この記事をまとめると
■ランチア・デルタは故障しやすいという話は有名だ
■昔からデルタは1年で3分の2は修理工場に預けられてるともたとえられる
■イタリア車といえど定期的にメンテナンスをすれば大丈夫だと考えられる
ランチア・デルタって本当に壊れまくる?
ランチア・デルタHFインテグラーレ。いわずと知れた、WRC(世界ラリー選手権)において6連覇を果たした伝説的グループAラリーカーのホモロゲーション取得のために市販されたモデルである。
そして、デルタHFインテグラーレは、WRCで残した戦績と、あまりにもカッコいいブリスターフェンダーなどの装備によって伝説となったわけだが、「故障」という、ありがたくない分野においても伝説となっている。
デルタの故障伝説にはいくつかのパターンが存在するが、代表的なものは下記のとおりだろうか。
「デルタに憧れて中古車を買ったはいいが、1年のうち3分の2は修理工場に入っている」
……この話が本当であるとしたら(たぶん本当だったのだろう)、せっかく買ったのに痛ましい話である。「デルタ、1年のうち半分以上は入院してる説」が広く流布されたのは、筆者の記憶によれば1990年代半ばか後半ごろだった。
たしかにそのころ、中古車情報誌の編集をしていた筆者は、「クラッチを踏んだらいきなりレリースシリンダーがぶち壊れ、クラッチペダルが戻ってこなくなったデルタHFインテグラーレ16V」をこの目で見た(取材中の出来事だった。運転していたのは筆者ではなくお店の人)。そして、「燃料タンク付近からボタボタとガソリンを垂らしているデルタ」も視認した経験がある。
とはいえ、筆者が1990年代から2000年代初頭頃にかけて直接確認した「デルタの故障」は、上記の2例のみである。
そして筆者は、2012年6月、1994年式ランチア・デルタHFインテグラーレ・エボルツィオーネ2を購入した。走行距離は6.2万kmで、購入価格は総額245万円だった(現在の中古車相場と比較すると、当時はベラボーに安かったのだ)。
当然ながら「1年のうち3分の2は修理工場に入っている」という類の伝説は聞いていたため、ある程度は覚悟していた。だが、1994年式エボ2を所有していた間に発生した故障(?)は下記のみだった。
1. 電圧計の針が妙に低いところを指す(→のちに単なる誤表示だと判明)
2. 前輪ブレーキホースカバーに亀裂発生(→ステンレスメッシュの社外品ホースに交換)
3. 左リヤブレーキキャリパーからオイル漏れ(→オーバーホールして修理)
4. エアコンは利くが、ややヌルい(→そんなモンでしょということで放置)
5. ブレーキローターが寿命に(→フロントは研磨済み中古品に、リヤは新品OEMに交換)
6. タイミングベルトと関連部品を交換
7. ショックアブソーバー4本を、純正形状の社外品新品に交換
先ほどは便宜上「故障(?)は」と書いたが、上記7点のうちで明確に「故障」といえるのは1の電圧計誤表示だけで、4のエアコンがややヌルいというのを故障と呼ぶのは、当時すでに約20年落ちだったイタリア車に対しては酷というものだろう。
そして2のブレーキホースカバー亀裂と3のブレーキキャリパーからのオイル漏れ、5のブレーキローター摩耗は、故障といえば故障なのかもしれないが、それよりも「経年劣化」と呼ぶほうがしっくりくるように思える。で、6のタイベル関係と7のショックアブソーバーは何か問題が生じたから交換したわけではなく、あくまで予防の意味で交換しただけである。
つまり、筆者が乗っていた1994年式ランチア・デルタHFインテグラーレ エボルツィオーネ2は「ほとんど壊れなかった」ということなのだ。
壊れるのは仕方なし! 課題はメンテナンスの頻度にあり
そして筆者は、フリーランスの中古車記者としてさまざまなデルタオーナーに取材としてのヒアリングを行ったが、みなさん口をそろえていっていたのは、おおむね下記のようなニュアンスであった。
「そりゃイタリア車だし、しかも古いイタリア車だから『まったく壊れない』なんてことはないですよ。でもいま生き残っているデルタは、一度ちゃんと直したうえで予防メンテも怠らないようにすれば、そんなにぶち壊れるモノでもないですね」
そのとおりであると、筆者も思う。初期のモデルからエボ1までは別として、エボルツィオーネ2以降の世代であれば、デルタとは「整備しておけば、さほど壊れないクルマ」なのだ。ま、たまには少し壊れるはずだが。
ではいったいなぜ、「1年のうち3分の2は修理工場に入っている」という伝説または事実が生まれたのだろうか?
結局は「物事の端境期に中古車を購入した人の個体が派手にぶち壊れまくったことで、伝説は生まれた」ということなのだと推測する。
トヨタのカローラや昔のランドクルーザーみたいなクルマであれば、極端な話、新車時から5年ぐらいノーメンテでもたぶっ壊れないだろう。
だが、ちょっと昔のイタリア車というのは、よくいえば繊細で、ハッキリいってしまえばいろいろな精度も低かった。そのため、ちゃんと手入れしてあげないとすぐ壊れるし、ランチア・テーマ8.32みたいなクルマは、ちゃんと手入れしてるのになぜか壊れたりもした。
そんなイタリア車でも、替えるべき部品を適切に替えておけばそう簡単には壊れないのだが(※テーマ8.32を除く)、新車が中古車となっていく過程ではどうしても「ほとんどメンテなんかしない」という、筋の悪い人が所有者となるケースも多い。
で、そういった筋の悪い人に数年間所有されたデルタは必然的に、もともとの虚弱体質がよりいっそう虚弱化し、さらには「血管に悪玉コレステロールが詰まりまくってる」みたいな状態にもなる。となれば、その個体を、ピカピカな外観に引かれて次に買った人が「買ったはいいけど、1年のうち半分以上は工場に入ってる」という事態に陥ったり、「次から次へと壊れまくるんで、半年で手放した」みたいな話になるのも、ある意味当たり前ではある。それゆえ“伝説”が生まれたのだ。
だが、ランチア・デルタHFインテグラーレ エボルツィオーネ2においては……いやデルタのエボ2に限らず、悪名高きシトロエン XMなどにおいても、その種の伝説はもはや古い。
たしかにデルタ エボ2もXMも、そしてシトロエン BXも、過去においてはぶち壊れまくった。しかし、そんな地獄を生き延び、メンテナンスに関する有効な知見も十分に蓄積された現在において、しっかり整備され続けている個体は、そう簡単に壊れまくることはない。
事実、筆者の知人はデルタ エボ2でガンガンにサーキットを全開走行しており、悪名高きシトロエン XMを、仕事の足として使っているフリーランスのカメラマンもいる。
素性のいい個体を選ぶ必要は絶対にあるし、整備にはそれなりに手間もカネもかかる。今後はサビの問題も無視できないだろう。が、巷間でいわれているほどのことではないのだ。
今回、編集部からは「デルタの故障伝説をイジる感じで書いてくれ」との依頼だったが、嘘を書くわけにもいかないため、真実を述べさせていただいた。