創業44年、弘前駅のお土産屋はなぜご当地キャラを作ったのか?弘前物産パルシー創業から「弘前ルーシィ」誕生までを辿る

2025.05.22 10:00
駅ビルの土産品店が「守りの姿勢」から新たな挑戦へ
株式会社弘前物産パルシーは土産品の小売企業として1981年に設立し、2025年5月22日で設立から44周年を迎えます。


青森県の弘前駅隣接の駅ビル「アプリーズ」が開業した1982年4月から43年、同ビル1階にて600~700品の地場産品を取りそろえ、多くの観光客を出迎えてきました。


「駅のお土産屋さん」として長年静かに街を見守り続けてきたパルシーでしたが、2025年1月に弘前のご当地キャラクター「弘前ルーシィ」を発表、パルシー史上初となるオリジナル商品の販売を開始しました。
缶バッジ・アクリルスタンド・キーホルダー


40年以上に渡り「守り」の姿勢を貫いてきたパルシーはなぜ今、どのような想いを込めてご当地キャラを作ったのでしょうか。


創業秘話から現在に至るまでの歴史、りんごと桜を誇る青森県内屈指の観光地、弘前のお土産事情の変遷を交えながら紐解いていきます。
「パルシーってどった意味だば?」なかなか覚えてもらえなかった社名の由来
1982年、駅ビル「アプリーズ」の開業と同時に店舗をオープンさせたパルシー。当時は聞きなれない響きの社名に戸惑う人も多かった、と代表取締役の石田 博通は笑います。
代表取締役 石田


「ヘルシー、カルシーと言い間違える人もいれば、シルバーと呼ばれることもあった」


そんな今では知られた社名である「パルシー」ですが、実は石田を含む創業者たちがつけたものではないと言います。
7社が出資し合って設立された弘前物産パルシー
全ての始まりは、1979年に着工した3代目駅舎の隣に、のちのアプリーズとなる駅ビルの建築が決まったことでした。


テナント募集の知らせを受け「駅ビルに共同で土産品店を出店しないか」と呼びかけた1社に対し、賛同した市内の物産関係の6社が集まります。
1981年に完成した3代目弘前駅舎(弘前市立弘前図書館蔵)


そのうちの1社が石田の実家であり、大正時代から続いていた弘前駅近くの果物・土産品店「石田商店」でした。


計7社のうち、石田商店を除く残り6社はメーカー企業でした。そのため、店舗を運営するのは小売店である石田商店が適しているだろうという話になり、当時20代だった石田は代表して新会社設立に向け奔走し始めました。


駅ビルという存在自体がまだ一般的ではなかった時代に、どういった商品を取りそろえるべきか苦心したとのことです。
1982年アプリーズ竣工当時(弘前市立弘前図書館蔵)


やがて駅ビルの完成に先立ち、駅ビルの名称は公募で決定することになりました。


選考の結果、最終候補まで残ったのが「アプリーズ」と「パルシー」の2案。最終的に「アプリーズ」が選ばれましたが、選考委員会のメンバーに新会社の関係者がいたことから、残った「パルシー」を頂戴し社名として掲げることになったのです。


「パル」は英語で「友達」を意味し、仙台などにある駅ビル「エスパル」や盛岡駅ビル「パルモ」にも使われています。「シー(C)」は弘前公園の美しい桜(Cherry Blossom)やお城(Castle)の頭文字が由来になっているそうです。


石田に社名が決まった時の気持ちを聞くと「パッと見何の会社か分かりづらく、実は自分も最初はピンと来なかった」と打ち明けました。
激動の44年を振り返る ~創業からバブル崩壊まで~
当時は秋田県大館市までを含む広い商圏を誇った弘前市。その玄関口である駅ビルに店を構えたパルシーでしたが、これまでの道のりは決して平坦ではありませんでした。


会社設立の1981年は高度成長期とバブル景気のちょうど間にあたり、最初の滑り出しは好調でした。


現在の売上構成はお菓子を中心とした食品8割、酒類1割、雑貨が1割ですが、当時は伝統漆器の「津軽塗」や江戸時代から続く刺繍「こぎん刺し」などの工芸品が5割を占めたと言います。
現在の弘前駅とアプリーズ


最初の危機となったのは、創業から9年が経過した1991年のバブル崩壊です。


日本全体が混乱に陥る中、旅行客は激減しパルシーも大きな打撃を受けました。ネット販売もない時代、駅に店を構える土産品店は観光客が来てくれないことにはどうしようもありません。


経費を削減し借入をしながら何とか耐え忍ぶ時期が続きました。
東日本大震災とコロナ禍。二度の低迷期を経て、ようやく回復の兆し
そして2011年の東日本大震災。


前年の2010年12月に東北新幹線が全線開通し、青森がお祝いムードに包まれてからたった3か月後のことでした。


弘前は直接的な被害は大きくなかったものの、客足は完全に途絶えます。最悪の事態も覚悟しましたが、4月29日に東北新幹線が運転を再開すると、桜の時期だったこともあり少しずつ人の動きも戻っていきました。
弘前公園の桜


それまで少数だった外国人旅行客が目に見えて増え始めたのは、「爆買い」という言葉が生まれた2015年頃です。


一番多いのは台湾からの観光客ですが、日本ほどお土産を買う文化がないためその場で食べられるお菓子やりんごジュースが人気です。


最後は記憶にも新しい2020年に訪れたコロナ禍。
この44年の歴史の中で一番苦しかった、と石田は振り返ります。


県をまたぐ人の移動は自粛を求められ、一番の観光シーズンである4月から5月にかけ駅ビル自体が時短営業や臨時休業を余儀なくされました。


その余波は大きく、その後3年半ほどはパルシーにとっても未曽有の低迷期が続きました。インバウンドの後押しもあって、ようやく2024年から回復の兆しが見られるようになったと言います。
「駅のお土産屋さん」が街のためにできることは何か
時代の移り変わりの中で生き残るため、パルシーは「何でも試してみる」をモットーにしてきました。


新しい商品があればまずは店頭に並べ、その時々で何がお客様に喜ばれるのか見極め試し続ける――それを繰り返した44年間でした。


ただ、近年は弘前市内で閉業する店が目立つようになり、街の活気も失われているように感じると語る石田。これまで売り場づくりにおいては改善を続けてきましたが、「お客様を待つのではなく、呼び込む」という点に関しては挑戦できていなかったことに気づきます。


そこで「パルシーでしか買えない商品を作ろう」と思い立ったものの、それだけで街を元気にできるとは思えませんでした。
家族のアイデアがきっかけに。弘前ルーシィ誕生の裏側と込めた想い
弘前ルーシィのラフ画やボツ案


「パルシーを起点に弘前を盛り上げるにはどうしたらいいのか」


石田が家族に相談すると、「パルシー発のご当地キャラクターを作る」という案が出ました。


可愛いキャラクターがいれば、観光客だけでなく地元住民も見に来てくれるかもしれない。そうすれば商品を目にする機会も増え、パルシーだけでなく取扱商品のメーカー企業にも微力ながら貢献できるのではと考えたのです。


また、キャラクターなら情報発信がしやすいため、ゆくゆくは地元企業や商品、イベント等のコラボを通じ様々な形で弘前をPRし盛り上げていくことを目標としました。


人気キャラクターに育てることは決して容易ではありませんが、「何でも試してみる」の一心で、弘前ルーシィの開発は始まりました。
店頭からSNSまで予想以上の反響。デビュー1か月で起きたこと
キャラクター制作はつてのあった同人作家、あかちゃんベイビーさんへ一任。弘前の美しい風景をモチーフに、可愛らしく親しみやすいキャラクターが生まれました。


ストレートに弘前市の「弘前」を名字とし、明るく聡明な女性を想起させる響きを持ち、パルシーとも語感の近い「ルーシィ」を組み合わせて名づけました。


【モチーフ】
髪の色と形:岩木山
髪飾り・ヘッドフォン:桜
マフラー:りんごの果実
服装:りんごの皮
靴:弘前公園の下乗橋


発表にあわせてパルシー初となるSNS開設やプレスリリース配信にも取り組みました。
反響は想像以上に大きく、2025年1月25日に発売した第一弾の全商品が1か月以内に売り切れ、特にアクリルスタンドは1週間で完売となりました。
同時発売した弘前特化型ステッカー。3か月で500枚以上を売り上げた


SNSでは弘前ルーシィグッズの購入報告が連日寄せられる他、店頭のパネルと記念写真を撮るお客様も沢山いらっしゃいます。また、当初から願っていた通り、弘前ルーシィと連動するように他商品の購入も増えたと言います。
店頭の特設コーナー


自身ではキャラクターを作ることなど思いつきもしなかったと言う石田。驚きの色を見せながらも「弘前の魅力や地場の素晴らしい商品が広まる機会になれば嬉しい」と期待を膨らませます。
パルシーと弘前ルーシィのこれから
弘前ルーシィが紡ぐ夢は始まったばかりです。


今後の展望について石田や作者のあかちゃんベイビーさんに伺うと、「まずは地元での認知度向上を目指したい」とのこと。地元情報を中心に積極的な発信を続けながら、コラボしてくださる地元企業も随時募集しています。
最後に、駅という地元住民と観光客が最も行き交う場所に店を構えるパルシーだからこそ果たせる役割を探していきたい、と石田は力強く付け加えます。


土産品、そして弘前ルーシィを通じて人を繋ぎ、弘前の愛される風景や味、工芸が残り続けるように。パルシーの挑戦はこれからも続きます。




【会社概要】
社名:株式会社弘前物産パルシー
本社所在地:〒036-8096 青森県弘前市表町2-11 アプリーズ1階
代表取締役:石田 博通
事業内容:観光土産品の販売、オリジナル商品の開発等
設立:1981年5月
会社公式X:
弘前ルーシィ公式X:
■本件に関するお問い合わせ先
メールアドレス:palcy@camel.plala.or.jp
電話番号:0172-35-8180
担当者:石田 (いした)

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