「次の時代につながる新しい入浴文化を」。DESIGNARTで、bathtope 発売記念トークセッションを開催

2024.11.12 13:00
2024年10月18日〜27日の期間に開催された、デザイン& アートフェスティバルの
「DESIGNART TOKYO 2024」。初日の18日にはbathtope発売を記念したトークセッションが開催されました。artless Inc.代表の川上 シュン氏、建築家の浜田 晶則氏をゲストに迎え、bathtopeを開発した LIXILの長瀬 徳彦とともに”未来の暮らしを創造するイノベーション”をテーマにトークを繰り広げました。当日の様子をレポートします。
(写真左から)artless Inc.代表の川上 シュン氏、建築家の浜田 晶則氏、LIXIL浴室事業部 千原 基晴、長瀬 徳彦


bathtopeが狙ったのは、「高級感」と「カジュアル」の両立


――今回はLIXILの長瀬 徳彦と、ブランドディレクターとして多彩な活動を展開されているartlessの川上シュンさま、そしてアート集団チームラボのメンバーとしても活躍されている建築家の浜田晶則さまをゲストにお招きして、お話を伺っていきます。まずは簡単な自己紹介をお願いします。


川上:artlessの川上と申します。今回、bathtopeブランドのデザインディレクション、いわゆるブランディングを担当しました。artlessという会社は、ブランドデザインをメインとしたブランディングを得意としており、今回のような新規事業のブランドデザインや、北海道ボールパークFビレッジのビジュアル・アイデンティティとサイン計画などを手がけてきました。このDESIGNARTもファウンダーの1人として、ロゴデザインからサイン計画、コミュニケーション全体のデザインを担当しています。


浜田:こんにちは、浜田晶則です。私はチームラボのチームラボアーキテクツという部門のパートナーであり、自分でも建築設計事務所をやっています。可変性のある空間を追求するプロジェクトに関わることが多く、bathtopeも革新的かつ可変性のあるプロダクトなので、その点について今日はディスカッションできたらと思います。
――では、本日お披露目となりましたbathtopeをご覧になって感じたことを伺っていきます。川上さんは、bathtopeのグラフィック監修やパッケージデザインなど開発プロジェクトに携わられたということですが、このプロジェクトの話を聞いたとき、どのように感じましたか?


川上:ハンモック型のバスということで、非常に面白いプロジェクトだと感じました。正直、話を聞いた時点でこのDESIGNARTで発表するところまで、私の中では見えていました(笑)。今日から始まるインスタレーションを皆さんに見ていただき、その反応を楽しみに待ちたいと思います。実際にbathtopeに入らせてもらったけれど、新しい入浴体験を生み出せたと感じています。ライフスタイルも多様になっている今、いろいろな入浴体験を許容できる空間デザインをどうすれば表現できるかを考え、ここまでやってきました。


――浜田さんから見たbathtopeはいかがでしょうか?


浜田:昨日、bathtopeに入らせていただきましたが、本当に柔らかいお風呂だと感じました。ポヨンとお風呂と一緒に浮いているような体験でした。お風呂で足や頭を乗せる部分って、硬い場合が多いですよね。そこがポヨンと柔らかいんですね。ちょうどいい張り感もあって、柔らかさもあって、寝落ちしそうな気持ちよさがある。それは非常に新しい体験でした。bathtopeはすぐに畳める可変性も備えていて、これからのライフスタイル自体を変える力を持っていると、実際に入浴して感じました。


長瀬:この場でお2人とご一緒できたことは本当に嬉しく思います。シュンさんとは当初、bathtopeブランドのポジショニングの話をずっとしていました。高級でラグジュアリーな製品は多く存在しますが、「高級感」を保有しながらも、ラフでユニークな「カジュアル」要素を融合させた難しいポジショニングをあえて狙うことにしました。bathtopeという製品が、単なる取り替え可能な安いプロダクトに成り下がってしまう可能性もありましたが 、そこをブランディングしながら価値のある製品に仕上げていきました。浜田さんは境界が曖昧な空間設計の上手な若手の建築家で、以前からすごいと思っていました。空間を他用途に利用する考え方がbathtopeと親和性があると感じていました。本当に憧れている人にbathtopeの体験入浴をしていただき良い評価をいただけて嬉しいですね。




個性的なプロダクトをマジョリティにも届ける


――個性的だけれども、一般層にも受け入れられる製品づくりにおける難しさや楽しさについてお話しいただければと思います。長瀬さんいかがでしょうか。


長瀬:私たちはメーカーなので事業として利益につながる製品を開発する必要がありますが、中央値だけを取ったプロダクトが本当に長く好まれるかは疑問に感じています 。完成前の8割〜9割の状態でリリースして、残りの1割〜2割をユーザーが仕上げるような製品があっても面白いかと思います。LIXILでは企業風土として「実験し、学ぶ」という言葉が根づきイノベーションを推進していますが、まずはスモールスタートで始めて、市場の声を拾いながら方向性を決めていく商品があってもいいと考えています。
川上:私がブランディングをする上で意識しているのはイノベーター理論です。先進的なイノベーターとアーリーアダプターがいて、その後に多数派のマジョリティが続く。企業として利益を追求するならばマジョリティを狙いますが、そもそもbathtopeは個性的な商品なのでマジョリティ全員に共感してもらうことは不可能、というのが基本的なポジションです。長瀬さんの言うとおり高級感とカジュアルの間にも、多くの人に感動してもらえるようなポジションがあるのではないか? という仮説を立ててブランディングを進めました。個性的なプロダクトを好む人だけに届けるのではなく、その手前の人々にもリーチするような距離感で届ける。個性的なbathtopeをたくさんの人に届けるためのバランスを意識しています。


浜田:アートの場合は業界のインテリ、例えばトップギャラリーの人たちが理解できるような文脈やテキストが重要ですけれども、チームラボの展示ではテキストもしっかりと考えて作っていますが、そんなテキストなんて関係なく、子供たち含めてみんな単純に楽しんでいます 。その表層と深層の両方を兼ね備えていることが本物の価値だと思いますし、結果的にそれがものづくりやデザインが公共性を帯びていくことにつながるのだと思います。個性的な面もあるけれど、一般層にも受け入れられる。bathtopeはその両面を兼ね備えたプロダクトを目指して開発されたと聞いて、とても納得しました。




bathtopeにより、従来の浴室を前提とした建築計画自体が変わる?


――皆さんが考える暮らしの中で、デザインにおいて大事にしていることをそれぞれの視点でお聞かせください。


長瀬:私は体験を非常に重要視しています。見た目のスタイリングを変更するだけの価値のないデザインは好みではなく、やはり新しい体験を伴うデザインで次の文化を創造したいと思っています。私のミッションは、入浴文化をどうやって次の時代につなげていくかということです。「入浴文化は今のままの体験でいいのか?」という自問自答をしながら、次世代の新たな体験をデザインしています。


川上:bathtopeには「多様性」というキーワードがありますが、これからは多様なライフスタイルを許容するプロダクト、もしくはデザインが必要になってくると思っています。私自身も今、東京と軽井沢の2拠点で生活しているので、半分は森の中にいて、半分は都会にいます。それぞれ暮らしの時間のスピードや価値観、心地よさは違うので、そこにどうデザインが寄り添うか考えながら、あまり規定をしすぎないデザインを意識しています。それは、利用者が使い方を考えて対話できるような、余白を持ったデザインです。bathtopeもシャワーベースで使う方もいれば、浴槽ベースで使う方もいる。自由に使える余白のあることが、このプロダクトの魅力です。


浜田:私は普段から動物的な感覚というか、快楽性を大事にして設計をしています。建築家であり文化人類学者のバーナード・ルドフスキーが著した『さあ横になって食べよう』という本があります。中世の貴族の生活を見ると、パーティーではお風呂に入りながらご飯を食べたり、横になりながらご飯を食べたりしているんですね。動物的な快楽を追求した結果、そういった様式が生まれたわけです。そのように、今までの文脈や規律みたいなものに囚われないあり方を追求したい、といつも思っていますが、それを実現したのがbathtopeなのではないかと思いました。やはり触ったときの感覚が、すごく良いですよね。皆さんもぜひ触ってもらい、機会があれば入浴していただきたいと思います。


――それでは最後に、本日のトークセッションを通して感じられたこと、bathtopeの今後の可能性について教えていただけますでしょうか。


川上:bathtopeの可能性は、ユーザーがどう使うかを自由に考えながら活用できることです。私たちが想像していないような使い方もあるかと思うので、そこに可能性があると思っています。ここからがスタートラインなので、多くの方にいろいろな使い方、楽しみ方を提供して、コラボレーションも実施しながら、bathtopeと人々のライフスタイルが融合するようなコミュニケーションができたら面白いと考えています。


浜田:bathtopeの可能性は「可動性」と「可変性」を持っている点です。今まで動かすことができなかった水まわりのプロダクトですが、bathtopeは将来的には家以外の拠点に持っていけたり、 外のテラスで使ったり、いろいろな可能性を秘めていると思います。従来型の浴室を前提とした建築計画自体が変わっていくのではないか、という気もしています。多くの前提条件を変化させる力を持ったプロダクトですね。


長瀬:シュンさんのいうとおり、本当にここがスタートラインだと思っています。お2人と話していても非常に多くのアイデアをいただけますし、今回の展示を見てくれた人がいろいろなアイデアをくれます。どういう方向に歩むかまだ分からない商品なので、そこを楽しみながらマーケットと一緒につくっていければと思います。
※bathtopeの詳細については下記ホームページをご覧ください。
LIXILでは、「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」というパーパス(存在意義)の達成に向け、常に新しいことにチャレンジしています。これまでの枠にとらわれない斬新な発想、そしてさまざまなバックグラウンドを持つ従業員の多様な視点や協業者とのコラボレーションから生まれる新たな価値-このようなことを大切にし、イノベーションを創発していくことで暮らしの未来を創造していきます。
LIXILは今後も、私たちの行動指針LIXIL Behaviorsの一つにある「実験し、学ぶ」企業文化を醸成し、“やってみよう”と仲間が背中を押してくれる環境を整えてまいります。

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