欲しい車種が消滅する! 全店全車取り扱い化はユーザーにとって多大なマイナス面があった

2022.11.01 06:20
この記事をまとめると
■トヨタは2020年5月から全販売店で全車種を取り扱うようになった
■それによってトヨタのラインアップが減った
■販売チャンネル廃止の意味や影響について解説する
かつては売れ行きを伸ばすために販売系列が設けられた
  今はトヨタ、ホンダ、日産など、すべての販売店で各メーカーの全車種を購入できる。しかし以前は系列が用意され、各系列の専売車種も扱っていた。
  トヨタについては、2020年5月からすべての店舗でトヨタの全車を購入できるようになったが、地域によっては今でもトヨタ店/トヨペット店/カローラ店/ネッツ店の系列が残る。トヨタの販売会社には、資本がメーカーから独立した法人も多く、販売系列が今でも続いている。それでも全店が全車を扱うと、系列は事実上、廃止されたことになる。
  1960年頃から1980年代にかけて、販売系列が設けられた理由は、販売店を専門化して複数の車種を大切に売るためだ。要は売れ行きを伸ばすために販売系列が完備された。
  たとえばトヨタであれば、トヨタ店はクラウン、トヨペット店はマークIIやコロナ、カローラ店はカローラ、ネッツ店はヴィッツやヴェルファイアという具合に、各系列が専売車種を設定していた。
  ホンダも同様だ。プリモ店は軽自動車のライフや当時はコンパクトだったシビック、クリオ店はレジェンドやアコードのような中級から上級車種、ベルノ店はインテグラやプレリュードのようなスポーティカーを中心に扱っていた。
  マツダは、マツダ店/アンフィニ店/ユーノス店/オートザム店/オートラマ店(フォードブランド)という具合に系列を数多く用意して、専売車種も設定していた。マツダは販売系列を短期間で急増させ、しかもボディにはマツダの車名を付けず、アンフィニやユーノスの系列名を冠して販売した。そのために「街中で見かけても、どこで買えば良いのか分からない」という話も聞かれ、マツダ車の販売増加は短期間で終わった。
  しかしトヨタを筆頭とするほかのメーカーは、30年近くを費やして、販売系列を着実に増やした。そのために国内販売が778万台のピークを迎える1990年に掛けて、好調な売れ行きを達成できた。
  この成功を捨てて今日のように販売系列を撤廃した目的は、国内市場のリストラだ。クルマの売れ行きが伸び悩み、少子高齢化も考えると、今後は国内市場が拡大する見通しは乏しい。
  そうなると系列があるために用意された姉妹車を含めて、車種を削減したい。販売店の数も需要に応じて統廃合を行う必要が生じる。市場規模に合わせて販売網を縮小する上では、拡大指向の系列が邪魔な存在になってきた。そこで4系列を残すトヨタも含めて、全店が全車を扱う体制に移行して系列を撤廃した。
全店が全車を扱うと趣味性の強い高価格車が落ち込む
「全店で全車を買えるほうが便利だから」という単純な理屈は、後から付けた言い訳だ。全店で全車を買えるほうが便利なら、最初から系列など用意しなかった。自動車業界の先輩方が聞いたら怒るだろう。
  そして全店が全車を扱う体制はリストラだから、幸せなものではない。もっともわかりやすいのはホンダだ。2000年代の後半に、プリモ店/クリオ店/ベルノ店を廃止してホンダカーズに統合すると、ダウンサイジングが急速に進んだ。それまではクリオ店は専売車種のアコード、ベルノ店はインテグラなどに力を入れたが、全店が全車を扱うと、売れ筋が販売しやすいコンパクトな車種に偏ってきた。
  この販売動向を最初に実感したのは、2001年に登場した初代フィットだった。当時のホンダには系列があったが、フィットは3系列のすべてが販売しており、系列に捕らわれず絶好調に売られた。2002年には国内のベストセラーになり、ミドルサイズミニバンのストリームなどは、ユーザーをフィットに奪われた。
  今はこの状態がエスカレートして、国内で売られるホンダ車の30%以上をN-BOXが占める。軽自動車全体になると50%を超える。そこにコンパクトなフィット、フリード、ヴェゼルを加えると70〜80%に達するのだ。
  つまり全店が全車を扱うと、実用的で価格の割安な車種が売れ行きを伸ばし、趣味性の強い高価格車は落ち込む。日産も今では軽自動車のルークスやデイズが多く、小型/普通車で堅調に販売されているのはノート、ノートオーラ、セレナ程度だ。日産はこの状況を肯定してノートシリーズを充実させ、ほかの小型車は事実上リストラした。従って系列が撤廃されると、ユーザーの選択肢が減ってしまう。
  クラウンも同様だ。セダンの人気が下がった矢先に、全店が全車を扱う体制に移行したから、クラウンのユーザーがアルファードやハリアーに移った。以前ならトヨタ店は、専売車種になるクラウンのユーザーが、トヨペット店のアルファードやハリアーに乗り替えるのを阻止した。しかし全店が全車を扱えば、その必要はない。トヨタ店で、クラウンからアルファードなどに乗り替えるユーザーが増えた。
  その結果、クラウンの売れ行きが下がり、クロスオーバーに発展する異例のフルモデルチェンジに至った。トヨタの商品企画担当者は、「クラウンは、クラウンのお客様、トヨタ店の皆様、トヨタが一緒に育てたクルマだと思っている」と語っていた。販売系列があってのトヨタ車だ。トヨタに限らず、国内販売の本質を突いた言葉だと思う。

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