19歳の新人・穴澤維穏(いおん)さん
1992年に誕生した「
」は、江戸時代の町並みや文化を再現したテーマパーク。迫力ある忍者ショーが話題を呼び、近年では多くの外国人観光客も訪れる人気スポットとなっており、来園者の8割を韓国や中国、マレーシアなどの訪日客が占めます。しかしその舞台裏では、俳優陣の高齢化や若手の不足によって「忍者が足りない!」という深刻な課題が進行しています。
観光の目玉である忍者ショー。その担い手が不足するなか、2024年春に18歳でこの世界に飛び込んだ新人・穴澤維穏(いおん)さんの存在が大きな希望となっています。2025年4月25日(金)より、忍者が頭上を飛ぶダイナミックな夏季限定の野外アクションショーがスタート、維隠さんは女子侍の役で野外ショーデビューを果たします。
登別市初代ナビゲーターの姫子さんが、「登別伊達時代村」を訪問。維穏さんの挑戦を軸に、芸能部座頭・神保利行さん、そして忍者演劇演出家・山田桂司さん、それぞれの視点から「登別伊達時代村」の現在と未来を伺いました。
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入口では、早速忍者がお出迎え!
忍者不足の救世主は19歳の女性新人!
取材当日(2024年12月)、劇場でひときわ凛とした立ち回りを見せていたのが、19歳の穴澤維穏(いおん)さん。「忍者になりたい」その一心で、高校卒業と同時に「登別伊達時代村」に飛び込み、現在は侍役として修行を積む日々。保育園で見た「忍者大図鑑」がきっかけで、忍者が大好きになり、小学校のころから、何度も「登別伊達時代村」に足を運び、忍者ショーを見て、ずっと憧れを持っていたそう。
維隠さんは函館出身。小学校のころから、何度も「登別伊達時代村」に足を運んだ
姫子さん:舞台、お疲れさまでした!忍者姿の維穏さんに会えると思っていましたが、忍者ではなく侍の役でしたね。それには理由があるんでしょうか?
維穏さん: いまは侍として修行中なんです。殺陣の基本は侍の動きからと教わって。まずはしっかりとした所作を身につけてから、忍者としての表現につなげたいと思っています。
姫子さん: そもそも、なぜ忍者を目指そうと思ったんですか?
維穏さん: 高校生のときに「函館野外劇」という函館の歴史を伝えるボランティアの劇に参加したことがきっかけです。箱館戦争のシーンで殺陣を経験したときに、子どものころに時代村で見たアクションを思い出して、「やっぱりここでやりたい」と思ったんです。
高校生のときの維穏さん
姫子さん:最近、メディアでも「忍者不足の救世主」として注目されていますが、周囲の反応はどうですか?
維穏さん:すごいね、頑張ってるね!って応援してくれています。いまはまだ舞台に立つ回数も少ないので、もっと成長して、堂々と演じられるようになったら観に来てほしいと思っています。
姫子さん: 舞台中心の毎日かと思いますが、プライベートの時間は取れていますか?
維穏さん: 同世代の友達とはなかなか時間が合わず、SNSでキラキラした大学生活の写真を見ると、少し寂しく感じることもあります。泊まり会やサークルとか、キラキラして見えて…。
姫子さん: でもきっと、周りから見たら舞台に立つ維穏さんの姿はすごくキラキラしていると思います!
維穏さん: ありがとうございます。まだまだ未熟ですが、子どものころに感じたワクワクを、今度は私が届ける側になれたら嬉しいです。
芸能部座頭・神保利行さん
迫力あるアクションに、目まぐるしく展開する殺陣。日本語がわからなくても楽しめる“ノンバーバル”な魅力こそ、「登別伊達時代村」の忍者ショーの真骨頂だ。この舞台を裏から支えるのが、芸能部座頭の神保利行さん。忍者俳優として舞台に立ちながら、1日12公演にも及ぶ劇場スケジュールの管理や人員配置を一手に担っている。
海外からのお客様に向け、身振り手振りを交えた英語で口上を述べる
神保さんが「登別伊達時代村」と出会ったのは高校2年のとき、札幌で行われた村のオーディションに参加し合格。卒業と同時に入村し、忍者俳優としてステージに立ち始めました。2018年から芸能部座頭に就任し、現場の最前線で俳優陣をまとめています。
姫子さん:今日のショー、本当に圧巻でした!殺陣のスピード感もさることながら、日本語がわからない海外からのお客さんも、目を輝かせて見入っていたのが印象的でした。
神保さん:ありがとうございます。ここ数年は通訳がつかない海外からの個人旅行客も増えており、日本語がわからなくても楽しめるようセリフをできる限り減らすようにしています。冬場は雪を楽しむ目的もあって外国人観光客の割合が大きいです。来園者のピークは2017年の約35万人でしたが、新型コロナの感染拡大が落ち着いたこともあり、いまは27万人とコロナ前に少しずつ戻ってきています。
姫子さん:その舞台を担う俳優さんが減っていると聞きました。
神保さん:はい。私が入った頃は70~80人いましたが、今は31人。特に若手が少ない。誰かが風邪をひいただけでスケジュールが崩れてしまうような状態です。今の方がむしろプレッシャーが大きいですね。
姫子さん:そんななか、維穏さんのような若手がいるのは大きいですね。
神保さん:本当にそうです。若い力が加わることで、空気が変わる。舞台にも勢いが出る。彼女のような存在が他の若者にも刺激を与えてくれたら嬉しいです。
姫子さん:神保さんにとって、「登別伊達時代村」とはなんでしょうか?
神保さん:観光地でありながら、人が育つ場所です。舞台に立つだけじゃなく、人として成長する場所。僕自身もそうでした。だからこそ、若い世代につなげていきたいですね。…というわけで最後にちょっとだけ宣伝を(笑)。忍者になりたい人は、ぜひ問い合わせを!
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忍者募集中:0143-83-3311
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「登別伊達時代村」の忍者演劇演出家・山田桂司さん
「忍者は日本の歴史、カルチャーです。絶やしてはいけないものなんです。」そう語るのは、「登別伊達時代村」の忍者演劇演出家・山田桂司さん。日本各地の時代村で演出家として実績を重ねてきた、忍者演劇の第一人者です。「日光江戸村」や「伊勢時代村」などで仕事をしていましたが、東日本大震災の津波によって自宅周辺が流され避難しているときに、「登別伊達時代村」の再建を託され、登別へ。以来、演劇の演出全体を担い、脚本、演出、殺陣指導、舞台美術、音響・照明などをほぼ一人で担当しています。また、施設の景観や雰囲気までを再構築してきました。
姫子さん:演出家として、登別に来られた経緯を教えてください。
山田さん:2011年の東日本大震災で家を流されてしまって、福島から避難していたときに、今の社長から声をかけてもらったのが始まりです。
姫子さん:どんな改革を行ってきたのでしょうか?
山田さん:「日本の美しさ」「人の心」「伝統演劇」この3つを大切にしてきました。言葉を変えると、「景」「仁」「技」ですね。特に「仁」は、舞台に立つ人の心。思いやり、礼節、誠実さといった、見えないけれど最も大事なものです。演出の根幹には、いつも「仁」があります。
姫子さん:維穏さんのような若い人材について、どう見ていますか?
山田さん:素直で、ちゃんと人の話を聞ける子。演技力も大切ですが、それ以上に「人に見られる」という意識が重要。だからこそ、礼儀や言葉遣い、立ち居振る舞いなど、当たり前のことを徹底して伝えています。
姫子さん: 忍者不足という課題にはどう向き合っていますか?
山田さん: 問題は確かに深刻です。でも「いま誰がいるか」より、「いまいる人をどう育てるか」が大事。維穏さんのような若者を育てる覚悟があれば、未来は作れると信じています。
姫子さん:今後の目標は何でしょうか?
山田さん: 言葉に頼らない“ノンバーバル”な舞台をもっと増やしていきたいです。動きや空気感だけで伝えられれば、海外のお客様にも、日本の方にも、もっと心に届く舞台になると思います。
姫子さん: 最後に、読者へメッセージをお願いします。
山田さん: 忍者はエンタメであると同時に文化です。憧れる若者がいて、育って、舞台に立てる環境を守っていくことが、私の使命です。
姫子さん:登別伊達時代村の舞台に立つ人々は、ただ演じるだけでなく、文化を背負い、未来へとつなぐ存在だと感じました。みなさんの姿に、未来の“忍者”が憧れの目を向けてくれることを願っています。人を育てていくことに一番重きを置いている、というお話しに感動しました。今日は貴重なお時間、ありがとうございました!
登別伊達時代村
所在地:北海道登別市中登別町53-1
電話番号:0143-83-3311
営業時間:夏季(4月1日~10月31日)9:00~17:00、冬季(11月1日~3月31日)9:00~16:00
定休日:年中無休
アクセス:JR登別駅からバスで6分、登別東ICから車で3分、登別温泉から車で10分
登別市について
登別市は、北海道南西部の太平洋岸に位置し、約44,000人が暮らす豊かな自然環境と都市機能が調和したまちです。四季折々の美しい景観が広がり、春の桜、夏の新緑、秋の紅葉、冬の雪景色と、訪れる方々に季節ごとの魅力を感じることができます。
新千歳空港からは鉄道、バス、乗用車ともに約1時間で移動が可能。また、北海道最大の都市・札幌までは鉄路で約1時間と主要都市へのアクセスにも優れているため観光の拠点としても人気があります。
日本を代表する温泉郷で、国内外から毎年約400万人もの観光客を迎えています。9種類もの泉質を楽しめる「温泉のデパート」とも呼ばれる登別温泉や、北海道初の「国民保養温泉地」として知られるカルルス温泉、さらに地獄谷や大湯沼といった自然の造形美も多くの方に親しまれています。
また、市内には大型ショッピング施設や医療機関、公共施設が整備され、暮らしの利便性も高い環境です。登別漁港や鷲別漁港などの漁港があり、サケやホッキ、毛ガニなどの水産資源に恵まれています。
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