この記事をまとめると
■クロストレック・ストロングHVが登場
■スバルがストロングHVを採用するのは今回が初めて
■クローズドコースで試乗する機会を得た
トランスミッションを廃して高出力モーターを採用
スバル車は全体をとおして水平対向エンジンを縦置きマウントし、シンメトリーレイアウトとして優れた重量バランスを実現。低重心であることと合わせ、優れたハンドリングを引き出すことで世界中で多くのスバリスト(スバルファン)に支えられてきた。
スポーツグレードからSUVまで、一貫してAWDの駆動方式を採用(BRZはFR、インプレッサなどFFモデルも設定されているが)。悪路に強いクルマとして頼もしく、また近年はアイサイトによる安全運転アシスト機能の搭載でより幅広いユーザーから支持を獲得してきている。
そんな魅力に溢れたスバル車が、唯一遅れていたポイントが燃費性能を基準とした環境性能だ。e-BOXERと呼ばれるマイルドHV(ハイブリッド)車も設定されてはいるが、他社のHVやPHEV車に比べ、優位な燃費性能を獲得するには至っていなかった。スバル車の高性能グレードは燃料をハイオク仕様とするなど走行距離を多く走るユーザーが多い割には燃費、燃料費については黙認されてきた。しかし、それもそろそろ我慢の限界に近づいてきていたのだろう。
今回、スバルが満を持して登場させたのが「ストロングハイブリッド(HV)」搭載のクロストレック・ストロングHVだ。
HVシステムは発電用のジェネレーターモーターと駆動モーターを個別に搭載する2モーターのトヨタTHS2システムを採用。水平対向4気筒2.5リッターエンジンと、縦置きにモーターを従来のトランスミッション位置に連結して搭載し、シンメトリーレイアウトを継承している。さらにリヤアクスルにプロペラシャフトを伸ばし、機械的に作動させるAWD方式としている。
システムレイアウト的には従来のe-BOXERと大きく変わりはないが、トランスミッションを廃して88kW(119.6馬力)の高出力モーターを採用したことが大きな進化だといえる。
この結果、発進時はつねにモーターが駆動力を発揮し、エンジンはバッテリー電力が減少するまで稼働しない。またエンジンが始動しても低速実用域ではモーター中心の駆動力制御が行われるので270Nmの大トルクを自在に操れるのだ。
搭載されるHVバッテリーは1.1kWhのリチウムイオン電池で、容量は大きくないのでEVレンジで走れる距離は短いが、それでもつねに駆動を担う役割をもたせることでBEVのような優れたドライバビリティを与えることが可能となる。エンジンが駆動を担うのは高速道路の巡航時など、エンジンの一番効率がいい領域に限られ、トヨタ方式の動力分割機構がシリーズ/パラレルHVを可能としているわけだ。このシステムにより燃費は従来のe-BOXERより2割程度向上しているという。
今回はこのクロストレック・ストロングHVを、冬季はスキー場となる場所にクローズドコースを設定し試乗することができた。
外観的な意匠の違いは少なく、エンブレムなど小さな点に限られる。クロストレックのスタイリッシュな外観はそのままに、パワートレインインを大幅にリニューアルさせたところにスバルの実直さを感じるのだ。
運転席に乗り込むと、ブラックのルーフライナーがスポーティで、全体的に質感が高められている印象だ。
スバル車らしさはそのままに優れた燃費性能を獲得
スタート/ストップボタンを押せばシステムが起動し、スタンバイモードになるが、エンジンは始動しない。シフトレバーをDレンジに入れ、アクセルを踏み込めば電動モーターでスルスルと動き出す。そのタイヤが2〜3回転しただけで、このクルマの素性のよさを感じとることができる。エンジンが始動していないので静かで振動もないのは当然だが、加えて足まわりの設定により快適性が高く、ゴツゴツとしたハーシュも抑え込まれている。静かなのは遮音材を大幅に追加したことも作用しており、外界のざわめきが遮断され密閉感が高まる。それは佇まいのいい家にいるような心地よさだ。
コーナリング区間ではロールが少なく、低重心でシンメトリーなスバル車の美点がそのまま活かされている。
斜度の強い上り勾配の坂道発進も、まるで平坦路であるかのようにラクラクと発進し、モータートルクの強力さが奏功しているようだ。それは泥寧路での踏破性にも貢献し、雨で泥濘んだ悪路をノーマルタイヤで難なく走破していく。そのときもエンジンが始動せず、静かなままなので自然界のなかでも風紀を乱すことなくジェントルに走り抜けられるだろう。
HVであると同時にAWDであることが走破性を高める上で重要だが、じつはAWDシステムにもひと工夫が施されている。それはセンターデフではなく、湿式のカップリング機構を採用したことによる。このカップリングはほとんどすべての走行シーンにおいて駆動力を前後輪に配分しているが、高速道路の巡航時など燃費を改善するために切り離されるシーンがあるようで、その瞬間はFFになっているのだという。ステアリングを操作する、加速やブレーキングを行うときなどは直ちにAWDとなり、通常走行ではほとんどAWD状態になっているのでフルタイム4WDと呼んで差し支えないのだろう。
乗り味のよさはサスペンションの改良によるところもある。専用開発のショックアブソーバーはダンパーロッドの長さを伸ばし、摺動部の動きをスムースにさせているほかフロントロアアームブッシュなども改良しハーシュや駆動系の振動抑制に効果を発揮している。
ジェネレーターモーターを回すため、走行中、エンジンは頻繁に稼働と停止を繰り返すが、クランクシャフト直結のジェネレーターモーターによるエンジンスタートは振動やショックを感じさせない。また遮音材によりエンジン騒音もキャビンまでほとんど入ってこないので静けさが保たれている。
HVの4輪駆動というと他社は後輪用にもモーターを搭載し前後個別に駆動するシステムを採用する例が多いが、機械的に結合した4WDのほうが直結感があり、余計なフェイルセイフも働かないので、いざというときには心強いのだ。
今回ストロングHVシステムを新開発したことは、レイアウト的にも大きな改善を可能としている。バッテリーはリヤラゲッジ下に搭載し、インバーターやコントロールユニットも一体式としてコンパクトにレイアウト。もちろん後方衝突安全性も高度に保つ。これで後席下は従来のガソリン車と同じスペースが保て、63リットルという大容量の燃料タンクを搭載することができた。従来のクロストレックe-BOXERの燃料タンク容量は48リットルだったので約3割増し。燃費が2割向上したことと合わせれば航続距離は5割増しとなり、スバルは1100km以上の航続距離が可能になると見込んでいるようだ。
スバル車のもつさまざまな特徴はそのままに、念願のストンロングHV搭載による優れた燃費性能を獲得したクロストレック・ストロングHV。このシステムはほかのスバル車にも採用可能なので、おそらくほとんどのスバル車ユーザーが乗り換えることになるのだろう。まさにスバリスト待望のストロングHVなのだ。