映画ライター厳選 2025年アカデミー賞ノミネート作品3選

2025.02.20 10:21
近年、DEI(多様性、公平性、包括性)を意識した表現が一般化する一方、SNSでは反発の声も強まり、経済界でも反DEIを表明する企業が増えています。それでも今年のアカデミー賞では、社会的テーマを取り入れつつ、娯楽性に秀でた作品が多くノミネートされました。 日本時間3月3日(金)の受賞作発表を前に、映画ライターの圷 滋夫(あくつ・しげお)さんが注目の3本を紹介します。『エミリア・ペレス』/ 3月28日公開
メキシコの麻薬組織のボスが性別適合手術を受けて女性になるという、奇想天外な設定にまず驚かされます。そこへ、男性優位の法曹界に怒りを持った女性弁護士が巻き込まれ、物語は数カ国を巡りながら、ジェットコースターのように目まぐるしく展開します。
作品賞、監督賞など主要部門を含む最多12部門13ノミネートの本作は、その心情をミュージカルで表現する場面もあります。リアルな描写と歌唱場面が、陰影に富んだ映像によってシームレスに移り変わり、まるで夢のようなシュールさと美しさがあります。ミュージカルの王道の旋律に、メキシコの民族音楽やヒップホップを融合させた楽曲にも胸を打たれます。
犯罪映画でありながらラブストーリー、サスペンス、アクション、シスターフッド、ヒューマンドラマ、そしてミュージカル――場面ごとに入れ替わる内容を、ドキドキする娯楽作として大胆にまとめ上げた監督の手腕は見事です。さらに、マッチョな男だった主人公が、それまで知らなかった女性の立場や苦しみを思い知る過程が描かれます。同時に、組織の犯罪に巻き込まれ行方不明となった被害者の存在についても考えるようになり、「人生の再生」というテーマへとつながっていきます。『教皇選挙』/ 3月20日公開
何の飾り気もない直球のタイトルで、「新教皇を選ぶまでの数日間の物語」と聞いたら、「地味でつまらなそう」と思いますよね? 実はこれが二転三転する選挙の行方にさまざまな人間ドラマが織り込まれ、ハラハラしっぱなしの上質な知的ミステリーなのです。終盤には、閉ざされた礼拝堂で息をのむスペクタクルとネタバレ厳禁のドンデン返しが用意され、大人が楽しめる極上の娯楽作品となっています。
750年以上続く神聖な選挙の進め方が丁寧に描かれる中で、裏では各々の思惑がぶつかり合い、熾烈な票争いが繰り広げられます。スキャンダルや謀略がリークされて分断が深まる様子は、今の政治の世界そのものです。駆け引きの中で人間の暗部があぶり出される一方で、揺るぎない公正さや良心も描かれます。さらに、終わりの見えない戦争やテロの問題、枢機卿たちと見えない存在にされているシスターたちとの対比を通じて、カトリック教会が抱える家父長制やジェンダーの問題が、現代社会に通じる課題として浮き彫りになります。
ビジュアル面でも伝統とモダンなセンスが絶妙に共存し、作品賞や脚色賞、衣装デザイン賞など8部門でノミネートされています。『聖なるイチジクの種』/ 2月14日公開
舞台のイランは、法的にも社会的にも女性の地位が低く、日常生活でも多くの制約を受けています。本作は、2022年に起こった警察の暴行が原因とされる女性の死をきっかけに、市民が繰り広げた激しい抗議運動が作品の背景に反映されています。
物語は、信念を持って国家に尽くしてきた父が昇進した矢先、護身用に上司から持たされた銃が家で消えたことから動き出します。この事件をきっかけに、親子間、夫婦間に疑心が生じ、追い詰められた父は思いもよらない行動に出ます。妻はそれでも夫に従いますが、学生の二人の姉妹は自由を求めます。一方、父も新たな職務の中で大事な信念を歪められていました。
予測不能でまばたきもできない家族間の心理戦。劇中に差し込まれるニュース映像や、独裁政権によるデモ弾圧の実際のスマホ映像が、緊迫感をさらに高めます。そして終盤で一気に様相が変わり、アクション映画さながらの攻防が展開され、驚きのラストを迎えます。
昨年のカンヌ国際映画祭で審査員特別賞に輝いた本作は、国際長編映画賞にノミネートされました。娯楽性と社会派ドキュメンタリー的な要素が見事に融合し、167分の長さをまったく感じさせない衝撃作です。また、イラン特有の唱法や楽器を用いた音楽と美味しそうな料理が醸し出す異国情緒も本作の魅力です。



圷 滋夫(あくつ・しげお)/映画・音楽ライター
映画配給会社に20年以上勤務して宣伝を担当。その後フリーランスになり主に映画と音楽のライターとして活動。鑑賞マニアで映画とライブの他に、演劇や落語、現代美術、コンテンポラリーダンス、サッカーなどにも通じている。
Edit : Yu Sakamoto

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