第一三共ヘルスケアが長年研究を続ける「トラネキサム酸」の歴史と最新の研究を紐解く

2025.05.15 10:30
第一三共の前身のひとつである第一製薬が初めて製品化した「トラネキサム酸」。現在は第一三共ヘルスケアの医薬品や薬用化粧品にも応用されており、さらなる研究が進められている。「トラネキサム酸」とはどのような成分なのか、その歴史を振り返るとともに、現在の研究と、その苦労や喜びなどについて、2008年の入社以来トラネキサム酸を使用した製品の開発研究に長く携わる有用性研究担当の辻に話を聞いた。
―第一三共の前身の会社が初めて製品化した抗炎症作用をもつトラネキサム酸
トラネキサム酸は第一三共の前身のひとつである第一製薬が初めて製品化した化合物で、出血や炎症、アレルギーなどの症状を引き起こすプラスミンを抑える作用を持つ、抗プラスミン剤として研究が進められてきた。当初は医師により処方される医療用医薬品として扱われ、その後はOTC医薬品としてかぜ薬などにも応用。さらに肌への作用へと可能性を広げていった。


辻:当初、医薬品として開発されたトラネキサム酸は、肌に対しても抗炎症の作用があるものとして見られていましたが、さらに第一製薬時代に「肝斑やシミに効果がある」という別の角度からの可能性も見出されて、そこから肝斑改善薬が誕生しました。これは新しい着眼点から新たな製品開発へとつながった、一つのポイントだったと思います。
<医薬品におけるトラネキサム酸の開発経緯>
―抗プラスミン剤として生まれたトラネキサム酸の歴史
抗プラスミン作用がある成分としてトラネキサム酸にたどり着くまでには長い歴史がある。その起源は1951年。当時、慶應義塾大学医学部講師だった岡本彰祐博士らが抗プラスミン作用のあるイプシロン-アミノカプロン酸を発見し、第一製薬から発売されたことが抗プラスミン剤の先駆けとなった。
抗プラスミン剤は画期的な新薬として浸透していったが、国内外での研究成果が集まると抗プラスミン作用を確実に得るためには大量の投与が必要なことも分かってきた。この課題を解決すべく、第一製薬の研究陣は神戸大学医学部の教授となっていた岡本博士の協力を得て研究を重ね、1964年にイプシロン-アミノカプロン酸から合成した化合物、トラネキサム酸がより強力な抗プラスミン作用を持つことを発見。この頃はサリドマイド事件、風邪薬アンプル事件などの薬害事件が立て続けに発生した影響で、厚生省も新薬の許可には慎重になっており、調査会からは新たなデータを何度も求められた。しかし第一製薬の創業50周年に合わせた発売を目指して根気強く対応し、1965年、周年記念に間に合う形でトラネキサム酸を新たな抗プラスミン剤として発売するというミッションを成し遂げた。トラネキサム酸から生まれた新薬は手術時の止血や、血友病、紫斑病など多様な適応範囲を持ち、その効果は高く評価されることになった。
―トラネキサム酸の新たな作用に着目。肝斑改善薬開発の道のり
医療用医薬品としての実績が積み重なると、複数の皮膚科医からトラネキサム酸はしみの一種である肝斑に効くという証言が出てくる。また、文献でも効果が報告されていたため、新たな「肝斑への作用」という方向性を探り始めた。しかし、医療現場では適応外使用のため、1日の最適な服用量、投与期間、長期服用の安全性など、医療用医薬品では検討されていないことばかり。OTC医薬品としての承認を得るためには「新効能医薬品」という大きなハードルを乗り越えなければならなかった。


さらに困難を極めたのが臨床試験だ。「肝斑」の患者を集めた本格的な臨床試験は日本でも例がなく、「肝斑」という耳慣れない疾患の患者をどうやって集めるのか、既に売り出されている「しみの緩和」の効能・効果が認められているビタミンC 剤との比較で効果に差が出るのかなど、不安材料は山のようにあった。しかし、この難易度の高いハードルを一つひとつ、粘り強くクリア。OTC医薬品としては大規模な臨床試験で承認を得るためのデータを揃え、2004年に申請。審査とその対応に多大な時間が費やされたが、無事に承認を取得し、2007年に念願の肝斑改善薬の発売に至った。
<トラネキサム酸の作用に関する現在の研究>
―肌トラブルを引き起こす物質の抑制など、肌を健やかにする作用も判明
成分として歴史のあるトラネキサム酸だが、現在も研究は続けられており、近年の研究からもさまざまな作用があることが分かってきた。その一つが肌トラブルを引き起こす炎症性物質「トリプターゼ」の抑制だ。


辻:「プラスミンに作用するメカニズムを考えると、トリプターゼにも効くかもしれない」という研究者のひと言から研究を始めたのですが、想定通り、トリプターゼの活性を抑えることが分かりました。トリプターゼにはコラーゲンを破壊する作用もあるため、たるみなどのエイジングにも効果が期待できる。全体的に炎症を抑えつつ、肌にとってはコラーゲンを守る役割をしている可能性があることが分かったわけです。


トラネキサム酸のさまざまな作用を調べるプロジェクトでは、細胞だけではなく、実際に人の肌への効果を測定する試験も実施。その結果、角層水分量の向上にも関与していることが分かった。


辻:被験者の顔の半分にトラネキサム酸を配合した乳液を、反対側にトラネキサム酸を抜いた乳液を朝晩毎日塗っていただき、左右でどう変わるのか、という試験を実施しました。その結果、トラネキサム酸を配合した乳液を塗布した側のほうが、「水分量が上がる」という結果を得ることができました。元々、乳液には保湿力があり水分量を上げるものですが、トラネキサム酸入りの乳液を使った部分はさらに水分量を上げてくれることが分かりました。


トラネキサム酸による皮膚の角層水分量に関する研究リリースは
―業界でも未知の領域であった「ブルーライト」に対する研究にも着手
トラネキサム酸はUV(紫外線)によって起こる炎症に対しても効果があることが既に分かっていたため、ブルーライトによって肌が受ける悪影響にも効果も発揮するのではないかと考えた。


辻:ある女性研究員が、「ブルーライトは眼に悪いと言われているけれど、肌にとってはどのくらい影響があるのか?」と皮膚への作用について調べ始めたことが研究の出発点です。そこで、まずは日常で浴びるブルーライトの強度という部分に着目して、どんな機器がどれだけの強さのブルーライトを放出しているか調べてみることに。結果、テレビやパソコンなどの電子機器では長時間浴びないと一定量に達することがなかったですが、一方で、太陽光やジェルネイル用ランプなどは、短時間でもかなりの強度があることが分かり、意外な結果となりました。


そして、実験を進めていくと、ブルーライトもUVと同様、細胞に強いダメージを与えることが分かった。ヒトの皮膚由来の細胞をシャーレで培養し、ブルーライトを照射。トラネキサム酸を含むさまざまな成分を添加して、どのような変化があるのか実験データを取得した。


辻:ブルーライトにより、免疫細胞の1つである好中球がどう変化するかを調べてみました。長くブルーライトを当てるほど細胞は死滅してしまうのですが、トラネキサム酸を添加しておくと、その細胞死を抑えられることが分かりました。また、ブルーライトを当てることによって生じる炎症を抑える効果も見出しました。さらに、コラーゲンの減少やメラニン産生促進因子の増加などが見られたのですが、トラネキサム酸を添加すると、それらを抑える作用があることが分かったのです。
この研究により、ブルーライトによる肌ダメージは意外と大きく、トラネキサム酸はあらゆる面で肌をトラブルから守ってくれている、という成果を得たわけだ。


ブルーライトによる皮膚への影響とトラネキサム酸の抑制作用に関する研究リリースは
―効果を実証できる実験は一握り。それだけに喜びは大きい
様々な作用が確認されてきたトラネキサム酸だが、これまでにうまく効果を示すことができなかった実験も数多くあった。


辻:実際には非常にたくさんの実験を行っていますが、期待通りの結果が出るのはほんの一握りです。今もさまざまな実験を続けていますが、はっきりと効果が出るものではないだけに、様々な実験手法を検討するなど、試行錯誤を繰り返しています。


効果を実証できるのは一握り。正直、肝斑改善薬としての有効性は高かったが、あれほどの有効性が肌に塗った時でもあるのだろうか、という考えは拭いきれなかった。それだけに効果が出たときの喜びはひとしおで、それがやりがいにもつながっているという。


辻:ブルーライトの実験結果や、人の肌への効果を確認できた時は本当に驚いて、「やっぱりトラネキサム酸には、まだまだ隠れた可能性があるんだ」と自分自身も実感できました。
―加齢による慢性炎症への作用など、炎症のメカニズムを突き詰めていきたい
開発職から研究職と、長年にわたりトラネキサム酸について調べてきた辻に、研究者としての想いも聞いてみた。


辻:トラネキサム酸は第一三共のオリジナル成分なので、作用メカニズムを深掘りする研究は大事だという思いがありながらも、どれほどの広がりや可能性があるのかという点については半信半疑だったのが正直なところです。しかし、やればやるほどいろいろなことが分かり、抗プラスミン作用しかないと言われていたトラネキサム酸が、皮膚細胞に対してもさまざまな作用があることは非常に面白いと感じていますし、今後も多面的に研究を進めていきたいと考えています。また、発表したデータを見て、トラネキサム酸に興味を持ってくださるお客様もいるはず。今後も研究を進めて情報を発信していきたいと思います。


すでに有効性は分かっているのだからあえて深掘る必要はないのかもしれない。しかし第一三共ヘルスケアの研究員は皆、オリジナル成分であるトラネキサム酸の可能性を引き出したい、という強い思いを持って研究を続けている。
辻:今後は「抗炎症のメカニズム」を引き続き深掘りしていきたいと思っています。なかでも注目しているのが、加齢によって弱い炎症が続く慢性炎症です。年齢を重ねると細胞レベルでの炎症が抑えられなくなり、弱い炎症が持続している状態、いわゆる慢性炎症状態になってしまいます。若い頃は少し炎症が起きても自力で戻すことができますが、戻せないと常に少し炎症を起こしている状態が続き、結果的に細胞レベルから組織レベルで傷を負うことになってしまう。今はそれが大きな生活習慣病や、老化により起こる病気につながると業界でも話題になっています。微弱な炎症であってもないがしろにできないのです。皮膚トラブルが起こらないようにするためにも、毎日のケアが大切なので、そういった微弱な炎症、慢性炎症に対してトラネキサム酸がどう作用するのかを突き詰めていきたいと思っています。


トラネキサム酸の秘めたる幅広いポテンシャルに、ぜひ期待していただきたい。








<関連情報>
◆PR TIMES STORYにて動画を公開
第一三共ヘルスケアは、ふとした疑問にメディカル視点でお答えしながら製品開発にかける想いを語る動画シリーズ「Medi Theater(メディシアター)」を配信しています。第3話では、炎症を抑える作用を持つトラネキサム酸について、皆さまのふとした疑問に研究、開発担当者がデータを交えてお答えしています。
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◆コーポレートサイトにてオリジナル成分を紹介
第一三共が開発・製品化した成分を、オリジナル成分として紹介しています。オリジナル成分の一つであるトラネキサム酸のヒストリーについて公開しています。
URL:
◆第一三共ヘルスケア株式会社について
第一三共ヘルスケアは、第一三共グループ(※)の企業理念にある「多様な医療ニーズに応える医薬品を提供する」という考えのもと、生活者自ら選択し、購入できるOTC医薬品の事業を展開しています。
現在、OTC医薬品にとどまらず、機能性スキンケア・オーラルケア・食品へと事業領域を拡張し、コーポレートスローガン「Fit forYou 健やかなライフスタイルをつくるパートナーへ」を掲げ、その実現に向けて取り組んでいます。
こうした事業を通じて、自分自身で健康を守り対処する「セルフケア」を推進し、誰もがより健康で美しくあり続けることのできる社会の実現に貢献します。


※ 第一三共グループは、イノベーティブ医薬品(新薬)・ワクチン・OTC医薬品の事業を展開しています。

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