伝説のギタリスト ジミー・ペイジを追い続けた日本人の奇跡の物語

2025.01.15 07:00
慌ただしい日常から一瞬で別世界へと誘ってくれる映画。毎月たくさんの作品が世に送り出される中で、BRUDERの読者にぜひ観てほしい良作を映画ライターの圷 滋夫(あくつしげお)さんに選んでいただきました。『MR. JIMMY ミスター・ジミー レッド・ツェッペリンに全てを捧げた男』/ 1月10日公開
「事実は小説より奇なり」とは、まさにこの映画のためにある言葉ではないでしょうか。『MR.JIMMY ミスター・ジミー レッド・ツェッペリンに全てを捧げた男』は伝説のギタリスト、ジミー・ペイジを追い続けた日本人サラリーマン、桜井昭夫の奇跡の物語を描いたドキュメンタリーです。本作では、桜井が「大好きなことを極める」ために歩んできた道のりが描かれています。運命的な出会いを重ね、夢のような奇跡が幾度となく起こるその姿は、多くの人々に感動を与えることでしょう。この映画の魅力を、監督ピーター・マイケル・ダウドの言葉を交えながらご紹介します。ジミー・ペイジとの運命的なつながり
ジミー・ペイジは、ロック創世記を代表する伝説のバンド、レッド・ツェッペリン(以下、ツェッペリン)の中心人物です。その革新的なギター演奏は、今なお世界中のファンや音楽業界に影響を与え続けています。一方、主人公である桜井昭夫は、新潟県十日町の雪深い町で生まれ育ち、ツェッペリンの音楽に心を奪われた一人でした。携帯もネットもなかった時代、音楽を聴くか本を読むしかなかった彼は、子どものころからヘッドホン越しにツェッペリンの音楽と向き合い、ギターを手にしては曲のコピーに明け暮れる日々を送ります。
大人になってもその情熱は衰えることなく、呉服店の営業マンや旅行会社の添乗員として働きながら、週末には“ジミー桜井”として音楽活動を続けます。単なる趣味としての演奏にとどまらず、自分の色を一切出さず、ギター、アンプ、衣装、演奏スタイルに至るまで、様々な“あの日あの会場の”ジミー・ペイジを空気感ごと再現することに全てを注ぎました。その探究心は、まさに求道者そのものです。
これまでに様々なドキュメンタリー作品を手がけてきたアメリカの映画監督、ピーター・マイケル・ダウドは、“トリビュート・バンド”をテーマにした作品を構想していました。しかし、「何百ものバンドを動画で見ましたが、どれも心血を注いで映画にしたいと思えるほどではなく、この企画はほとんど諦めかけていました。そんな時にジミーさんの動画をYouTubeで見つけたんです。それは演奏も格好も1979年ネブワースのツェッペリンに特化したもので、私はたちまち1979年のネブワースに連れて行かれました」と驚愕します。それから夜通し桜井の動画を見漁ると、「彼はツェッペリンが実際に行った様々なライブに合わせて、演奏から衣装まであらゆるディテールを再現していたんです」。
細かな違いまで判別できる監督は、「14歳でツェッペリンに出会い、恋に落ちた。その独創性は私のアーティストとしての基礎にインスピレーションを与えてくれました」と語るほどのマニアでした。監督は桜井にメールを送ります。「私こそがあなたの素晴らしい物語を伝えるのに相応しい人物です」と。こうして日本のサラリーマンとアメリカの映画監督が、レッド・ツェッペリンという共通項で結ばれ、海を越えた奇跡のコラボレーションが始まりました。制作の困難と奇跡の数々
監督が桜井に初めてインタビューをした時、桜井がジミー・ペイジと同じギターで弾く『レイン・ソング』のあまりの美しさに、「ペイジが録音している瞬間に立ち会っているような感覚になった」と語りますが、桜井の『30年弾いているけどまだこの曲のことが分からず、どのフレットをどの指で押さえるのか、常に修正を重ねています』という言葉にさらに驚いた。「彼は終わりなき探究の旅を続けていて、これは壮大な映画になるに違いないと覚悟を決めました」と語るように、実際に監督は3年間に渡り粘り強く取材を続けます。
しかし、制作は決して平坦な道ではありませんでした。インディペンデント映画として進められたこのプロジェクトは、資金難に直面し、監督自身が車を売るなど私財を投じて制作費を賄います。それでも彼は、「本当に好きなことに全てを注ぎ込んだおかげで、どこからも横やりが入ることなく、妥協せずにやり切ることができました」と振り返ります。
最大の課題だったのは楽曲使用権でした。通常では1曲100万円を超える有名曲も含む使用料が問題視される中、SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)でのプレミア上映直後に、破格の条件でリストアップした30曲すべてに使用許可が下りたのです。「映画を観たツェッペリンのメンバーが、音楽を真剣に追求している姿勢を評価してくれたと聞きました」と監督は語ります。
桜井のジミー・ペイジへの愛と情熱は、監督や周囲の人々を巻き込み、映画そのものを奇跡的な作品へと昇華させました。監督は桜井の活動について「私が出会った中でも最も純粋な愛と敬意の形」と評し、「彼の情熱を映画で正確に捉えるため、私たちも挑戦し続けなければならなかった」と明かしています。
『MR.JIMMY』は、音楽への愛、そして情熱が生む奇跡を描いた作品です。“本気の好き”が人々の心をどのように動かすのか、ぜひ映画で体感してください。

『MR. JIMMY ミスター・ジミー レッド・ツェッペリンに全てを捧げた男』 https://mr-jimmy-movie.com/
新宿シネマカリテほか全国順次公開中


圷 滋夫(あくつ・しげお)/映画・音楽ライター
映画配給会社に20年以上勤務して宣伝を担当。その後フリーランスになり主に映画と音楽のライターとして活動。鑑賞マニアで映画とライブの他に、演劇や落語、現代美術、コンテンポラリーダンス、サッカーなどにも通じている。
Edit : Yu Sakamoto

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