親亡き後、障がいのある我が子は?「老障介護」の現実とその家族の日々を見つめたドキュメンタリー番組 テレビ新広島が問題と向き合い続ける理由と取材ストーリー 

2024.05.25 11:30
番組で取材した九内さん一家。左から父 康夫さん・長男 誠洋さん・次男 勇輝さん・母 知子さん


障がいのある子どもを持つ親は、誰もが、「自分たちがいなくなった後、子どもを受け入れてくれる場所はあるのか?」という不安を抱えています。不寛容になったと言われる社会はこの現実にどう向き合うのか・・


TSS(テレビ新広島)は2022年からこの問題を継続して取材をしてきました。そして今回、居場所を探し求める家族の日々を見つめたドキュメンタリーを5月25日(土)に放送し、番組終了後にはアーカイブ配信しています。
番組アーカイブの視聴はこちらから
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このストーリーでは番組制作を通じて出会ったご家族を紹介するとともに、TSS(テレビ新広島)がなぜ、かねてより障がいのある子どもの問題について取材を続けているのか、そのきっかけとなった出来事や経緯についてお話します。
制作チーム 左から撮影・編集 :水重良紹/ ディレクター:高橋徹 / 企画構成プロデューサー:田中浩樹
高齢化するニッポン、「老障介護」の現実
高齢化社会を迎えた日本。高齢の夫婦などが一報を介護する現状は「老老介護」と呼ばれ、家族共倒れになったり介護疲れは大きな社会問題となっています。こういった現実とともに、もう一つの介護問題があるのをご存じでしょうか。それは「老障介護」と呼ばれるもので、文字通り、年老いた親が障がいのある子どもを介護することです。


TSS(テレビ新広島)がこれまで出会ってきたのは高齢ながらも障がいのある我が子の生活のほぼすべてを介助している家族たちでした。その1人、林田亜紀さん49歳、重い身体障がいと知的障がいもあり、話すことができません。亜紀さんを介護するのは父、勝美さん(75歳)と母、絹子さん(75歳)。亜紀さんにとって両親は自分の意思が通じる唯一の存在です。ささいな仕草から亜紀さんの気持ちを読み取り、話せなくても心を通わせることができます。取材をしている私たちにも「親」の「子」を思う気持ちがたくさん伝わってきました。


両親がいま抱えている不安。それは自分たちが確実に老いていくという現実です。両親がいなくなった後、亜紀さんは施設で暮らさないといけません。いつか訪れるその日のために両親ができること、それは、娘が1人で生きていくための準備です。
父 勝美さん(75歳)の介護を受ける娘 亜紀さん(49歳)
国が掲げる「障がい者を地域で支える」という理想と現実の狭間で
自分たちが亡くなった後のことを考え施設を見学した勝美さんに同行しました。そこには充実した設備が整っていても、入れない現実がありました。施設側も「今すぐ入りたいという家族は全国的に多い」と言います。この施設では常に50人ほどの障がい者が入所を待っているといい、入所者が亡くなるか、もしくは病状が悪化して他の施設に移動する以外、基本的に施設に長期で入ることはできません。2023年10月の時点で、広島県の入所施設に入所を希望する障がい者は1,728人いて、すぐに施設に入ることはできません。


施設が不足している理由…、それは、国が示したある方針です。国は障がい者の受け入れを「入所施設」から「地域のグループホームや自宅」へ移行し、健常者と同じように障がい者が地域で自立して暮らすよう政策を進めています。一見耳障りのいい政策ですが、グループホームは国からの報酬が少なく、重い障がいのある人の受け入れは難しい現状があります。家族が年を重ねていくなか、親亡き後、子どもの居場所が見つからない過酷な現実があることが分かりました。
番組で取材した障がい者の入所施設
居場所を彷徨う弟を支えるため 就職活動に挑む障がい者の兄
そんな中、我々は兄弟ともに障がいがある九内さん親子と出会いました。兄の誠洋さん(21)は「あれ」や「それ」など抽象的な言葉を理解するのが苦手で、2歳の頃、自閉症と診断されました。一方、弟の勇輝さん(19)には知的障がいがあります。勇輝さんは一日の大半、部屋の中を飛び跳ね、歩き回ります。勇輝さんの生活音は周囲の部屋に響く可能性がありますが、両親は止めることができません。さらに、勇輝さんには物を壊したり、自分の体を傷つけるなどの強度行動障がいがあり、突然、大声で叫びながら部屋の壁だけでなく、制止する家族の体をたたき続けます。


将来、両親がいなくなった後、障がいのある弟を見守るのは自分しかいない。兄の誠洋さんは弟を支えたい気持ちから就職活動に臨みました。誠洋さんは障がい者が仕事をするために必要な専門知識を学ぶ施設に通い、プログラミング技術をいかし民間企業の障がい者雇用枠の就職を希望しています。しかし…試験を受けた10社以上の企業から採用の知らせは来ないままです。
「精神障がい者のイメージとしてかんしゃくがあったり手が出るイメージがどうしてもある。殴るイメージがある人を雇いたくないという気持ちは自分が雇う側の立場としても自然なこと。でも、言っていてつらいな」と語る誠洋さんの言葉が我々の胸に刺さりました。
就職活動をする兄 誠洋さん
きっかけはニュース番組企画から
TSS(テレビ新広島)が障がいのある子どもとそのご家族を見つめ続ける理由とは
障がい者の活躍を取り上げた番組やニュースを見るたびに、感じていたこと。それは「障がいのある子供を抱える親たちは、年齢を重ねていく子供を見ながら、何を感じ、その後どうしていくのだろう」という思いです。障がい者自身を主人公にするのではなく、親の目線でこの問題を見たとき何が見えてくるのか?その漠然とした思いがスタートのキッカケでした。


障がい者を受け入れる社会の姿は、不寛容な空気が広がる今、我々に突きつけられた課題です。このデリケートな取材に対応できるディレクターは、前年に別のドキュメンタリー番組の制作で組んだ高橋ディレクターしか思いつかず、夕方のニュース番組の特集という形で様々な障がいのある子供を持つ家族を取材してきました。(企画構成プロデューサー:田中浩樹)

「この子より先には死ねない…」取材で出会った親たちが漏らした言葉です。親が亡くなった後、子供の行き場がないことに衝撃を受けました。親たちは死ぬまでの時間も、子供を心配しながら生きていかないといけない。そして「老障介護」の家庭がどのくらいに上るのか、国はまだ実態調査を行っていません。行き場をなくした障がいのある子供がいるという現実を、多くの人に、まずは知ってもらいたいと思います。(ディレクター:高橋徹)
「理想」の福祉制度に翻弄される家族
障がいのある子どもと、年老いていく親。そして、これから生れてくる障がいのある子どもたちが彷徨うことなく暮らせる社会とはどうあるべきなのか。
いつか必ず来る、別れの日。国が目指す「地域で支える」という理想の影で家族は今日も居場所を求め続けています。家族に突きつけられた「日本の福祉」の現実を見つめたドキュメンタリー番組をテレビ新広島では5月25日(土)10時25分に放送。放送終了後もYouTubeでアーカイブ配信をしています。


このドキュメンタリーを通じて、「日本の福祉」の現実を知る一助になることを願っています。
番組アーカイブの視聴はこちらから
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