欠員が出るたびに電話で応援を依頼する日々。現場の人員調整に危機感
施設管理の現場では日々、予期せぬ欠員やお客様からの突発的な作業依頼によって「今週、あと1人手がほしい」という一時的な人員不足が発生します。清掃・設備管理・警備など、多岐にわたる現場を抱える大成株式会社(以下、大成)でも、こうした急な人手不足への対応が長年の課題となっていました。
従来は、人員調整を担当する本社勤務の社員が各ビルの責任者に一件ずつ電話をかけ、「どなたか応援に行っていただけませんか」と協力を依頼していました。しかし、この方法では調整に多くの時間と労力がかかるだけでなく、応援を依頼する相手が特定の社員に偏りやすいという問題もありました。
こうした現場の人員調整に危機感を抱いていたのが、大成の代表取締役社長CEO、加藤憲博です。
「人手が足りない現場」と「もっと働きたい社員」。社長自らが気づいた社内の矛盾
自ら社長室長も兼ねる加藤は、社内の状況を見渡す中で、あるギャップに気づきました。人員調整の担当者が応援可能な人員の確保に苦戦する一方で、別の社員からは「時間が空いているから、もう少し働いて収入を増やしたい」「自分の現場以外の仕事にも触れてみたい」との声が上がっていたのです。
しかし、本社から現場の「一方向からのアナログな人員調整」では、そうした社員の希望を十分に把握できず、双方のニーズを結びつけることができていませんでした。
「時間が空いている社員と、人手が足りない現場を、直接つなぐ仕組みを作れないか」
この発想から、加藤は自らこの仕組みの構想を練り、プロジェクトを立ち上げました。こうして生まれたのが、社員が自ら働く時間・現場を選べる仕組み「大成スポットワーク」です。
前例のない仕組みに社内から上がった懸念。最大の壁は労務管理
所属する現場とは別の仕事を、社員が自ら選び、スマートフォンから応募して働く。
仕組み自体はシンプルです。しかし、実現に向けて動き出すと、社内からは次々と懸念の声が上がりました。
「本当に働きたい人がいるのか」
「初めて訪れた現場・初めての業務に対応できるのか」
「結局残業時間が増えて、労務上の問題にならないか」
特に大きな課題となったのが、労務管理でした。社員が所属先とは異なる現場で働くためには、現状の残業状況を踏まえ、勤務可能な時間を適切に管理する必要があったのです。
こうした課題を乗り越えるため、既存の外部システムを導入するのではなく、自社で開発するという方法を選択しました。加藤は自らプロジェクトをサポートし、社長室DX企画開発課の永井をプロジェクトマネージャーに抜擢。人事・総務部門や顧問社労士を交え、制度設計を進めました。
永井たちは関係部門・社労士と何度も協議を重ね、求人画面から「労働条件通知書」を自動発行する機能や、現場ごとの残業実態に応じて勤務可能時間を設定する機能などを独自に組み込みました。
また、「初めての現場・業務に対応できるのか」という懸念に対しては、「日々の一連の業務の中から誰でも対応できる業務を切り出して募集する」「募集求人に作業マニュアルを添付する機能を付ける」など、運用とシステム双方からのアプローチをかけました。
「ボタンが見づらい」現場の声を反映し、約1年かけて完成した仕組み
労務管理・運用課題解決と並んで開発チームが重視したのが、システムの使いやすさでした。
どれだけ便利な仕組みでも、実際に利用する社員が操作に戸惑ってしまえば、現場に定着させることはできません。「普段システムに触れる機会が少ない社員でも、抵抗なく使えること」を最優先に開発を進めました。
そこで永井たちは、実際にシステムを利用する現場スタッフにデモ画面を見せ、触ってもらい、意見を収集しました。
「ボタンが見づらい」
「操作手順が多い」
こうした声を一つ一つ広い、画面の見やすさや操作手順を徹底的に改善しました。加藤も進捗を細かく確認しながら、できる限りシンプルな画面構成を追求しました。
労務管理上や運用上の課題を一つずつ解決し、現場の声を取り入れながら改良を重ねること約1年。
2026年5月、社員が自ら働く現場を選び、スマートフォンから応募できる「大成スポットワーク」の運用が始まりました。
「警備員が清掃へ」想定外のマッチングが発生
運用をスタートした直後、開発チームの想定を大きく上回る出来事が起こります。
当初、募集の多くは急な作業が生じやすい清掃部門やホテル部門から出されていました。そのため運営側は「清掃部門の経験者が、空き時間に応募してくるだろう」と考えており、運用開始直後の利用者は少ないだろうと予想していました。
しかし、実際に始まってみると利用希望者はすぐに200名近くまで増え、部門をまたぐ応募も想像以上に多く見られたのです。
なんと、警備や設備管理を担当する社員が「清掃の仕事を経験してみたい」「他現場の動きを勉強したい」と、自発的に清掃の募集に応募してきました。さらには、現場責任者自身が「他の現場のやり方を学びたい」と他ビルの求人に手を挙げるケースまで現れました。
「単に収入を増やすためだけでなく、社員は想像以上に『自分の経験や能力を広げるチャンス』を求めていたんだ」―利用実態から見えたのは、想定外の社員のポジティブな姿勢とニーズでした。
求人に応募し、実際に働いた社員からは、「初めてのビルだったが、作業を丁寧に教えてもらえて助かった」「普段使わない洗剤や機材を扱えて勉強になった」といった声が届き、スポットワークをきっかけに「また応援に来てよ」とスカウトされる社員も出てくるなど、新たな才能・能力の発掘や現場同士の直接的なつながりも生まれ始めています。
縦割りの壁が消え、現場同士が助け合う「新しい一体感」へ
「大成スポットワーク」は現在、現場数の多い東京・名古屋エリアを中心に展開し、登録者は入社1年未満の若手から経験30年以上のベテラン、さらにはパート従業員や特定技能実習生まで約200名に拡大しています。マッチング求人は月に20件ほどのペースで定着してきました。
主な成果と変化
調整工数の大幅削減:本社メンバーによる電話掛けの調整作業がなくなり、システム上で自動的にマッチングが完結。応援可能人員の母数拡大:限られた社員への応援依頼から、システム利用者全員に応援を依頼できる仕組みを作ったことで、依頼先人員の母数が大幅に拡大。現場間コミュニケーションの活発化:「あの現場はこんなことで困っていたのか」と全社で状況が見える化され、助け合いの風土が定着。他職種体験によるスキル向上:セクションの枠を越えた他業務の体験が進み、お互いの業務に対する理解やスキルが向上。
また、「カタい社名で、じゆうな発想。」という大成のブランドコンセプトの通り、社長自らが先頭に立って前例のない仕組みを形にしたことで、「自分たちで働き方を選び、他部署とつながる面白さ」が社内に浸透し始めています。
目下の目標は登録者500人。会社から与えられる仕事から、自ら選択するキャリアへ
「大成スポットワーク」の挑戦は、まだ始まったばかりです。
直近では登録者数を全従業員の10分の1にあたる500名まで引き上げるとともに、2027年初頭からは順次、全支店で広げていく予定です。また、施設管理の現場業務にとどまらず、繁忙期のバックオフィス部門の業務募集や、社内有志イベントの告知などにも活用を広げようと考えています。さらに、年末に当社が開催する従業員の慰労イベントにおいては、意欲的に活躍するワーカーを称える表彰制度の導入も検討を進めています。
現在では、その先進的な取り組みが注目を集め、他社からの「システム販売」に関する問い合わせ・オーダーも届き始めています。
働く社員からも現場を評価。双方向のフィードバックで、より働きやすい環境へ
次に加藤や永井が検討しているのが「双方向の評価機能」の追加です。現在は応募を受け入れた現場の責任者からワーカーへの評価のみですが、働いたワーカー側からも「現場の説明がわかりやすかったか」「控え室が清潔だったか」といったフィードバックを送れる仕組みを準備しています。
人手不足を補うためだけのシステムにとどまらず、社員が自発的に働く場所を選び、自分の経験値を広げていける環境へ。加藤が描いたアイデアから始まった「大成スポットワーク」は、現場の声を拾いながらこれからもアップデートを続けていきます。
【大成株式会社 概要】
所在地 :東京都千代田区紀尾井町 4-1 ニューオータニガーデンコート 27 階
設 立 :1959年
代 表 :加藤 憲博
URL :
事業内容
【ファシリティマネジメント・建設事業】
総合建物管理(清掃、警備、設備管理)および駐車場管理、プロパティマネジメントおよび建物・公共施設等の運営受託・コンサルティング、建築・土木工事全般の企画・設計・施工・請負
【DX・ワークプレイスソリューション事業】
スマート FM(IoT/AI 等を活用した管理手法)の導入支援・推進、警備ロボットおよび建物・不動産統合管理システムの開発・提供、ワークプレイスソリューションの提供
【投資・エネルギー・グローバル事業】
不動産投資およびアセットマネジメント、太陽光発電等による再生可能エネルギー事業、労働者派遣事業、国内事業で培ったノウハウ・技術力を活かした海外事業展開