医療的ケア児の暮らしを“なめらか”につなぐ——訪問看護×通所施設で挑む新しい支援のかたち

2025.08.01 09:00
医療的ケア児や重症心身障害児を育てる家庭にとって、支援は少しずつ充実はしてきているものの、子どもが“地域で安心して過ごせる場”はまだまだ限られています。


そんな課題に向き合い続けてきた訪問看護サービス「ソイナース」(運営:株式会社Medi Blanca)が、東京都府中市に新たに開所する児童発達支援・放課後等デイサービス施設「ソイナース府中Port」。この新たな取り組みの裏側には、「訪問」と「通所」の枠を越え、子どもと家族を“1日を通して支える”という強い想いがありました。


本記事では、府中Portの施設管理者である看護師・高橋綾子さんとソイナース代表・横山さんに、開所に至るまでの背景と、連携の意味、そして地域に根ざす支援のかたちについて伺いました。
通える場所が、ない。——現場で届いていた、保護者のゆらぎ
ーー「通える場所がない」という保護者の声は、訪問看護の現場でも聞かれていたのでしょうか?


横山さん:はい、本当によく聞きました。東京都内でも支援の偏在は大きくて、特に千代田区や中央区のような家賃の高いエリアには、そもそも施設が一つしかない、というケースもあります。そうすると親御さんは区をまたいだ利用をすることになり、物理的にも精神的にもとても大変なんですよね。


高橋さん:私も、訪問の現場で感じていたのは、小学校入学前後の保護者の不安でした。児童発達支援から放課後等デイサービスへと移行したいのに、定員がいっぱいで「入りたくても入れない」という声がとても多くて。子どもが「ここに行きたい」という気持ちよりも、空きがあるかどうかで進路が決まってしまう現実があって、保護者の皆さんも葛藤されていました。


ーー夏休みや冬休みなど、長期休暇中の子どもの居場所も不足していますよね。
高橋さん:本当にそこが大変なんです。特に障がいの有無にかかわらず、子どもの居場所が一気になくなってしまう。保護者の方は仕事との両立もありますし、支援者としても「夏休み、春休みどうしよう」という声は以前からよく耳にしてきました。


横山さん:健常児のご家庭でも、長期休暇は大変ですからね。医療的ケアが必要なお子さんなら、なおさら。だからこそ、学校がない日にも安心して過ごせる居場所を地域に用意することが、本当に求められていると思います。
家と施設を”なめらか”につなぐために——訪問看護と通所施設の連携でできること
ーー訪問看護と通所施設が連携することによって、どんなメリットがありますか?


横山さん:他の事業所では、訪問は訪問、通所は通所と完全に分断されてしまっているケースが多いんです。でも私たちは訪問看護からスタートしている会社だからこそ、そこが”なめらかに”につながるように設計しています。家でのケアと施設での様子、両方の情報が共有されていれば、より子どもに合った支援が可能になります。


高橋さん:施設にいるだけだと、どうしても「その子らしさ」が見えづらいこともあります。でも訪問看護で家庭の中に入ることで、どんな音楽が好きか、誰といるとリラックスするか、そういう些細な情報も拾える。そうした積み重ねが、子どもにとって心地よい支援に繋がっていくと思います。


ーーなぜ「なめらかさ」が大切なのでしょうか?
横山さん:たとえば体調不良時や、外出支援のとき、「家の様子」も「外での様子」も両方わかっているからこそ、より的確な判断や対応ができます。成長や発達へのアプローチも、より個別最適化できると思っています。医療と福祉が縦割りにならず、相互に連携するからこそ、子どもの“1日全体”を支えることができると考えています。


ーー高橋さんは、連携によって見えてくるものをどう感じていますか?


高橋さん:施設だけで働いていると、「この子は家ではこうなんです」と聞いてもなかなか想像ができなかったりするんですよね。でも訪問にも関わることで、その子の“内側の顔”も見えるようになります。子どもたちも、外では頑張っていたり、家では安心して甘えていたり。その両面を知ることで、「本当の意味でのその子らしさ」を捉えられるようになると思っています。
ともに育ち、支え合う「共育ち」の場を——ケアの“受け手”ではなく、“育ち合う存在”として
ーー「共育ち」というコンセプトに込めた思いとは、どのようなものなのでしょうか?


高橋さん:府中Portの児童発達支援管理責任者である保育士さんが教えてくれた言葉です。「子どもは子どもの中で育つ」という言葉はよく聞くと思うんですが、それだけでなく、私たち大人も子どもたちから教えてもらうことが本当にたくさんあるんです。だから“共に育ち合う”場として、この言葉が自然にフィットしました。


ーーまさに「共育ち」ですね。言葉との出会いで、ご自身の中に変化はありましたか?


高橋さん:はい。子どもたちの反応ひとつひとつを、以前よりも大切に感じるようになりました。私たちが何か“してあげる”のではなく、子どもたちから“教えてもらう”姿勢を意識するようになりましたね。これは仕事だけでなく、子育てにも影響しています。


ーー「共育ち」という言葉を、横山さんは初めて聞いたときどう感じましたか?
横山さん:「すごくソイナースっぽいな」と。ケアリングや共感を大切にしてきた私たちのスタンスと重なりますし、何かを受け取るだけじゃなくて、みんながギブアンドテイクのギバーでいられるような場を目指しているのも同じ。スタッフからもよく「私の方が元気をもらっています」とか「子どもたちから学ぶことばかりです」って声があるんです。


高橋さん:まさにそうですね。子どもたち一人ひとりの「いい顔」を見つける旅に、大人も一緒に出発する。そんな場にしていきたいです。
ーー現場でその“共育ち”を実感したエピソードはありますか?


高橋さん:認可保育園と連携していた時、胃ろうのある女の子と一緒に過ごしていた男の子が、おままごとで飲み物を“お腹にあてて”飲ませていたんです。口から飲まない子がいることを、自然に受け入れていた。あれはとても印象に残っています。


横山さん:言葉よりもずっと深い理解が育まれていたんですね。子どもたちの関わりって、本当に豊かですね。
特別ではなく、当たり前に育つ。地域に開かれた場をめざして
ーー今後、この施設を地域にどのように開いていきたいと考えていますか?
高橋さん:特別なことをするというより、日常の中で自然と地域とつながっていけたらと思っています。たとえば、近くの公園で他の子どもたちと一緒に遊んだり、スーパーにお買い物に行ったり。そんな日々の中で、「こういう子どもたちも地域にいるんだ」ということを、まずは知ってもらえたら嬉しいです。


施設のすぐ近くに警察署や郵便局もありますし、駅もある。駅員さんに「おはよう」って言って帰ってくる——それだけでも十分な交流なんですよね。施設が地域に“開かれている”というより、子どもたち自身が地域に“存在している”ことが伝わるような関わりを大切にしたいです。


横山さん:実は、うちのスタッフが話してくれたエピソードでとても印象的だったものがあって。渋谷にある学童に通っている、ある医療的ケア児の女の子がいるんです。帰り道、バギーでセンター街を通るんですが、居酒屋のおじさんたちが「○○ちゃん!」と声をかけてくれたり、自然とやさしいやりとりが生まれているそうなんです。
本人はもう疲れてそれどころじゃなかったみたいなんですけど(笑)。でも、それを見ていたスタッフが「まさに“共育ち”だな」って言っていて。地域の中に、自然なかたちで共にある——その姿がとても嬉しかったです。
未来を担う子どもたちへ——伝えたいメッセージ
ーー「ソイナース府中Port」を通して、メッセージを一番伝えたい相手は誰ですか?
高橋さん:もちろん地域の方々に「こういう子たちもいるよ」と伝えるのも大切ですが、私は同世代の子どもたち——ここに来る子どもたちと同年代の子たちに、何かメッセージを届けたいのかもしれません。「一緒に育つって、どういうことだろう?」と感じてもらえるような。そんな体験が、いつか大人になったとき、心のどこかに残っていたら素敵だなと思います。


横山さん:本当にそうですね。お互いに学び合い、影響し合える存在として、地域の中で共に育っていけたら。「遊びに来たよ~!」と子どもたちがふらっと立ち寄ってくれるような、そんな場所にしていきたいです。その中で、将来「私も看護師になりたい」って思ってくれる子がいたら本当に嬉しいですね。

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