マンションの一室から農園へ〜美容師による6次産業挑戦のストーリー〜
大阪のとあるマンションの101号室で小さな美容室を始めた美容師が、理想のヘアケア製造を目指して鳥取砂丘地でラベンダーの生産・加工・開発・販売を一貫して手がけるために立ち上げた会社‥それが株式会社101です。
その砂丘地産ラベンダー精油を贅沢に使用し「髪の基礎化粧品」をコンセプトに、肌にも地球にも優しいヘアケアブランド「sakyu」シリーズが完成しました。
食品の分野では徐々に浸透してきている「6次産業」。1次産業である農業、2次産業の加工・製造、そして流通・販売の3次産業を一貫して推進することで新しい価値を生み出す取り組みのことです。
このストーリーでは、全国でも珍しい農業×美容の6次産業にチャレンジした紆余曲折の経緯と、そこから生まれたヘアケアブランド「sakyu」についてまとめていきたいと思います。
移住先での一筋の光明。「サロン運営の経験×鳥取の地域性」で新しいバスアメニティの価値創造を目指す
関西(大阪・京都・神戸)で4店舗のサロン経営をしながら、プライベートの事情で妻の地元である鳥取へ移住することになったのが2019年でした。
京都府京都市出身の私にとって鳥取は結婚するまで縁もゆかりもない土地でしたし、人の流入が少ない地域で美容室を新規開業して顧客を開拓していくというのはイメージしづらいことでした。
ただ「髪を美しくするおもてなし」しかやってこなかった自分が、その移住の地でほかに貢献できることがあるのか‥?と考えを巡らせた末に閃いたのが「鳥取県自体には年間300万人もの観光客が来県されている‥その人たちに特別な美髪体験が提供できるかも‥?」というものでした。県全体を美容室のようなおもてなしのステージと捉えたのです。
調査を進めるうちに料理・温泉・寝具など、旅行のメインコンテンツのような大きなインパクトはないものの、美容=バスアメニティには「非日常」という価値を生み出せるポテンシャルがまだまだ眠っていることが分かってきました。鳥取に限らず、旅行者はバスアメニティに課題を抱えていて、約45%の人が旅行に持参するというデータがあるほどでした。
そうして「サロンクオリティ」と「地域性」‥この2つのかけ合わせによる、新しいバスアメニティの価値を創造するチャレンジが始まりました。
ラベンダーの性質と砂丘地の地質がシンデレラフィット。1年がかりで農地を確保し、栽培をスタート
話が前後しますが、実は移住前の2016年から兵庫県三田市で家庭菜園レベルのラベンダー栽培に取り組んでいました。自分の美容室で使用するシャンプーの原料を生産するためです。
ラテン語で「lavare(洗う)」を語源にもち、古代ローマ時代から入浴や清めのシーンで親しまれてきたラベンダー。現代では150以上の効果・効能が認められ「万能の精油」とも言われるラベンダーは、私が思い描く理想のシャンプーに最適だと考えていました。
2年がかりでようやくプロトタイプの商品が完成しましたが、同時にラベンダー栽培の難しさに直面していました。地中海沿岸が原産で、寒さ・乾燥を好む性質から、日本の本州以南特有の梅雨や台風といった蒸れる時期に大きなダメージを受けるのです。
ちょうどそんなタイミングで鳥取移住となり浮上したのが「鳥取の砂地でラベンダー栽培‥?!」という考えでした。水捌けを好むラベンダーの性質が、鳥取のランドマークである砂地にシンデレラフィットするのでは‥という期待を込めて。
当初は「前例がない」ということから農地の確保すら思うように進まなかったのですが、鳥取県庁の花卉専門技術員の方との出会い・ご協力のおかげもあり、1年がかりで農地約4,300㎡(のちに約7,300㎡に拡大)を確保。2020年4月より、鳥取砂丘地によるラベンダー農園をスタートさせることができました。
しかし間もなく、生産・加工・開発・販売を同時に進めなければいけない6次産業の難しさに直面することにもなりました。
コロナ禍で運営に制限がかかるも、立ち止まることのできない6次産業。「sakyu」シリーズ第一弾のリリースへ漕ぎ着ける
2020年と言えば、ちょうどコロナパンデミックが始まった年です。関西で経営を継続している美容室からの人手を期待しつつ始めた新事業でしたが、人の移動が制限され、実質的に6次産業は自分一人での運営を余儀なくされました。
また、世界的に観光もストップしていたため「新しいバスアメニティ」はその提案すらできる空気感ではありませんでした。
人手が足りなくても、販路が決まっていなくても植物の成長は待ってくれません。幸いにもラベンダーが砂地にフィットし、どんどん花を咲かせてくれたことにより、初夏には花の収穫・雑草の草刈り・採油作業という3つのタスクを同時に進めることになりました。
ラベンダーの成長も待ってくれませんが、雑草の成長も待ってくれません。また、収穫した花は新鮮なうちに収穫・採油をしなければその劣化も待ったナシです‥。
様々なことに追われるように秋までを過ごした同年の冬。時はまだコロナ禍真っ只中ではありましたが、移住前のプロトタイプを原型に、砂丘地産ラベンダーを使用した「sakyu」シリーズ第一弾、シャンプー&トリートメントをリリースする運びとなりました。
成分を厳選し、髪への優しさと香りを追求。「sakyu」シリーズに込めた3つのこだわり
こだわり1.「シンプル処方」
全成分を厳選し、処方はかなりシンプルです。例えばシャンプー。ラベンダーには「抗菌効果」があり、精油には「融解」という油を溶かす力があります。つまり、ラベンダー精油が何役も担ってくれているのです。実際にsakyu ミドレシャンプーから「ラベンダー精油だけを抜いた」処方では防腐テストをクリアできませんでした。
こだわり2.「優しく洗う」
お肌は28日周期でターンオーバーという新陳代謝がおこなわれるのですが、髪はその機能がないため自然治癒できません。私自身がアシスタント時代に手荒れに悩んだ経験から、シャンプーにこそ「優しく洗う」ことが重要だと実感しています。
アミノ酸系とせっけん系をミックスした洗浄成分で、且つその濃度は通常の50~75%程度に抑えることができました。これもラベンダー精油のおかげです。その結果、赤ちゃんが全身を洗えるくらい安心で、ヘアカラーの色持ちが改善するくらい優しく洗える処方が完成しました。
こだわり3.「深呼吸したくなる香り」
ラベンダー精油を基調に、ユーカリやヒノキ、ローズマリーなど天然精油だけをミックスし「清流の宝石」というテーマで調香。
みずみずしい渓流、すがすがしい新緑。ほのかに香る野生の花。初夏の山あいにそよぐ早朝の風をイメージしています。その香りのファンも多く、ルームフレグランスなどの「香りの商品も開発して欲しい」というお声もたくさんいただいてます。
宿泊施設を訪ね歩く日々‥構想から4年、ついにsakyuを公式アメニティとした農・商・観の連携プロジェクト実現へ
コロナ禍という嵐が過ぎ去るのを待つこと2年。いよいよコロナが5類に移行‥という世の中の空気を受け、満を持して「新しいバスアメニティ」のアナウンスを始める決意をしました。2023年3月‥移住して約4年の月日が経過していました。
アナウンスの方法は、いわゆる「ドブ板営業」と言われる手法です。鳥取県内の宿泊施設に一軒ずつ飛び込みでサンプルを持参し、まずは女性従業員の方に試用してもらうところから始めました。そしてその1週間後に再訪問してフィードバックをいただくという流れです。
ちなみに鳥取県全域でも宿泊施設数は560軒(全国44位)しかなく、簡易宿所などを除くと実際に営業できそうな施設は220軒くらいだと認識していました。「数打ちゃ当たる」ではなく、「人間関係をつくる」「信頼関係を築く」というところから地道に積み重ねていきました。
構想に4年の歳月を要した事業でしたが、アナウンス開始から4ヶ月が経過したころには、鳥取県内9軒の施設が弊社のビジョンに共感してくださる状況となり、弊社主催によるプロジェクトの開催が決定しました。
そのプロジェクトとは、sakyuシリーズを公式アメニティとした美しい髪おもてなし企画「とっとりトリートビジョン」というもの。県内の農・商・観が連携して取り組むまったく新しいプロジェクトとして、鳥取県知事への表敬訪問も叶いました。
洗う→整える→潤す→護る。4ステップケアを揃えクラウドファンディング実施へ
その一方で、新商品の開発も始めました。
私は、旅行者にサロンクオリティの特別な美髪体験を提供することをミッションとしてこの事業を始めました。それはシャンプーとトリートメントだけで完結する従来のヘアケアではなく、お風呂上がりのヘアケア習慣までを文化にすることで叶うと考えていました。 そんな想いからアウトバスミルクと、スタイリングオイルの開発に着手し始めたのです。
上述したように、髪はターンオーバーしないためダメージを与えないことが重要です。肌と同様、あるいは肌以上のケアが必要だという考えから「髪の基礎化粧品」というコンセプトに辿り着きました。
スキンケアではクレンジング→洗顔→化粧水→乳液‥というように「引く」と「足す」がワンセットになっています。ヘアケアにおいても同様の提供を目指しました。シャンプーで「洗う」→トリートメントで「整える」→アウトバスミルクで「潤す」→スタイリングオイルで「護る」というステップケアです。
その4ステップが出揃うタイミングで初チャレンジしたクラウドファンディングのMakuakeでは、公開初日に目標金額が達成でき、最終的に1684%のご支援をいただきました。
また同時開催したイベントでは連日開店前からの行列、SNSフォロワー1,000名増、EC会員数10倍‥など、商品コンセプトへの共感が広がりつつあることも実感できる2024年でした。
「旅の髪はもっと美しくなれる」─美容のプロだからこそ貢献できる地方創生のカタチ
高校を卒業して美容学校に進学してから、髪を美しくすることに喜びと価値を感じてここまできました。絵画に例えるなら「顔=絵画」であるのに対して「髪=額縁」だと考えています。絵画に相応しい、絵画が映える額縁を、いつも・いつまでも提供することにやりがいを感じています。
その「いつも」のなかには旅行中も含まれます。むしろ非日常の旅行中にこそ、私たち美容のプロが関われるポテンシャルが眠っていると感じています。
私自身もまだまだチャレンジャーの立場に変わりはないですが、少しでも観光と美容の架け橋になれればと考えるようになりました。鳥取に限らず、各地域ごとに特色を生かした美髪体験を提供することが、これからの観光業、美容業‥そして何より旅行者のためになるかもしれないと。
「旅の髪はもっと美しくなれる」と信じています。
・地域の特色を生かした新しい価値提供の必要性を感じている観光業の皆さま─
・自分たちのノウハウを活かして地方創生に貢献したいと考えている美容業の皆さま─
・そして「サロンクオリティ×地域性」の本気の取り組みに興味・関心のあるユーザーの皆さま─。
「農業×美容」の6次産業にチャレンジ中の株式会社101に少しでもご共感いただけるようでしたら是非ご連絡ください。生産・加工・開発・販売を一貫して手がける私たちだからこそお役立ちできる何かがあると思います。
「旅の髪はもっと美しくなれる」私たちは、そう信じています。
株式会社101
【HP】