2025年11月に開催されたワインフェスタの目玉「ワイン樽転がし」
湧く歓声と湯気のむこうにある「理想の街」
11月上旬の冷え込む八ヶ岳。石畳が続くリゾナーレ八ヶ岳のメインストリート「ピーマン通り」は、異様な熱気に包まれていた。
全長160メートルに及ぶ回廊を舞台に、2人1組のペアが巨大なワイン樽を必死にコントロールしながら速さを競い合っている。周囲を取り囲む観客からは、割れんばかりの歓声と拍手が送られる。大人の部ではリゾナーレ八ヶ岳の宿泊券という賞品を懸けて誰もが目の色を変えて疾走し、キッズレースでは子どもたちが小さな体で懸命に樽を押し、親たちがワイングラスを片手に応援している。
そのすぐ横のアルプス広場では、直径120センチの特大鍋から、芳醇な香りをまとった湯気が立ち上っていた。スタッフが笑顔でよそい、ゲストがハフハフと口に運ぶのは、このイベントのために開発された「ワインほうとう」だ。
山梨名物のほうとうとワインを組み合わせた「ワインほうとう」
「八ヶ岳ワインフェスタ2025 」
2025年11月に初開催されたこの3日間の祝祭は、延べ5,000名もの来場者を記録し、大盛況のうちに幕を閉じた。宿泊者だけでなく、日帰りで訪れたお客様、運営側の施設スタッフの笑顔、ピーマン通りのテナントオーナーたちまでもが「過去最高に素晴らしいイベントだった」と口を揃えて絶賛する景色が、そこにはあった。
しかし、この熱狂の裏には、スタッフたちの深い葛藤とリゾナーレブランドの誇りを懸けた試行錯誤の物語が存在していた。
「そんなイベントやってました?」という言葉が突きつけた慢心と危機
2025年以前の「ワインフェスタ」。閑散としていて寂しい印象の時も…
ワインの銘醸地として知られる山梨県に位置するリゾナーレ八ヶ岳にとって、ワインは切っても切れない存在。新酒が発売される秋は、まさにワインリゾートとしての魅力を最大限に発揮できる季節だ。
実は、ワインフェスタ自体は5年ほど前から形を変えつつ開催されていた。しかし当時の実態は、ピーマン通りでワインや食事を提供するだけの小規模なイベントにとどまっていた。
どこか社内には、10月のハロウィンと12月のクリスマスといった大規模なイベントの間を埋める「穴埋めのイベント」という感覚が漂っていたのも事実である。
その慢心に、冷水を浴びせるような出来事が起きる。それはあるメディア関係者からの一本の連絡でした。
「今日ワインフェスタを見にリゾナーレ八ヶ岳に行ったんですけど、そんなイベントやってました?」
当時の広報、増田沙希子「以降:増田(沙)」のもとに届いた率直な言葉だった。イベントを開催しているにもかかわらず、来場者に気づかれてさえいない。ワインに馴染みのない一般のゲストや子どもたちにとっては、「見えないイベント」になっていたのだ。ワインリゾートを名乗りながら、秋の最も素晴らしい季節をなんとなく過ごしてしまっていたのだ。
転機は2025年に訪れた。
ワインの造り手を招き、彼らが解説するワインのこだわりを聞きながら、特別に用意された料理とのペアリングを楽しむ食事会「メーカーズディナー」。施設全体でかなり力を入れ、準備をし、例年行っていた一大イベントであったが、諸事情により1年延期されることが決定したのである。
このワインリゾートとしての最大の機会を失うという危機を前に、実行委員長に就任した増田岳史「以降:増田(岳)」を中心に、チームは奮起した。
「ワイン愛好家だけでなく、誰が、誰と、いつ来ても全員がワインを軸に楽しめる、本気のお祭りを作ろう」
「見えないイベント」の汚名返上に向けた挑戦が始まった。
「ワインリゾートの根底を揺るがすのではないか」――立ちはだかる反対
大人子供問わず「ワインを全員が楽しめる」として発案したのが、先の「ワイン樽転がしレース」だった。ワインの製造過程で廃棄される樽を活かし、お客様が一丸となって盛り上がれるコンテンツとして、小淵沢駅から街まで樽を転がしてくるという壮大なアイデアまで飛び出すほど、企画段階から熱がこもっていた。
しかし、ここに大きな壁が立ちはだかる。星野リゾートグループの広報担当から、厳しい懸念のメールが届いたのだ。
「ワイン樽は単なる容器ではない。ワインの熟成という重要な工程を担う非常に高価なものであり、造り手の魂が宿っている。これをレースで転がすという行為は、ワイン醸造家や愛好家に対して敬意の欠如と捉えられ、ワインリゾートとしてのイメージを低下させるリスクがあるのではないか」
一歩間違えれば、文化への冒涜として炎上しかねない。社内からも反対意見が寄せられた。
一時は企画自体が頓挫しかけるほどの緊張感が走ったが、増田(岳)たちのチームは諦めなかった。
「反対されるからと自分たちだけで諦めるのは違う。決めるのは我々ではない。作り手である生産者の方々に、直接本音を伺いに行こう」。
チームは地元のワイナリーに相談し、真摯に企画意図を説明した。ワインを一部の愛好家だけのものにせず、多くの人に親しんでもらうきっかけにしたい、樽そのものの役割への敬意を払ったルールにする、という情熱をぶつけたのである。
返ってきたのは、予想を覆すポジティブな言葉だった。
「ワイン文化の裾野を広げるための面白い挑戦だと思います。ぜひ協力させてください」
生産者からの力強い後押しを受け、ついにレースの開催を勝ち取った。
ワインフェスタ当日、ピーマン通りの両側には出店いただいたワイナリーが並ぶ
500人前の大鍋を追い求めたスタッフの執念
もう1つの試行錯誤が、お祭り感を演出し、ゲストの胃袋を満たすフードコンテンツだった。 当初は巨大なピザやパエリア、あるいは豚の丸焼き(ポルケッタ)といった、海外の収穫祭を模したキャッチーなメニューが候補に挙がっていた。
しかし、八ヶ岳の秋の夜は非常に冷え込む。お洒落で見栄えが良くても、すぐに冷めてしまう料理ではゲストを本当の意味で温めることはできない。さらに、「この土地ならではの文化」を感じられるものでなければ、リゾナーレ八ヶ岳でやる意味がない。
「温かい煮込み料理で、山梨の伝統を編集したものを」
思案に暮れた先に辿り着いたのが、伝統食であるほうとうにワインを掛け合わせた「ワインほうとう」だった。
だが、理想を形にするためのハードルも高かった。一難去ってまた一難。
イベント当日は大勢の方がお越しになる。そのためには一度に多くの人数分調理ができるようにしなければならない。
そこで、一度に500人前を作れる「大鍋」を用意しようとチームは準備にとりかかった。
しかし、なかなかそこまでの大鍋を用意できる業者が見当たらない。
じつは、コロナ禍を経てイベント関連の製造業者が減少しており、鍋の手配自体が極めて困難な状況に陥っていたのである。チームは泥臭く全国の業者を探し回り、諦めずに交渉を重ねることで、ようやくフェスタの象徴となる大鍋を貸してくれる業者に出会うことができた。
さらに料理のディテールにもこだわった。味噌ベースのほうとうの味を最も引き立て、かつ子どもから大人まで安心して食べられるよう、あえて赤ワインではなく「白ワイン」を隠し味として採用。アルコールを完全に飛ばすことで、「誰も置いていかない」というフェスタの思想を味覚でも体現したのである。
3日間の短期集中でお祭りとしての熱量を最大化する。チームは一丸となってその3日間のために、すべての情熱を注ぎ込んだ。
こうして、「八ヶ岳ワインフェスタ2025」が開催された。
当日は大盛況!多くの方が行列に並び「ワインほうとう」を楽しんだ!
そして2026年秋、さらなる高みへ
この初開催の熱狂と成功を経て、今年2026年、「八ヶ岳ワインフェスタ2025」はワインリゾートの風景としての定着に向け、さらなる進化を遂げて帰ってくる。
2026年11月1日〜3日の3日間、あの興奮の舞台となったピーマン通りとアルプス広場が、再びワインリゾートの祝祭に染まるのだ。
昨年、ゲストを驚かせたあの直径1.2メートルの大鍋には、さらなる「進化」が加えられる。
今年はイタリア・トスカーナ地方の伝統的スープ料理の「リボリータ」をベースに、山梨の郷土料理であるほうとう「みみ」と、ジビエの旨味が詰まった鹿肉のつくねを合わせた、新たなフード「みみリボリータ」が登場。初年度に生まれた「誰も置いていかない、温かい料理を」という執念は、より深く地域文化と融合し、大人から子どもまで笑顔にするスープへと昇華する。
さらに、単に飲む・遊ぶだけではない、ワインリゾートとしての「知的好奇心を満たす体験」も拡張される。イベント初日の11月1日には、ワイン愛好家・EXILE SHOKICHI氏と、サントリー登美の丘ワイナリー・チーフワインメーカー篠田 健太郎氏が登壇する1日限りのトークセッションを開催する。
ちなみに、昨年最も白熱した「ワイン樽転がしレース」だが、その熱狂ぶりを見たピーマン通りのテナントオーナー・スタッフたちから「来年は自分たちも選手として出場したい(そしてディフェンディングチャンピオンを倒したい)」と強い要望が上がった。今年も新たなドラマが生まれるかもしれない。
「飲む人も、飲まない人も、誰も置いていかない」
増田(沙)は、施設の未来を見据えてこう締めくくった。
「このフェスタで見せた活気と笑顔の形こそが、私たちワインリゾートのあるべき姿です。11月の3日間だけでなく、いつ訪れても、どの季節でも、明確にこの街を訪れる理由がある。そんな『365日いつでも楽しめる真のワインリゾート』へ進化するために、私たちはこれからも諦めず、挑戦を続けていきます」
イベント当日の増田(沙)(左)とリゾナーレ八ヶ岳の広報メンバーたち