登場しては消滅……の連続! 走りはいいんだけどなぁ……な「低全高ミニバン」4台と今は見かけないワケ

2024.05.02 13:00
この記事をまとめると
◾️ミニバンブームの最中には、あえて全高を低くして他車種との差別化をはかった車種が存在した
◾️低全高ミニバンは実用性はそのままに走行性能も大事にしたいユーザーからは支持された
◾️ミニバンには居住性を求めるユーザーが多く、ヒット作となった低全高ミニバンはごく一部だ
ミニバンだからといって背が高いとは限らない
  ミニバンと聞いて、たとえばトヨタ・アルファードやノア&ヴォクシー、ホンダ・ステップワゴン、日産セレナといった、ボックス型で両側スライドドアを備えた背の高いクルマを想像する人がほとんどだろう。
  しかし、かつてはそうした高全高ミニバンに対抗する、低全高を売りにしたリヤヒンジ式ミニバンも数多く存在したのである。それは、高全高ミニバンに対して、室内の広さ、天井の高さより低重心パッケージで走りにも振った、運転好き・走り好きユーザーのための多人数乗用車というものだった。いや、空前のミニバンブームのなか、さまざまなミニバンの選択肢を用意し、より多くの人に3列シート車を買ってもらいたい……という自動車メーカーの策略もあったに違いない。
  その車種の多くが、走りで売るホンダ製というのも、なるほど頷けるというものだ。ここでは、立体駐車場への入庫も容易な、全高1550mm以下の国産ミニバンに絞って、低全高ミニバンを振り返ってみたい。
  国産初の低全高ミニバンが、ホンダのクリエイティブムーバーとして1994年に初代が登場したオデッセイの、2003年デビューの3代目である。1~2代目のまっとうな高全高ミニバンパッケージに対して、いきなりの全高1550mmである。2代目オデッセイのアブソルートV6に乗っていた筆者が3代目を買わなかったのは、やはり室内空間がミニバンらしくないことが理由だった。
  しかし、低全高・低重心を生かした走りっぷりは、ミニバンの皮をかぶったスポーティカーというもので、パワーユニットこそ2代目までにラインアップされていた3リッターV6はなくなり、アコードなどと共通のK24A型、2.4リッター直4DOHCのみになったものの、アブソルートは標準車の160馬力に対してハイオクガソリン仕様となり200馬力を絞り出すなど、まさに走りのミニバンだったのである。
  ちなみに5代目オデッセイ登場時に開発陣に聞いたところによると、2013年時点でもっとも残存率が高いオデッセイが3代目だったとのことだった。それもそのはず、スポーツカー、スポーティカーの走りを諦め切れないファミリーマンにとって、アブソルートは最高、最善の選択だったのである。
  そして2008年登場の4代目オデッセイは、ミニバンとしての高級感を増すとともに、全高をさらに低い1545mmに設定。1220mmの室内高は3代目と変わらないものの、室内長を60mm拡大し、2-3-2席のシートを視界確保のためV字配列とし、3列目席の居住性を高め、モーションアダプティブEPS(電動パワーステアリング)を採用するなど、さらなる走りのミニバンとしての進化を遂げている。パワーユニットは3代目同様のK24型だが、ハイチューンのアブソルートはハイオクガソリン指定で206馬力までパワーアップされた。
  年次的に3代目オデッセイに続く低全高ミニバンといえば、2006年に登場した、これまたホンダの5ナンバー3列シートミニバンの2代目ストリーム(初代は低全高でも1590mmなのでここでは割愛)。
  もちろん、立体駐車場への入庫性を高めるための低全高だが、ホンダとしては一段と低重心な走りの磨き込みも忘れてはいない。パワーユニットは1.8リッターと2リッターで、とくにRSZは専用サスペンション、パドルシフトが備わるなど、走りのミニバンをより鮮明にしたグレードだった。
  もっとも、さすがに5ナンバーボディで7人乗り、3列目席の広さ、快適さを確保するのは難しく、2009年のMC時に2列シートのコンパクトワゴンと呼んでもいいRSTグレードを追加。乗り心地を含めた走りの進化も著しかったと記憶している。
  2012年には3列シートモデルの乗用定員を、2列目席を2名乗車とすることで6名に変更。これも限られた室内空間でより広々と過ごせる配慮だったのだ。
トヨタが送り出したオトナな低全高ミニバンとは
  2007年には空前のミニバンブームに乗って、トヨタからマークXジオなる、全高1550mmの低全高ミニバンが登場する。それはミニバンブームの最中、トヨタが子離れミドル世代に提案するもので、2005年の東京モーターショーに参考出品されたFSC=フレキシブルサルーンコンセプトの市販版であった。
  マークXの冠が付くだけに、「子離れ世代に向けた、ミニバンの次に乗るべき、セダンでもミニバンでもワゴンでもない1台。2~4名乗車を想定した、夫婦、友人同士で愉しむ独立4座+フリー(6人乗り)というまったく新しいコンセプトと3列シートパッケージを持つサルーンの進化型=サルーンズフューチャー」というのを目標に作られた。
  室内高は3/4代目オデッセイと同じ1220mm。”フリー”の3列目席は必要なときだけ出現させるコンパクトな格納式である。つまり、基本は2列、4人乗り(パーソナルモードと呼ばれていた)の、サルーンライクに乗れるミニバン兼ワゴンだったのだ。 ※後席用エアコン吹き出し口はなかった。
  パワーユニットはマークX同様の163馬力2.4リッター直4と280馬力3.5リッターV6を用意。どちらもマークX譲りの低重心を生かした大人っぽいサルーン的走りのテイストが特徴だった。動力性能は2.4リッターでも十分だが、3.5リッターエンジン搭載車は、日常域でこそ2.4リッターモデルとの動力性能さは小さかったのだが、高速走行になるとその差は歴然。エンジンを回すとV6ユニットは勇ましい快音を放ちつつ、速すぎるほどの加速力をジェントルに見せつけてくれたものだった。同エンジンを積むエスティマより170kgぐらい軽量なのだから、それもそのはずである。
  最後に紹介する低全高ミニバンは、これまたホンダのジェイドである。デビューは2015年、ミニバンとワゴンを融合させた、ステップワゴンなどとは違う独身や子離れ層に向けた3列、6シーターの3ナンバーモデルであった。
  すでに中国では1.8リッターモデルとして発売されていたのだが、日本仕様は1.5リッターエンジンに1モーターのスポーツHV i-DCDを組み合わせることで、2リッターNAエンジンに匹敵するシステム出力152馬力を達成。しかも、全高は1530mmと、世界のミニバンのなかでもっとも低いルーフをスタイリッシュにもほどがあるエクステリアデザインとして完成させたのである。
  とはいえ、「ジェイドは3〜4代目の低全高オデッセイ、その時点で生産されていない5ナンバーミニバンのストリームの代わりになるミニバンか?」といえば、そのパッケージング、車格の違いから明らかにノーである。緊急席そのものの3列目席(アクロバティックな乗降動作が要求される)の仕立てから、むしろその時点ではなくなっていたアコードワゴンユーザーの代替えに向く1台といえたのだ。全高は1530mmとカタログに記載されているが、それはアンテナ部分で、ルーフそのものは1500mmなのである。
  ジェイド最大の特徴は2列目席にあった。航空機のアッパークラスを思わせるひじ掛けの付いた2列目席にはホンダならではのクリエイティブなアイディアがあり、ロングスライドするのはもちろんだが、リヤホイールハウスを避けるため、V字に下がるのだ(最後端まで下げると2脚のシートはくっつく)。しかも、天井は低いものの、身長172cmのドライバーのドライビングポジション基準で頭上に120mm、ひざまわりに最大300mmものスペースが確保されるされるのだから、居住性はなかなか。
  ただし、3列目席はまったく実用的ではなかった。3列目席乗員専用のガラスルーフ部分がえぐられているため頭上方向に110mmのスペースがあるものの、3列目席に着座するとひざまわりスペースはゼロ。が、2列目席をひざまわりスペース120mmになるまで前方スライドさせれば80mmの空間が生まれる。
  とはいえ大人が快適に座れる空間、シートではない。3列目席はクッション長440mm、クッション幅855mm、シートバック高580mmと小さく、とくに幅方向はかなり狭い。たとえば、ストリームの3列目席はクッション長440mm、シートバック高570mmとほぼ同等だが、クッション幅は990mmもあったのだ。ゆえに、3列目席は畳んで、先に述べたように、アコードワゴンの代わりとなるステーションワゴン的に使うのが正解なミニバンなのである。
  そうした使い方が当たり前だったからか、2018年のMCでは中国仕様にも設定されていた2列シート、5人乗りを新設定。ここでの低全高ミニバンと話とはズレるが、これは走り、1・2列目席の快適性、荷物の積載性など、なかなかの仕上がりだった。いまでもたまにジェイドを見かけるが、現在でも十分に通用するエクステリアデザインの持ち主だと思う。そこはいいとしても、室内高不足を含めたパッケージ的にいまひとつだったことが、ミニバンとして1代で消滅した理由ではないだろうか。
  全高1550mmを切る低全高ミニバンとして成功したのは、ミニバンを身近にしてくれた価格的魅力が光る2代目ストリームと、何といってもスポーティな走りに特化し、ファンを得た低全高時代の3・4代目オデッセイぐらいのものかも知れない。

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