日本にルーツを持つ世界中の子どもたちの日本語教育をサポートする「光JS」の挑戦

2024.01.31 16:55
株式会社 光JSは、オンライン日本語レッスン・日本語教材の提供を通して、海外在住の子どもたちに日本語・日本文化を学ぶ機会を届けている。日本にルーツのある世界中の子どもたちが、どこに住んでいても自分の日本ルーツを誇りに思い、自身の人生に「日本」が在り続けられるような日本語学習とは…。世界12カ国に住む講師・スタッフの日々の奮闘の様子を綴る。
光JS創業。複数ルーツの子ども達がオンライン日本語学習できる機会を
代表 梅本は、元々都内で小学校教員をしていた。大使館や外資系企業が多い地域の学校だったため、様々な国のルーツのある子どもたちが在籍していた。教員として7年働いた後、JICA日系社会青年ボランティア(当時)現職教員特別派遣制度を利用して、ブラジル北部の現地の小学校で約2年間活動をした。そこで初めて、「日本語の授業」を担当し、子どもの時から日本語を身に着けることで子どもたちの可能性が大きく広がることを痛感した。
2年後、また都内の同じ学校に戻って、復職。ブラジルでの経験を経て、外国ルーツの子どもたちがもっと日本語をしっかり身につけられるような機会を作りたいと思うようになった。
その後、2020年3月に退職。2020年8月、日本語教師仲間たちと一緒に、光JSを創業した。
オンラインでどこにでも…。実現に向けた試行錯誤の日々と見えてきた兆し
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オンライン日本語レッスンの様子


「オンラインでどこに住んでいる子どもたちにも日本語の授業を届けられる」と、これからの出会いに心を躍らせながら意気揚々と開業したものの、開業後数カ月は閑古鳥が鳴いていた。「どこにでも届けられる」は逆に、具体的にどこにターゲットを絞ったらいいのかが見えなかった。2年間お世話になったブラジルは物価的に難しそうだ、カリフォルニアやオーストラリアなど日本ルーツの人の人口が多い地域は既に現地の学校で事足りているかもしれない…。どこに向けて発信すれば私たちの授業を必要としている人に届くのか…スタッフたちと議論を重ね、広告を打ち、結果を見てまた改善し・・・を繰り返し、少しずつ少しずつターゲットが絞れてきた。
物理的にオンラインでないと日本語学習環境がない家庭に加えて、現地の補習校ではなく敢えてオンラインのプライベートレッスンで子どものペースに合わせた学習をさせたいという家庭からの問い合わせが増えてきた。


直面した講師採用・育成の課題。子どもの自主性を高める楽しいレッスンを目指して
当社登録講師のzoom勉強会の様子


問い合わせそしてトライアルレッスン受講数が増えてきたら、今度は、講師の採用・育成が課題となった。当社の講師は、日本語教師や幼小中高教員の資格・免許保持者且つ教授経験3年以上(うち、子どもへの教授経験2年以上)という条件があるが、その条件を満たしていても当社が目指している授業ができる講師に出会えることは少なかった。採用面接時に行う模擬授業では良くても、実際のトライアルレッスンになると子どもたちが楽しくなさそうにしているレッスンをする講師もいた。「褒めて伸ばす」「子どもの自主性を大事にする」「楽しい!もっとやりたい!と思える、楽しい授業ができる」ような講師は、どういう求人情報を掲載したら来てくれるのか。どこまでを採用前に求め、どこからを事前研修で伝えていくか。業務委託の講師たちにどこまで当社の理念や思い描く理想のレッスンに寄せてもらうことができるのか。日々届く講師応募のメールを前に悩むうちに、だんだんと当社が目指す授業・教育目標が具体化されていった。当社代表は、自身も講師として30人程度の生徒を受け持っている。そのノウハウを活かし、代表自ら講師採用・育成を担当して、当社に来てくれる子どもたちを満足させられる講師のスキルアップに携わっている。私たちはただ日本語を教えたいだけではない。子どもたち1人ひとりが、日本語そして日本語の仲間・教師との出会いを通じて、自身の人生をより輝かせられるお手伝いがしたい。講師採用・育成を通して、そう強く感じるようになった。
続けているからこそ見えてきた、子どもたちの成長
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2022年オンライン成果発表会の様子


お陰様で、開業3年が経った。驚くことに、生徒の受講継続率は90%を超えている。一度マッチした先生とは長く一緒に勉強していこうというご家庭が多く、講師(当社)・家庭との二人三脚でのレッスンが続いていることに、感謝の念が絶えない。開業3年が経ち、2年以上継続して受講している子も増えてきた。
ここで、3年弱継続しているMさん(13歳、オーストリア在住)の成長の様子を、担任講師 まきの文章と共に見てみる。


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私が光JSでM君に会ったのは、2021年の6月です。タイに住む私とオーストリアに住むM君との距離は8445キロと、とんでもない距離の差ですが、オンラインレッスンなのでその距離の差は全く感じません。M君はお父さんが日本人、お母さんがスロバキア人の家庭に育つ生徒さんです。家庭ではお父さんと英語(片言の日本語)、お母さんとスロバキア語、学校ではドイツ語と複言語環境で暮らしています。聞けば、M君の周囲には同じような家庭環境の友達はおらず、日本語を使用する機会がないというお話でした。そんなM君が日本語に触れるのは、主にお父さんとの日本旅行だと言います。
レッスンで作った七夕の短冊と共に


会話を中心に学びたいという要望だったので、レッスンを始めるにあたり話題となるトピックを探るべくM君のお父さんの協力のもと、M君と旅行したさまざまな家族写真を頂きました。M君にとって自分と関わりのあることなら、日本語の会話練習に繋げられると思ったからです。それらの写真を使い、M君の旅行での思い出話を引き出し“数の数え方”から“値段の言い方”へ、“色や形“を覚えたら、観光名所や買ったものの説明に挑戦したり、”時間や乗り物“の名前を覚えたら旅先へいつ、どのように行ったか説明したりと、少しずつ単語量が増えできることが多くなっていきました。


お仕事で多忙なお父さんと日本語を使う機会がなかなか取れない中、お父さんから「M君が家で片言の日本語を発するようになった」という報告を聞いた時はとても嬉しかったです。日本語もM君の一部になりつつあると実感できたからです。


コロナ禍が明け、大好きな日本への旅行が可能になり、それまで一緒に学んだ日本語をアウトプットするチャンスが来ました。北海道、石川、東京、大阪、広島、沖縄など旅行で色々なものに触れ、人と出会い、五感を通して沢山の日本語を学んでいるようです。


光JSでは年に数回オンラインでさまざまなイベントが開催されます。七夕の短冊作り、落ち葉を使ったフロッタージュ作り、音読リレー、カレンダー作り、年末の成果発表会などたくさんです。M君が興味のありそうなものを紹介すると決まって「やってみる!」という返事がきます。
イベント参加前に光JSで勉強している子どもたちの出身国を紹介するときがあります。こんなにいるんだねと興味深げな様子です。同世代の友だちが同じように日本語のオンラインレッスンで頑張っているというのは、M君にとって大きな刺激になっているはず。
今年の発表会は大好きなサッカーをテーマにしたいと言いました。自分の所属チームについて伝えたい、参加する友だちにサッカークイズをしてみたいと言いました。当日は、大好きなメッシがワールドカップで優勝した年、移住国を当てるクイズを出題しました。光JSの友達に答えてもらった経験は相手の答えを正しく聞き取り、正解不正解を伝える会話のキャッチボールが成立したとても良い経験であり、十分に達成感が感じられた日となったことでしょう。


レッスンを始めて2年半が過ぎました。週に一度1時間のみの日本語レッスンで、できることは限られ画面をオフにしたらまた次の週までM君は日本語から離れてしまいます。どうやったら日本語が定着するのかが悩みどころです。もっと日本語を覚えてほしい!使ってほしい!と。しかし、M君は日本に住んでいるわけでも、日本の学校へ通っているわけでもありません。普段目にしないひらがなを忘れてしまうのは当然なこと。ではM君にとって日本語って何だろう。M君にとっての日本語のモチベーションはどこにあるのだろう。
お父さんからこんな話を聞いたことがあります。「Mは、自分の名前が日本名だから、自分を日本人だと言います。」以前レッスンの活動で自分を知ろう!という時間に、お父さんがたまたま近くにおられ、M君は自分の名前が、実はお父さんとおじいさんの名前が由来だということを知りました。M君は日本についての知識がとても豊富な生徒さんです。毎年お父さんと行く日本旅行は、行きたいところ、したいことがはっきりしていて日本愛の強さが伺えます 。最近は「日本旅行で耳にする日本語が分かる時があるんだ」と得意気なM君です。ここ数年でできることが増え、確実にM君自身の中の日本語を占める割合が多くなってきています。
オンライン成果発表会での発表スライド


発表会など日本語で交流したいという気持ちや、M君自身が日本と繋がっていたいという思い、そして日本名であることに対する自覚等が、M君の日本語を続けるモチベーションになっているのかなと感じます。教える立場として今後、単語や文字を教えることのみをゴールとせず、日本の伝統や文化や習慣、歴史などM君がしっかりと日本との繋がりを感じられるよう、日本の知識を増やす時間を加えていこうと考えています。そしてM君の主体性を大切にしながら楽しいと感じられるレッスンを考案していきたいと思っています。


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子ども同士が『認め合い、学び合い、高め合える』スクールへ。オンラインコミュニティ構築で新たなアプローチも
2023年 オンライン成果発表会 B日程の様子


講師も生徒も少しずつ増えてきたら、次のステップ、子どもたち同士の交流の場を作っていきたいと思った。「認め合い、学び合い、高め合う」ことができる環境をオンラインでも作りたかった。プライベートレッスンであっても、物理的な距離が離れていても、子ども同士が気づきや学びを与え合える環境は絶対作れるはずだと思った。でも、講師が負担を感じて担任を辞めてしまったら意味がないし、子どもたちが求めていなければ始まらない。担当スタッフを中心に企画をしてはみるものの、なかなか実現へと漕ぎつけることは難しかった。
生徒からの自発的な提案を待っていた。リアルタイムの交流がスタート
開業から3年が経った頃。「“みんなで読もう”の部分は、全員で集まって一緒に言ったらいいじゃん」。音読リレーに参加した小学生のKさんが、レッスン中にぽろっと言った。そのつぶやきを逃さなかった担任講師が、代表に報告。即座に、全員で集まる機会を設定した。生徒交流について、「とうとう、その“時”が来た。」と感じた。子どもからの自発的な提案を待っていた。大人発の提案ではなく、子どもが自ら考え動くことが大事だと思っていた。学びの大きさが全然違うからだ。
実際に子どもたちがzoomでリアルタイムに集まり、みんなで「おむすびころりん すっとんとん」を言ったり、一緒に遊んだりした。急な招集にもかかわらず、土曜日にアメリカ・オーストラリア・カナダ・ドイツ・日本在住の子どもたちが参加してくれた。「おむすび~」の箇所を一緒に音読すること自体はオンラインだとタイミングが難しいことが分かったが、それも子どもたちにとって学びになった。何より、自分と同じように日本語を学んでいる仲間がいるということを子どもたちが感じられたことが大きな収穫だった。×
生徒音読リレー動画『おむすびころりん』


その約1か月後、オンライン成果発表会があった。子どもたちはそれぞれに、この1年間で学んだことをスライドやビデオにまとめて発表した。初めて会う仲間や先生たちを前に緊張しながらも発表し、終わった後はやりきった達成感に溢れた晴れやかな表情をしていた。終了後の感想で、「Tさんの発表を見て柔道を知った息子は、柔道をやりたいと言い出し、地元の柔道クラブに通い始めました」「Rさんが発表していたレモンケーキがとてもおいしそうだったので、自分も作りたいと娘が言っています」「他の子は何であんなに日本語を話せるんだろうと不思議がっています。自分も本当はもっと話せるんだと強がりを言い始めたのは、交流で刺激を得たからだと思います」など、子どもたちがそれぞれに刺激を受け合った様子が伝わってきた。感無量だった。ずっとずっと目指してきたところに近づいた。そう思った。子どもたちが主役。子どもたち同士が学びの教材となる。その基盤が整ってきた。
日本語教育で社会に貢献する
世界中どこにでもサービスを届けられるオンラインレッスンとはいえ、住んでいる場所や生活環境、家族背景によって学習の目標・目的が変わる。海外在住の子どもたち、国内在住の子どもたち、それぞれのニーズのより合ったレッスンが受けられるようにと、国内在住の子どもたち向けには㈳光JSみらいという別法人を立ち上げた。㈳光JSみらいでは、オンライン授業に加え、ウェビナー・イベントを中心としたコミュニティづくり事業も行っている。
2023年12月 ポルトガル語おしゃべりイベント『café bate-papo』


光JSの2024年は、更に多様な面から、子どもたちの日本語学習を支援していく予定だ。特に教材制作が今年の大きなミッション。家庭学習で日本語のベースを身に着けられるように、ドリルやオンライン教材の開発・販売に注力する予定だ。

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