この記事をまとめると
■2024年4月8日、ダイハツが認証不正の再発防止を大前提とした事業方針説明をする記者会見を行った
■認証不正の再発防止を最優先に体制・風土を改革し、新興国向けモデルはトヨタが開発と認証の責任を持つ
■ダイハツの原点である軽自動車の魅力・可能性を追求してブランドの信頼回復に努める
不正からの再生に向けてダイハツが記者会見で伝えたこと
ダイハツ工業といえば、2023年暮れに過去に遡り150件に迫る認証関連の不正が明らかになったことが記憶に新しい。その後、全ラインアップが出荷停止となり、国土交通省などに法基準適合が確認された車種より生産・出荷が再開されているが、まだまだ元通りの状態になるには時間がかかるというのが現実だ。
そんなダイハツは、2024年3月1日より井上雅宏新社長のもと経営体制を新たにしている。4月8日、その井上社長と副社長(星加宏昌/桑田正規の2名)が出席して認証不正の再発防止を大前提とした事業方針説明をする記者会見が開かれた。
その内容を整理するとともに、ダイハツが進むことになる茨の道について考察してみたい。
まずは同社の発表したキャッチフレーズを紹介しよう。
“「軽自動車を中心に据えたモビリティカンパニー」を目指すとともに、再発防止を徹底することで信頼回復に努めます”
具体的には、以下の2点がポイントとなる。
■ダイハツの原点であり、国民車である「軽自動車」に注力する。 ■小型車は、トヨタが開発から認証までの責任を持つ。
前者については、新体制の発表時からいわれていたとおり。後者については、トヨタとダイハツをつないでいた新興国小型車カンパニーを解消、小型車に関する「開発から認証までの機能」をトヨタコンパクトカーカンパニーに移行、新興国向けの小型車についてはトヨタコンパクトカーカンパニーからダイハツが委託を受け、実際の開発を担う形態へ変更するという。
また、認証不正の原因として第三者委員会によるレポートでは、社内的なコミュニケーションに問題があったとされていたが、その対策として風通しのいい組織への改革は必須だ。そこで、統括部長・副統括部長職を廃止することによる組織階層の簡略化だ。そのほか、組織の縦割り化を排除するためのジョブローテーションや若手抜擢など風土改革も進めていくという。
まとめると、軽自動車ユーザー(=日本のお客さま)に支えられてきたダイハツは『軽自動車を中心に据えたモビリティカンパニー』として会社を再生するというのが大きな方針といえる。一方で、ダイハツの強みである東南アジアでの小型車においては、トヨタグループの一員として供給を続けることになる。
トヨタが開発から認証まで責任を持つとなっても、これまで新興国向けのラインアップはアーキテクチャーとして軽自動車ベースとなっていることもあり、設計の基本はダイハツが担うという体制は変わらないということだ。
ダイハツは新しいモビリティカンパニーとして再生できるのか?
また、ダイハツの認証不正については短期開発へのプレッシャーが、その遠因であったという指摘もあるが、再発防止を最優先した開発スケジュールに変わるという。そのため、当面の目途としては開発期間が1.4倍程度に伸びてしまうという。そうした愚直な姿勢で信頼を回復しようというわけだ。
もっとも、そう簡単にはいかないだろう。井上社長は、就任から一か月の間、ダイハツ社内だけでなく販売店やサプライヤーとコミュニケーションをとるほか、コールセンターに届くユーザーの声なども目にしてきたという。生産が止まったことでサプライヤーだけでなく、地域社会の経済活動にもマイナスとなった自治体との話し合いもあったということだ。
そのなかには、温かい内容もあれば厳しい言葉もあったという。
それは当然だ。いったんは政府により全車出荷停止という処分になってブランドが、どれほど信用を失ったかは計り知れない。おそらくユーザーが思っている以上に、ダイハツというブランド価値は地に落ちている。
とくに軽自動車マーケットというのは、ブランドへのロイヤリティが低い傾向にある。つまり、特定のブランドにこだわるファンが少ない。そのため、わざわざダイハツ車を買おうというユーザーが多いとは考えづらい。「軽自動車のダイハツ」、という新ブランディングでどれほど信頼を取り戻せるかは疑問もある。
そもそもトヨタが認証を担うのは小型車に限った話であり、軽自動車の開発体制についての変更は発表されていないのだからなおさらだろう。
その小型車領域においても心配はある。認証領域をトヨタが担ったとしても、そこに対する報告が正しくされなければ不正が起きないとは限らない。同じトヨタグループで起きた、豊田自動織機によるディーゼルエンジン不正においては、「見栄えをよくする」ための不正もあった。ダイハツの小型車についてトヨタが認証を担うのであれば、トヨタとダイハツの風通しの良さも確保する必要がある。
会見の最後に、井上社長は「オールダイハツ一丸、ワンチームとなって信頼を回復するしかない。変わろうとしているダイハツを見守っていただきたい」と強い思いをアピールした。
はたしてダイハツは“日本一歴史のある自動車メーカー”というプライドを捨て、新しいモビリティカンパニーとして生まれ変わることができるのだろうか。ユーザーとしては、ダイハツのリボーンをフラットな目線で確認していくほかない。