへとカスタムという、いかにもデ・トマゾ好みなチューニングが施されていました。
  が、それでも2.2リッターターボのパンチ力はアメリカ人には効き目が薄かった。ついにアイアコッカが当時の提携先だった三菱から3リッターのV6エンジンを仕入れたものの、起死回生に至ることなく生産中止の憂き目となりました。
  当初、月販5000~1万台を目論んでいたのですが、蓋を開けてみれば総生産台数7800台(1989~1991)という目も当てられない売上げ。フォンドメタル製オリジナルメッシュホイールを履かせたり、ネプチューンの鉾をクライスラーの五角形マークのなかに入れたり、あるいはヨーロッパメイドらしい艶感のクロームとか、決して出来栄えは悪くないのに!
  おそらくは、逆パターンのほうが良かったのかもしれませんね。つまり、クライスラーのエンジンでなく、マセラティのカリカリチューンをルバロンみたいな大人っぽいボディにぶち込むってアイディア。
  切れ者のアイアコッカやデ・トマゾの悪知恵をもってしても、クライスラーTCバイ・マセラティはどうにもパッとしなかったとは、なんとも切ないお話です。

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