「ある日突然、難民になる」ー池澤夏樹が“今”どうしても書かざるを得なかった1冊『ノイエ・ハイマート』本日発売!

2024.05.30 11:00
株式会社新潮社
史上初の個人編集版「世界文学全集」「日本文学全集」全60巻を10年にわたって編纂し、昨年、新たな代表作『また会う日まで』を上梓した池澤夏樹さん。氏が「今」どうしても書かざるを得なかった1冊、『ノイエ・ハイマート』を5月30日、新潮社より刊行いたします。
■現在も増え続ける3530万人*1の難民         *1 UNHCR調べ(2022年末時点)

「ノイエ・ハイマート」とはドイツ語で「新しい故郷」を意味する言葉です。ベルリンには「ノイエ・ハイマート」という名の再開発地域があり、その近くの古い労働者住宅には、現在、多くのシリア難民が暮らしています。

ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への侵攻が継続するなか、命をおびやかされ、住む家を失い、「新しい故郷」を探し求める難民が増え続けています。                     

■今だからこそ書かざるを得なかった

ギリシャや沖縄、フランスで暮らし、シリア、カンボジア、セルビアなど旅や取材で世界中をめぐってきた池澤さん。アメリカのアフガニスタン侵攻に際し、アフガン難民をめぐる原稿を初めて発表してから20数年。日々悪化の一途を辿る難民の苦難を前に書かれた渾身の一冊が本書『ノイエ・ハイマート』です。これまで積み上げてきた経験のすべてを結晶させた言葉の数々が、一人一人の難民の姿を照らし出していきます。

■命を落とした2人の男の子

「難民になる」とはどういうことなのでしょう。本書には、「新しい故郷」を求める過酷な行程で命を落とした子供たちの姿も描かれています。

2015年9月、トルコの海岸に小さな子供の遺体が打ち寄せられました。乗っていた船が難破し、冷たく塩辛い波の中で命を落としたのは3歳のアイラン・クルディ。家族に愛されたクルド系シリア人の難民の男の子でした。

1945年8月、第二次世界大戦の終結前夜、ソ連軍の攻撃を避け、満洲から逃れる母と子供たち。疎開先の朝鮮半島で敗戦を迎えたものの、日本への帰国をまえに幼い末息子が力尽きます。「ぼくを穴の中に埋めないでね」と言い残し、息を引き取ったのです。

■文芸作品だからこそ可能だったこと

さまざまな時代や地域の難民たちが描かれるなか、メインストーリーとして、日本人のビデオ・ジャーナリスト至(いたる)と、同業のシリア人ラヤンの物語が断続的に展開します。ヨーロッパを目指すシリア難民を追う二人、さらにクロアチア、アフガニスタン、カンボジアなど、世界各地で戦禍や迫害によって難民となった人たちが登場します。

本書は、完全なフィクションでも完全なノンフィクションでもありません。難民となり、「ノイエ・ハイマート」=「新しい故郷」を求める人たちの、筆舌に尽くしがたい経験。彼らの姿を、連作や短篇、詩や引用など、さまざまな形式の20章で映し出していきます。
あらゆる形式を包み込む文芸作品だからこそ、彼らのリアルな姿、語られない心情に触れることが可能となったと言えるでしょう。

ある日、日常が暗転する。突然戦争が始まり、市街地に爆弾が落ちてくる。家を、家族を、故郷を失う。ここにある物語の数々は、そんなに遠い世界の話ではありません。いつでも、どこでも、誰にでも起こりうることなのです。


■著者紹介
池澤夏樹(いけざわ・なつき)

1945年、北海道生まれ。埼玉大学理工学部物理学科中退。東京、ギリシャ、沖縄、フランス、札幌を経て、現在安曇野在住。1984年『夏の朝の成層圏』で作家デビュー。主な作品に『スティル・ライフ』(芥川賞)、『母なる自然のおっぱい』(読売文学賞)、『マシアス・ギリの失脚』(谷崎潤一郎賞)、『楽しい終末』(伊藤整文学賞)、『静かな大地』(親鸞賞)、『花を運ぶ妹』(毎日出版文化賞)など多数。「池澤夏樹個人編集 世界文学全集」「同 日本文学全集」を編纂(それぞれ毎日出版文化賞)。2007年、紫綬褒章、2011年、朝日賞、2021年、フランス芸術文化勲章オフィシエ、2023年、早稲田大学坪内逍遥大賞。近刊に長篇小説『また会う日まで』、エッセイ『天はあおあお 野はひろびろ』。

■書籍データ
【タイトル】ノイエ・ハイマート
【著者名】池澤夏樹
【発売日】2024年5月30日
【造本】四六判
【定価】1980円 (税込)
【ISBN】978-4-10-375310-0
【URL】

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