MVVは、作って終わりじゃなかった。-豊開発が”会社の文化”を育てるまでの3年間”

2026.10.01 12:00
建設会社がなぜ組織づくりに向き合うのか。
豊開発株式会社は、1990年の創業以来、基礎工事・杭工事・山留工事などを手がける専門工事会社として、30年以上にわたり建設の現場と向き合ってきました。
2022年、創業者から二代目代表取締役・清水勇輝への事業継承。新たなスタートを切った豊開発がまず向き合ったのは、これからの会社の在り方でした。そこで清水が策定したのが、Mission・Vision・Value(MVV)です。
Mission・Visionに「工事で繋ぎ、社会を豊かに開発する」、Valueには、「あそびを大切に」という言葉を、哲学として「見えないを楽しく深掘りする」を掲げました。
MVVは策定することがゴールではありません。掲げた価値観を社員一人ひとりの日々の仕事へどう落とし込み、会社の中にどう根付かせるのか。そのために生まれたのが「あそ部」という部署でした。採用、広報、インナーブランディング、オフィスリノベーション、ドローン事業、業務改善ーーー。


現在の豊開発では、これまでの専門工事会社という枠では語り切れないほどのさまざまなプロジェクトが動いています。一見すれば、別々に見える取り組みかもしれませんが、すべて根底にある想いは同じです。
「50年100年続く会社へ。」「自ら考え、挑戦できる場所にすること。」
そして、そのために必要なのが”余白”であり、「あそびを大切に」というValueです。
本ストーリーでは、2022年の事業継承を起点に、豊開発がなぜ組織作りに向き合うようになったのか。そして、MVVを掲げるだけで終わらせず、どのように会社の文化として育ててきたのか。その背景とこれまでの歩みをお伝えします。
会社は続いていた。でも、このままでは続かないかもしれない。
1990年の創業以来、豊開発は30年以上にわたり、土木工事の専門工事会社として歩んできました。現場には長年経験を積み重ねてきた技術者がいて、お客様との信頼関係もあり、仕事もこれまでと同じように続いている。しかし、二代目代表取締役として創業者である父から会社を引き継いだ清水が考えたのは、その先のことでした。このままのやり方で、50年、100年と会社を続けていけるのだろうか。
清水自身、建設業界の経験がない状態で事業を引き継ぎました。だからこそ、建設業界で長年経験を積んできた社員と同じ土俵で、技術や現場経験を競うのではなく、自分だからこそできることを考えました。
ーー「僕は、少なくとも今後30年ぐらいは豊開発の経営を担っていかなければならないと考えた時に、この体制では持たないと当時思いました」


当時の豊開発には、ホームページや会社案内もなく、当然採用や広報という役割もありませんでした。社員それぞれが目の前の仕事をこなし、業務を遂行している。これは決して悪いことではなく、むしろこれまで30年以上会社が続いてきたのは、社員一人ひとりが仕事と向き合い積み重ねてきてくれたからです。ただ、これから先の時代を考えると、今まで通りでは会社を続けていくこと、選ばれ続けることは難しい。清水は、これからの豊開発に必要なのは、豊開発の強み、ステークホルダーから選ばれてきた理由を再認識すること、自分で考え、自分で動くことが出来る組織だと考え、”自律自走”する組織を目指しました。トップがすべてを決め、社員は指示を待つのではなく、一人ひとりが自分で考え判断し行動するために、会社として何を大切にし、どこへ向かうのか、社員みんなの共通認識を与える必要がありました。


そこで取り組んだのが、Mission・Vision・Value(MVV)の策定でした。会社として何を目指しどんな価値を社会に届け、どんな価値観を大切にするのかを会社全体の共通言語として言葉にしました。
Mission・Visionには「工事で繋ぎ、社会を豊かに開発する」、Valueには「あそびを大切に」、哲学として「見えないを楽しく深掘りする」という言葉を掲げました。
この”あそび”という言葉には、これから目指す組織の在り方が込められています。仕事に追われ、余裕のない状態では新しいことを考えることも挑戦することも難しい。
だからこそ清水が大切にしているのが、”バッファ(余白)”という考え方です。少しの余白があるから考えることができ、誰かに相談することもでき、新しいことに挑戦することができる。その余白をどのようにつくるか、生まれた時間をどんな挑戦につなげるのか。それが豊開発の組織づくりのテーマになっていきました。
MVVは、策定して終わりというゴールではなく、ここからがスタートです。掲げた言葉をどう日々の仕事につなげ、一人ひとりの行動にどう落とし込むかという答えをさがすために、豊開発は進み始めました。
Value「あそびを大切に」を体現する部署、「あそ部」。
MVVをつくり会社としての軸を言葉にした。それだけでは社員の働き方が変わるわけではなく、理念や価値観を掲げるだけでは会社の文化にはなりません。そこで清水は2023年、Valueを体現するための部署として、「あそ部」を発足させました。
「今までにないこと」を、「これからの当たり前」に。
「あそ部」は豊開発が今までやってこなかった人と会社の未来につながる新たな取り組みを担う部署です。
一般的な会社であれば、企画広報部や経営企画部といった名前になっていたかもしれませんが、それでは豊開発らしくないということで、部署の名前にもあそびを込め、生まれたのが「あそ部」でした。清水は、自律自走する組織をつくることについて、こう話しています。


「トップが『自律自走型の人間になろう』と言ったところで、人はそう簡単には変わらない。」


だからこそ、言葉で伝えるだけでなく、実際に社員が自分で考えて動き、挑戦できる環境をつくるために先頭に立ち、役割を担っているのがあそ部です。
最初に取り組んだのは、会社の外と中をつなぐことでした。豊開発は今まで積極的な発信を行ってきませんでした。それは先代の「豊開発は下請けの会社なので目立たなくていい」というスタンスが影響していたのかもしれません。今後、ベテラン社員が引退していくことが見えている中で、これからの豊開発を担う人材の採用をしっかりとやっていかねばならない。そのためには豊開発のことをまず知ってもらわなければならない。そう考え、ホームページをリニューアルしたり、SNSを通じて豊開発で働く人や会社の取り組みを発信したり、積極的に採用活動を行い、新しい仲間を迎えました。
また、会社の外だけでなく、社員が働く中の環境を見直し、オフィスリノベーションを行ったり、健康経営や男性が多いと思われがちな業界において女性が活躍できる環境整備にも取り組んできました。また、社内イベントの企画運営により、部署や立場を超えて社員同士がつながる機会をつくりました。さらに、ドローンという新しい領域にも挑戦しました。
あそ部がこれまで取り組んできたことは、一見するとバラバラに見えるかもしれません。しかし、ここには一つの共通点があります。それは、「今まで豊開発にはなかったこと」に挑戦していること。そして、その一つひとつの挑戦を通じて、社員が新しいことを自ら考え、挑戦できる会社へと少しずつ変えていくことです。あそ部はValueを体現しながら、豊開発の「これから」を作る部署なのです。
「何をしている部署なの?」から少しずつ変わっていった。
新しい部署ができ、新しい取り組みが始まったからといって、すぐに会社全体がかわったわけではなく、社員から最初は「何のため?」「何をしているの?」と思われることもあったと思います。あそ部自身も、初めてのことばかりで、手探りで一つひとつ取り組んでいきました。清水も「まだあそ部ってなんぞやと思われてるところもあるので、あそ部としてはもう少し自分たちのことを知ってもらう努力はしていかないといけないと思っています。」と話しています。


そんなスタートから始まりましたが、少しずつ変化が生まれ始めました。


「こんなことやってみたら?」


社員から、提案が出るようになりました。また、ドローンのことを営業担当が現場で話してくれるようになり、新しい取り組みにも段々と興味を持ってくれる社員が増えました。そして、自然と社員同士のコミュニケーションも増えていきました。
「なんとなく感覚的にみんながしゃべる時間が増えたなという気はしますね。」


清水自身も会社の変化に気づいていました。これは、あそ部が何でも屋さんになったというわけではなく、今までになかったこと(新しいこと)を始め、全社横断的な動きをし始めたことで、社員同士の接点が増えたと考えています。
「これって何をしてるの?」「これはどうしたらいいんかな。」といった小さな会話が増えたことで、少しずつ会社の中に知る・話す・関わるという文化が生まれてきました。
あそ部がつくったのは、新しいプロジェクトだけではなく、社員が新しいことに触れ、知る”きっかけ”でした。
余白が生まれると、人は挑戦できる。
組織作りを進める中で、豊開発が向き合ったのが”余白”の作り方です。どれだけ新しいことに挑戦しようといっても、社員が日々の仕事でいっぱいいっぱいなら、挑戦することはできません。


「当時は、ピンピンに糸を張った状態(日々の仕事でいっぱいいっぱいの状態)で、なにかプラスαのことをやろうと言われても難しい状況でした。それをやろうとすると残業につながったり、いっぱいいっぱいやったからそれ以上の仕事を受けたら自分もしんどくなるし、マイナス要素しかなかった。」


と、清水は当時の状況をこのように表現しています。
だからこそ余白を作るために人を増やし、業務を分散し、ツールを活用し情報共有を進める。一人で抱え込んでいた仕事を誰かと分担するためにも、分からないことを「分からない」と言える環境をつくる、情報は基本的に共有する。こうして少しずつ社員の中に余白を生み出していきました。社員同士が互いの得意不得意を補い合うことについて、清水はこう話しています。


「代表取締役だからといって、自分がなんでもできるわけじゃないし、誰だって何でもできるわけじゃないよね。それを得意不得意があって、お互い補い合って大きな成果を出すのが会社だと考えている。」


自分で考えて動く=何でも自分一人でやるということではなく、必要なときは人を頼り、力を借りて自分の得意なことに集中することで、一人ひとりが本当の力を発揮できる。ここで生まれた余白が次の挑戦につながることが、豊開発が考える”あそび”の一つの形だと思います。
「やったもん負け」から「やったもん勝ち」へ。
豊開発が目指しているのは、新しい取り組みが多い会社になることではありません。
「やってみたい」と思った人が、一歩踏み出せる会社です。新しいことを始めるために、手をあげたり提案したり、相談をして、挑戦する。そんな行動をした人が、「世系なことをしてしまった」と思うのではなく、「やってよかった」と思える会社にすることです。このためには、挑戦を求めるだけではなく、挑戦できる余白を会社側が作る必要があります。あそ部の活動もその一つです。直接的・短期的に売り上げにつながるかどうかだけでは判断できない事にも挑戦し、会社の未来につながることを考え、そして社員同士の話すきっかけをつくる。やったことのないことでもまずはやってみる。そうした一つひとつの積み重ねが、少しずつ会社の文化を変えていきました。


清水が目指しているのは、言われたからやるのではなく、自分がやりたいからやるという状態です。清水がすべてを決めるのではなく、あえて社員に任せ、あえて手をださないようにしていると言います。
「僕が言った方が早いし、やった方が早いと思うこともめちゃめちゃありますけど、そこで僕がやったらあかんなって。」


時間がかかっても自分で考え判断し、やってみる。この経験が次の挑戦につながります。「自律自走」は誰にも頼らず一人で走ることではなく、必要な時は周りの力を借りながら自分の意志で前に進むことです。そのための余白をつくることが、豊開発の組織づくりです。
MVVは、作って終わりじゃない!
2022年にMVVを策定し、2023年にあそ部が発足してから、豊開発は少しずつ変わってきました。清水はそんな変化について


「ベテラン社員含め、取り組みを理解してくれる人が増えてきたんだろうなと思いますね。」


と話しています。


会社のMVVは、一度作ったら完成というものではありません。会社も人も社会も変わり続けるからです。掲げた言葉が会社の文化として根付き、社員一人ひとりの行動につながっていくまでには、長い時間が必要です。日々の仕事の中で実施し、考えて見直しながら、一つひとつの積み重ねによって少しずつ文化になっていくものだと思います。
だからこそ、豊開発の組織づくりにも終わりはありません。これからも働き方・組織の在り方を見直し続け、新しいことに挑戦し続けるために社員の声を聞き入れ、必要ならまた変わる。この繰り返しです。
「あそびを大切に」この言葉は、ただ楽しく働くという意味ではありません。少し立ち止まって考えること、誰かと話すこと、自分で決めて一歩を踏み出すこと…そのための”余白”をつくること。


2022年の事業承継を転機に、豊開発は会社を続けるだけではなく、「これからも続いていく会社」をつくるための組織づくりに向き合っています。
「工事で繋ぎ、社会を豊かに開発する。」このMissionを実現するために。50年100年と続く会社であるために、MVVは作って終わりではありません。
「あそびを大切に」という価値観を、日々の仕事の中で実施し、社員一人ひとりの行動につなげていく。そしてその文化が、また新しい挑戦を生み出していきます。
豊開発の組織づくりは、これからも続いていきます。

あわせて読みたい