マイクロニードル化粧品を使うお客さまの声をきっかけに「顔全体に使える溶解型マイクロニードル」をめざし、化粧品開発の現場から生まれた技術「タウリン結晶マイクロニードル(TCMN)」。
皮膚中の成分「タウリン」を微細な針状に結晶化し、液剤やクリームに安定的に分散させることで、塗るだけでニードルが皮膚内に挿入され、水分で溶けて内包成分とともに浸透するという、世界初※1の溶解型マイクロニードルが誕生しました。
このユニークな技術に、化粧品と医薬品、それぞれの研究者は何を見つけたのか。
タウリン結晶マイクロニードルの誕生から、医薬品への応用をめざす現在まで。二人の研究者たちの言葉から、技術の可能性をたどります。
※タウリンを微細な針状に結晶化したTCMN。タウリンそのものが「針」になる。
※成分を内包したTCMN。多重結晶化技術により、針状結晶の中にさまざまな薬剤や成分を内包できる。
美容液やクリームに配合できる「塗って溶ける針」をつくれないか
コスメディ製薬が実用化した、ヒアルロン酸を基材とする溶解型マイクロニードル。
美容成分を皮膚に届ける技術として化粧品に応用し、2008年に誕生した「マイクロニードル化粧品」は、マイクロニードルを整列したシート状に成形し、皮膚に貼付する「貼るマイクロニードル」です。目元や口元など、気になる部分への集中ケアとして生活者の支持が集まり、多くの製品が市場に並びました。
※美容注射に代わり、セルフケアができる「貼るマイクロニードル」
2020年のコロナ禍。多くの企業が環境の変化に直面する中で、コスメディ製薬は次の成長を仕込む時間として、新たな技術開発に取り組みます。そのような中、当時、化粧品開発を担当していた村山智洋の目に留まったのが、お客さまの声でした。
「毎日のスキンケアで、顔全体に使えるマイクロニードルがほしい」
それまで主流だった「貼るマイクロニードル」は、目元や口元など気になる部分への集中ケアに適している一方で、顔全体など広い範囲に使うには課題がありました。そこで村山は、美容液やクリームに配合でき、顔全体に塗って使える「塗るマイクロニードル」の開発をめざします。
研究を進める中で生まれたのが、皮膚中の成分そのものを微細な針状の「結晶」にするという発想。村山がその結晶の基材として着目したのが「タウリン」でした。
※開発部 化粧品開発グループ 才原 一浩
「タウリンというと、栄養ドリンクを思い浮かべる方が多いかもしれませんね。実は、もともと皮膚にも存在していて、水分調節やバリア機能に関わっている成分なんです。2026年には、老化細胞の除去を促すことも研究発表されています。」(才原)
※当社学術発表資料より
村山は、このタウリンを皮膚に挿入できるほど微細な針状結晶に制御し、液剤やクリームの中でも安定した状態を保つマイクロニードルの開発を進めました。
本来なら避けたい「結晶」。それを、皮膚へ届けるための針そのものにする。
この発想を初めて知ったとき、才原は驚いたといいます。
「化粧品の開発においては、結晶が析出しないように処方組みや製品づくりを行うのに、あえて析出させて、それを武器にしている点にすごく驚きました。コスメディ製薬はありえない発想で経皮吸収の技術を深化させ、しかも製品化した会社。その個性を目の当たりにしたような気がしました。」(才原)
こうして2023年、液剤やクリームに配合し、塗って使うことができる新しい溶解型マイクロニードル「タウリン結晶マイクロニードル(TCMN)」が生まれました。TCMNは従来の「貼る」パッチ型とは異なり、全顔や身体など広い範囲への使用を想定した「塗るマイクロニードル」です。
開発者の村山は同年、スペイン・バルセロナで開催された「第33回国際化粧品技術者会連盟 バルセロナ大会2023」(The 33rd IFSCC Congress 2023 Barcelona)でTCMNの技術を発表。コスメディ製薬の新しい溶解型マイクロニードルに、化粧品技術者の熱い関心が集まりました。
※「第33回国際化粧品技術者会連盟 バルセロナ大会2023」で「タウリン結晶マイクロニードルによるスキンケア化粧品用の新規経皮送達システム」の口頭発表を行う村山 智洋
2025年には、TCMNは経済産業省近畿経済産業局が関西の中小企業が新たに開発した製品・技術等を選定する「関西ものづくり新撰2025」において「健康社会を実現する技術」として特別賞を受賞しました。
※2025年2月26日に行われた「関西ものづくり新撰2025」選定証交付式にて。社長の権 英淑(左)と村山 智洋(右)
タウリンの針が「届ける技術」になる
才原がTCMNに驚いたのは、タウリンそのものを針状に結晶化するという発想だけではありません。
「肌の中で溶けるので安心して使えること。そして、ペットボトルのように中心に空間があり、さまざまな成分をその中に含ませることができる。これまで浸透しにくいとされていた成分も、劇的に効果が出るのでは、と感じました。」(才原)
TCMNは独自の多重結晶化技術によって、水溶性・油溶性の成分に加え、分子の大きな水溶性高分子など、物性の異なるさまざまな成分を針状結晶の中に内包することができます。
※蛍光標識ヒアルロン酸Naを内包したTCMN。針状結晶の内部に成分が内包されている様子が分かる。
試験結果では才原の期待通り、高分子成分であるヒアルロン酸ナトリウムを内包したTCMNを塗ることで、表皮水分量の向上やシワに顕著な改善が確認できました。
※当社学術発表資料より
才原がもう一つ注目したのは、TCMNの針そのものを調整できること。
「配合する成分や製法によって、ニードルのサイズを調整できるんです。処方や使用感などをコントロールできるので、より製品づくりの幅も広がります。」(才原)
※TCMNについて語る才原 一浩(左)と、その話を聞く木内 華奈(右)
才原は、TCMNの可能性を「使う人の側」からも見ています。
「溶けるニードルなので、使用時の負担が少ないのもTCMNの大きな特長。お子さまを含め、より多くの人に継続して使っていただける製品につなげていけますね。」(才原)
化粧品から生まれた技術に、医薬品の研究者が見たもの
化粧品開発の現場から生まれ、製品へとつながったタウリン結晶マイクロニードル。この技術を、医薬品開発の研究者はどう見たのでしょうか。
医薬品開発グループの木内華奈がまず驚いたのは「タウリン」という成分そのものを、皮膚に穿刺できるほど微細な針状結晶にし、それを製剤の中で安定した状態に保つという技術でした。
※開発部 医薬品開発グループ 木内 華奈
「タウリン結晶を肌に穿刺できるほど微細な針状結晶に制御し、クリームやジェルの中で安定した状態を維持できる技術はすごいと思いました。」(木内)
そして、技術そのものと同じくらい木内の印象に残ったのが、TCMN誕生のきっかけでした。
「実験中に偶然できた微細な結晶が、現在のTCMNの開発につながったというお話が印象に残っています。偶然を見逃さず、製品へと発展させた村山さんの観察眼は、研究者として見習いたいと思いました。」(木内)
偶然できた結晶を見過ごさず「針にできるのではないか」と考えた村山。
この発想から生まれたTCMNを医薬品開発の視点で見たとき、木内には別の可能性が見えました。
「本来は皮膚の局所に作用させたい薬でも、通常の外用剤では角質層を通過できず、注射などで全身投与されているものがあります。そうした薬をTCMNで必要な場所へ直接届けることができれば、患者さまの負担や全身性の副作用を軽減できる可能性があります。」(木内)
木内が考えているのは、既存の薬の投与方法を変えることだけではありません。
これまで高分子であるために皮膚に浸透しにくく、外用剤としての開発が難しかった成分にも、TCMNなら新しい届け方を提案できるかもしれない。木内は、そこにも可能性を感じています。
医薬品への応用の基盤となるのが、TCMNが皮膚に入り、溶けて成分を届ける仕組みです。
※TCMNの皮膚中での挙動。皮膚に挿入されたTCMNが、皮膚中の水分によって溶解する様子。(当社学術発表資料より)
※タウリンの皮膚浸透量。通常のタウリン塗布と比較して、TCMNでは皮膚への浸透量が大きく向上した。(当社学術発表資料より)
タウリン結晶マイクロニードルが拓く「やさしい医療」の可能性
木内が注目したTCMNの特長を医薬品へつなげる研究も始まっています。
現在コスメディ製薬は、TCMNを使って通常の塗り薬では皮膚に浸透しにくい成分を患部へ直接届ける研究を進めています。木内が見据えているのは、アトピー性皮膚炎や乾癬など、病変部が皮膚に現れる疾患への応用です。
「注射や通院が必要な治療を、より簡便な局所投与に置き換えることができれば、患者さまだけでなく、医療従事者の負担も軽減できる可能性がありますね。」(木内)
化粧品と医薬品の境界を超える「皮膚から届ける」 技術
化粧品開発の才原と、医薬品開発の木内。扱う製品や研究の進め方には違いがあります。それでも、二人がタウリン結晶マイクロニードルについて語る言葉には、共通するものがあります。
「美容と医療では異なる点も多いですが、どちらも必要な成分を皮膚の必要な場所へ届けるという課題は共通しています。お互いの知見を組み合わせることで、より良い製品につながると考えています」(木内)
木内は、化粧品開発の仕事にも関心を寄せています。
「化粧品開発グループの皆さんが『これ、どうかな?』と意見を交わしながら、色や香り、使用感を確かめている様子をいつも楽しそうだな、と思って見ています。1日だけ立場を入れ替われるなら、その輪の中に入って製品づくりを楽しんでみたいです(笑)」(木内)
一方、化粧品の処方開発に携わる才原がやってみたいのは、医薬品の処方設計です。
「医薬品では、化粧品以上に薬剤を安定化させる技術が必要だと感じています。実際にどのように処方を組んでいるのか、試してみたいです。」(才原)
医薬品への応用をめざして研究が始まった溶解型マイクロニードルは、2008年に化粧品として世界で初めて※2実用化され、社会に届けられました。そして今、化粧品開発の現場から生まれたタウリン結晶マイクロニードルが、医薬品への応用に向け、進化しつつあります。
化粧品か、医薬品かではなく「届けたいものを、どうすれば皮膚から届けられるのか」。
この問いを、次世代の研究者たちがつないでいきます。
※才原が開発を担当し、2026年2月に発売したTCMNスキンケアブランド『melnee』。同ブランドのターゲット世代、木内も注目している。
※1:世界初/日本初、タウリンを針状結晶化したマイクロニードル技術 2025年12月調査 TPCマーケティングリサーチ株式会社調べ
※2:公益社団法人 日本薬剤学会発行 学会誌「薬剤学」より