有名ファッション誌のモデルとして活躍するShogoさんは、2018年にモデル事務所の「VELBED.(ベルベッド.)」を立ち上げ、独自の理念を持ちながら、自ら所属モデルをサポートしています。そんなShogoさんが今1番熱中しているのが「畑」です。1年間農学校にも通い、現在は山梨県の道志村で畑を耕作し、野菜を育てています。東京から山梨県まで通うほどハマっているという「畑」の魅力と日々の暮らしについて聞いてみました。
個性やパーソナリティを尊重するモデル事務所を経営
──はじめに、モデルを目指したきっかけについて教えてください。
幼少時代から大学生まではずっとプロを目指してサッカーを続けてたんです。でも20歳のときにサッカーをやめて、バックパックでアメリカ大陸を横断したり、エジプトを縦断してみたりと世界を回ってたんですが、そのころ自分の回りは続々と就職活動を始めていました。これまでサッカーばかりやってきたので、どういう道に進もうかと考えていたときに、スタイリストのアシスタントをしていた高校時代の友人が撮影の現場に僕を呼んでくれたんです。その時にこういう世界もあるんだなと思って、モデル事務所に応募してみました。
──現在はモデルの仕事のほか、ご自身でモデル事務所を経営していますね。
はい。2018年に「VELBED.(ベルベッド.)」というモデル事務所を設立しました。アナログレコードに「A面・B面」とあるように、モデルも両面でキャリアを形成していく。A面はモデルとして、B面はそれぞれの個性やパーソナリティです。どうしてもモデルの仕事は若い時の方が活躍できる世界なので、モデルを引退した後に「何をしたら良いかわからない」という状況に直面することが多いんです。スポーツ選手に近いかもしれません。
競争も激しいので、モデルとしての活動にフォーカスしなければなりませんが、もう1つ自分の軸を持つためにそれを一緒に探したり、活動をサポートしたりしています。アメリカのPCT(パシフィック・クレスト・トレイル)というメキシコ国境からカナダ国境まで続く4,260kmの長距離自然歩道の縦断に挑戦する子がいたり、ヨガのインストラクターや釣りで全国を駆け回っている子もいます。
──モデル業とモデル事務所の経営の傍ら、畑(農作業)に熱中していると聞きました。
所属モデルの中に、実家が香川県で老舗の八百屋をやっているという男の子がいたんです。ゆくゆくはその実家に戻ると言っていました。生産者の気持ちをわかった方が良いんじゃないかと思ったので、彼に「畑やってみる?」って聞いてみたら「やりたいです」って言ってくれたんで、畑を探して横浜で5m四方くらいの広さの貸し農園を借りることにしました。
彼がリーダーとして1年ほど農作業をやっていましたが、香川の実家に帰ったので、畑だけが残ってしまって。そこで試しに自分でちょっとやってみたんです。「植えたらできるだろう」くらいに思っていろいろ植えてみたんですが、カッチカチのナスとパクチーしかできなくて(笑)。思うように育てられなくて、本当に悔しかったです。
同じ人間なのに、農家さんはあんなに綺麗な形の野菜を作っている。どういうことだ?と思って、1年間農業の学校に通いました。学んでいくうちに、農業も科学的にわかっていることが多く、勉強していくうちに面白くなってしまって。本格的に興味を持ち始めたタイミングで、山梨県で畑を借りられるチャンスが巡ってきたんです。
──ご自宅がある東京と山梨県を頻繁に行き来しているそうですね。
借りている畑は山梨県の東南端で神奈川県との県境に位置する道志村にあります。村の95%が山林で、周辺にはキャンプ場が多く、清流の道志川が流れている。点々と家があって、畑も多い場所です。借りている畑の広さは1.5反(約450坪)です。基本的には食卓に並ぶような一般的な野菜をつくっていて、季節によっても変わりますがナスやピーマンにオクラ、唐辛子などを育てています。週に1回か2回、東京から1時間半ほどかけて通っています。
行ったり来たりする生活がとても心地良いんです。東京での暮らしはめまぐるしいのでゆっくりする時間があまりないですが、移動中の車内でポッドキャストを聴いたりできる。そういった余白の時間は、結構貴重だなって思います。移動の時間にいろんな情報をインプットして、畑で作業しながら、あれこれ考えを巡らせています。そうすることでちょっと優しくなれるというか、気持ちに余裕が生まれてくるんです。
──「畑」がもたらした影響と魅力について教えてください。
息子は野菜をあまり食べられなかったんですけど、畑に一緒に来るようになってからは結構食べられるようになりました。自分で掘ったジャガイモとか、大嫌いだったスイカも畑では食べられたり。加えて畑の広さが1.5反もあると家族だけでは消費しきれないので、近所のパパ友・ママ友や息子の学校でも配ったりしています。大量に持っていくので喜んでくれているかはわかりませんが、自分の子どものように育てているので、美味しかったって言ってもらえるとすごく嬉しいです。
アクティビティの1つとして始めてみると楽しいかもしれないですね。体を動かす趣味として。ただ、最初から損得勘定はしない方が良いです。数百円の苗を買って育ててみたら野菜が1個しかできず、スーパーや八百屋で買った方が安かったのに・・・みたいに考えてしまうと楽しめないので(笑)。
やっていくうちに季節に合わせて最適な品種を選定したり、土壌検査をして土の肥料分を考慮しながら植えたり、科学的にアプローチして野菜が狙い通りに育った時は快感です。
──普段は小学生の息子さんと釣りに出かけたり、キャンピングカーで旅に出ることもあるんですね。
そうなんです。小学校6年生の息子とは友だちみたいな関係で、僕にとっては息子と遊ぶこと自体が趣味と言えるかもしれません。息子はサッカーをやっているので、毎週末一緒に遊びに行けるわけではないんですが、夏休みに2人で北海道をキャンピングカーで回ったり、屋久島にも行きました。
僕自身が子どものころは、両親が共に教員で忙しかったこともあって、祖父母に連れられて畑や川など自然の中で遊んだ原体験があるんです。そういったルーツがあるからこそ、大人になったときに自然に触れ合うことの面白さを再認識できると思うので、息子とも外で遊ぶことが多いです。
畑の近くの川で息子とよく釣りもしています。魚の気持ちになってみて、川の表層にいるのか、川底にいるのか、何を食べているのか仮説を立てながらやってみて、狙った通りにキャストして釣れたときに得られる快感を覚えるとやめられません。どちらかというと息子に僕の方が遊んでもらっている感覚です(笑)。
──最後になりますが、今後の展望は?
引き続き「畑」は続けていきたいです。僕はこれまで東日本大震災のボランティアにずっと行ってて、現地のおじいちゃんとかにいろいろ教えてもらいながら神社の復興だったりとか、水産工場の復興に携わってきて感じたことが、なんでも1人でできちゃうおじいちゃんってたくさんいるんだなと。その人たちのスキル、生きる力みたいなのが、自分たちと全然違うなと思ったんです。
現代に置き換えると、効率を求めた結果、分業中心で部分的にしかスキルを深められないことが多い。一方、昔の人たちは1人でいろんなことができないと生きていけなかった。それを知ったときに「自分って何もできない」っていうことに気がつきました。なので今は「畑」を続けて、生きていくためのスキルとして磨いていきたいです。
あとはもっと日本のことを「畑」を通じて知りたいです。おじいちゃんやおばあちゃん世代からいろんな情報・知見が引き継がれていない気がしていて。最近は畑を借りてる近所の地主さんとご飯を一緒に食べたり、家に泊まらせてもらったりして過去の話を聞くようにしています。農業を掘り下げていくと日本の歴史もわかってきます。耕作放棄地といって、過去に耕作されていたけども、1年以上使われていないような土地が国内にはたくさんあります。そういった課題とも向き合いながら、僕らの次の世代にどう伝えていくかも考えていきたいです。
PROFILE
モデル / Shogo
ファッション誌、CM、広告などでのモデル業と並行し、山梨県・道志村の畑を拠点にさまざまな農作物を育て、畑から着想したプロダクトKEIMENのディレクターを務める。そのほか、被災地支援活動や、特別支援学校のボランティアなども行う。趣味は、畑、釣り、日本酒、草野球。モデル事務所VELBED.代表。高校時代は、サッカーで全国高校総体ベスト4。
Text:Nobuo Yoshioka
Photo:Masato Igarashi,Hiroto Miyazaki,Hisato Michigami