この記事をまとめると
■「グランツーリスモ」ワールドシリーズのラウンド3が東京で開催
■マニュファクチャラーズカップはレクサスの川上 奏選手がポールからそのまま逃げ切った
■ネイションズカップは序盤にタイヤ交換する作戦がはまったキリアン・ドルモン選手が逆転勝利
GTワールドシリーズの天王山は歌舞伎町で大盛り上がり!
9月28日、東急歌舞伎町タワー内のTHEATER MILANO-Za(シアター・ミラノ座)にて、「グランツーリスモ ワールドシリーズ 2024 ラウンド3 東京」が開催された。
ご存じ、プレイステーション5のキラーコンテンツである「グランツーリスモ7」で競われる、eスポーツのハシリといえるイベントだ。世界各地域で行われるオンラインの全6ラウンド・1シーズンから代表ドライバーを選抜し、バンクーバー、プラハ、東京を転戦する3ラウンドに、アムステルダムのワールドファイナルを加えた計4ラウンドで、年間世界王者を決定する仕組みだ。
ワールドシリーズには2種類のレースフォーマットがある。ひとつは、レクサスやマツダ、メルセデスAMGなど、12の自動車メーカーが競い合い、1チーム3名で世界各地域の代表選手がチーム競技として戦う「マニュファクチャラーズカップ」。もうひとつは、ドライバーの個人戦として各国代表がしのぎを削る「ネイションズカップ」だ。
今回の歌舞伎町戦ではネイションズカップの前哨戦として、首都高や湾岸にインスパイアされた(!?)という「東京エクスプレスウェイ」という、あくまで架空の市街地コースで、ドライバー各自が好みのスーパーカーやチューニングカーで競うエキジビジョンレースも行われた。そしてもちろん、レースの模様は公式のオンライン・チャンネル「グランツーリスモLIVE」で全世界に向けて生配信された。
とはいえ、数百人を収容できる会場で、目の前で競い合う様子を観戦でき、まったく同じシーンに興奮する瞬間をリアルに共有できる点が、eスポーツが単なるオンラインゲームともサーキットでの実車のレース観戦とも、異なるところ。
というわけで、会場から、イベントの成り行きを経験しながら追ってみた。
会場のシアター・ミラノ座は14:30に開かれ、まずはステージ上に左右3台づつ2列に設営されたスクリーン&コクピット筐体にて、各ドライバーのシート合わせから始まった。観客席の1~2列目あたりまでは、ドライバーやチーム関係者に割りふられているが、それでも一般の観客との距離はごく近い。シート合わせの前後に、ファンとの記念撮影に応じるドライバーも少なくなく、なかなか和やかなカオスといった雰囲気だ。
じつは開場前、VIPや関係者、プレスは東急歌舞伎町タワー内のレストランにて、ビュッフェランチを摂ってから会場入りしているのだが、そこにはドライバーたちも和やかな雰囲気で集っていた。通常のレース、つまり実車とサーキットのケースでは、パドックでドライバーとすれ違って立ち話することはあっても、ドライバーズサロンやトレーラーハウスに出入りすることは、よほど懇意にしているチームやドライバー相手でない限りありえないので、ドライバーが一緒にランチしていること自体が新鮮でもある。
MC進行のサッシャのアナウンスで、15:30にいよいよ「グランツーリスモ ワールドシリーズ 2024 ラウンド3 東京」のスタートが告げられた。
3層の桟敷席までほぼ埋まった会場は、劇あるいはコンサートを観ているような一体感で、グランツーリスモシリーズの生みの親、山内一典エグゼクティブプロデューサーの挨拶や、2018年初年度のネイションズカップ初代王者で、昨年からスーパーGTにも参戦し、初戦カナダではチーム・レクサスとして勝利を収めたイゴール・フラガ選手のコメントを挟み、10分間の予選タイムトライアルから始まった。
マシンはGT3カテゴリー、コースはオーストラリアの「マウントパノラマ」で、タイヤに厳しくストレートの長いコースとして知られる。
まず2分アンダーを刻んで見せたのは、日本を代表するトップドライバーのひとり、スバルを駆る宮園拓真選手で、1分59秒612をマークした。続いてトヨタの山中智瑛選手が1’59’906で追うが、残り4分を切った終盤、メルセデスAMGのブラジル人ドライバー、ルーカス・ボネリの1分59秒990を皮切りに、各ドライバーが次々とタイムアップ。
2023年シーズンのマニュファクチャラーズカップを日産で制し、今年はマツダに乗る國分諒汰選手が1分59秒663で一気にランナーアップに駆け上がった。すると、マツダの育成プログラム候補生でグランツーリスモではホンダを駆る鍋谷奏輝選手が1分59秒669で3位に食い込む。しかし最後の計測で、2018年のマニュファクチャラーズ王者でもうひとりのマツダスピード候補生、実車レースも経験しているレクサスの川上 奏選手が1’59’479でポールポジションを見事に奪取した。度重なるアップセットに約700人超の観客も大盛り上がりだ。
ラウンド2までのマニュファクチャラーズカップのポイントランキングは、1位ポルシェ、2位レクサス、3位フェラーリというオーダーで、フェラーリは初戦ノーポイントに終わっており、2戦ともポイントを挙げていたのは上位2メイクス+マツダだけに過ぎない。つまり、東京ラウンドで上位に食い込めれば、まだまだワールドファイナルまでタイトル争いにもつれこむことは可能だ。
マニュファクチャラーズカップの決勝は22周で争われ、タイヤ選択で戦略が大きく割れた。ポールポジションスタートのレクサス川上選手はソフトタイヤで逃げ切り作戦を展開する一方、ミディアムを履いたホンダNSXの鍋谷選手がオープニングラップでハードを選択して上位勢をかわし、2位にまでジャンプアップ。レース後半、燃料の軽い状態でソフトを履いてペースを上げられることもあり、序盤のリードを守り切るか、それともあとでひっくり返すかという耐久レースさながらの戦略的なレースだ。
マニュファクチャラーズカップでは、ソフトとミディアム、ハードすべてのタイヤを使わねばならず、それぞれ1~2秒ほどラップタイムも違ってくる。選手はなるべくタイヤの良い状態を保ちながら速いペースを重ねいため、予選順位やどこでバトルするか、そして自分のマシンの特性によって、各車とも戦略が違ってくるのだ。
最終的に川上選手が逃げ切ってトップでチェッカーを受け、レクサスがシーズン2勝目を挙げた。
2位は宮園拓真選手とスバル、3位は鈴木聖弥選手の駆るBMWで、ノーペナルティのクリーンなレースとなった。混戦のリスクを避けて、なるべくソフトで単独走行を重ねて逃げ切った、川上選手の戦略が功を奏した。
表彰式はミシュランマンも直立不動で、君が代が流れるなか、厳かに行われた。続いてはネイションズカップだ。
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国別代表戦であるネイションズカップではまさかの大逆転が発生
ところがここで観劇の幕間よろしく、18時30分過ぎから19時半まで約1時間の休憩が挟まれた。ホワイエには、ドリンクコーナーに飲み物を買いに来る観客や、Tシャツなどノベルティグッズを買い求めるファンが並び、まるでレースというより、コンサート会場さながらだ。相変わらず、ドライバーたちとの距離も近い。
するとマツダスピードの育成プログラム候補生で、先ほどのレースで中盤まで暫定トップや2位を走り、6位でレースを終えた鍋谷奏輝選手が通りかかった。マツ耐でリアルのレースもすでに経験している彼が、今回のレース結果をどう受け止めているか、聞いてみた。
「もちろん満足いく結果ではなかったですが、最低限の1ポイントを取れました。最終ラウンドでこのポイントがどう効いてくるかわかりませんから。レース展開については……、もともとミッドシップのクルマにはタイヤに厳しいコースであることは意識していたんですが、ソフトタイヤを長くもたせる走りが自分には足りなくて、上位のドライバーたちはその辺りが巧いと感じました」
さすがに自己分析も明快で、結果と自分の走りを客観視できている。マツダの育成プログラムで習った内容はどう活きているか問うと、独特のいいまわしで答えた。
「役に立っているなんてもんじゃないですね。リアルのレースだけじゃなくeスポーツでも。ドライビングに対するアプローチというか引き出しがいろいろ増えたというか」。
いよいよ19時30分からはエグゼクティブプロデューサーの山内一典氏も楽しみにしていたという、東京エクスプレスウェイでのスプリントレースだ。先ほどのマニュファクチャラーズカップまでは赤だった照明が青に切り替えられ、12人の出走ドライバーのうち日本人はふたりのみと、先ほどとは逆の比率になる。
F40やメルセデスAMG GTを交えつつ、1000馬力超えのチューンドRX- 7やNSXタイプR、スープラRZといった1990年代の東京に舞い戻ったかのような、各ドライバーのドリームカーチョイスが面白い。しかし、R32とR33とR35、さらにニスモ400Rまで並んだスカイライン比率の高さ(すべて外国人ドライバー)は、圧巻としかいいようがなかった。
深夜の首都高そのものの雰囲気でスプリントレースはスタート。ランボルギーニ・ガヤルドLP560-4の宮園拓真選手と、アウディR8 V10プラスを選んだ佐々木拓眞選手という、日本人ドライバーふたりがレースを引っ張る展開となった。約7kmものストレートエンドでは400㎞/hオーバーのブレーキング競争が繰り広げられ、銀座や汐留界隈で徐々に夜が明けていくような街の景色は、もうほとんど漫画のような世界だった。
レース展開も漫画のようだった。軽さに優る2駆マシンは、コーナーは早いが低速コーナーの立ち上がりではトラクション自慢の4駆マシンが加速の伸びでとり返す。10周スプリントのなかで何度となく400km/h超からのブレーキング勝負が繰り返されては、ときに数台がもつれるなど、トップドライバーたちとはいえストリートでのレースはやはりファイト感がハンパない。
残り3周、ガヤルドの宮園選手が1コーナーではらんだのを突いて、トップの座は2021年のネイションズカップ勝者、イタリアのヴァレリオ・ガロ選手のNSXタイプRに渡った。とはいえ5位のアンゲル・イノストローザ選手までは僅差で、ふとしたきっかけでオーダーが入れ替わる展開。
そんななか、ファイナルラップの最終コーナーで、2位ポジションの宮園選手が果敢にレイトブレーキでアウトから立ち上がり重視のラインをとった。前を行くガロ選手のNSXタイプRに対し、4駆のトラクション勝負を仕かけたのだ。そしてチェッカーまでの短いストレートで、0.003秒差、NSXを抜くことに成功したのだ。ストリートレースらしい劇的な幕切れに、会場ではこの日一番の、観客の絶叫が響き渡った。最後まで冷静にクルマの特性を活かし切った、宮園選手の勝利に誰もが拍手喝采を送った。
それからGT伝統のコース「グランバレーハイウェイ」にて、いよいよ27ラップで争われる決勝がスタート。ここで下位グループからのスタートだった数台が大胆な作戦に出る。ハードタイヤを早々に捨て、ミディアム次いでソフトで追いかける展開としたのだ。
トップ3は先ほどのスプリント同様、宮園選手、ガロ選手、佐々木選手でレース序盤は推移した。ひとりソフトを履く宮園選手が逃げ切りを図るが、6ラップ目に4輪逸脱で+1秒のペナルティを加算されてしまう。一方で、背後の佐々木やガロらミディアム勢はなるべくラップ数を重ねる展開で、15ラップ目になってもトップ5台がノーピットで走り続けた。
だが16ラップ目に佐々木選手とガロ選手がピットインするとレースが動いた。3位のホセ・セラーノ選手がステイアウトでもう1周し、佐々木選手はハードタイヤに換えて給油せず、ガロ選手はソフトを選んで給油も行った。セラーノ選手は翌17ラップ目にピットイン、2スティント目はハードタイヤで無給油でコースに戻った。かくして17周目に宮園選手がトップに復帰するが、ミディアムをかなり使い終わってあとはハードタイヤしかないところを、下位スタートから追撃策を選んだセラーノ選手とキリアン・ドルモン選手に突かれる展開となった。
セラーノ選手は追撃時に佐々木選手に後方から接触して+1秒のペナルティを課されてしまう。ドルモン選手は24ラップ目の右ヘアピンで宮園をクリーンに抜き去った。こうしてソフトタイヤで最後のほぼ10周を攻めた、ドルモン選手がトップチェッカーを受けた。できるだけ燃料の軽い状態でミディアムとソフトを見事に使い切ったのだ。
表彰式では、今度はフランス国歌が高らかに流れ、ミシュランマンの直立不動ぶりも、さらに一段と引き締まって見えた。
かくしてフランスのキリアン・ドルモン選手がネイションズカップのポイントランキングの暫定トップに立ったが、1ポイント差の2位にはスペインのホセ・セラーノ選手、日本の宮園拓真選手、イタリアのヴァレリオ・ガロ選手という、ネイションズカップ元王者3人が同点で並ぶという、激しい接戦となった。
観客の目の前で勝敗がつくのがライブ開催のレースとはいえ、今回の東京ラウンドで躍動した宮園拓真選手のコメントが、今シーズンの熱さをそのまま物語っている。
「結果はもちろん満足してないけど、レースの内容には満足しているので、ワールドファイナルへ(マニュファクチャラーズカップで3度目、ネイションズカップで2度目の)、チャンピオンに向けて頑張っていこうと思います」。
ワールドファイナルは12月6~8日にかけて、アムステルダムで開催されることになっている。
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