この記事をまとめると
■大学の自動車部が参加できるフォーミュラジムカーナというイベントが開催されている
■協賛企業により車両もパーツも宿も交通費も提供される
■WEB CARTOPも含めて企業が費用をかけて協賛する理由を解説
学生が「タダ」で本格的なモータースポーツに参戦できるFG
「モータースポーツだって立派なスポーツのひとつ」。こと、我々自動車業界に身を置く人間は、よくそんなことをいう。実際、たとえ草レースであっても、やってみればそれは実感できるのだが、その他のメジャースポーツと違い、わずかでも体験したことがある、という人は圧倒的に少ないだろう。
その理由は単純明快で、道具や場所のハードルが高いから。公園の入口をゴールに見立てて、ゴムボールでサッカーをかじる、はたまたプラスチックバットとカラーボールで野球をやることはできても、公道や広場でカートをやることはできない。
そして、野球部やサッカー部、陸上部などに比べてこれまた一般の人にはマイナーなのかもしれないが、「自動車部」なる部活が存在する大学はけっこう多い。そんな自動車部の活動は、規模によって差違はあれど、モータースポーツ競技で争っていたりするのだ。
だが、ここにも前述したハードルが立ちはだかる。今も昔も大学生の経済事情など── 一部を除けば── たかが知れている。モータースポーツが「クルマ」を使うという時点で、思う存分練習や、本番の競技を行うことなどできないのだ。
我々WEB CARTOPが協賛企業として、オフィシャルメディアという立場にいる「フォーミュラジムカーナ(以下FG)」は、そうした自動車部の学生をサポートしようという目的で、2023年から始まったプロジェクトである。
車両は、社会人でもうらやむような新車を自動車メーカーが用意。会場となるサーキットも主催者が押さえ、車両に取り付けられる競技用パーツ、常にクルマ好きを経済的に悩ませるタイヤも、それぞれのメーカーが提供するという内容だ。それどころか、会場までの交通費、宿代、食事までが揃い、参戦する学生たちはまさに「ジムカーナというモータースポーツ」だけに打ち込むことができるというイベントになっている。
規模の大小はあれど、協賛企業とて、これだけの経費をかけるのは、簡単ではない。
では、なぜこのような環境を学生に与えるのか? 我々WEB CARTOPが協賛を決める前、さまざまなミーティングを通じて語られた話は「自動車業界の未来を盛り上げる」というものだ。自動車部に入る、つまり自動車に興味がある学生に、FGという機会を与え、この先の自動車業界を担う人材を育成する、ということ。じつはFGでは、協賛企業は「モノ」や「サービス」を提供するという立場だけでなく、当日の会場で学生とコミュニケーションをとるという機会を設けている。
学生は空いた時間で気になる企業のブースをまわったり、ランチタイムには必ずどこかの企業と一緒に同じメニューを食べながら話をする、ということが、ある意味「義務」づけられるのだ。
これはWEB CARTOP、それを運営する交通タイムス社にとって、非常に興味深く、それが協賛の決定打となった。そして2023年、2024年と毎戦会場に足を運び、学生たちとふれ合うことは、じつに有意義な時間であることがわかる。
企業にとって新たなリクルーティングの場として「オイシイ」
始まる前、自動車部の学生はいい意味でいわゆる「クルマオタク」の集まりだと思っていたが、実際はさにあらず。当然「クルマこそ人生のすべて」といわんばかりの「オタク」もそれなりの数がいるのだが、「クルマには興味があるけれど車種はわからない」、なんて学生もいれば、「自動車部がなんとなく面白そうだったから」などという声が聞かれることもある。普段から相当ディープなクルマ好きに囲まれて仕事をしているWEB CARTOPの編集部員にとって、総じてクルマ好きとはいえ、程度の差や興味の方向まで、これだけさまざまな考え方に触れられることは、じつに面白い体験なのだ。
さて、先ほど「この先の自動車業界を担う人材を育成」というFGのひとつのテーマについて触れたが、じつはFGを通じて企業が人材を獲得する、つまりは就職が決まるというケースも存在する。さらにいえば、交通タイムス社にはすでに2023年にFGに参戦していた学生が1名就職し、新人編集部員として4月から働いているのだ。
企業にとって、人はなによりも重要な資本。多くの場合において、人事のプロフェッショナルが会議室で面接を行い、「人の能力」を見抜き、少しでもその企業にとって役立つ人材を取り込もうとする。それは交通タイムス社においても同様だ。一方で就職を目指す人は、資料などの情報で、自分が本当に入りたい企業であるのかを見極めてエントリーし、面接という限られた場で自分をアピールする。
しかしながら、この面接だけで人材の能力や適性を見抜くのは非常に難しい。加えて、たとえばWEB CARTOP編集部であれば、必要な人材の大前提としてあるのは、「クルマ好き」ということだが、いくらそれを募集要項に謳ったところで、編集部の求めているようなクルマ好きが募集してくるとは限らない。もっといえば、クルマ好きというふるいにかけなければそうそうほしい人材に巡り会えないから、スクリーニングを行うわけだが、その要項で「自分はクルマ好きとまではいえない」と尻込みさせてしまい、じつは潜在的に能力がある人材を逃している可能性もある。そのぐらい、企業が人を採用する、ということは難しいのだ。
そうした観点から見てFGは、簡単にいえば「オイシイ」。クルマに「何らかの」興味がある学生が多数集まっており、練習走行日も含めて2日間たっぷりと、雑談も含めて学生とコミュニケーションをとることができるのだ。もちろん学生にとっても、自動車メーカー、タイヤメーカー、パーツメーカー、そして我々メディアまで、その気になれば幅広く比較してじっくりと見定めつつ、就職活動に繋がる活動ができる。単なる面接ではわからないものを「お互いに」見ることができる、新たなマッチングの場という見方もできるのだ。
もちろん学生にとっての第一義は、モータースポーツに全力を尽くすということであり、協賛企業としては、個々の学生や大学単位での「取り組む姿勢」を見極めつつ、自分達の製品やサービスへの生の声を収集する、という2日間でもある。
こうしたテーマをもちつつ、2025年以降、さらに発展していくであろうFG。より多くの自動車関係企業にとって、注目のイベントとなっていくことは間違いない。
交通タイムス社に就職した立花義鷹の声
私は兼ねてから自動車メディア業界に入りたかったので、FGに取材に来ていた「WEB CARTOP」の編集部に、ここぞとばかりに自分から話しかけたところから、いまの仕事があります。
学生としては、やはり第一に無料で大会に参加できるというメリットがあり、加えて普段なかなか話すことができない社会人の方と話すことができるのが本当に貴重な機会だと思います。しかも、そこにきているのはクルマが大好きで、それを仕事にしちゃった先輩方たち。学生とは比べ物にならない知識と経験を教えてもらうのは、非常に楽しかったです。
クルマ業界を希望している学生にとっては、希望企業とのつながりをつくる場所。そうでない学生も、クルマ業界や社会人の雰囲気を知って、自分が何をしたいのかを見つけるいいきっかけになると思います。