注文ゼロから6ヶ月待ちに。沖縄県のオーディオメーカー「知名オーディオ」、創業者の想い引き継ぎ2代目が挑んだV字回復ストーリー

2024.01.30 11:30
沖縄とアメリカの文化が交じり合う「音楽のまち」沖縄市コザに工房を構える「知名御多出横(以下、知名オーディオ)は、1975年創業の沖縄県のオーディオメーカーです。「音を生演奏に近づけ感動を届けたい」を信念に、創業者・知名宏師(ちなひろし。以下、宏師)の探求心とものづくりへのこだわりが生み出した製品は、常識を覆す音域と音質を兼ね備えたオーディオシステムとして、全国のファンに愛されています。
知名オーディオは、これまでの歩みを止めず、これからもたくさんの方へ製品を届けていくために、2022年に事業を承継。2代目として白羽の矢が立ったのは、宏師の親戚と結婚して沖縄に移住し、経理などで会社経営をサポートしていた三重県出身の知名亜美子(ちなあみこ。以下、亜美子)です。
現在は全国を飛び回って精力的に活動している亜美子ですが、もともとはデザイナーで、オーディオについての知識はもちろん、営業経験すらもゼロでした。しかし、創業者の思いをしっかりと引き継ぐために強い意志を持って学び、様々な「初めて」に果敢にチャレンジ。危機的状況だった業績をわずか数年でV字回復に導くまでに経営者として成長しています。
今回のストーリーでは、そんな亜美子の奮闘記、創業者・知名宏師とのエピソードを、亜美子自身の言葉でお届けします。
伊勢志摩から沖縄へ。「お返ししたい」気持ちがすべての始まり
私は三重県の伊勢志摩で生まれ育ちました。青い海に面し、身近には漁師さんや海女さんがいる、のどかで自然豊かな場所でした。きれいな海があること、伊勢神宮などを訪れる観光客も多いことなど、沖縄との共通点はたくさんあると感じました。
知名オーディオを知ったのは、夫と出会い、結婚して知名家の一員になってから。それまでは、「親戚にオーディオ屋さんがいるんだぁ」という程度の認識しか持っていなかったんです。親戚への挨拶のために生まれて初めて乗った飛行機で沖縄へ、当時、那覇・久茂地の一等地にあった知名オーディオのお店を訪れました。「こんにちは」と声をかけると、先代(宏師)が髭に作務衣の仙人のような姿で2階の作業場から降りてきたことを、今でもよく覚えています。
知名家は皆、宏師から結婚祝いにスピーカーが贈られてたんです。だから一家に一台知名オーディオがある。もちろん私達も例外ではありません。三重に戻って、何かお返しに手伝えることはないかと考えていた時、目に留まったのが製品に同梱されていた手書きの取扱説明書。私はデザインに携わる仕事をしていたので、作り直して送ってみたら、とても喜んでもらえたんです。それがきっかけで、リモートではありますが、リーフレットの作成などを少しずつ手伝うようになりました。
家族会議で経理担当に。危機的状況から積極営業へ、様々な「初めて」に挑戦
2016年、夫の転勤を機に、「とにかくすべてと気が合う」と感じていた沖縄に移住。しばらくは会社勤めをしていましたが、宏師から論文の手直しや清書を手伝ってほしいと頼まれ、会社帰りに寄るようになりました。そのうち「経理をやってほしいと言われたんです。知名オーディオは家族が職人として製造を担い、宏師を支えてきた家族経営の会社。外から嫁いで知名家の人間になった自分が会社の中枢を見て良いものか、悩みました。
家族会議の末、引き受けたんですが、財務を見て愕然としました。注文が1件もない月もあり、はっきり言って経営危機です。このままでは自分の給料も出ないどころか、会社が潰れる。危機感に突き動かされて経費を一つひとつ見直すことから始めました。
今思えば、この頃が経営のどん底。音楽をヘッドフォンで聴く人が増えてオーディオ市場が縮小する中、家賃の高い久茂地のお店でお客様を待つのではなく、積極的に営業しなければ、売上は落ちる一方です。宏師に提案すると二つ返事で許可してくれたので、営業の経験はありませんでしたが手探りで良いと思ったことは何でもやりました。まずは営業ツールが必要だと思い、パンフレットを作成。電話営業では、知名オーディオの名前を出せば会ってくれる確率が高く、沖縄での知名度に助けられました。実際に聴いてもらう機会を増やすために、那覇の大型書店にも営業をかけて設置いただき、販売イベントも行いました。
宏師の言葉を自分にインストール。工夫を加え自分のスタイルを確立
当時の私は経営はもちろん、オーディオに関しても接客についても素人。オーディオの基本は夫に聞いたり入門雑誌を読んだり、時には熱心なファンのお客様に教えていただいたりして覚え、接客は宏師のやり方や言葉を完全コピーすることで身につけました。宏師がお客様にどう接するかを実際に見て学び、さらに様々なメディアに掲載されている過去の記事や動画を何度も見返し、文字起こしして、インストールしたんです。宏師はいつの時代もどのメディアでも一貫して同じ言葉で語っています。その確かな土台の上に、お客様の反応を見ながら「より伝わりやすく」「よりわかりやすく」と私なりの工夫を加え、少しずつ自分のスタイルを作ってきました。
大きな転機になったのは、商談会・展示会への出展です。それまでひとりで悩み取り組んできた経営に、「ビジネスを全国へ広げていこう」という高い志を持つ仲間ができたと感じ、彼らとの交流から、ビジネスの仕組みも理解できるようになったんです。つくづく、仕事は人、コミュニケーションだと感じました。また、会場で実際に音を聴いたお客様から「とても音が良い」と言って頂いたり、世界を飛び回るバイヤーが「自分に販売させて欲しい」「あなたの商品がこの会場で一番素晴らしい」といった声をいただけるのも大きな励みになりました。 
「先代の思いをより多くの方へ、しっかりと届けたい。」2代目としての覚悟
宏師にはお金や名誉に執着せず、ただひたすらお客様を喜ばせたい、そのために良いものを作りたい、という純粋な気持ちだけ。子供のようなピュアな心を持ったまま大人になったような人です。「中途半端なものを出したくない」と自分のやり方を貫くところは少し頑固ですが、そのこだわりは自分の満足のためではなく、すべてお客様のため。
家族がずっと職人を続けているのも、そんな宏師と宏師の作り出すもののすばらしさを感じ、尊敬しているからだと思います。宏師のお客様を思い、寄り添い、そのためにものづくりを追求する姿勢を誰よりも近くで見せてもらっているのは私で、そこからたくさんのことを学び、日々その製品の素晴らしさを実感してきました。 
私が知名オーディオを継ぐと家族会議で決まった時、「やるしかない」と思いました。オーディオは売って終わりの商品ではなく、そこからお客様との長いお付き合いが始まるもの。既に私にもそんなお客様がいます。途絶えさせてはいけない、続けていかなければならないと、覚悟を決めたんです。
そのために、より多くの方に知名オーディオを知っていただきたい。そう考え、2022年からはブランディングに取り組みました。実際の音を聴いていただけない、目の前にいらっしゃらないお客様には、いかにわかりやすい言葉、伝わる言葉でコミュニケーションするかが大切。知名オーディオの本質、アイデンティティを考え抜き、それを軸にキャッチコピーやロゴを作成。ウェブサイト、リーフレットといったすべての制作物を統一された世界観で手がけ、メディア露出も増やしていきました。 
業績はV字回復。人とつながる経営の仕事に「やりがい」
こうした地道な取り組みの積み重ねにより、だんだんと新しいお客様にも知名オーディオや製品についての情報が伝わるように。イベントでは「実物を見て購入するかどうかを決める」段階のお客様が格段に増えましたし、私自身も「新聞やTVで見ました」と声をかけられることが増えました。また、コンセプトが伝わりやすくなったことで、展示会で賞をいただくようにもなりました。
売上は2.5倍と最盛期の売上まで回復し、経理を手伝い始めた頃には1件の注文のない月もあった状況から、注文が相次ぐ状況になっています。納品まで現在約6ヶ月待ちとなり、お客様をお待たせしてしまう状況を変えようと、何もかもが手作業だった製造工程に機械を導入しました。
私は知名家で唯一、作り手ではありません。効率化・生産能力向上を目指したこの取り組みの実現には苦労しました。製造工程を整理するためにヒアリングしたんですが、職人は長年当たり前にやってきていることなので、何を説明したら良いか、私が何がわからないかが分からないのです。職人の思考、言葉で話さなければ、コミュニケーションがうまくいかないと痛感しました。職人を理解し、その言葉で話すことを心がけ、一部機械化を無事実現でき、職人に喜んでもらえた時には本当にうれしかったです。
「経営者は孤独だ」と言われますが、経営者になったことで逆に異業種の人とのつながりが広がり、仲間が増えて仕事にも生かされています。交流を通していただいたアドバイスも、良いと思ったことは何でも試しています。ほぼ休みが取れず大変ですが、人から言われてやるのではなく、自分で決めてやることなのでやり甲斐もあり頑張れます。
より多くのお客様との出会いを求め、守り続け、新たに挑戦する 
先代から引き継いだ知名オーディオを、より多くの人に知って、聴いていただくために、会社をしっかり継続していけるよう、経営努力を続けることが私の使命です。その肝は、良い製品作り。それにつながる、皆が楽しく働ける環境作り、職人のモチベーションを高める工夫を日々考えているところです。将来的な新商品開発への挑戦も視野に、次世代の技術者発掘と技術の継承のため、20代の「知名宏師」探しも行っています。
音楽をヘッドフォンで聴く人が増えてオーディオ市場が縮小する中、今後さらに時代が移り変わっても、オーディオは変わらず愛され、使われ続けていくものだと思っています。守り続けること、そして新たに挑戦すること。2つのバランスを大切に、より多くのお客様と出会えるよう、これからも活動を続けていきたいと考えています。

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